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新婚夫婦を襲った「一家心中物件」呪いの始まり

プレジデントオンライン / 2019年9月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/beest

事故物件で起こる怪現象を、実際に住みながらレポートしているライターの建部博氏は妻の妊娠をきっかけに、より広い部屋を探し始める。彼が次に選んだ新居は、一家4人が心中した4DKのマンションだった――。(第3回、全4回)

※本稿は、建部博『一家心中があった春日部の4DKに家族全員で暮らす』(鉄人社)の一部を再編集したものです。

■親子3人で暮らす新居が必要だが……

かつて入居していた4人が立て続けにうなされ、退去した豊島マンションでの生活は奇妙な出来事の連続だったが、さいわい嫁の妊娠というおめでたいニュースにも恵まれた。お腹にいる子はただいま7カ月で、性別は女の子と判明した。出産予定日は2010年10月中旬だ。

さすがに色々と考えさせられる。現在は義母の家に居候しながらときどき豊島マンションで暮らす日々だが、子供ができればこの生活ではいけないだろう。子供の顔は毎日見たいし、かといって義母に孫の世話をまかせるのも気が引ける。

やはり親子3人で暮らす新居が必要だ。豊島マンションなんぞにかかずりあってる場合じゃない。個人的な事情で申し訳ないがこれにて連載も終了か…。と、いったんは考えたのだが、はたしてそんなことでいいのかとの疑問も沸いてきた。子供ができたぐらいで仕事を放棄するのはいかがなものか。しばし悩んだ末、オレは結論を出した。

─次も心霊マンションを借りればいいのだ─

単純なことである。なにも幽霊物件は豊島マンションだけじゃない。3人で住める広さがあって、それでいていわく付きの部屋を借りれば、連載は継続できるじゃないか(タイトルは変わるだろうが)。しかもこれまでどおり、会社から家賃補助も出るだろうし。

■夫婦と小学生の子ども2人が一家心中した

我ながら名案だ。ただし嫁は納得しないだろうから、真意は伏せておかねば。オレはごく自然に新居探しを提案し、「お前妊娠してるから、オレが探すよ」と、単独で不動産屋巡りを開始した。希望地は嫁の実家、埼玉県春日部市近辺だ。

家族3人で住むとなると最低でも2LDKは欲しい。家賃は半分補助してもらえるので10万円ぐらいまでか。以上の条件を満たす、春日部近辺のワケ有り物件は3つに絞られた。

①住人が駐車場で殺害された3LDK
②20代男性会社員が自殺した2LDK
③一家心中があった4DK

当連載の主旨から考えると、①の物件は少し違うように思う。亡くなった方には失礼だが、突発的な殺人なので部屋自体に対する“怨念”みたいなものはなさそうだからだ。

②と③は「その部屋で人間が無念を残して死んだ」点で共通している。ならば広い方の③にしたいところだ。③の物件に関して、不動産屋はこう説明した。

「夫婦と小学生の子供が2人、一家心中したんですよ。理由はわからないんですがね」
「……。それはどのくらい前の話なんですか?」
「1年半くらいですかね。それからは誰も住んでません」

■オートロック、日当たりよし、不気味な感じもない

かなりおっかない。4人分の怨念が詰まっているなんて、豊島マンションどころの騒ぎではないんじゃないか。ただ、家賃は5万2千円とかなり安い。半分出してもらえば2万6千円で4DKに住めることになる。ちなみに他の同タイプの部屋は7万5千円だそうだ。

一家心中。でも4DKで2万6千円。オレの腹は決まった。

翌週、一家心中の件は内緒にして、嫁の真由美を連れて内見に向かった。春日部駅から徒歩7分、現れたのはキレイで巨大なマンションだ。マンション名、「春日部コート(仮名)」、ぜんぶでおよそ80世帯の大規模マンションだ。

「スゴーイ! いい感じだね」

写真提供=鉄人社
一家4人が心中した春日部コート(仮称)の間取り図 - 写真提供=鉄人社

真由美が耳打ちをしてくる。確かに外観はキレイだ。オートロックなので防犯も安心だろう。目当ての508号室に入ると、中はキレイに片付いており、すぐにでも住める状態になっていた。

「ね、ここに決めよ? 寝室はここで、子供部屋はあっちにして…」

日当たりもいいし、不気味な感じはどこにもない。よし、ここに決めよう。

こうしてオレは1年3カ月住んだ豊島マンションを出て、一家心中があったさらにヤバそうな事故物件に住むことにしたのである。

■「足音がひびいて困ります」と苦情の紙キレ

入居してしばらくがたった2011年2月の頭、会社に向かおうとマンションのドアを開けた瞬間、なにかがハラリと落ちた。ん? 紙キレ?

“いつも足音がひびいて困ります。少し、少し気付かって歩いて下さい”

はぁ? なんだこりゃ。まるでウチがドタバタ歩いてるから迷惑してるってな調子で書いてあるじゃん。これを入れたのは同じマンションの人間なんだろうけど、部屋番号が書いていない。いったいどこのどいつだ?

