「日本ワイン」の評価が急激に高まっているワケ

プレジデントオンライン / 2019年8月29日 17時15分

メルシャンの長林道生社長。手に持っているのは「椀子 オムニス 2015年」。 - 撮影=門間新弥

日本で造られるワインの評価が急速に高まっている。国際コンペで相次いで受賞するようになっているのだ。背景には日本産ブドウだけで造ったワインの品質向上がある。国も2018年10月に新しい法律を施行。日本産ブドウだけを使用して国内製造したワインを「日本ワイン」と呼べるようになった。こうした変化をワインメーカーはどう捉えているのか。メルシャンの長林道生社長に聞いた——。

■社長になって「こんなに受賞しているのか」と驚いた

——日本ワインの評価、特に海外での評価が高くなってきているそうですね。

そうなんですよ。私は今年3月にメルシャンの社長に就任したんですが、社長になって受賞の過去一覧を改めて見せられて、「こんなに受賞しているのか」と驚いたほどです。

昨年、中国・上海で初めて行われたワインコンペ「インターナショナル・ワイン・チャレンジ チャイナ 2019」では、メルシャンの「シャトー・メルシャン 岩出甲州きいろ香 キュヴェ・ウエノ 2017」が金賞を受賞しました。またロンドンで開催される権威あるコンペ「インターナショナル・ワイン・チャレンジ 2019」では、「シャトー・メルシャン 北信左岸シャルドネ リヴァリス 2017」が金賞を受賞しています。

こうした動きはメルシャンだけではありません。日本ワインの評価は確実に上がっていると思います。

■評価の高まりの流れは、日本ウイスキーに似ている

日本ワインの評価の高まりの流れは、日本ウイスキーに似ています。私は15年ほど前にウイスキーのマーケティングをやった経験がありますが、いまの日本ウイスキーの人気はその頃には予想できませんでした。大きなきっかけはハイボールですが、日本ウイスキーが海外でたくさん賞をとったことも影響しているはずです。海外で評価されて初めて自分の良さに気づくようなところが、日本人にはありますからね。

ワインも同じで、フランスなどの伝統国に比べると日本のワインは質が劣るという先入観もあったけれど、海外で評価されて国内の評価が変わりはじめています。

——品質が良くなった理由はなんだとお考えですか。

フランスワインに必死に近づこうとしていたんですが、やはり季候も土壌も違う。日本らしいところをねじ伏せて、追いつき追い越せと躍起になっていました。それが間違いだった、ということに気づいたことが大きいんじゃないでしょうか。

メルシャンでは1998年にシャトー・マルゴーの支配人だったポール・ポンタリエ氏を醸造アドバイザーに迎えたときにも、「日本らしさを追求すべきだ」と指摘されたこともあって、かなり発想が変わってきています。

撮影=門間新弥
左から「城の平 オルトゥス 2013年」「椀子 オムニス 2015年」「桔梗ヶ原メルロー シグナチャー 2014年」「藍茜 2016年」「山梨甲州 2017年」「岩出甲州きいろ香 キュヴェ・ウエノ 2017年」「新鶴シャルドネ 2017年」。 - 撮影=門間新弥

■選果台を導入して不良果を徹底的に除去

その一例として塩尻市では、その「らしさ」を追求するために、1999年には自主管理畑を設置して、従来の棚式ではなく、力強く凝縮感のある味わいとなる垣根式でのブドウ栽培をスタートしています。同時に、契約栽培農家との提携も深めて、ブドウの品質を高めるための知見をお互いに深めてきてもいます。

さらにブドウの品質向上を目指して収量制限、着果量や糖度の計測にも取り組んできました。醸造面でも、2002年からは木桶発酵を導入し、選果台を導入して不良果を徹底的に除去しています。不良果が残っていると、やはり雑味につながりますからね。

