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女性に優しすぎる会社を辞めて起業した理由

プレジデントオンライン / 2019年8月29日 6時15分

Kanatta 社長 井口 恵さん

誰もが知るような2つの大企業で働き、女性が活躍することの難しさを痛感した井口恵さんは、仲間とともにKanatta(旧AIR)を創業。女性の社会進出を後押しする事業を始めたものの、その立ち上げのプロセスはピンチとリカバリーの連続だった――。

■お父さんみたいに働きたい

「これ、マイドローンなんです」

そう言って、カバンの中から小さなドローンを取り出したのは、女性の夢をかなえるコミュニティを運営するKanattaで社長を務める井口恵さんだ。Kanattaでは、独立したい女性のために、小型ドローンの操縦を教えるイベントを行っていて、井口さん自身もマイドローンを持ち歩く。

今ではドローンに関する事業を行っている彼女だが、もともとは会計士という、ドローンとは縁もゆかりもない資格職からキャリアをスタートした。

父親が商社マンであったため、小学生から中学生までの間は、米国・コネチカット州とオレゴン州で過ごした。「小さい頃からの5度の転校のおかげで、コミュニティーで人と関係性を持つことが得意になった」と井口さんは振り返る。

大学生の時、「お父さんみたいに働きたい」と父に話すと、「それなら男性に負けない資格を持つといい」とアドバイスされた。商社という男性社会に身を置いていたからこそ、女性の活躍する場の難しさを実感していたのだろう。それをきっかけに、井口さんは体育会のテニス部をやめ、会計士の勉強に猛進した。

■女性社員“一斉退社事件”

新卒で就職したのは、大手監査法人だ。グローバルに支社や子会社を持つ日本企業を担当していたため、変則期決算が多かった。そのため、業務が一部の月に集中するというより、ずっと忙しいという状態で、残業が月100時間あるのは当たり前だった。

仕事は大好きだったが、女性の働き方としてモデルになるような先輩は1人もいなかった。それどころか、その部署で唯一の女性管理職だった上司が、中学生の子どもを持つというのに、いつも終電近くに退社しているのを見て、「管理職まで上がってもこんなに働かなくてはいけないのか」とげんなりしていた。

あるとき、その女性管理職が、社内イベントで、「私くらい働かないと生き残れないわよ」と話したことで、多くの女性社員がどっと辞めてしまったという笑えない話も、若い井口さんのもとに漏れ伝わってきた。

ずっとここにいるのは無理だ、そう考えた井口さんは、「残業がない会社」を求めて、25歳で転職することにした。

■女性に優しすぎる会社は物足りない

次に選んだのが外資系企業だった。就職したモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(以下、LVMH)は、8割が女性社員で、ワークライフバランスが完備された働きやすい職場だ。20時になって会社に残っていたら、フランス人の上司が「まだ帰らないの?」と催促してくるほどであった。

たしかに「ライフ」の時間は取れるようになったが、井口さんは「ワーク」が嫌いなわけではない。また、女性が8割の会社なのに、経営陣を見てみると、全員が男性である。

「女性が活躍できるフィールドは、もっと他にあるのではないか」

そうして、どことなく仕事に物足りなさを感じるようになっていった。

そうはいっても、会社で残業することもできない。仕事の後は、あらゆるコミュニティーに顔を出し、人脈を広げるための異業種交流に明け暮れた。「会社の人は、『井口さんは毎日合コンに行っている』と思っていたんじゃないでしょうか(笑)」

■なぜ女性は活躍できないのだろう

そんな時、昔の同期の女性の多くが、結婚などで会計士をやめてしまっていることに気づいた。

会計士というのは、決して簡単に取れるような資格ではない。「本当はやっぱり働き続けたいんだよね」という彼女たちを見て、あんなにがんばったのに、とひとごとながら残念な気持ちになってもいた。

「女性が活躍できないのはなぜだろう」――そんな気持ちを抱えつつ、異業種交流会を重ねていた井口さんだったが、交流を重ねるうち、同じ思いを持つ人たちに出会っていく。

2015年、女性が活躍できる社会を作るための「女子会」ができないかと、創業メンバーで社長になる矢口紀子さんをはじめ、4人が集まった。井口さんは財務に強いため、経営の裏方を任された。

