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なぜ日本では「男女の賃金格差」がまだあるのか

プレジデントオンライン / 2019年8月18日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hyejin kang

日本企業における女性の賃金は、入社時点から男性の86%程度におさえられている。その後も伸び悩むため、女性がキャリアを積むことが困難な時代も長かった。日本企業はそうした差別待遇を放置してきたが、大和総研の菅原佑香研究員は「放置を続ければ、今後は企業の事業存続のリスクに発展しかねない」と警鐘を鳴らす――。

■G7の中で男女賃金格差が最も大きい日本

日本での女性活躍の取り組みは、最近になって始まったことではない。政府が、法人・団体等における課長相当職以上の者などの指導的地位に占める女性の割合を、2020年までに少なくとも30%程度とする目標を掲げたのは、今から15年以上も前の2003年6月のことだ。

安倍晋三内閣が2018年6月15日に閣議決定した「未来投資戦略2018」でも女性の活躍を、さらに拡大させることが明記されるなど、女性の参画が長年にわたって推進されてきた。2016年には女性活躍推進法が施行され、また、企業における「働き方改革」の取り組みが積極化するなど、仕事と家庭の両立を支援する自主的な企業の取り組みも進んでいる。

女性活躍の取り組みが積極化して来たが、それでも諸外国に比べると依然として不十分である。世界経済フォーラム(World Economic Forum)の“The Global Gender Gap Report 2018”(2018年12月)によると、各国の男女格差を測ったジェンダー・ギャップ指数において、日本は144カ国中110位である。この指数は経済、教育、政治、保健の4つの分野のデータから作成され、日本は特に政治と経済において男女の格差が大きい。

管理職比率(管理的職業従事者に占める女性の割合)は2017年で約15%と10年前から4%ポイントほど上昇しているが、水準で見れば依然として低い。所得水準の男女差も大きい。図表1は主要先進国(G7)のフルタイム労働者の男女間賃金格差を示したもので、日本はG7諸国の中で賃金格差が最も大きい。

ただし最近では、女性の労働参加の進展がジェンダー・ギャップを縮小させている。結婚や出産に際して女性が労働市場から退出することにより20~30歳代付近の女性の労働参加率が低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するという、労働力率の「M字カーブ」が比較的最近まで日本では鮮明だった。だが近年では、育児をしながら仕事を続ける女性が増えてきたため、M字の谷の部分がかなり浅くなってきている。

■女性の賃金は入社時点ですでに男性の86%程度

徐々に、女性の労働参加が進んでいるが、それでもなお男女間で大きな賃金格差が残っているのはなぜなのか。

女性活躍の進捗を測るためのKPI(Key Performance Indicator、成果指標)として、政府は課長職に占める女性の割合を掲げているが、管理職に登用されるのは一般的に正規雇用者だろう。そこで、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」における正規雇用の女性の所定内給与額を、男性の賃金水準を100として指数化し、勤続年数別に示した(図表2)。所定内給与には基本給のほか、職務手当や精皆勤手当、家族手当などが含まれる。

2018年における女性の賃金は、すでに入社時点で男性の86%程度の水準にとどまり、勤続年数が長くなるにつれて格差が拡大している。その理由はいくつか考えられるが、ここでは3点指摘したい。

第1には、21世紀職業財団が2015年に調査した「若手女性社員の育成とマネジメントに関する調査研究 均等法第三世代の男女社員と管理職のインタビュー・アンケート調査より」によれば、男性管理職の部下育成の熱心さと困難な仕事の与え方は、男女で差があるという。

男性管理職は男性部下により困難な仕事を与えている一方で、男性管理職が女性に対して過度な配慮をしてしまうことなどから、企業内での育成に男女差が生じていることも考えられる。無意識な偏見や思い込みは、アンコンシャス・バイアスと言われ、成長機会の男女差となって賃金格差につながっている可能性は小さくないと思われる。

■一般職採用企業の方が男女格差が大きい傾向

第2に、コース別雇用管理制度の影響が考えられる。日本企業は総合職と一般職という区分で雇用管理することが珍しくない。すなわち、女性が従事することが多い一般職は総合職よりも賃金水準が低く、昇進や昇格の機会が少ないことも賃金格差に表れているだろう。一般職を採用している企業における女性の正規雇用者の平均賃金は男性よりも低くなりやすく、勤務年数が長くなるほど賃金格差が拡大しやすい。

