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出世の早い人ほど社外では使えない人材なワケ

プレジデントオンライン / 2019年9月5日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/z_wei

現在の勤め先での出世と、どんな企業でも通用するスキル、優先して取り組むべきなのはどちらだろうか、BBT大学副学長の宇田左近氏は「これからは人材の流動化が進み、キャリア戦争時代に突入する。会社で重宝されるような『社内価値』ばかり重視してきた人は、負け組になる」という——。

※本稿は、宇田左近著『インディペンデント・シンキング』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■今いる会社はいつまであなたを必要とするか

1つの組織に長くいる人ほど、「自分の価値」というものをなかなか考えないものだ。「自分の価値」とはなんだろうか? ここでは便宜的に、社内だけで通用する価値を「社内価値」、社外でも通用する価値を「共通価値」と呼ぶことにする。

「社内価値+共通価値>企業の期待価値」は、文字通り共通価値と社内価値を加えると、企業の期待する価値より大きいことを意味する。本人に対するコストに見合った以上のアウトプットがなされるという評価だ。このような場合、企業の側のスタンスは、あなたに「いてほしい」となる。逆に、もしも「社内価値+共通価値<企業の期待価値」の場合は、あなたは「いてほしくない」のゾーンに陥ることになる。

ここで勘違いが生じやすい。前者の場合、共通価値が小さくても社内価値が大きいと、自分は「社内では役に立つ」状態であることから、このアンバランスに気づかない。時間が経ってから社内の価値が落ちた場合に、外では役に立たない現実の前に愕然(がくぜん)とする。

社内でのみ通用する価値というのは、社内では代替がきく。忖度(そんたく)の得意な人、空気を読むのが得意な人は、いくらでも取り換えがきく。このような人は、現在は「いてほしい」ゾーンにいても、一寸先は闇ということを考えておく必要がある。このことについてもう少し詳しく見ていこう。

■キャリアにおける2つの価値——社内価値と共通価値

一般的な組織の中での昇進・昇格を考える時、必要になるのはその組織固有に求められる知識やスキル、あるいは判断力、人間関係などに集約される(社内価値)。各企業は社内での異動、あるいは研修などで徐々にキャリアをたどらせることで、企業が最も必要とする人材を育成する仕組みを持っている。それを無難にこなすことで社内における価値は高まる。

ある程度目端の利く社員の場合は、そこに忖度の余地も広がる。忖度とは、組織の中での昇進を求める際の言わば「必修科目」とも言えるものだ。「何が正しいかではなく、誰が正しいか」ということを重視する組織であれば、忖度はさらに横行する。

やがて、組織内を跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する忖度力に異常に長けた輩(やから)を増産することになる。付和雷同的な風土も拡散する。すなわち何かを決める際には「みんながあの人の言うことに従っているのだから正しいはず」となり、自分が上司の意見に懐疑的だったとしても決して意見は言わなくなる。このような結果を招く可能性のある価値が、「社内価値」だ。

一方、その会社を離れても通用する価値を「共通価値」と称する。これはその人固有のスキル、知見、あるいは行動規範、人間性、教養だったりする。この二つの価値が時間軸でどうなっていくのかを概念的に図式化して考えてみよう。

■自分で答えを見出す力は入社時から減少

社内価値依存の負けパターン

上の図表はあくまで概念図だ。大学生活が刺激に満ちたものであった場合、おそらく25歳前後までは、本人の社外に通用する共通価値は増大するが、企業に入ると、そこから社内でのみ役に立つ研修や異動経験を積むことで社内価値が急激に増加する。

企業が社内研修を外部化することで他流試合の機会を増やすというのは十分理解できるが、結局は、その実践が社内での仕事だけの場合、上司に認められようとする努力が優先されることとなる。こうして身につくのは社内価値、即(すなわ)ち忖度力であり、空気を読む能力であり、そして集団思考力、付和雷同など、何が正しいかではなく、誰が正しいかの推定力というようなものだ。

このような組織では社内のポジションが上がるにつれ、その人の評判やブランドによってさらに社内価値は増大する。しかし、年齢が上がり、特に定年近くになったとたんに、あるいは社内の力学の変化、たとえば登用してくれていた上司の退職や失脚等により、そのポジションも付加価値の低い仕事になり、あわせて社内価値も激減する。あっという間に「いてほしくない」ゾーンに移行する。

一方、社外でも役に立つ能力、何が正しいかを考え自分で答えを見出す力、多様性を最大限活用して不確実性の中でも正しい判断のできる力、あるいは突出した知識と知見といったものは、入社時から減少を始め、社内価値がピークの40〜50代では極めて小さな割合となる。この状態でさて退職となったとたんに悲劇に直面する。じつは自分は何もできないということを知ることになるのだ。

このような「社内価値拡大志向」は、これから必要なインディペンデント・シンキング(組織にいても独立しても自分の価値を高め続ける考え方)とは相容れない考えであり、厳しい言い方をすれば、キャリア戦争の負け組という結果が待っている。

