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みんなが忘れている「学校の宿題」の本当の目的

プレジデントオンライン / 2019年9月18日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DNY59

中学棋士だった藤井聡太七段は、かつて「授業をきちんと聞いているのに、なぜ宿題をやる必要があるのですか?」と発言した。麹町中学校の工藤勇一校長は「宿題の目的は『こなすこと』ではない。わからないものを理解するのが本当の目的だ」という――

※本稿は、工藤勇一『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■藤井七段「なぜ宿題をやる必要があるのですか」

「学び」とは、わからなかったことがわかるようになったとき、できなかったことができるようになったときにはじめて成立するものです。その点、すでにわかっていることを宿題として課しても、子どもがそこから学べることは限定的なものになってしまいます。

すでに中学棋士だった藤井聡太七段が、教員にこう聞いたことが話題になりました。

「授業をきちんと聞いているのに、なぜ宿題をやる必要があるのですか?」

その後、担任が宿題の意義を説明して、納得した後は取り組んだそうですが、将棋の世界ですでに自律した考えを持っていることが、こうしたやり取りからもうかがえます。24時間という限られた時間の中で、少しでも将棋の時間をつくりたい。そう思っている彼にとって、将棋の時間を奪う無駄な宿題は減らしたいのでしょう。彼の心の声が聞こえてきそうです。

もし先生が子どもに宿題を課すのであれば、着目すべきは「学び」の瞬間を子どもが体感できるものであるかどうか。そうしないと子どもの貴重な時間を無駄に奪うだけでなく、勉強嫌いの子どもを増やす要因になる危険もあります。

■宿題の目的は「こなすこと」ではない

主体的に勉強に取り組むためには、次のような条件をつけるといいと思います。

1 わかっていることはやらなくていい
2 わからない箇所があったら、ひとつでも2つでもいいのでわかるようにする

最初の条件はすでに書いた通り、わかっていることに時間を割くのは時間の無駄だからです。ポイントは2つ目です。一律に出される宿題では子どもにとって「宿題をこなすこと」が目的になってしまいます。すると、自分が解ける問題ばかりを解いて宿題を提出さえすれば、「よく頑張ったね」と親や先生から褒められ本人も満足してしまう。でも子どもにとってわからない問題はわからないまま。これでは学びになりません。

一方で、「わからないものをわかるようにしてね」と言われたら、宿題(自主学習)の目的は「わからないものをわかるようにする」、この一点にフォーカスされます。

すると子どもながらに「どれがわからないかな?」「どうやったらわかるようになるかな?」といろいろ考え始めます。

■学習スタイルは「課題解決スタイル」になる

親や兄弟に質問する子もいれば、放課後に友だちや先生に聞こうとする子もいるでしょう。図書館で本を借りたり、YouTubeで調べたり、Yahoo!知恵袋を参照する子もいるかもしれません。答えにたどり着くための道程はひとつではありません。その過程を考えるほうが大切です。

「いろいろな方法がありそうだけど、どれがベストなのか?」

と、子ども自身に考えさせ、実際に試行錯誤してもらうのです。

こうした体験を続けていると、子どもの中で「わからないものをわかるようにするには何らかのアクションが必要である」と意識づけされていきます。そして、どんなアクションが自分に合っているかも経験でわかるようになってきます。こうして、自分の学習スタイルが確立されます。それはまさに大人になったときに必須となる課題解決のスタイルそのもの。子どもの将来の生き方・働き方に直結していく話なのです。

■宿題が消えない背景にある「国の制度」

とはいえ、子どもに勉強を強制したくない親御さんでも、宿題をこなさないと学校の成績が下がるのではないか、と心配するのも自然のことです。宿題の提出が成績に直結するのもまた事実です。

なぜ宿題がなくならないか。それは、大半の学校では子どもを評価する手段として宿題が重宝がられているからです。その背景には国の制度上の問題があります。

宿題が、出す側の問題である面も指摘しておかなければなりません。ご存じの方も多いと思いますが、公立校の成績のつけ方は相対評価から絶対評価に変わりました。相対評価の時代は「1」のつく子どもはクラスの7%、「2」が24%、「3」が38%、「4」が24%、「5」が7%と配分が明確に決まっていました。40人学級なら「5」がもらえる生徒は40×7%=2.8人なので2人だけ。つまり「5」がついたらクラスで2番以内で、昔の「オール5」とはまさに神童レベルでした。

しかし、その仕組みでは、クラス全体のレベルが高いと、勉強はできるのに相対的に評価が低くなる。そこで評価が、「絶対評価」に変わりました。ここまでは理にかなっています。しかし今度は、どのレベルを超えたら「5」を出すのか、といった判断基準が必要になります。この基準設定がとても難しいのです。

■「絶対評価」になって宿題は急増した

ちなみに文科省の推奨する絶対評価の基準は以下の4項目が25%ずつの配分になっています(一部の教科は5項目)。

1 関心・意欲・態度
2 思考・判断・表現
3 技能
4 知識・理解

2~4はペーパーテストで測れます。しかし、1「関心・意欲・態度」の項目が先生にとっての曲者。一斉授業型のスタイルでは差が見えづらいのです。そのため、「関心・意欲・態度」を「宿題をやってくるかどうか」で判断する先生が急増しました。

工藤勇一『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』(SB新書)

極端な話、宿題の中身は関係なし、提出したかどうかだけを見る教員もいます。その場合も二通りいて、勉強が苦手な子に対して、宿題の提出を評価してあげたい善意タイプの先生もいますし、そもそも忙しすぎて中身まで見ていられない先生もいます。

いずれにせよ、公立学校の宿題は、文科省が評価制度を絶対評価に切り替える通達を出してから一気に増えました。すべての教科の先生が同じように悩むので、すべての教科で宿題が増えたのです。

大人世代が受けた学校教育と比べても、今の子どもたちははるかに宿題量が増えています。しかも文科省はそれを意図したわけではない。予期せぬ副作用として起きたことなのです。

私は何も日本の教育制度を批判したいわけではありません。まず、現状の教育が本当に自律的な子を育てるという最上位の目的にかなっているのか、大人自らが当事者意識をもって問い直していかねばならないことだと考えています。

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工藤 勇一(くどう・ゆういち)
千代田区立麹町中学校校長
1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。教育再生実行会議委員、経済産業省「未来の教室」とEd Tech研究会委員等、公職を歴任。麹町中学校では「世の中ってまんざらでもない!結構大人って素敵だ!」と生徒たちが思える教育を目指し、教育改革に取り組む。著書に『学校の「当たり前」をやめた。』(時事通信社)。2冊目となる本書は、初めて親に向けて語られた1冊である。

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(千代田区立麹町中学校校長 工藤 勇一)

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