「似たもの同士カップル」がなぜ生まれるのか
プレジデントオンライン / 2019年9月21日 11時15分
※本稿は、山口慎太郎『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■似たもの同士の結婚は世界共通
あなたの周りのカップルはどんな組み合わせが多いですか? 高学歴のカップル、育ちの良さそうな男女のカップル、美男美女のカップル、はたまた背の高い人同士のカップルなどいろいろな組み合わせがあるかもしれませんが、何らかの意味で似たもの同士のカップルをよく見かけるのではないでしょうか。
これまでの社会科学の研究において、似たもの同士の結婚は世界中で共通する現象であると知られています。
日本においても、学歴という点から見れば、似たもの同士の結婚が中心であることがわかっています。図表1は、男女の結婚において、どのような学歴の組み合わせで結婚しているかを示していて、円の大きさは、カップルの数を表しています。
この図を見ると、対角線上に大きな円が現れていることがわかります。これは高卒同士、大卒同士といった同じ学歴のカップルがたくさんいることを示しています。夫婦とも短大・高専卒のカップルの割合がやや少ないのは、男性で短大・高専卒の人が少ないためです。また、夫が大卒、妻が短大卒という組み合わせも多いのですが、全体としては、やはり同じ学歴同士の結婚が中心です。
■海外でも同じ学歴同士の結婚が多い
こうした同じ学歴を持つ人同士の結婚が中心になっているのは日本に限りません。アメリカ、イギリス、ドイツ、デンマーク、ノルウェーといった国々でも同様の傾向が報告されています。
学歴に限らず、さまざまな観点から見ても、似たもの同士の結婚はありふれているため、自然なものとして受け止められがちです。しかし、なぜ似たもの同士での結婚が多くなりがちなのでしょうか。
■なぜ似たもの同士で結婚するのか
似たもの同士での結婚が多くなりがちな理由には、大きく分けて二つの理由が考えられています。
一つめは、出会いの機会が似たもの同士に限られているというものです。マッチングサイトの役割が大きくなってきているとはいえ、主な出会いの場はやはりネット上ではなくオフラインです。特に、学校や職場、友人などを介して知り合う人が多いため、自分と似たような育ち方をして、似たような仕事についている人と出会いがちです。
本人には、自分と似たような人と結婚したいというこだわりがなくても、自分と異なるタイプの人と出会う機会は限られていますから、結果的に、自分と似たタイプの人と結婚しがちなのです。
二つめの理由は、出会いの機会は十分にあるけれど、人々が自分の好みに従ってパートナーを選んだ結果、似たもの同士で結婚しているというものです。
この説明は、詳しく言うとさらに二つに分けられます。似たもの同士では、自然と惹かれ合う傾向があるというのがその一つです。この考え方のもとでは、万人が認めるようなモテるタイプが存在するわけではありません。世の中にはいろいろなタイプの人がいて、好みも人それぞれであるけれど、自分と共通点がある人を好むと考えます。たとえば、同じ学歴の人は、学歴が異なる人よりも価値観が似通っていますし、共通の話題があることも多いため、いい関係に発展しやすいということです。
もう一つは、恋愛において魅力的だと考えられている人同士から順番にカップルになっていく結果、似たもの同士のカップルが成立していくというものです。
■魅力的な男女から順にカップルになる
この考え方のもとでは、万人が認めるようなモテるタイプが存在し、異性から見て誰が魅力的なのかははっきりしていると考えます。魅力的だと思われている女性(男性)は、多くの人からアプローチを受けるため、その中で最も魅力的な男性(女性)とカップルになることができます。こうして魅力的な男女から順番にカップルが成立していく結果、成立したカップルの魅力の度合いは男女で似通ってくるのです。
いずれの場合も、出会う機会は十分ある上で、人々の恋愛・結婚における好みが果たす役割を指摘しているという点で共通しています。
■マッチングサイトがデータ分析を一変させた
似たもの同士での結婚が多く見られる理由には、「似たもの同士が出会う機会が多いから」というものと、「自分と違うタイプと出会う機会は十分あるけれど、好みに従ってパートナーを選んだから」というものの二つがあると述べましたが、どちらがどれだけ重要なのでしょうか。
