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ネット動画の真実「アマプラはネトフリの3倍」

プレジデントオンライン / 2019年8月23日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marcoventuriniautieri

■モバイルデータを活用しない手はない

経済を形作る産業構造はこの10年間に大きく変化し、日本ではスマホをはじめとするモバイルの課金ビジネスは年率10%以上で成長し続け、年間1兆2000億円を超える規模になりました。

私が日本法人の代表を務めるApp Annie(アップアニー)のデータによると、モバイルに費やされる時間は1日平均3時間を超え、2年前と比べて1.5倍になっています。特に若い世代の生活者は1日5~10時間をモバイルに費やしているともいわれ、企業が「10年先のクライアントを育てる」ためにはモバイルを活用しない選択肢はないと私は考えています。さらに今後は5Gの登場で通信環境が大きく変化するので、モバイルというデバイスからさらに広がっていくことは容易に想像がつきます。

アップアニーは、スマホのアプリなどに関わるデータを取り扱う世界最大手の企業です。当社が提供しているデータを見ると、「どの国で/どのアプリが/どれくらいダウンロードされ/何人が何分何秒そのアプリを使い/男女比率や年代層はどうなっているのか/他にどのアプリと重複して使う傾向が強いのか」などを正確に把握することができます。

今回の記事では、これらのデータを基に解説していきます。

■「いいプロダクトを作ったら売れる」わけがない

まだまだ根強く残っている思想だと思いますが、特に昭和の時代に現役でバリバリ働いてきた人ほど、「いいプロダクトを作れば売れる」「いい場所に店舗を出せばお客さんが来る」と考える傾向があると感じます。しかし、そのような時代はとうに終わっています。

実際に過去お会いした経営層の方々の中には、この「プロダクトアウト偏重」と「オフラインがすべての思考」が強く、デジタル化によって生活者や顧客のデータを取得して分析し、マーケットインの発想を取り入れることや、一時期いわれていた「オムニチャネル」への投資の意思決定をしていませんでした。しかも、「今までのやり方ではビジネスが成長しなくなっている」と危機感らしき言葉を口にするのにもかかわらずです。

特に印象的だったのは某小売業の大手企業の役員です。私がデジタル化の必要性を、国内外の企業の取り組みやビジネス効果をファクトベースでお伝えしていたときのこと。その方は「私が店舗にいた頃は、お客様と顔を合わせてナンボの世界だった。そしてその信頼関係でお客様に愛されていた」と言いました。「過去の経験」にしがみつき、当時の成功体験を自ら否定するような取り組みには肯定的ではないというスタンスを貫いていたのです。

■大きなリスク無く世界中にビジネス展開できる

今の時代は、あらゆるものがデジタル化しています。もしくはデジタルと接続できるようになっているので、企業はデータ(ファクト)を簡単に手に入れることができます。これらのデータは次の戦略を考えたり、意思決定をしたりする際に「ファクト」になるため、改めてこれを事業戦略や意思決定に取り入れることを真剣に考えるだけの価値はあります。

たとえばモバイルビジネスをするなら、AppleとGoogleが提供している「アプリストア」というプラットフォーム上に自社の商品を簡単に出品できます。Appleは200カ国以上にストアが展開されているので、自社の商品を世界中の店の棚に並べることができます。

しかもそれらの「商品」は実態を伴わないため、在庫リスクはゼロです。売れなければストアから削除すればいいし、売れるのであればより多くのマーケティング予算を投下するという意思決定をすればよいのです。企業にとって、各国向けにローカライズ(現地語への翻訳など)するだけで、大きなリスク無くビジネスを世界中に展開できます。

■ゲーム業界が5年で2倍成長した理由

このモバイル環境を活用してビジネスを展開している筆頭はゲーム業界です。アップアニーのデータによると、2014年1月から2018年12月の5年間で日本国内のモバイルゲーム市場は以下のように106.9%(2.069倍)成長してきました。

日本国内のモバイルゲーム市場

任天堂やスクウェア・エニックス、セガ、バンダイナムコ、コナミといった国内大手ゲーム企業だけではなく、ミクシィやガンホー、LINEといった「デジタルビジネス企業」がこの領域に参入し、大きな収益を得ることができました。

たとえば2019年6月、国内で最も売り上げが多かったゲームは1カ月で100億円でした。近年、日本人の可処分所得が大きく増えていないことを考えると、生活者が他の消費行動を控えて捻出したものだと考えられます。企業側の立場から見ると、これだけ多くのお金が生活者の財布からゲーム企業に流れたと知ることは、コラボや合同キャンペーンといった企画に投資する判断につながっていきます。

■外資系企業に日本人のデータを取られないために

他の業界も見てみると、ヘルスケア業界も成長していることがわかります。アップルやグーグルのストアの課金からなる2018年の収益額は、前年比134%と伸びています。「健康寿命を延ばして人生100年へ」などと言っていますが、この領域においてもモバイル環境にビジネスチャンスがあると思います。

市場が大きく成長している中で、また国としてもヘルスケア領域に注目していることも踏まえると、事業として取り込むことを検討しても良いかと思いますし、逆にこの市場の可能性を知ることで初めて検討の俎上(そじょう)に乗せることができるようになるはずです。