そのうちの2人がドローンに詳しく、社会進出したい女性にドローンを教えていた。それが、「事業になるんじゃないか」と気づき、「ドローンジョプラス」というドローンを教えるコミュニティーを作ることになった。ドローンでの空撮技術を身に付ければフリーで稼いでいく道が広がる。男性が多いこの分野に女性人材を増やしていくことの意義も感じていた。

会社を作るならと、LVMHを退社。つながりがあった実業家の支援を受け、2016年にKanatta(旧AIR)を立ち上げた。

■新事業説明会への参加者はたった一人

とはいえ、形になるまでは、そんなに簡単ではなかった。

女性を支援していくためには、その女性を金銭的に支えることが大事だ。そのために、女性の夢に対するクラウドファンディングを始めようと考えた。

クラウドファンディングの名称は、「夢が叶(かな)った」と「理想と現実が適(かな)った」という2つの意味を込め、「kanatta」と名付けた。

井口さんの女子会ネットワークに声をかけると、5人がクラウドファンディングプロジェクトへの応募を希望した。5人もいれば何とかなるかな、と高をくくり、説明会を開いてみると、当日参加したのはたったの一人。これは人が集まるのかと冷や汗をかき、そこから起案者を必死で集めた。

■ローンチ目前、社長の妊娠が発覚

一方で、「kanatta」のサイト構築中に、社長の矢口さんが妊娠。営業は矢口さんに任せていたが、リリースの頃に出産することになったため、社長は創業メンバーの一人である鶴田泰啓さんに交代した。ただ、女性向けのビジネスであったことから、自然と井口さんも前に出るようになった。

矢口さんとは陣痛の時以外はずっとやりとりをしていたという。こうして、だれか抜けたときは他の人が代わりをできるような関係性を築くことができた。

「kanatta」がオープンすると、今度は起案者が支援されるようにサポートしなくてはならない。見ず知らずの人にお金を支援する人はほとんどいない。どんなに素晴らしいプロジェクトを実行しようとしていても、支援額が3分の1程度入っていないと不安になるものだ。その「初めの3分の1」を支援してもらうため、知り合いに支援を求めることが成功のキーになるが、抵抗を感じる起案者も多く、その必要性を伝えるのに苦労した。

■創業メンバーの退職で事業継続のピンチに

一方で、クラウドファンディングと並行して進めていた「ドローンジョプラス」のほうでは、創業メンバーの一人だった中心メンバーが「もっとドローン操縦の技術を磨きたい」と突然退職。

彼女の代わりになるような技術のあるスタッフはおらず、事業継続のピンチに立たされた。会員数は40人にも増えていたが、ここで解散したほうがいいのではないかという声も上がった。

だが、残りのメンバーは「まだやりたい」と前向きだった。そこで、思い切って事業を方向転換する決断をした。これまでの専門性の高い内容からドローン操縦体験会など、広くドローンを知ってもらうような方向にシフトした。19年の年始、一度は10人まで減少していた会員数は現在60名を突破、年末までに100人に増やすことを目標にしている。もともとコミュニティー重視の会社であるため、こうしたことをとっかかりにして、マネタイズを目指していく構えだ。

今年(2019年)8月に井口さんに社長交代し、Kanattaは新しいスタートを切ったばかり。

「たくさんアイデアがあるのに形にすることができない女性はたくさんいます。これからはそのサポートをしていきたいですね」と井口さんは意気込みを語る。

井口さんの夢も、ドローンのように、高みへと向かっていくようだ。

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井口 恵(いぐち・めぐみ)
Kanatta 社長
監査法人やファッション業界での経験を経て2016年、AIR(現Kanatta)を設立しCOOに就任。女性が輝ける「仕組み」と「コミュニティ」を提供し、ジェンダー平等の実現に貢献することを理念に掲げ、女性コミュニティ「kanatta」を中心に、ドローン事業やクラウドファンディング事業を展開している。

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(Kanatta 社長 井口 恵 文=藍羽 笑生)

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