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ノリでキャバクラを経営したら年商2億稼げた

プレジデントオンライン / 2019年8月20日 11時15分

沖縄県那覇市にある県最大の歓楽街・松山 - 撮影=上原 由佳子

沖縄県で最大の歓楽街・松山。多くの飲食店がひしめくなか、大小さまざまなキャバクラ店も軒を連ねる。オーナーたちはどんな経緯から店を持ち、どのようにして店を切り盛りしているのか。キャバクラを営むオーナーの1人に、お金にまつわる事情を聞いた――。

■“中箱”の経営で年収1300万円

「年収は2000万あるよ。キャバクラだけで1300万くらい。残りは昼職だよ」

そう話すのは、沖縄一の歓楽街・松山でキャバクラを経営する仲村(30、仮名)だ。開店に仲村が用意した資金は300万円。2人で経営しているので、開店の初期費用は合計600万円で済んだことになる。仲村は「初期費用は2、3カ月で回収できたかな」と話す。

キャバクラの世界では、女性従業員の人数に応じて、店のサイズを「大箱(おおばこ)」「中箱(ちゅうばこ)」「小箱(こばこ)」と呼ぶ。ちなみに、仲村の店は中箱だ。松山ではこの規模が最も多く、その分競争も激しい。

中箱の経営に失敗してきた人もいる中で、仲村のお店は今年で6年目になる。中箱に在籍する女性キャストはだいたい20人くらいだが、仲村のお店は35人が在籍している。沖縄では、小箱は25~30坪で在籍は15人ほど。中箱が30~40坪で在籍は30人前後、大箱は40坪以上で35人くらいだ。それを考慮すると、仲村のお店は規模のわりに在籍人数が多く、安定している。

■地元では破格の「時給2400円」

私が仲村と知り合ったきっかけは、大学の先輩からの紹介だった。私はまだ大学を卒業しておらず、卒業論文でキャバクラの話を書こうと考えていたのだ。結果、卒業論文よりライターの仕事が先になってしまったけれど、仲村は取材を快く引き受けてくれた。

キャバクラの実態を調査するため、私は松山の数店舗を対象にアンケートをとった。65枚の調査票を配り、53人から回答を得ることができた。「今、働いているキャバクラのいいところ」を聞いた項目では、仲村のキャバクラ以外は「キャスト同士の仲がいいから」という理由が大多数を占めた。

一方、仲村のお店で同じ調査票を15枚配ると、13人から回答が得られた。そのうち全員が「給料がいい」「罰金がない」「バックがいい」と答えていた。バックとは、お客を呼んだり、お客がドリンクを出したりすると、時給とは別でもらえるお金のことを言う。

彼らの給料に対する満足度をそれほどまでに上げるためには、オーナーはどれくらいの年商があればいいのだろうか。仲村は「年商2億円くらいだよ。女の子の給料だけで1億2000万はかかるかな。だいたい年商の60パーセント」と答えてくれた。

アンケートを見ると、仲村の店の日給は1万5000円から4万円となっていた。時給にすると、他店の相場が時給から10パーセント引かれて2000~2300円なのに対し、最低でも2400円。もっと時給が高くてもそこから10パーセントを店に持っていかれるキャバクラもあるのに、仲村の店の待遇は破格と言える。

■給与は日払い制、ベース以降は上がりっぱなし

沖縄県のキャバクラは給料が日払いになっているため、月収ではなく日給・時給を紹介した。そもそも、業界に月給という感覚があまりないのだ。また、アンケート全体を見てみると、日給の相場は1万5000円ほどだが、仲村のお店は時給から引かれるものがない。ベース以降はプラスにしかならないシステムになっている。

出勤日数については、「月に15日」という回答が多かった。しかし、お店の人がアンケートに協力してくれそうな女性キャストを選んだ時に、多く出勤している人がメインになった可能性も考えられる。

女性キャスト以外のスタッフや客引きの給料はどうなっているのだろうか。仲村によると、彼らの人件費だけでも年間1800万円かかるそうだ。店内スタッフの給料は、時給1000円からスタート。他のお店では時給800円のところもあるが、仲村のお店は仕事ぶりを見て時給が上がっていく。客引きの給料は時給に加えてインセンティブがつく仕組みだ。

松山エリアへと通じる交差点
撮影=上原 由佳子
松山エリアへと通じる交差点。飲食店のほか、キャバクラや風俗店も多く並んでいる - 撮影=上原 由佳子

■「多くを求めても返ってこないからさ」

仲村いわく「キャッチ(客引き)で一番稼いでいるのは月50万円もらっているよ」とのこと。他店は時給800円が相場だが、仲村のお店は男性スタッフも稼げるようになっている。もちろん、客引きは違法だ。しかし、沖縄の歓楽街では客引きがお店にお客を入れない限り、お客が入ってくることはほとんどない。客引きが命綱となっているのだ。

ということは、スタッフや客引きのモチベーション管理も必要となってくる。従業員に対して厳しいことも言わないといけないこともあるだろう。「俺は基本的に厳しくしないし、仕事の話も要所要所でしかしない。店内にいるスタッフに関しては、外もそうだけど、『人対人』だから基本的なことだけ教えて、あとはどれだけ目配り気配りできるのか話をする」(仲村)そうだ。

