炭酸水の市場が「10年で13倍」に急拡大したワケ

プレジデントオンライン / 2019年8月19日 11時15分

炭酸水「ウィルキンソン」 - 写真提供=アサヒグループホールディングス

炭酸水の市場が活況だ。中でも、市場シェアの約半分を占める「ウィルキンソン」(アサヒ飲料)は、2011年にペットボトル販売を始めてから爆発的に売り上げを伸ばしている。なぜいま、炭酸水が多くの人に飲まれているのか――。

■ブランド100年を超えて“モテ期”到来

スーパーやコンビニなどの小売り店頭で、透明な「炭酸水」の棚が広がったことにお気付きだろうか。「清涼飲料水」市場全体が前年並みの中で、伸びはすさまじい。特に絶好調なのが、炭酸水市場で約5割のシェアを持つ、アサヒ飲料の「ウィルキンソン」だ。

同ブランドは2008年から18年まで、11年連続で伸長し、2015年3月~19年7月まで53カ月連続で前年実績増を達成した。競合他社も成長市場に目をつけて新商品を投入した結果、店頭の棚が「線」から「面」へと広がった。炭酸水の市場規模は2018年度で約433億円(金額ベース。前年比122%)に拡大している。

後述するが、ウィルキンソンは115年の歴史を持つブランドだ。だが、近年までは地味な存在だった。マーケティングの世界では「ブランドは人格を持つ」と言われるが、人生に例えると、100歳を過ぎてから“最高のモテ期”が到来したことになる。

なぜ、そんなことが可能となったのか。消費者心理の視点で考察したい。

■「強刺激」と「さっぱり」で、よりリフレッシュ

「好調の要因はいくつかあります。まず炭酸水は味がないゆえに、飲んだ瞬間にダイレクトな刺激がある、ど真ん中の飲料であること。消費者が、炭酸飲料を飲んでリフレッシュしたい思いは昔からありましたが、ストレス解消への思いは、より強まったと感じています」

ウィルキンソンのブランドを担当する本松達朗氏(アサヒ飲料・マーケティング本部マーケティング一部炭酸グループ副課長)はこのように説明する。

実は「炭酸を飲むのはストレス解消」という話は、数年前に別の取材で聞いた。「1本200円を超えるエナジードリンクがなぜ売れるのか」を聞いた際に出た言葉だった。ストレス社会の現代で、炭酸に求める思いは、より高まったように思う。本松氏はこう続ける。

本松達朗・アサヒ飲料マーケティング本部マーケティング一部炭酸グループ副課長

「商品は『強刺激』も打ち出しています。当社がお客さまに『炭酸に求める価値』を聞いたところ、『刺激があること』『口の中がさっぱりすること』という声が多くありました」

アサヒ飲料は「ミネラルウオーター」も「炭酸飲料」も展開するが、健康意識の高まりと、微妙な消費者心理も見逃せない。「ミネラルウオーターでは少し物足りない(飽きてしまう)」「炭酸飲料はおいしいけど糖分が心配」という人の飲用スイッチもあるようだ。

ちなみに「ウィルキンソン タンサン」(赤ラベル)や「同 タンサン レモン」(青ラベル)など全シリーズの「栄養成分表示」(100ミリリットル当たり)は、エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量がいずれも「0」表示となっている。

「肉料理にも合い、食事の味を邪魔しません、という訴求もしています」(本松氏)

■伝統の赤、柑橘系の青黄、機能性の白

多くの業界で、商品の売り上げが伸び悩むなか、ウィルキンソンの伸びは驚異的だ。

2008年の販売数は「年間174万箱」だったが、2018年は「2225万箱」。10年で約13倍に拡大した。ブランドの歴史は後述するが、赤ラベルの「ウィルキンソン タンサン」を500ミリリットルのペットボトルで発売したのは2011年で、それまでも徐々に伸長してきたブランドが急拡大するきっかけとなった。

現在は商品ラインアップも17種類に増えたが、前述の「赤ラベル」と「青ラベル」、そして「白ラベル」(ウィルキンソン タンサン エクストラ)が三本柱だ。

「その中でも、赤ラベルがブランドの“一丁目一番地”で最も売れています。青のレモンは爽やかさ、黄のグレープフルーツは清涼感で訴求してきました。また新商品『タンサン エクストラ』(白ラベル)も発売しました。こちらは機能性表示食品でパッケージに『脂肪の吸収を抑える』難消化性デキストリンの働きが食物繊維として含まれています」(本松氏)

ちなみに商品の消費者像は、「男女でほぼ変わらず、やや男性が多い。現在のコアターゲットは30代と40代の男女で、20代にも広がっています」(本松氏)という。

例えば、缶コーヒーのように男性中心の傾向は見られない。女性が職場で活躍する時代なので、執務中の息抜きにも選ばれやすい。性別や世代を問わないのは、飲料として有利だ。なお、ミネラルウオーターやお茶は、夏場でも冷やさずに販売する「常温」も広がったが、炭酸水は「冷やしてこそおいしい」という視点で、常温販売は推奨しないそうだ。

■バーテンの世界では長く愛される老舗ブランド

「ウィルキンソン」が発売されたのは、1904(明治37)年(当時の商品名は「ウヰルキンソン・タンサン」だが、ブランドの歴史はその15年前、1889年にさかのぼる。