写真提供=鉄人社
階下の住人が苦情を書いた紙。マンションのドアに挟まれていた - 写真提供=鉄人社

嫁の真由美が言う。「下の階の人じゃない? ちょっと前に引っ越してきた」

そうか、たしか先週、引っ越し業者が荷物を運んでたな。タイミングからしてそいつに違いない。まったく挨拶もなかったくせにいきなり苦情かよ。

「昨日は特別うるさくしてないよな?」「うん、いつもどおりだよ」

オレだって深夜0時ごろに帰ってきてすぐに寝ただけだ。こんな紙キレを挟まれる筋合いはない。文句でも言ってやろう。階段をおりたオレは、問題の部屋のチャイムを鳴らした。すぐに「は~い」とおばちゃんの声が聞こえてドアが開く。

■まだ立てないのに「夜中にお子さんが走ってるでしょ?」

「508号室のタテベです。こんなモノが挟まってたんだけど、お宅ですか?」
「ああ、そう、そうなんですよ」
「別にうるさくしたおぼえはないんですけどね」
「うーん。でもときどきお子さんが走り回ってるでしょ?」
「は?」
「だから夜中とか、お子さんが走ってるでしょ? それが迷惑なんですよ」

…なに言ってんの? ウチの子供はまだ4カ月だから走り回ったりできないんですけど。そう説明すると、おばちゃんは大げさに驚いてみせた。

「ええ?? だって小走りみたいにドンドンドンって…」
「いつですか? 昨日の夜中ですか?」
「ええ、昨日もそうよ。お昼にも聞こえるし」

まったく、どんだけ神経過敏なおばちゃんなんだ。ウチは普通に歩いてるだけだっての。

とりあえず注意しますと伝えて退散したが、どうにも納得がいかない。もしかして犬のレオか? でもあんなに小さな犬が走ったところで下まで響くわけがないよな。

■外食で一家不在にしていたのにまたもや……

数日後、家族全員で「くら寿司」に食いに出かけて戻ってくると、またもやドアに紙が挟まれていた。この前、突き返した紙キレじゃないか。アイツ、やっぱイカれてんのか? 下へ降り、おばちゃんの部屋のチャイムを押す。

「あの、タテベですけど」
「はいはい、タテベさんね。本当にやめてくださいよ。親戚のお子さんでも来てるんですか?」
「来てませんよ。うるさかったのはいつのことですか?」
「さっきですよ、ちょっと前。お願いだから少し注意してくださいよ」

さっきだって? そんなハズないだろ。たった今まで、みんなでくら寿司で食ってたんだから。

「あのですね、ウチらいま帰ってきたとこなの。いい加減なことばっかり言わないでくれますか」

ついつい語気を荒げてしまったことでババアは黙ってしまった。やべ、言い過ぎたか。

「じゃあ誰がドンドン走りまわってるのよ! 真上なんだからアナタたちしかいないでしょ!」

ええ?、逆ギレ? もう頭にきた。

「じゃあ中に入れてくださいよ。どこから音が聞こえるのか知りたいんで」
「ええ、どうぞ」

ババアは部屋の奥に向かい、和室の天井を指差した。この上は、よく遊びにやってくる義母昌子の寝起きしてる部屋だ。

■音の出どころは、心中現場だった

「このへんよ」
「今は静かですよね」

オレは携帯を取り出して、真由美に電話した。

建部博『一家心中があった春日部の4DKに家族全員で暮らす』(鉄人社)

「いま下の部屋にいるんだけど、少し音を立てて歩いてみてよ」
「どのへん?」
「いちばん奥だな。お義母さんの部屋」
「え? わかった」

音など聞こえてこない。

「真由美、ちょっと走ってみて」

直後、天井からほんのかすかにトントンと音がした。耳を澄ませないと聞こえないほどだ。

「こんな音ですか?」
「違うわよ、もっとドンドンって」
「真由美、ジャンプしてくれ、何回も」

それでもまだトントンとしか鳴らない。わかったか、ババア、あんたの耳がおかしいんだよ!

しかしババアは聞く耳をもたない。

「いい加減にしないと不動産屋さんに言って注意してもらいますから」

腑におちないまま508号室に戻ったそのとき、初めてオレは思い出した。そうだ、あの天井の真上は心中部屋だった。

ここ最近、家族のしょーもない不幸ばかりだったのに、あのババアが越してきたせいで、また摩訶不思議なオカルトがぶりかえしてしまった。ここで死んだ家族たちは、階下に何をアピールしているんだ…。(続く)

写真提供=鉄人社
階下の住人の部屋。真上の部屋は一家が心中した現場に当たる - 写真提供=鉄人社

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建部 博(たてべ・ひろし)
編集者/ライター
1984年東京都生まれ。『裏モノJAPAN』元編集部員。広告代理店勤務、フリーライターを経て、現職は『月刊MONOQLO』(晋遊舎)デスク。うらぶれたスポットの取材をライフワークとし成人映画館、ストリップ劇場などの「超個人的潜入取材」を続けている。

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(編集者/ライター 建部 博)

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