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フランス人が日本人の謙虚さに心酔する理由

プレジデントオンライン / 2019年10月8日 17時15分

ミシュラングループのシニアアドバイザー ベルナール・デルマス氏

■受け継がれるエリート教育の神髄

ただ机にかじりついて暗記をするのが、よい勉強法ではない。フランスの学生時代の経験から、そう考えます。

私は、フランス東部・ナンシー市にある高等鉱山学校でエンジニアとしての学問を学んだあと、パリへ拠点を移し、社会科学系のトップ校であるHEC経営大学院でMBAを取得しました。

ナンシーとパリでの経験や学び方は、私のキャリアに大きな影響をもたらしています。両校とも、フランスの高等教育機関であるグランゼコールに数えられる学校です。

グランゼコールの歴史は古く、ナポレオンの時代に、軍のエリート養成校として設立されたのが始まりです。実務や経営に必要な、あらゆる知識を身に付けられる場所です。

私が学んだナンシーの学校では、講義とは別にエンジニアとして企業で働く機会がありました。部屋に閉じこもって勉強に励むよりも、外に出て、実体験することは、大変価値のある勉強になります。

1年目は、炭鉱の現場で3カ月間働きました。「将来幹部になるための見学」などという生やさしいレベルではなく、現場作業員として、ときにダイナマイトの爆破も担当しました。

チームは、移民のポーランド人、イタリア人、あと2名のフランス人とエンジニアの私、合計5人。

■職場は人間関係で成り立っている

私たちは、夜勤で深夜0時から朝6時まで働きましたが、勤務後、ポーランド人はシャワーを浴び、2時間休憩して、また次の職場に出向いたのです。こういう働き方をする人もいるのかと、そのときは驚きました。

また、イタリア人には別の面で勉強させてもらいました。彼はチームリーダーで、ダイナマイトの使用に関する注意をする役なのですが、ある日、マネジャーにまで注意をしてしまったのです。当然マネジャーは気を悪くして帰ってしまいました。注意するとしても、言い方次第では「しっかり者」とみなされたかもしれません。

こういった人間関係を間近に感じる社会経験は、たいへん勉強になりました。

2年目は、フランス国有鉄道の現場。ちょうどTGVが走り始めた頃で、若いエンジニアたちとの意見交換も刺激的でした。

3年目は、南仏のソフィア・アンティポリスの研究室で、エンジニアとして材料物理の研究に精を出しました。

現場を経験することで、物理や経済などの学術以外に、社会のシステムや人間関係、マネジメントを体感することができました。

勉強だけできても駄目。職場は人間関係で成り立っていることを思い知らされます。

パリにかかわらず、東京、ニューヨーク、どこへ行っても社員、お客様、取引先、組合、様々な人々と触れあうのは変わりません。それぞれの立場があることを理解していないと、ビジネスの成功もありえません。

フランスのビジネスエリートは、ただ物理や経済、数学などの学術を勉強するだけではいけないことを理解しています。将来グローバルに経済を動かす人物になるには、学術以外に「ヒューマニズム」を理解しなければいけないのです。

私は理系のグランゼコールを卒業したわけですが、経済やマーケティングについては深い知識が欠けていたので、パリのHEC経営大学院へ進みました。

MBAを取得して、そのジャンルにも自信を付け、ミシュランに入社しました。経営やマネジメントについて理解しているので、すぐに仕事ができたのです。

■ダイバーシティ時代に進化を遂げよう

私は1985年に来日して以来、日本に住んでいます。日本語は一応流暢に話せますし、こういったインタビュー取材も日本語での対応が可能です。

私のように国をまたいでビジネスをする場合、語学も必要になります。私は日本語のほかにも、英語、スペイン語、ラテン語、そしてブラジルにいたのでポルトガル語も勉強しました。

とはいえ、日本に来てからしばらくは、何も読めませんし話せませんでした。

最初はとにかく、聞くことから始めました。「これは名刺です」「これは新聞です」など、簡単な文章を繰り返し聞いていました。他の社員とミーティングをしても、はじめは5%しか理解できなかった。それでも全部書き起こして、終わってから、書いたことや、私が理解したことは正しいか、その都度確認していきました。

その結果、1年くらいで3分の1程度は理解でき、なんとか日本語で意見を伝えられるようになりました。2~3年経つと、話せるようにもなりました。

これも、ただ机に座って単語や文法を覚えるだけではなく、日本語が使われている現場に出て、言葉を学習していった賜物だと考えています。

勉強には集中力が必要ですが、集中力を高めるために、私は睡眠を重視します。疲れが集中力に大きく影響すると考えているからです。

夜の決断はよい判断ができないので、いったん寝て忘れます。翌朝起きると、8割は自然に解決案が思い浮かびます。

人間、寝る時間は大事です。睡眠は疲れを取るだけではなく、脳が機能調整する時間でもあるので、この時間を尊重しなくてはいけません。

■決断を数字だけで判断しない

また、決断を数字だけで判断しないようにしています。数字はすごく大事ですが、それを人間がどう解釈するかも考慮しなければ、本当の解決には繋がりません。数字だけで分析や決断をするだけなら、コンピュータでもできます。

他人の意見を検討することも、よりよい判断へ繋がります。脳を研ぎ澄まし、様々な経験を蓄積して判断していきましょう。

Getty lmages=写真

これまでを振り返り、フランス人と日本人について考えることは、仕事への誇りに対する表現方法の違いです。日本人は、謙虚です。自分からはひけらかさない。一方でフランス人、特にグランゼコールを卒業した人は、エリートの誇りをしっかり表に出しますね。

この違いを感じるようになってから、日本の「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉が好きになりました。フランス人に、少しは見習ってもらいたいものです。

フランスにはエリート養成校の国立行政学院(ENA)もありますが、こちらは行政の道へ進むための教育専門で、最近では反政権デモの影響で廃止が検討されているようです。

ダイバーシティが叫ばれる世の中ですから、行政だけを学ぶ学校では世論と感覚がずれてしまうのかもしれません。企業でも行政でも、これからはダイバーシティが求められるのではないのでしょうか。

そろそろ意識を変える時期にきていると思います。今こそ「ダーウィンの進化論」を再認識するべきです。

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ベルナール・デルマス(BERNARD DELMAS)
ミシュラングループのシニアアドバイザー
日産自動車取締役。フランス出身。ナンシー高等鉱山学校を卒業後、パリHEC経営大学院およびサンパウロ大学でMBAを取得。

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(ミシュラングループのシニアアドバイザー ベルナール・デルマス 構成=力武亜矢 撮影=泉 三郎)

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