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アラフォー女性が「私たちだけ辛酸」と話すワケ

プレジデントオンライン / 2019年9月10日 6時15分

かつての「就職氷河期世代」は、いま40歳前後の「アラフォー」となっている。就職活動に失敗し、やむなく一般職や非正規雇用に就き、その後も正社員になれない。そんな女性は少なくない。日本総研のリサーチャーが、彼女たちの厳しい現状をリポートする——。

■アラフォーとなった就職氷河期世代の女性の切ない胸の内

「就職氷河期世代」と呼ばれるのは、1993年から2004年ごろに卒業を迎えた人々です。バブル経済が崩壊した後、新卒の採用数を減らした企業が増え、多くの学生が就職活動で厳しい時代を過ごしました。現在、彼らが生産年齢人口(15歳以上65歳未満)に占める割合は、22.4%(*1)にのぼります。

(*1)平成31年第5回経済財政諮問会議 資料2-2 就職氷河期世代の人生再設計に向けて(参考資料・有識者議員提出資料)

就職不遇の時代に長期の景気低迷が重なり、非正規雇用に就かざるを得なかった人が多く、不安定な雇用や低収入などが理由で結婚や子どもを持つ機会を逸してしまった人も少なくありません。

本稿では、東京圏で暮らす就職氷河期世代の女性に着目し、政府や日本総合研究所が行った調査結果および就職氷河期世代の女性(新卒時に正規雇用で就職をした経験のある東京圏に住む四大卒の女性)へのインタビューに基づき、彼女らの現状と課題を述べます。

■1:新卒での就職活動「希望した就職先に就職できなかった」

日本総合研究所では、2015年3月に東京圏で暮らす25〜44歳の女性、約3000人(有効回答数1828人)を対象に調査を行い、就職活動について尋ねています。

その中で1993年から2004年に卒業をした女性(就職氷河期世代)と、それ以外の女性に分けて、就職活動の違いを見ると以下のような傾向が見て取れます。

「希望した就職先に就職できなかった」女性(※)は、就職氷河期世代の女性で33.8%、それ以外の女性で28.6%でした。

※「全く希望していない就職先に就職する結果となった」+「どちらかというと希望してない就職先に就職する結果となった」

実際にインタビューすると下記のような声があり、当時の就職活動の厳しさが感じられました。

「採用人数が少なかったため、とにかく大変で、二度と就職活動をしたくないと思った」(40代前半)
「今思えば、採用する気のない企業に対する無駄な就職活動にいくら(写真代や交通費など)つぎ込んだのだろうかと疑問に思います」(40代前半・事務管理)
「友人や自分も含めて、就職活動は大変だった。落とされるのが普通だったので、高望みはせずに、正社員として採用してもらえた会社に入社をしました」(40代前半・事務)

写真=iStock.com/Favor_of_God
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Favor_of_God

就職した職種についても比較してみました。「一般職」として就職をした割合は、就職氷河期世代の女性が31.5%である一方、それ以外の女性は同24.9%とやはり大きな違いが出ています。また、就職氷河期世代以外の女性では、「総合職」や「専門職」「準総合職」で就職した割合がやや多くなっています。企業側が女性の活躍推進に向けて職種を多様化させた時期と重なったことが、こうした違い理由のひとつと考えられます。

■やむなく一般職に就職したという学生が多い就職氷河期世代

この点についてもインタビューで聞きました。

「氷河期時代は、女性だけではなく、男性も内定を取ろうと必死でした。採用人数が少なく時間が限られているなか、大手企業で内定を取ることを優先し、大手企業の一般職に就職しました」(40代前半・専業主婦)
「当時志望していた業界の総合職は、もともと男性社会だった上に就職氷河期だったので、やむなく志望していなかった業界で一般職に入社しました。入社2年後には、職種の区分がない会社に転職しました。当初、自分が望んでいた業界で働くことは諦めたけれど、目の前の仕事にとにかくまじめに取り組み、今は役職者として働いています」(40代前半・事務管理)