■共通価値を拡大するには

社内だけで通用する「社内価値」ではなく、どこでも通用する価値「共通価値」を拡大していくとはどういうことだろうか? まずは早い段階で外の海を見るという努力が必要だ。内向きに徹していては、共通価値が大事であるということには決して気づかない。20代から常に共通価値の拡大に努めていくことが必要だ。50歳を超えて定年予備軍となってからではやや遅いが、それでもその段階で気づけばまだ間に合う可能性もある。

再び図表1を見てほしい。今まで社内で培ってきた人脈や評判も、実はこの定年予備軍化した段階で急激に色あせることになる。学び続けながら共通価値を向上する努力を続けていかねばならない。止まってしまったら、共通価値は急激に低下する。なぜなら、そのような「外部で役に立つ共通価値」は、その根拠となる知見、能力も変化を続けるため、常にアップデートを続けなければならないからだ。外部でも役に立つ知見は、それだけすぐに古くなる。ここでよい、と思ったとたんに、すでに過去の知識になってしまう。ここがとても怖いところだろう。

共通価値の維持向上には、継続的に学び続け、刺激的な環境の中に身を置き続けることが必要なのだ。具体的にはどうするのか? 図表2のように、年齢を問わず、常に新たな知的刺激の中に身を置くことが大事だ。そして生涯にわたって継続して共通価値の向上に努めること。そのような環境がもし社内になければ、転出するか、あるいは副業として社外に求めてもよい。

■社内で難しければ、二足の草鞋を考える

共通価値拡大の勝ちパターン

社内でも企業内起業の機会を得たり、あるいは海外の支店などで経営の力を試してみるということもあるかもしれない。あるいは不採算事業の立て直しなど、常に新たな領域に挑戦していくことではないか。

副業が推奨され始めた昨今、二足の草鞋(わらじ)もよいと思う。新たな領域で新たな問題に直面したとき、自分の力で考える訓練も大切となる。まずは小さくても何か新たなことを創出してみたり、今まで問題だとされながらも放置されてきたことを、思いきって解決してみるといったことも役に立つかもしれない。

知的ネットワークの拡大も重要だが、単にお友達というのでは意味はない。同じ問題をともに解決する中でネットワークができていく。それは社内外の特定の目的、問題解決のために組成されたプロジェクトチーム等での共同作業かもしれないし、あるいは起業を通じての人とのつながりかもしれない。修羅場の中の厳しい環境で生まれたネットワークこそ強い。

■現状維持は大きなリスク

刺激の中に身を置くことの重要性を理解するために、もしも現状維持の場合にどうなるのかを考えてみよう。所属組織が同質性の高い人たちの集団である場合には、そもそも成長の機会は限られると見たほうがよい。このような組織では、より経験の長い人の言うことを聞くのが当たり前、仕事が同質、繰り返しなら経験の長い人、シニアのほうが優れた判断ができるというマインドが浸透している。

当然ながら、そこでは「決める人」と「従う人」が決まっている。答えが定まっているので、それを探すというメンタリティが浸透している。誰かが解決策を提示してくれるはずだというメンタリティだ。多くの場合それが監督官庁への依存心だったり、発注者の意向の探り合い、あるいは上司の機嫌うかがいにつながる。

宇田左近著『インディペンデント・シンキング』(KADOKAWA)

そのような組織では年齢、経験以外にも目に見えない序列がある。出身校だったり、親の職業だったり、性別年齢すべて序列化の対象だ。ひとたび序列が明らかになれば、序列の低い側は決して反論などしない。「おっしゃることはもっともです」が頻発されることになる。しかしながらこれは、答えの決まっていない、先が不確実な世の中では機能しない。

このような環境では人は社外で通用する共通価値を増大することはできない。空気を読む力、阿吽(あうん)の呼吸、忖度力、集団思考力などが研ぎ澄まされていくことになる。競争相手は同期だ。こうした組織に所属している場合、皆さんが「当面現状維持で行こう」などと思ったら命取り、社外で活躍できる機会を永久に失うことになる。

このキャリア戦争時代、前向きにとらえれば自分次第でいかようにも人生を切り拓ける時代に、今一度、自分と組織の関係や距離感を見つめ直してみてはいかがだろう。

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宇田 左近(うだ・さこん)
ビジネス・ブレークスルー大学 副学長 経営学部長 教授
株式会社荏原製作所独立社外取締役、取締役会議長、公益財団法人日米医学医療交流財団専務理事。東京大学工学部、同修士課程修了。シカゴ大学経営大学院修了。日本鋼管(現JFE)、マッキンゼー・アンド・カンパニー、日本郵政株式会社専務執行役、東京スター銀行COO、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)調査統括・原子力損害賠償・廃炉等支援機構参与、東京電力調達委員会委員長等を経て現職。著書に、『なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか』(PHP研究所)、『プロフェッショナル シンキング』(共著、東洋経済新報社)がある。

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(ビジネス・ブレークスルー大学 副学長 経営学部長 教授 宇田 左近)

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