一方で、女性キャストに対してはどう思っているのだろうか。

「俺は感謝しているし、ありがたいんだけど、多くを求めたら返ってこないのが分かっているからさ。線引きも必要だし。ゆくゆくは、辞めていく子たちだから。深入りはしない。やってあげても裏切る子もいるから。一方的に辞める子もいるから。やってくれる子には、やってあげるけど。ギブ・アンド・テークのバランスが難しいというか……」と、距離感とバランスについての考え事は尽きないようだ。

■建築業から、「ノリ」でキャバクラ経営者に

これらの取材を行ったのは、2019年7月のことだ。私はこの日、仲村と2人で“取材”という名目のお茶をしていた。

仲村の話し方は、おっとりしている。見た目は爽やかな好青年。夜の世界で働いている人が持っている独特の厳しさを感じることもない。むしろ、仲村は優しく、考え方に柔軟性がある。しっかり、リーダーシップも持ち合わせている。だから、中箱でも女の子の在籍が多かったり、客引きに月50万円を稼いでいたりする人がいるのだろう。

取材に応じる仲村氏(仮名)
撮影=上原 由佳子
取材に応じる仲村氏(仮名) - 撮影=上原 由佳子

仲村が夜の世界に入ったのは、建築業をしていた時に腰を痛めたからだった。小さなスナックの面接を受けてみたが、落とされてしまった。23歳の頃、「どうせなら一番大きいところに行こうかな」と思い、沖縄一の歓楽街・松山で大々的に展開していた大手キャバクラグループで働きだす。

そして、25歳になったときに転機が訪れる。友人から、他のキャバクラを経営していた男性を紹介されたのだ。仲村は大手グループを辞めてから、すぐに今の中箱キャバクラ店の経営者になった。

当時のことは「どっちが誘ったのか謎だけど、ノリかな」と振り返る。ノリでなんとかしてしまったのは、仲村の実力だろう。

■「しょせん夜の仕事」と淡々とするわりに……

しかし、キャバクラを経営することに関しては「確固たる何かがない。やってやろうみたいなのはない。俺はね」と言い切っている。野望みたいなものはないのか聞いてみると、「うん、ない」と一蹴されてしまった。

そして、こうも言った。「生活できて、周りと仲良くできたらいいかなくらいにしか思ってないかな。ゆーてもキャバクラだし、田舎のいちキャバクラだし、そんなんで成り上がろうなんて無理な話だよ。普通の同世代の人よりちょっといい生活してるくらい。その感覚」

昼働いている人に対して、どう思っているのか聞くと「やっぱり昼働いてる人が偉いんじゃない? こっちはしょせん、夜だし」。あくまで淡々としている。

そんな仲村だが、女性キャストへの気配りは忘れない。

キャストから何を改善してほしいか聞き、反映させている。例えば、セクハラをするお客への対処法を決めたこともそうだ。セクハラを受けて助けてほしい時は三角、何もない時は四角というように、おしぼりのたたみ方でボーイに知らせることができる。つまり、キャストがお客から文句を言われずに、自然に席を抜けるタイミングを作り出す。

こうした対策を話し合う場にはボーイも参加するのだが、キャストとの立場の違いから生じるわだかまりが残らないように工夫されている。というのも、お互い何を直してほしいかなどを話すため、キャストもボーイもナーバスになりやすい。そのため、ミーティングの後には、参加費無料の懇親会が行われている。こうした小さな工夫がキャストの働きやすさをつくっているのだろう。

■地元企業を買収しようとしたワケ

ところで仲村自身は、自分の将来のことをどう考えているのだろうか。仲村は「一生は無理」と言い切った。

「常に供給していかないといけないわけで、それが延々とできるとは思ってない。自分の年齢に比例して、夜働く女の子を探すのって難しくなっていくと思うわけ。今は、まだ30歳だから女の子の知り合いもいるけど、40歳、50歳になってからは、厳しいよ」

確かに、常に女性を商品化する職業で、キャバクラで働けるくらいの若い女性の知人が減っていくのは、致命的なような気もする。仲村は「そこで、自分を慕ってくれている後輩がどれだけ働いてくれる人を集められるかって話だと思う」と後輩への期待も口にした。

キャバクラにまつわる話もだいぶ聞かせてもらった頃合いで、仲村は突然思い出したように「最近、地元企業の買収、失敗したんだよね」と言った。

なぜ、昼間の企業を買収する必要があるのか聞いてみると、飄々(ひょうひょう)とした仲村から意外な言葉が返ってきた。「ん? 女の子たちも辞めたら働ける場所ないといけないさ?」。つまり、セカンドキャリアを作る場を仲村が提供しようとしていたのだ。

「事務とかなら、頑張ってくれた子にさせられるかなと思って。それもあって最近は、昼間動くことが増えたかもしれない」

女性キャストの待遇が良く、セカンドキャリアまで考えており、しかも経営が安定しているキャバクラは珍しい。仲村の女性キャストへの思いやりが実現する日は、いつになるだろうか。

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上原 由佳子(うえはら・ゆかこ)
フリーライター
1988年沖縄県生まれ。高校中退後、キャッチのアルバイトをきっかけに、沖縄県内のキャバクラやクラブで働く。2015年高校卒業後、現在は佛教大学社会学部現代社会学科(通信制課程)に在籍。社会学を勉強するかたわら、キャバクラ時代に知り合った人脈を生かし、取材・執筆活動を行っている。

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(フリーライター 上原 由佳子)

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