"食べ放題"はなぜ経済学的におトクでないのか

プレジデントオンライン / 2019年8月26日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/michaelpuche)

ドリンクバーやデザートビュッフェ、ランチバイキングなどで「元を取ってやろう!」と頑張って食べたり飲んだりする人は多いのではないでしょうか。けれど、どんなに頑張ってもほとんどのケースで元を取ることは無理。経済コラムニストの大江英樹さんは、そう断言します。その理由とは――?

■6~7個食べたら元が取れると思ったら大間違い

デザートビュッフェというのは多くの女性に人気があります。その理由は①決まった料金で好きなだけ食べられるからお得感がある、②好きな物が好きなだけ食べられる、③いろいろ種類がたくさんあるので楽しめる、といったところにあるのでしょう。

確かに目の前にさまざまにおいしそうなケーキがならんでいると、あれもこれも食べたくなるという気持ちはよくわかります。特に食べ放題ですから、絶対元をとってやろうという気になってしまいます。都内のデザートビュッフェだと価格はさまざまですが、ホテル等の場合は3000~3500円くらいのところが多いようです。ケーキ単体だと1個500円ぐらいでしょう。中にはもっと高いものもあります。だとすれば大体6~7個食べると元が取れると考えがちです。ケーキ等のデザートが好きな人なら、それぐらいはペロッと食べられるんじゃないの? と思いがちですね。

■ドリンクバーで元を取るには20杯飲む必要あり

ところが、相手も商売です。当然、自分のところが損をするような価格設定にはしていないはずです。例えば最もシンプルでわかりやすいのはファミリーレストラン等にある「ドリンクバー」です。通常、ドリンクバーではだいたい200~300円ぐらいの価格ですが、原価はせいぜい5~15円程度だと言われています。これで元を取ろうと思ったら20杯も30杯も飲まなければならないわけで、これはどう考えても無理です。デザートビュッフェの場合は、これに加えていくら頑張ってたくさん食べても絶対に元は取れない構造になっているのです。それが一体どうしてなのかを考えてみましょう。

■ポイントは「固定費」と「変動費」にあり

そもそも飲食店のコスト構造は固定費と変動費から成り立っています。店を開けたことで、お客さんが一人もこなくてもかかるのが固定費(家賃や光熱費等)、来た人数分に比例してかかるのが変動費(食材費等)です。したがってお客が一人も来なければ固定費分がまるまる赤字です。お客が一人来れば(一人当たりの料金-変動費)だけ赤字が減ります。したがってたくさん来れば来るほど儲けは多くなります。これは当然ですね。

例えば、あるカフェで普通にケーキを一個食べた場合、その値段が500円だとします。この場合、ケーキの材料費すなわち変動費が200円だとすると、このお店では一人のお客が来て、ケーキを1個食べてくれるたびに300円の粗利益が出るわけです。この粗利益で固定費をまかなうことになります。仮にこのお店の固定費が20万円だとしましょう。するとひと月に680人以上お客が来れば300円×680人=20万4000円ですから、それでようやく赤字を免れることになります。

一方このお店がデザートビュッフェを設定し、値段が3000円で食べ放題とすればどうなるでしょう。仮に来たお客がケーキを10個食べたとしても変動費は200円×10=2000円ですから、このお客から上がる粗利益は1000円となります。つまりケーキを単体で食べるお客よりも3倍以上も儲かるのです。お客の方は「10個も食べたんだからおおいに元を取っちゃったわ、ラッキー!」と喜んでいたとしても、店だって普通以上にがっちり儲かっているのです。

■100人前作ってもコストは100倍にならない

また、別のコスト要因も考えてみましょう。料理というものは1人前作ろうが、100人前作ろうが、投入する食材の量が増えるだけで手間が100倍増えるというわけではありません。もちろんケーキの場合は普通の料理のようにまとめて作りづらいものですから多少は手間がかかるでしょうが、それでも100個作ったから手間や時間が100倍増えるわけではないでしょう。それにケーキを一つひとつ皿に載せてお客の席まで運ばなくてもいいわけですから調理や接客にかかる人件費は減ります。

さらに、どれぐらい注文が入るのかわからない単体のメニューに比べると、ビュッフェスタイルの場合は、店側でメニューを決めて用意していればいいわけですから、食材自体の仕入れコストも安くすることができるかもしれません。

これらはコーヒーチェーン店のS・M・L・LLのサイズでも同じことが言えます。よく大きいサイズの方が分量当たりの価格が安いからお得だと言って大きなサイズを注文する人がいます。この行動は間違ってはいません。本当に飲みたいのであれば、あるいは飲めるのであれば、大きいサイズの方が割安になるのは事実です。ところが、これもさきほどのデザートビュッフェのコスト構造と同じで、サイズが大きい方が店の利益も大きくなります。むしろ飲めなくて残すぐらいなら最初から小さいサイズを選ぶのが賢明なのです。

■無理して食べるのは決して良いことではない

食べ盛りの中学生や高校生ならともかく、ある程度の年齢の大人であれば食べ過ぎるということで体に良いことは何もありません。いくら甘いものやケーキが好きだと言っても、つい食べ過ぎてしまうとその日一日気分が悪かったり、場合によっては次の日まで胃がもたれてしまったりすることはよくあります。あげくは翌日に体重計に乗るとさらに大きなショックが待ち受けているということになりかねません。

結局、“せっかく食べ放題に来たのだから元を取りたい”という気持ちが災いし、逆にさらに大きな損を呼び込んでしまうということには注意しなければなりません。経済学では既に使ってしまっていて戻ってこないお金のことを埋没費用(=サンクコスト)と言いますが、デザートビュッフェの料金もそれに当たると言っていいでしょう。「せっかく高いお金を払ったのだから」といってサンクコストにこだわり過ぎると、“健康に悪い”というもっと大きな損をしてしまうということになりかねません。本来、サンクコストはもう戻ってこないお金ですから、それを考えてもしょうがないのです。

■“食べない放題”もありかも……

もちろん、デザートビュッフェが悪いということではありません。好きなものを好きなだけ食べられるというのはとても幸せな気分になれるからです。私は67歳の男性ですから、さすがにデザートビュッフェに行くことはありませんが、ランチビュッフェや夜のディナービュッフェに行くことはよくあります。それは私の場合、ビュッフェは「食べ放題」ではなく、「食べない放題」だからです。和食の会席や、フレンチのコースの場合、全部いただくのは、年齢的に考えてちょっと量が多すぎるのです。時にはアラカルトですらボリュームが多いこともあります。ところがビュッフェの場合、自分の好きなものを食べられる量だけ取ることができます。つまり「食べない放題」ができるから良いのです。

デザートビュッフェも同じです。単純に損得だけを考えたら、単品の方がお得かもしれません。でもいろんな食べたいものを少しずつ楽しむことができる、しかも自分のペースで食べられる。さらには驚くほどたくさんのデザートが目の前に並ぶという充実感を味わうこともできる。そういったことができるのもビュッフェの楽しみ方ではないでしょうか。それによってストレスが解消できるとすれば、決して割高というわけではないと思います。

大切なことは単にお金の損得だけで考えるのではなく、自分にとっての満足感は何かを考えることが大事なのではないでしょうか。

----------

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト
専門分野はシニア層のライフプランニング、資産運用及び確定拠出年金、行動経済学等。大手証券会社で定年まで勤務した後に独立。書籍やコラム執筆のかたわら、全国で年間130回を超える講演をこなす。おもな著書に、『定年男子 定年女子』(共著、日経BP社)、『経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

----------

(経済コラムニスト 大江 英樹 写真=iStock.com)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング