どん尻組織を全国2位にしたリーダーの心得5
プレジデントオンライン / 2019年9月11日 9時15分
(※本稿は、2019年5月17日、しなやかに情熱を持って働く女性たちのための交流会「PRESIDENT WOMAN Salon」の第2弾「ポーラ取締役・及川美紀さんを迎えて」の内容から構成しています)
■全国32事業所の中で30位のどん尻業績からスタート
私のキャリアが本格的にスタートしたのは、出向した埼玉の販売会社でのことでした。大学卒業後、奨学金を返すために「結婚出産でやめることなく、一生働き続けられそうだから」とポーラに入社。本社営業部に配属されましたが、1年後に隣の席の先輩と結婚すると、夫婦を同じ部署には置けないからと、私が出向を命じられたのです。
当時、入社直後の販売会社への出向は異例。本部で数年経験を積んだのちに現場に赴任するのが慣例でしたから。2年目の営業部でまずは成果をだそうと思っていたのでやる気をなくしかけましたが、出向先で働き始めてみると予想以上にやりがいがありました。でも、その頃は組織やリーダーについて考えたことはまったくありませんでしたね。考え始めたのは出向からおよそ10年後、出向先の埼玉のエリアマネージャー(総責任者)になってからです。
そのときの業績は全国32事業所の中で30位ぐらいでした。首都圏に近く恵まれた環境で、全国トップになってもおかしくないのに、なぜこんなに下なのか。私は、ここでようやく「自分たちが変わらなきゃいけない」と考え始めたのです。どうすれば変われるのか一生懸命考えて、まずは目指すゴールを決めることにしました。
すると、ゴールとは何か、つまり本当にやりたいことは何なのかと考えるようになりました。今月の売上といった目先の課題に振り回されるのでなく、3年後、5年後にどうなっていたいか、将来のビジョンを描くようになっていったのです。
■思考が「課題解決」から「戦略」に変わった瞬間
私が描いたビジョンは「皆が誇りを持てるような組織にしよう、そのために全国1位になろう」というものでした。次に、そこに行き着くためにはいつまでにどんな行動をとればいいんだろうと考え始めました。そこで初めて、「これが戦略を立てるということなんだ!」と気づいたのです。自分の思考が「課題解決」から「戦略」に変わった瞬間でした。
組織を変えるには、リーダーがビジョンを持つことが不可欠だと思います。さらに、リーダーはそれをチームメンバーに語り、同じ志を共有する必要があります。私の経験では、リーダーの語る内容が「こうすればいいよ」という方法論から「皆でここを目指そう」というビジョンに変わると、メンバーも大きく変わり始めます。
埼玉では、私がビジョンを語り始めてから、これまでは言われた通りの行動をしていたメンバーたちが、自らゴールに近づくためのアイデアを出し、議論し合うようになりました。半年後、埼玉の業績は30位から一気にベスト10入り。この成果がメンバーの自信になって好循環が生まれ、最終的には1位こそ逃したものの、全国2位にまで上昇したのです。
■組織はリーダーしか変えられない
私はこの経験を通して、リーダーがビジョンを持ち、語ることの大切さを実感しました。その後も、商品企画部や宣伝部などさまざまな部署で組織改革を行ってきましたが、一貫して同じ思いを持ち続けてきました。これは取締役になった今も変わりません。
同僚の役に立ちたいのか、あるいはチームの業績を上げたいのか。お客様に評価されたいのか、それとも生き生きとした女性を増やして社会を変えていきたいのか──。わたしの場合、目先の目標は業績を上げることでしたが、目的は、「組織に誇りを持たせたい! そのために、活躍するメンバーの力を引き出し、自信をつけ、活躍する人を増やしたい。」ということでした。結果として達成できたのは、なぜ上げたいのかという「WHY」を追求したからだと思います。組織はリーダーしか変えられません。ボトムアップも一定の効果はありますが、リーダーの一言は組織改革のスピードを大きく加速させます。そして、ビジョンを語る際はリーダーの「想う範囲」も重要です。個人や仲間からお客様・市場、そして社会・地域へと、リーダーの想う範囲が広がるに連れて、チームメンバーの思考レベルも上昇していくからです。
■第三者の視点を持ち、ビジョンを描いて共有する
でも、ビジョンが大きくなればなるほど、リーダーだけではできないことも増えていきます。そこで大切になるのが同志の存在。例えば、私は文章を書くことが苦手で人一倍時間がかかるので、内容だけ考えてあとは文章が得意な同志にお願いしています。
皆さんにも得意なことと苦手なことがあるでしょう。得意なことは、自分の役割だと捉えてどんどん取り組んでください。そして、苦手なことは遠慮なく同志に任せてください。大切なのは、リーダーなのに何もできないと落ち込まないこと。「できないことを数えるな、できることを把握せよ」。私からは、この言葉を贈りたいと思います。