日本に定住していて、国内での商売を考えていた英国人実業家のジョン・クリフォード・ウィルキンソン氏が、狩猟の途中、兵庫県宝塚の山中で天然の炭酸鉱泉を発見した。この湧出水をロンドンの分析機関に依頼して調査した結果、「良質な鉱泉」という評価を得て、翌年に個人事業として鉱泉の瓶詰生産を行い、天然炭酸鉱泉水を発売した。

それが1904年、湧出量の不足を理由に有馬郡塩瀬村(現在の兵庫県西宮市塩瀬町)生瀬へ工場を移転。会社組織にして「ウヰルキンソン・タンサン」として発売した。戦後の1951年に朝日麦酒(現アサヒビール)が同ブランドの販売契約を締結し、ウヰルキンソン社が製造、朝日麦酒が販売となり、1983年からアサヒビールが商標権を取得して製造販売を始める。ロゴが「ウヰルキンソン」から「ウィルキンソン」に変更されたのは1989年からだ。

長く、ウイスキーやカクテルなどの酒の割り材として利用され、ホテルのラウンジや有名バーなどで需要があった。師匠や先輩から道具や材料を含めて伝統を受け継ぐ、バーテンダーの世界では人気ブランドだったが、割り材ゆえ「脇役」の存在にとどまっていた。

■空前の“ハイボールブーム”も追い風に

2008年から売り上げが伸び始めたのは、酒類で競合するサントリーが仕掛けた「ハイボール」人気と関係がある。

この年、サントリーでは「ウイスキーを何とかせい!」と佐治信忠会長兼社長(当時)が発破をかけ、復活に向けた取り組みが始まった。それが短期間で成功したのは有名な話だが、筆者も2010年、当時のサントリー酒類社長に「ウイスキーV字復活劇」を取材した。その際に印象に残った話が、次の内容だった。

それまでサントリーが勧めてきた、ウイスキーの水割りやロックの黄金比率(アルコール度数が12%以上)を、消費者は「濃い」と感じていた。好んだのは8%に薄めた味だった。レモンを軽く搾ることも好評だった。いずれもメーカーの“常識”を変えるものである。

一連の取材では、「健康問題に敏感な先進国では、アルコール度数の高い酒ははやらないが、割って薄めれば度数も下がり、飲みやすさとともに健康を気にする中高年の嗜好(しこう)にも合う」という話も聞いた。

それがすべてではないが、アルコール度数を薄める=割り材として炭酸水の使われる量が増えたのも、業務用として強かったウィルキンソンの追い風になったのは間違いない。

「ハイボールを自宅で作った人も、割り材として残った炭酸水をそのまま飲んでいた。それも炭酸水の直飲み需要へとつながっていきました」(本松氏)

炭酸水は時間がたつと炭酸が抜けるため、2010年までウィルキンソンは190ミリリットルの小瓶だけだった。それでも2008年から2010年まで、炭酸水の需要はぐんぐん拡大。そこで2011年にペットボトルを投入したところ、直飲みの需要が一気に爆発したのだ。

■機能面と情緒面、2つの意味で「飲みやすい」

以前、別の記事にも書いたが、マーケティング用語に「機能性価値」と「情緒性価値」というものがある。この2つは、商品開発現場で時々議論されるので、改めて考えたい。

大まかにいうと、商品の持つ性能が「機能性」、商品を使うことで生まれる感情が「情緒性」といえる。

例えば、炭酸水の「強刺激」といった訴求は「機能性」が明確な商品だ。最新の赤パッケージには「ウィルキンソン タンサン史上 最強刺激」と強調されている。

一方、炭酸水は、飲む人にとって「情緒性」な意味合いも持つ。飲んでリフレッシュしたり、ストレス解消につながったりする気持ちがあるからだ。また、摂取カロリーや脂質を気にする人にとって、栄養成分表示が「ゼロ」なのも情緒性につながる。

現代の消費者は無意識のうちに、ある時は「機能性」、ある時は「情緒性」で商品やサービスを選ぶが、その両面を持つのは、商品特性として有利だろう。

■“不易流行”を追求してこそ定番になる

こうして考えると、視界良好な「ウィルキンソン」だが、中長期的には、「飲食の定番になれるかどうか」だと思う。

清涼飲料の世界は、カテゴリーの浮き沈みもある。戦後の高度成長期以降は、例えば「コーラ」「缶コーヒー」「ウーロン茶」「紅茶」「緑茶」などが伸びたり、落ち込んだりしてきた。

現在は「炭酸水ブーム」といっていい状況で、各社から次々に商品が発売されるが、ブームの後には必ず反動がある。一方、ブームによって間口は必ず広がる。その広がった間口、具体的にいえば「炭酸水好き」をどれだけきちんと押さえるかが、今後のカギだろう。

筆者が時々思い描くのが、「消費者はどんどん変わる」(流行)が、「人間の本質はそれほど変わらない」(不易)という言葉だ。「水」も「炭酸」も古くから飲まれてきた飲料だ。それをどう深め、定番化させられるか。商品パッケージには「磨き抜かれた水」とも記されるが、消費者意識と向き合いながら、ブランドの本質を「磨き抜く」ことなのだろう。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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