残念ながら、実社会のデータから、この疑問に直接答えるような分析を行うのはとても難しいのです。これは、結婚に至る前に、どのような出会いがあって、どのような選択をした結果、最終的に結婚に至ったのかを記録するデータがほとんど存在しないためです。
しかし近年、こうした研究上の壁が、マッチングサイトの利用データを分析することで打ち破られました。マッチングサイトには、出会いについての情報が豊富に記録されています。利用者のプロフィールに始まり、実際にどのユーザーにメッセージを送ったのか、送ったメッセージの内容に至るまで、サイト運営者のサーバーに記録が残っています。
アメリカの研究では、利用者のプライバシーに配慮した上で、マッチングサイト上での利用者の行動を分析し、人々が自分の将来のパートナーに何を望むのか、どのようなアプローチをするのか、最終的にオフラインでのデートに至る理由はなぜなのかを詳しく分析しています。
■出会う機会の問題を解決
分析では、マッチングサイト上でやり取りされたメッセージの中の言葉をAIで分析し、誰と誰がオフラインでのデートに至ったかを確認しています。具体的には、男女お互いが連絡先を交換した場合、マッチに至ったと判断しています。
このマッチングサイトでは、プロフィールを見たうちのおよそ10%にメッセージを送り、さらにそのメッセージを送ったうちのわずか5%しかデートに至っていないことがわかりました。やはりデートに至るのは一つの大きな成果と見なしてよいでしょう。
デートの結果、がっかりしてそれ以来会わなくなるケースもあるでしょうし、交際が進展して結婚に至るケースもあるでしょうが、オフラインの行動はデータ上、知ることができません。
なお、デートに至ったカップルのプロフィールを分析した結果、年齢、容姿、身長、体重、収入、学歴のすべてにおいて、似たもの同士でマッチしていることがわかりました。さらに面白いことに、男性は女性に対して容姿を、女性は男性に対して経済力を重視する傾向もわかりました。
■マッチングサイトでの「似たもの同士」は選択の結果
これは人々の好みの結果なのでしょうか。それともマッチングサイト上においても、出会いの機会が不十分で、その結果似たもの同士が出会うことになっているのでしょうか。
その答えを見つけるために、この研究ではコンピュータ上でシミュレーションを行いました。データ分析によって明らかになったサイト利用者の好みに基づいて、仮に、出会いの機会が十分ある場合に実現するであろうカップルの組み合わせを導き出したのです。そして、そのシミュレーションの結果と、実際にサイト上で見られたカップルの組み合わせの傾向はほぼ一致していることが明らかになりました。
この結果から言えるのは、マッチングサイト上では、事実上、誰もが誰とでも自由に出会え、出会いの機会が乏しいという問題が存在していないということです。マッチングサイトで生まれる似たもの同士のカップルは、彼ら/彼女ら自身の好みと選択の結果なのです。
出会いの機会を提供するのがマッチングサイトのそもそもの目的であるとはいえ、実際に十分な出会いの機会を提供できているというのはちょっとした驚きです。
■フラれても傷つかなくて済む
マッチングサイトがオフラインよりも出会いの機会を提供していると考えられるのには、二つの理由があります。
一つは、たくさんの人のプロフィールを見ることができるから。もう一つは、アプローチして、たとえうまくいかなかったとしても気まずい思いをしなくて済むからです。
マッチングサイトによってルールは異なりますが、自分が興味を持った相手には簡単にメッセージや「いいね!」を送ることができます。マッチングサイト上では本名や勤務先、学校などを明らかにしないこともあり、相手に無視されたところで大して傷つかないという人が多いようです。そのため、かなり気楽に相手にアプローチすることができるのです。
オフラインではなかなかこうはいきません。私もそうですが、多くの人は、自分がアプローチした相手に冷たくあしらわれると傷つくものです。それでも負けずにいろいろな人に声をかけられるほどハートが強ければいいのですが、実際には傷つくことを恐れて、相手にアプローチすることを控えてしまいがちです。その結果、出会いの機会が限られてしまうというわけです。
マッチングサイトは、匿名性を確保し、気軽に相手に声をかけられるような仕組みをうまく作ることで、オフラインでは考えられないほどの出会いの機会を提供しているのです。もちろん、アプローチした相手が、自分のことを気に入ってくれるとは限らないのですが……。
■オフラインのほうが、より似たもの同士になる