正規雇用の仕事に就くため、「あえて(もしくは、しかたなく)一般職に就職した」という就職氷河期の女性は一定割合存在していたと考えられます。

新卒の就職活動は、将来の夢や希望をかなえるための第一歩と言えますが、就職氷河期世代の女性にとって正規雇用の職に就くことが最優先となり、夢や希望を描く余裕のあった人は少なかったのかもしれません。

■2:新卒で入社後も「働き続けることの苦悩と葛藤」

就職氷河期世代の女性の苦労は就職時だけではありません。

厚生労働省によると、女性の育児休業取得率は、2018(平成30)年度の82.2%に対して1996(平成8)年は49.1%となっています。就職氷河期時代に正規雇用の職に就いても、仕事と家庭の両立を支援する制度が十分に整っている会社は少なかったからと考えられます。

インタビューでは、多くの就職氷河期世代の女性がかつて直面した、働き続けることについての苦悩と葛藤を垣間見ることができました。

「今は女性の活躍を後押しする流れで働き方も変わってきました。しかし、当時の職場環境では、気力、体力、精神力がないと、結婚、出産後に仕事を続けるのは難しかったです。誰に言われたのかわかりませんが、今と違って、自分自身、結婚したら専業主婦になり、子どもが3歳になるまでは子育てを専念しなければならないという、固定的価値観に縛られていました」(40代前半・事務)
「苦労して大手企業に入社しましたが、年配の男性が多い部署にいたので、(出産ではなく)結婚をしたら当然退職する、という雰囲気があり、自分も結婚後に退職をしました」(40代前半・専業主婦)

写真=iStock.com/tuaindeed
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tuaindeed

■今まで同じ会社で働き続けられた理由「一言で表すと、忍耐」

「当時としては珍しく、女性の管理職も活躍しており、結婚・出産後も働き続けることができる職場でした。ただし、長時間労働や高い営業ノルマを求められるなど、昔はハードな職場であったため、男女共に離職率は高かったです」(40代前半・営業)
「数年前から女性活躍プロジェクトが発足し、役職者の女性が増えてきました。しかし、入社時は、本当に古い体質で……。今まで同じ会社で働き続けられた理由は、一言で表すと『忍耐』です」(40代前半・管理)

就職氷河期に就職をできたとしても、結婚・出産適齢期に仕事と家庭の両立を支援する制度が十分に整備されておらず、就業を継続できなかった女性や、長い間ハードワークに耐えてきた女性の苦労がうかがえます。20代、30代前半の頃に勤めていた企業に両立のための制度が整備されていれば、現在の生活も大きく変わっていたのではないかと感じる女性も少なくありません。

厚労省(学歴別就職後3年以内の離職率)によると、1994(平成6)年から離職率が徐々に上がり、就職氷河期世代では就職3年以内の離職率が相対的にやや高い傾向が見られます。

■「入社2年目に基本給が一律で下げられた。耐え続けた」

どのような背景があったのか。当事者たちはこう話します。

「最初に就職した会社を退職し、やりがいを重視して転職しました。その仕事は、正社員ではなかったので、低収入のため生活をしていくのが厳しく、結局、正社員に戻るための再就職活動をしました。でも正社員の仕事が見つからず、1回レールを外れてしまうと、戻るのが難しいことに気づきました」(40代前半・事務)
「当時は『自分探し』という言葉が流行っていました。好きなことをやりたい、会社の歯車になるのはよくない、と思って一生懸命考えながら、生きてきました。その結果、やりがいを求めて正社員を離職した後には非正規職しかなく、その後の再就職は大変だった」(40代前半・事務)
「今では、気軽にエージェントを使って転職活動する人が増えていますが、当時は転職活動が容易ではありませんでした」(40代前半・事務管理)
「厳しい時代だったので、2年目に基本給が一律で下げられてしまいました。会社側から十分な説明がなかったことに対して本当に怒りを感じ辞めたいと思いました。でも、氷河期が長く続いていて、転職が難しいと感じ、耐え続けました」(40代前半・管理)

