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子供の自殺最多9月1日とLINEの"因果関係"

プレジデントオンライン / 2019年8月30日 6時15分

通学適齢期において、9月1日の自殺者数が最も多い(自殺総合対策推進センター「昭和48年度から平成27年度における、通学適齢期の自殺者数に関する分析」より)

例年9月1日前後は中高生の自殺が最も多くなる。また近年、10代の自殺率は高まっている。教育アドバイザーの鳥居りんこ氏は「人間関係が狭くなっており、特にLINEをめぐるトラブルに注意が必要だ。大人にはささいなことに見えても、深刻な事態になることもある」という――。

■夏休みが終わり、2学期が始まった瞬間に命を絶つ子どもたち

まもなく学校関係者が恐れる9月1日がやってくる。

なぜ、恐れるのか。それは中高生の自殺率が最も高い時期が夏休み明け9月1日前後であるからだ。この分析結果は自殺総合対策推進センターが2018年8月に発表しているものだ。

また、自殺率でいえば、他の世代が減少しているにもかかわらず、10代の自殺率だけが近年増加しているという結果が出ており、その動機は「学校問題」が群を抜いて多いのだ(警察庁「平成30年中における自殺の状況」より )。

一体なにが原因なのだろうか。筆者は、教育アドバイザーとして小中高の学校現場を取材している。その経験からすると、原因のひとつは、「同一制服、同一クラス、一斉授業、一斉進学」というわが国の学校教育がもたらす“閉塞感”ではないだろうか。

「人生のストレスは“人間関係”にあり」といわれる。こと学校という閉鎖空間に閉じ込められている10代の中にはつらい思いを抱えている子どもたちがいる。

なぜ、トラブルになり、思い詰めて深刻な状態になってしまうのか。その原因はさまざまだが、10代の子たちの特性には、これが挙げられることを指摘しておきたい。

「友だちがすべて」

1日のほとんどを学校で過ごすことになる子どもたち。その人間関係は狭くなりがちで、場合によっては、自分の所属している「友達グループ」が世界のすべてになる。そこで仲間外れになってしまうと学校に行けなくなることも珍しくない。

それゆえ、彼らはこの狭いコミュニティの中で、仲間内からどう思われているか、どういう評価を受けているのか、自分がどんな位置に立つべきか——といったことを常に気にしているのだ。

■「俺なんか、クラスLINEに招待されたの、35番目っすよ」

都内のある中3男子は自虐気味にこう言った。

「俺なんか、クラスLINEに招待されたの、35番目っすよ。40人クラスで35番……。存在感、薄っ! ですよね」

順番など、どうでもいいではないか? と思うのは大人の解釈で、彼らにとっては“クラスLINEの順番”も大問題なのだ。

厄介なことに、この時期、彼らは「自分の立ち位置からしか物事を見られない」となりがちだ。それゆえ、被害妄想ともいえる心理状態に追い込まれやすい。

先日、筆者の元に届いた不登校の高1男子の相談は「不意に出た自分のくしゃみの飛沫のせいで、周りに嫌われた気がする」(気がするに強調の点々)というものだった。

彼以外は覚えていない、ごく普通の日常の“出来事”が、彼の中で“事件”に昇華されたケースである。彼が特別なわけではない。こういう「嫌われたに違いない」という自分勝手な思い込みで悩みを訴える中高生は本当に多いのだ。それほど心が繊細だということの裏返しだろう。

■24時間365日、LINEから逃れられない

さらに近年はSNSの発達によって、学校内だけではなく、自宅にまで容赦なく「(私たちと)つながれ指令」が発信され、24時間・365日、その狭い人間関係から逃れられないという実情がある。

そのため、子どもたちは一段と強固となった“同調圧力”の中で翻弄(ほんろう)され続けている。それが子どもたちの人間関係をより複雑なものとし、最悪の場合には自死を選ばせかねないのだ。

とりわけさまざまなトラブルの元凶となっている無料通話・メールアプリのLINEを例に、その問題点を探ってみたい。

総務省の調査によると10代のLINE利用率は86.3%(平成29年「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」より)。つまり中高生のほとんどが利用しているといえるだろう。

平成29年主なソーシャルメディア系サービス/アプリ等の利用率
主なソーシャルメディア系サービス/アプリ等の全年代・年代別利用率(平成29年「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書PDF)より

中高生に取材をしていて肌で感じるのは、明らかに「SNS疲れをしている」ということだ。

「スマホのない世界に行きたい」
「LINEなんて、なければいいのに……」

とつぶやく子が少なくないからだ。理由を聞くと「グループLINE=仲良しの証し」という方程式があるから、そこから外れることはできないという。そのため、そこからはじかれないように、彼らは細心の注意を払って生活している。

■なぜ、LINEのやりとりはトラブルになりやすいのか

彼らは、いわゆる既読無視や未読無視というマナー違反を極端に恐れており、いつ、どのようなタイミングで、場の“ノリ”にふさわしい言葉を選んで応答すべきかの「空気を読む」行動に疲れている。

とても便利なアプリであるはずなのに、一方で他人の時間を搾取し、返事を強要するツールとなり、弊害が大きくなっているのだ。

通常、「人間同士のコミュニケーション」は言葉以外の表情や雰囲気を同時に読み取りながら行っていくものである。しかし、LINEのようなチャットは、そうではない。気持ちの赴くままに、ログを読み返すこともなく、多くは即座に短文の言葉を打ち込み、やりとりしているだけだ。リアルに顔を合わせているわけではないので、そこには相手の状況や気持ちをうかがい知る術(すべ)がない。