マッチングサイトでデートに至ったカップルは似たもの同士であると先に述べましたが、オフラインで結婚に至ったカップルと比べると、どちらがより似たもの同士の組み合わせになっているのでしょうか。マッチングサイト上には、出会いの機会の問題がほぼ存在しないわけですから、オンラインとオフラインでカップルの傾向に差があるとすれば、それはオフラインにおける出会いの機会の乏しさが生み出していることになります。
マッチングサイト利用者の年齢・学歴構成を、社会全体の年齢・学歴構成に合わせるような統計的調整を行った上で、カップルの組み合わせが比較されました。その結果、学歴について見てみると、オフラインの結婚のほうが、より多くの同学歴カップルを生み出していることがわかりました。これは、オフラインでの出会いは似たような学歴の人同士に限られがちであるということを示しています。
世の中で似たもの同士のカップルが多いのには、好みの問題もさることながら、機会の問題も強く影響しているんですね。
■真剣勝負の韓国のマッチングサイト
マッチングサイトにも、気楽な出会いを求めるものから、より真剣で、結婚に直結するような出会いを求めるものまでいろいろあります。これから紹介する韓国のマッチングサイト利用者を分析した研究は、ここまで紹介してきたアメリカの事例と比べて大きく二つの違いがあります。
一つは、利用者のプロフィールに嘘がないことです。この韓国のマッチングサイトでは、年齢、学歴、職業、そして現在独身であることを示す証明書類を、サイト運営者に提出しなければなりません。
もう一つは、マッチングサイトでの出会いが結婚に至ったかどうか知ることができることです。マッチングサイトを介して結婚したカップルの特徴と、オフラインも含めた韓国社会全体の結婚で見られるカップルの特徴を比べることで、マッチングサイトがどのような役割を果たしているのかがわかります。
分析の結果、マッチングサイトを利用した場合、より夫婦間の年齢や学歴、そして離婚歴の有無が似通ってくるとわかりました。
一方で、マッチングサイトを利用することによって、オフラインでは結婚しなかったであろう職業や居住地の人と結婚していることもわかりました。
■オフラインでは出会いの機会が限られている
これらの結果は、やはりオフラインでの出会いの機会が限られていることを示しています。そして韓国の人々は、自分と年齢や学歴、そして離婚歴の有無が同じような人と結婚したいと考えているようです。しかし、出会いの機会が限られるオフラインでは、自分と同じ仕事をしている人や、同じ地域に住んでいる人と結婚してカップルになることが多いようです。
しかし、マッチングサイトを利用すれば、オフラインでは出会う機会のない別の職業の人や、ほかの地域に住んでいる人とも出会うことができます。マッチングサイトを介した結婚と、韓国社会全体で見られる結婚を比べることで、マッチングサイトが果たしている役割が明らかになったのです。
個人的には、この分析結果はとても腑に落ちるものでした。私の知り合いのある大学の先生は、お医者さんと結婚しましたし、別の先生はフォトグラファーと結婚しました。いずれのカップルも、夫婦ともども高学歴で専門職についていますが、みなさん大変仕事が忙しく、マッチングサイトがなければとても出会うような組み合わせではありません。
こうして身近な方の成功例を知るにつけて、マッチングサイトには割と肯定的な印象を持つようになりましたし、出会いがないとボヤく同僚の先生にはマッチングサイトの存在をお知らせしています。世話焼きの仲人おじさんみたいに思われたかもしれませんが……。
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東京大学経済学部・政策評価研究教育センター准教授
1999年慶應義塾大学商学部卒業。2001年同大学大学院商学研究科修士課程修了。2006年アメリカ・ウィスコンシン大学経済学博士(Ph.D)取得。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授を経て、2017年より現職。専門は、結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」と、労働市場を分析する「労働経済学」。
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(東京大学経済学部・政策評価研究教育センター准教授 山口 慎太郎)
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