第3に徐々に格差が拡大する背景には、学卒後からの就業を考えた場合、所定内給与に含まれている家族手当が主たる生計者(男性)に支給されることが多いことも考えられる。

2015年と2018年を比較すると、勤続年数が長くなるにつれて格差が拡大する傾向に変わりはないが、勤続30年以上を除けば同じ勤続年数での格差縮小が見られる。特に、男女間の昇進・昇格の差によって、賃金格差が拡大しやすい勤続15年以降においても格差が縮小していることは、昇進・昇格の機会を得て、管理職へ登用された女性が増えたことを示唆する。女性活躍の取り組みは一定の進展があったとみられる。

■女性の活用度の低い企業には投資をしない

女性活躍を進め、女性の管理職や役員を増やすことが社会的・経済的課題となる中、不合理な男女間の賃金格差を放置している企業は、それが事業を継続していく上でのリスクになり得ることを真に認識する必要がある。例えば、企業をとりまくステークホルダーの中でも、資本市場における投資家がESG投資の考え方を通して企業を評価するようになっている。

ESG投資のESGとは、環境への配慮(Environmental)、労働環境や人権問題への配慮などの社会(Social)的公正さ、透明性の高い企業統治=ガバナンス(Governance)の3つの頭文字「E」「S」「G」をつなげたもので、ESG投資とは、この3つの要素に対する企業の取り組みに基づいて投資対象企業を選別する投資手法のことだ。

内閣府が2018年に機関投資家に対して実施した調査によると、先進的と思われる機関投資家は投資判断やその業務において、投資先企業の女性活躍情報を活用し始めている。その理由として最も多い回答は、「企業の業績に長期的には影響がある情報と考えるため」(68.9%)であり、次に多いのは「議決権行使において判断の参考とするため」(24.4%)である(「ESG投資における女性活躍情報の活用状況に関する調査研究 アンケート調査結果」)。

また、女性活躍に関する評価の活用状況に対する機関投資家の記述式の回答には、「ESGインテグレーション、ポジティブ・スクリーニングにおいて女性活躍に関する評価を考慮」するといった意見や「女性比率に基準値は設けていないが、議決権行使やエンゲージメントで考慮」といった意見等がある。

現状は、「女性活躍情報」に特化したファンドを運用しているとの回答は、10機関と全体の8.4%であるが、ESG投資の規模が拡大してきていることに鑑みれば、投資判断において女性活躍の要素を取り入れる投資家が今後ますます増えていく可能性は高いだろう。

機関投資家に株主総会での議決権行使について助言しているグラス・ルイスは、2020年以降、東証1・2部の上場企業については、候補者を含め女性の取締役や監査役、指名委員会の執行役が一人もいない企業には、総会で会長または社長の選任議案に反対を推奨するとの意向を示している。既に2019年には、TOPIX100に含まれる企業を対象に女性の役員起用を求める方針を明らかにするなど、資本市場においては、ますます女性活躍の重要性が認識されるようになっている。

■事業存続における大きなリスクに

女性活躍を取り入れたダイバーシティ経営の潮流に乗りおくれれば、企業価値の向上が期待できないと評価される時代になってきた。今後ESG投資基準が広まれば、男女間で不合理な賃金差が生じる企業は、投資対象から外されるリスクを負い、長期的な株価の低迷に陥ることも予想される。ダイバーシティに対する消極的な経営が原因であると分かれば、ダイバーシティに限らず従業員の働きやすさやコンプライアンスに対する意識の低い企業なのではないかという認識が社会全体へ広がることになる。

株主や投資家にとどまらず、取引先や消費者などさまざまなステークホルダーへ広がれば、企業のブランドや信用も失うことにもつながる。その結果、その企業が中長期的に成長していく魅力がないと判断されれば、優秀な人材の獲得が困難になり、同業他社との競争力の低下にもつながる。

労働力人口の減少が進む日本社会において、女性活躍の重要性やそれがもつ意味に気づかない企業やそれを経営戦略に取り込めない企業は、事業存続における大きなリスクを背負うことになるだろう。

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菅原 佑香(すがわら・ゆか)
大和総研研究員
2010年大和総研入社。システムエンジニアを経て、2016年よりリサーチ部門に異動し研究員に転向。現在、政策調査部にて、働き方改革や女性活躍を中心とした国の政策や経済の課題に関する調査・研究業務に従事。2019年お茶の水女子大学大学院博士課程修了。博士(社会科学)。専門は、企業の人事・雇用管理や雇用・労働政策、家族政策。

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(大和総研研究員 菅原 佑香)

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