そのため、ちょっとした行き違いで人間関係のトラブルになる。よくあるのがこういうケースだ。

A子:「明日カラオケ行かない?」
B子:「いいね~!」
C男:「俺も行く!」
A子:「何でくるの?」

■「それは関係ないしね」と打つところを「それは関係ない死ね」

写真=iStock.com/samxmeg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/samxmeg

主語・述語が抜けやすい短文ツールであるためにC男は交通手段を聞かれているとは取らずに「お前は来るな! 空気読め!」というふうに自分が「否定されている」と捉える危険性があるということだ。その関係性によっては、簡単に亀裂が入ってしまう。

「かわいくない」(語尾を上げる「↑」を付け忘れるケース)
「それは関係ない死ね」(「それは関係ないしね」と書くところ、誤字になったケース)

など、チャットという機能は誤解を生じやすい媒体でもあるのだ。

会社の会議などでは、テーマ・議題に沿って発言内容を整理し、発言者が偏らないよう、順調に進行するような役割をするファシリテーターがいるが、グループLINEの極めて狭い閉鎖空間にそんな存在などいない。

ほんのささいなことがきっかけで、簡単に異端者、あるいは敗者を排除する動きにつながっていく。もし、これに気付いた子がいたとしても、群れ(仲良しグループ)を守ろうとする同調圧力にあらがうのは至難の業になろう。

■グループLINEの中心人物が発言するまでは、みんな黙る

例えば、中学生女子10人のグループLINEがあったとしよう。その中のAが「山に行かない?」と書き込んだとしても、グループの中心人物Bが発言するまでは、みんなが黙るという現象はむしろ普通であるらしい。

Aにとっては、その間は「既読スルー」状態であるし、Bがひとたび「海」と言えば、様子見をしていた他8人は一気に「海」に流れ、Aの気持ちにモヤモヤだけが残るということになりやすいのだ。

また、最近の中高生の特性に、こういうことも感じてしまう。

「『傷つきたくない』という“過剰防衛反応”を持っている」

例を挙げるならば、こういうことだ。

花火大会に行こうと約束していた仲良し4人組がいた。ところが、A子だけが家の用事で行けなくなってしまう。他の3人は行けないA子に気を遣って3人のグループLINEを作成し、待ち合わせ場所などを決めていた。A子は偶然、自分を除いた3人だけのLINEが出来上がっていることを知ってしまう。A子はその時どうするか……。

多くの女子中学生に取材したところ、その答えの多くはこうだった。

<理由も告げずに自ら、そのグループをそっと離れる>

傷付けられるくらいなら、自分から去っていく。去られた側も特に理由は聞かず「ウチらが嫌なのね」と捉えて、スルー、あるいはA子を無視するのだそうだ。

これらは前述した思春期の特徴の上にSNSの弊害が上乗せされた出来事なのだと思われる。

写真=iStock.com/xavierarnau
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xavierarnau

■親がわが子のチャットトラブル防止にできること

では、私たち親はわが子にどのような点を注意すべきと教えればよいのだろうか。

「KDDIスマホ・ケータイ安全教室」の講師である田口実氏は、10代にチャットトラブル対策の講演をしている。その骨子は次のようなものだ。

<チャットのトラブル対策>
送信前に文章確認……誤解を生む表現になっていないかを確認して送信する。
想像力を働かせる……自分の都合で判断するのではなく、相手の状況をくみ取る気持ちを持つ。
会って直接話をする……ネット上で友達との関係が気まずくなった時は、相手と会って直接話をする。
<その他有効な方法>
チャットのグループに入る時、「親が厳しく、21時以降スマホは使用できない」と伝えたり、あらかじめグループ内でルールを作ったりする。

■「使わない」ということは不可能ゆえ親がネットリテラシーを学ぶべし

個々の状況で違ってくるかとは思うが、筆者はこうした「基本事項」に加え、親こそが人生の先輩として、以下の点もわが子に伝えたほうがよいのではないかと思っている。

「ツール」でしかないものに人生を奪わせない:1回しかない人生、スマホやアプリに振り回されて、生きにくくなるのはもったいない。
友達はいてもよいが、いなくてもよい:友情を構築できるのはとても素晴らしいことだけど、あなたを必要以上に傷付けることで成り立つ友情ならいらない。
環境は自分で選ぼう:朱にまじわれば赤くなる。あなたに居心地のよい環境は、実は他にたくさんあることを忘れないで。
大事なことは、会ってこそ:大切な人には誤解されたくないから、直接、目を見て、気持ちを伝えよう。

親世代の青春時代にはなかったツールに、親たちが戸惑うのは当然だ。だが、「使わない」ということが事実上不可能である以上、親こそがネットリテラシーを学び、わが子に辛抱強くその注意点を伝えるしかないだろう。

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鳥居 りんこ(とりい・りんこ)
エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー
執筆、講演活動を軸に悩める母たちを応援している。著作としては「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)、「ノープロブレム 答えのない子育て」(学研)、「主婦が仕事を探すということ」(東洋経済新報社 共著)などがある。最新刊は「鳥居りんこの親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ」(ダイヤモンド社)。ブログは「湘南オバちゃんクラブ」「Facebook 鳥居りんこ」。

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(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ)

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