弊社でも、取締役などの主要メンバーはできる限り社員と話し、彼らの視点を知ろうと努めています。実は、役員は年に2回、社員やビジネスパートナーの前で楽器の演奏やダンスなどのパフォーマンスを行っているんですよ。先生を招いて必死で練習するんですが、もちろん上手にはできません。でも、たまには役員全員で「できない姿」を見せて笑われてでも、努力する姿を見せようと(笑)。実は、私たちにとっても、できないことの悔しさ、先生など他者からほめられることのうれしさを体感する、いい機会になっています。ただし、独りよがりになってはいけません。普段からさまざまな人と話して第三者の視点を取り入れるように努め、ビジョンを描くときも客観性を保ってほしいのです。私が師匠と慕っている方は、「第三者の視点を持てることがプロの第一条件」と言っていました。本当にその通りだなと思います。
■失敗を糧に可能性の扉を開けていく努力を
次に、私自身がリーダーとして心がけてきたことを5つお伝えします。1つめは「KT(壊して作る)マインド」。組織には、壊してみないと見えてこないことがたくさんあります。このままじゃ硬直するなと思ったら、チームを再編するなどして壊してみること。その際は、ダメだから壊すのではなく、もっとこうなりたいから壊すのだと丁寧に説明して、ビジョンの共有に努めます。
ただ、再編はメンバーにとってはストレスですから、壊した後は「自信と期待」を感じられるよう工夫します。3カ月程度で短期的成果を上げられるように持っていき、自信をつけたところで「じゃあもっと上を目指せるよね」と期待値を語るのです。そのためにもまめに中間進捗を確認し、達成が難しそうならリカバリーを図るようにしています。
2つめは、「叱られる」と「大失敗」は経験アップのチャンスと捉えること。私もこれまでに何度も失敗し、夜に思い返してはふとんの中でジタバタしたものでした。同じ失敗を繰り返すことも少なくありませんが、それでも経験を積むうちに、失敗からのリカバリー方法が分かってきます。
私は、これまでに叱られてきた言葉を手帳に書きためています。毎年末、「これは来年も大事にしよう」と思える言葉を新しい手帳に書き写しているんですよ。後で見直すと、叱られた意味が急に分かったり思考が広がったりと、役に立つことがたくさんあります。最近は残念ながら立場上叱られる機会が減ったので(笑)、メンバーに気づかされたことや本を読んで感銘を受けた言葉も書いています。この手帳は私の宝物ですね。
3つめは、部下に対する「個性の尊重」。部下はジェンダーも年齢も社歴もさまざまですが、「認められたい」「役に立ちたい」という思いは誰もが持っています。そこを汲み取って、個性を認めた上で力を発揮できるようにしてあげるのが私の役目かなと思っています。
4つめは「弱いところを見せて頼るべきところは頼る」。リーダーは万能ではないということですね。そして5つめは「結果の質を高めるためには、関係、思考、行動の質を高めよ」ということ。これは、MIT教授のダニエル・キム氏が提唱している考え方です。
企業人は、ともすると成果や業績といった「結果の質」を真っ先に求めがち。でも、これは上司との関係の質や、部下の思考・行動の質を高めて初めて達成できるものです。回り道に思えるかもしれませんが、結果を求めるならまず心理的安全性のある関係を構築するところから。それはやがて結果につながり、さらに関係の質を高めるという好循環を組織の中に生み出します。
リーダーの役割は、ビジョンを見せて道筋を作ること。現状に突破口を見つけ、小さなことでいいから短期的成果を上げて、説得力と周囲の信頼を獲得してください。組織改革でもプロジェクトでも、リーダーがあきらめたらそこで終わり。逃げない、愚痴らない、笑顔の3つを大切に、もちろん家族との時間も大切にしながら、自らの可能性を切り拓いていっていただきたいと思います。可能性の扉は自動ドアではありません。一歩踏み出す勇気を持って、ともに扉を開けていきましょう。
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ポーラ 取締役執行役員 事業本部担当
1991年、東京女子大学卒業後、ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)入社。まもなく販売会社に出向し、埼玉エリアマネージャー、商品企画部長を歴任後、2012年に執行役員、14年に取締役就任。
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(ポーラ 取締役執行役員 事業本部担当 及川 美紀 文=辻村洋子)
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