今のように転職活動のためのサービスやノウハウに関する情報が少ない時代、転職しようと思っても正規での中途入社は難しく、就業継続をしても基本給の引き下げなどの負担を強いられることが少なくなかったようです。運よく、正規雇用で再就職ができた女性でも、その後多くの苦労があったことが感じられます。

■3:人生の折り返しの年齢「キャリアの再構築をどうするか」

就職氷河期世代の女性たちは、すでに年齢的に30代後半から40代前半を迎えようとしています。人生100年時代と考えれば、いわゆる人生の折り返し(あるいは少し手前)の年齢とも言えるかもしれません。

前述した通り、就職氷河期世代の女性たちは、就職活動という社会人のスタート時点だけでなく、新卒として入社した後も、さまざまな苦労に直面してきました。他の世代に比べて思い通りのキャリアを描けなかったことから、妥協や諦めの気持ちを持っている女性も少なくないと想像します。

写真=iStock.com/bedya
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bedya

アメリカの組織心理学者であるエドガー・H・シャイン博士は、キャリアを形成する上で、個人が外部環境の変化に関係なく、最も大切にしている動機・能力・価値観や欲求などの自己概念の一要素を「キャリア・アンカー」と表現しています。

アンカー(Anchor)とは、「船のいかり」のことで、ここでは、キャリアを形成するためのよりどころを示しています。シャイン博士の著書『キャリア・アンカー 自分のほんとうの価値を発見しよう』(白桃書房)によれば、キャリアをより納得できるものにしていくためには、まずは自己を分析した上で将来の計画を立て、自分でキャリアを積極的に管理することが重要であることなどが指摘されています。

■収入を得るためだけに仕事するには、職業人生は長すぎる

また、「この1年間で何ができたか」「挑戦して楽しかったことは何か」「これから新たにやりたいことは何か」などを毎年記録し、振り返るだけでもキャリアを見直す機会につながります。

「私なんて何にもない」「いつも同じことをやってきただけ」などと思う方もいるかもしれませんが、どのような方でも、仕事でうれしかったこと、楽しかったことが必ずあるはずです。

仕事をしていて、どんな状況のときに、あるいは誰からどんな言葉をかけられたときに、うれしいと感じたのか、楽しいと感じたのか、そこには、自分でも気付いていない、自分の得意なことが隠れていることが多いのです。

たとえ小さなことでも、自分の好きなことや、得意なことを知ろうとする努力は、キャリアを考える上での大きな一歩と言えます。単に収入を得るためや義務感だけで仕事をしていくには、私たちがこれから歩む職業人生は長すぎます。

写真=iStock.com/Masao
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Masao

■定期的に振り返り、自分の軸を持つことが重要

就業環境は常に変化しています。昨今は売り手市場ですが、就職氷河期以降も長期の景気低迷が続くなど、必ずしも就職・転職がしやすかったとは言えないでしょう。女性が安定したキャリアを築く上でもさまざまな課題が残っています。

ただ、だからこそ、勤め先の倒産や業績の悪化など、何か大きな変化に直面した時になって突然自分のキャリアを考え直すのではなく、定期的に自己を振り返り、確固たる自分の軸を持つことが変化の多い社会を生き抜くことにつながるのではないでしょうか。

前述した通り、就職氷河期世代の女性たちは、安定した雇用やワークライフバランスにはほど遠く、多くの苦労や迷いに直面してきました。しかし、それらの経験を糧にすることができれば、年齢を経ても、多くの女性が自らの望むキャリアを切り開いていけると信じています。

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榎本 久代(えのもと・ひさよ)
日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー
人事・組織コンサルティング業務に従事。国家資格キャリアコンサルタント保有。近年、女性活躍推進をテーマに管理職及び女性社員の意識改革研修等を担当。

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小島 明子(こじま・あきこ)
日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト
女性の活躍推進に関する調査研究及び環境・社会・ガバナンス(ESG)の観点からの企業評価業務に従事。主な著書に「女性発の働き方改革で男性も変わる、企業も変わる」(経営書院)

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(日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 マネジャー 榎本 久代、日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子)

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