そうした結果が、世界的に評価されることにつながってきているのだと思います。

■日本の土の良さを引き出して、日本らしさを求める

——国産のワインは甘い、というイメージも強くありましたよね。

明治から昭和中期にかけて長野県塩尻市の桔梗ヶ原地区は、甘味果実酒用ブドウ品種であるコンコードやナイアガラの一大産地でしたが、ここで本格的な赤ワインを造るために欧州系ブドウ品種の改植にあたって成功したのが、当社の工場長も務めた浅井昭吾さんでした。

彼はメルローに絞った改植を決断して、1989年の「リュブリアーナ国際ワインコンクール」で金賞を受賞するなど世界的に日本ワインを印象づけるきっかけとなった「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー」を産みだしています。

撮影=門間新弥
メルシャンの長林道生社長 - 撮影=門間新弥

同じブドウ品種でも、フランスのマネをするのではなくて、日本の土壌から出てくる良さを引き出して日本らしさを求めることが、世界で日本ワインが評価されることにつながるというのが彼の持論でした。しかも浅井さんは、シャトー・メルシャンが培った醸造やブドウ栽培の技術を独占するのではなく、メルシャン以外のメーカーにも広めました。

それで彼は「現代日本ワインの父」と呼ばれるようになるのですが、彼の存在も日本ワインにとってのブレークスルーになったと思います。

——ワインの味を言葉で表現するのは難しいと思うのですが、「日本らしさ」はどう表現すればいいのでしょうか。

繊細さ、優雅さ、上品さ、でしょうか。それをブドウ栽培だけでなく、優しく丁寧な醸造によるワイン造りで実現できていると思います。

■360度ブドウ畑に囲まれたワイナリーを今年9月にオープン

——受賞もそうですが、より多くの消費者に飲んでもらうには、これからのマーケティングが重要になってきますね。

そうです。これからは、特にマーケティングが重要だと考えています。メルシャンだけでなく、ほかの日本ワインも多くの国際コンクールで受賞してきています。それを業界の人間は知っているけれど、まだ多くのお客様が知らない。賞のすごさも伝わりきっていない。

まず、こういうところから伝えることで、「日本のワインはすごいんだな」とお客様に思っていただけるようにします。2017年より輸出を開始した香港では同年よりホテルで日本ワインを置いてもらうようになっていますが、さらにエポックメーキングとなる地域の提携も進めたいと考えています。そこでの評価が日本に還流して、日本でのマーケティングにつながっていくといいなと思っています。

また9月21日には、長野県上田市に「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」がオープンします。ここは、ワインを製造するだけでなく、テイスティング・カウンターやワイン・ショップを設け、年間を通じてお客様に来場してもらえる施設です。360度ブドウ畑に囲まれたワイナリーで、日本ワインの価値を国内外のお客様に届けたいと考えています。

メルシャンの長林道生社長
撮影=門間新弥
メルシャンの長林道生社長 - 撮影=門間新弥

——もっとワインを広めていくためには、やはり若い人たちに飲んでもらうことが大事になってくると思います。

現在、ワインを飲んでくださっているのは、男女問わず40代、50代がコアになっています。これを若い人たちにも広めようと、氷を入れるなど新しい飲み方も提案しています。簡単ではないけど、そこをやっていかないと、日本ワインも含めて、ワインの未来はないと思いますけどね。ただ、若い人はワインを飲む機会も少ないような気がします。

私がメルシャンに移るときに、大学生の娘にメルシャンの印象を聞いたら、ワインと結びつかないんですよね。ワインのトップメーカーでありながら、ワインを印象づけられていない。だから若い人にもワインがなじみがないのかもしれません。

その娘とも最近は一緒にワインを飲むようになりましたが、「おいしいね」って言ってますよ。飲む機会を広げれば、若い人もワインを受け入れてくれるし、もっと飲んでくれるんじゃないかと可能性は感じています。それを実現していくのが、私の役割でもあると再認識しているところです。

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長林 道生(ながばやし・みちお)
メルシャン社長
1964年生まれ、88年上智大学外国語学部卒業、キリンビール入社。2009年宮崎支社長、2015年執行役員などを経て、2019年より現職。

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(メルシャン社長 長林 道生 聞き手・構成=前屋 毅)

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