ヘルスケア領域のモバイルビジネスは、すでにアメリカや中国などでは急成長しており、日本への参入を準備しています。では、外資系企業がこの領域にサービスを展開すると何が起きるでしょうか。問題は目先のお金ではなく、日本人の体組成データや活動ログ、睡眠や食事といったライフスタイルデータが根こそぎ海外に抜かれていくということです。

アップルやグーグルのストアの収益額(ヘルスケア業界)

過去にビジネスが大きく成長した実績とそれをリードしてきた経験が、時に先入観や思い込みとなって、正しく判断できないことがモバイルビジネス環境では往々にして起こります。わずか5年でメルカリが今のように成長し、キャッシュレスの領域に進出し、新たなエコシステムを構築するということは誰も予測できなかったと思います。

ところが今やメルカリはC2Cというビジネスモデルを定着させました。アップアニーのデータによると日本では1900万人弱が1カ月に1回以上メルカリを利用しています。20年以上の歴史を持つ、日本のデジタルビジネスの雄・ヤフー社の「Yahoo!プレミアム」の月間ID数2000万人という数字と比較すると、どれほど急速に普及したかよく分かると思います。

■「ファクトフルネス」という考え方

2019年にベストセラーとなったハンス・ロスリングの著書『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(日経BP)という本には、いかに私たちが思い込みと先入観を持った中で生きており、それを思考の基準や物事の判断軸としているかが書いてあります。

今の時代でビジネスをやる上で必読の書であり、それはモバイルにおいても同様です。

もし、多くの企業の経営層がモバイルに真剣に向き合い、ファクトを押さえた上で戦略的に捉えるならば、「カスタマーエンゲージメント」を実現する一つの手段として優先度を上げる判断をするはずです。

カスタマーエンゲージメントは短期的な収益増を狙うものではありません。ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を長期化するために取り入れる考え方なので、多くの経営層が事あるごとにいう「費用対効果」というレガシーな判断軸とはマッチしません。

中長期目線で生活者・顧客と良い関係を維持し続けるためにモバイルという手段をどう使うのがよいのか。この発想になると企業目線ではなく生活者目線で考えるようになるはずです。つまり、「どうすれば生活者は自社と接してくれるのか」という視点で顧客体験を設計するようになります。

■動画サービスは「ネットフリックス」という先入観

一例を挙げます。昨今多くの広告を見る機会が増えていると思いますが、動画配信サービスは世界中でビジネスを拡大しています。国内だけでも多くのプレーヤーがビジネスをしており、凌(しの)ぎを削っています。

なかでもよく聞くキーワードは「Netflix(ネットフリックス)」ではないでしょうか。「ネトフリ」と若年層に略され、テレビ広告も多く流れるなど、動画配信サービスの総称のように使われています。

こういった動画配信サービスが急速に広がることで、その他の業界の方々は、メディア接触のトレンド理解、広告投下先の選定、生活者のコンテンツ・サービス嗜好の把握、生活者が好むUI/UX分析のようなビジネスへの活用が考えられます。

新しいビジネスの拡大を「自分ごと」として捉えることによって、上記のようにアイデアを出して自社ビジネスに生かせないかと考えることが重要です。

ファクトフルネスの文脈でいうと、ネットフリックスを最も成功している動画配信サービスと「思い込んで」ウォッチしたり、分析したりすると、見誤ってしまいます。以下をご覧ください。

ファクト例:動画ストリーミングサービスの競争環境

日本国内のスマホのiOSとAndroidにおいて、2017年1月〜2019年6月の各動画配信サービスアプリのMAU(月間アクティブユーザー=1カ月に1回以上利用した人数)を示したアップアニーのデータです。ネットフリックスのユーザー数はアマゾンプライムビデオの約3分の1だと分かります。

このデータはスマホの利用人数であるため、テレビなどのデバイスで視聴しているユーザーは含まれません。それでもアマゾンプライムビデオと3倍の開きがあると知らずにネットフリックスが日本国内でトップシェアだと「思い込み」、サービスやUI/UX、コンテンツやプロモーション手法などを参考にするのは見誤っていることがわかるかと思います。

■データ活用の一歩を踏み出そう

自社サービスに対し、ユーザーのエンゲージメントを高めるためには生活者および顧客の「データ」を持つことが必須です。それにより、どんな生活者が、日々何をして、どんな情報に触れ、どのような嗜好をもって行動変容が起きるのかを知ることができます。

重要なのは生活者の日々の振る舞いや嗜好をデータとして把握し、分析することです。これがないといつまで経っても経験と思い込みと先入観を基にした戦略を立てることになります。根拠がないと経験に頼らざるを得ないシーンは多くあると思いますが、このデジタル化・モバイル化の時代はデータが手に入るのです。

遠回りに聞こえるかもしれませんが、まずは「データを集める」ということについて社内における業務の優先度、投資配分を割くことをおすすめします。

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向井 俊介(むかい・しゅんすけ)
App Annie Japan 代表
国内IT企業、米ガートナーなどを経て、2014年よりアップアニーへ。日本の新規ビジネスから既存クライアントビジネスまで広く担当。2019年1月より現職。

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(App Annie Japan 代表 向井 俊介)

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