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"年金先送りで68歳まで働く"時代に備えるには

プレジデントオンライン / 2019年9月12日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/MStudioImages)

公的年金制度の健康診断とも言われる財政検証結果が発表されました。給付水準が大幅にダウンする、とされていますが、働く聡明な女性なら、「冷静にとらえること」が大切。財政検証の結果と、その受け止め方、そして、個人ができることについて整理しておきましょう。

■公的年金制度の財政検証とは…?

財政検証とは、経済や人口に一定の前提を置き、将来に渡る年金財政や給付水準の変化を試算するもの。5年に1度行われ、今回は2115年(約96年後)までの見通しが検証された。

年金の給付水準は「所得代替率」で表される。

所得代替率とは、給付時の現役世代の平均手取り収入に対する年金額の割合のこと。現行の水準はどうかと言うと、現役男性の平均手取り収入は35.7万円で、会社員だった夫と専業主婦だった妻をモデルとした年金額は22万円。所得代替率は61.7%となっている。高齢者は、現役世代の平均的な収入の約6割にあたる額の年金を受け取っている、ということになる(あくまで平均的な額)。

■負担を上げるか、給付を下げるか

財政検証では、この所得代替率がどの程度になるかを予想する。

まず前提として知っておきたいのは、年金は現役世代が高齢者を支える仕組みであり、少子高齢化が進めば財政は厳しくなる。多くを支給しようとすれば現役世代の負担が重くなってしまう。

そこで過去の年金改革では、年金保険料の引き上げは一定のところでストップすること(厚生年金18.3%など。すでに上限に到達している)、支給額は物価や賃金の上昇幅より年金の引き上げを抑制するマクロ経済スライドという方式をとることで、給付と負担のバランスを調整することが決められた。

このように、年金を受け取る側と支える側、言い換えれば、年金の支給額と保険料の両輪で年金制度を考えなければならない。

■現在37歳の人の年金は、現役の人の賃金の約半分

年金制度は、受け取る側と支える側のバランスや、年金に加入する人の割合や保険料収入の規模、保険料の運用成果などの影響を受ける。そこで財政検証では、将来推計人口、経済成長、労働参加などを想定して6つのパターンで検証が行われた。

そのうち、私が基本のケースと思うのは、ケースIII。経済成長と労働参加が進むケースで、物価上昇率は1.2%、賃金上昇率は1.1%、経済成長率0.4%といった想定である。

その場合、今から約28年後にあたる2047年の所得代替率は、50.8%の見込みとなる。

ちなみに、もっとも悲観的なシナリオ(実質経済成長率0%)では50%、楽観的なシナリオ(実質成長率0.9%など)でも51.9%である。

それが2047年に65歳(現在37歳)の人の平均的な年金水準として見込まれる、ということである。


(引用:https://www.mhlw.go.jp/content/000540198.pdf)

所得代替率が現行の61.7%から50%程度に下がると、実際にはどの程度の影響があるだろうか。

総務省の家計調査などをベースにすると、高齢者世帯では平均的に年金では月額5万円程度、生活費が不足する状態である(「老後2000万円、本当に足りないのは誰か」を参照)。

50%程度に下がれば、さらに不足額が大きくなる。

あくまで平均だが、現役の賃金35.7万円の50.8%では、年金額は約18万円。毎月の不足額は約9万円となる。

■現行水準の維持には、長く働く必要がある

そこで財政検証では、どうしたら現行の水準を維持できるか、についても言及している。

現在の年金制度は60歳まで働いて、65歳から受給だが、働く期間を長くし、年金は繰下げ受給する。繰下げ受給とは、年金の受給を遅らせることで、1カ月遅らせると0.7%、その後の支給額が増える。現行制度では最大5年間繰下げができ、最大で42%、年金を増やすことができる。また、ここで言う働く、というのは、働いて年金保険料を納める、ということを意味する。

現在55歳の人は65歳まで、現在35歳以下の人は66歳9月まで働き、そこから年金を受給する。また基礎年金(国民年金)の加入期間を45年にする(65歳まで保険料を払う)ようにすると、現在35歳以下の人は65歳10月までになる。

「より長く働かなければならないのか……」と悲観する声もあるが、実際はどうか。

現在でも60歳で定年を迎えた後も再雇用や雇用延長などで働く人は多く、約7割の人が65歳まで働いている。その間、年金保険料を払っている人は少なくない。さらに人生100年時代となればより長く働く必要があるということを認識している人は多い。

また多くの人は、そもそも年金の支給は65歳からである(年齢によっては65歳未満から一部支給あり)。

となれば、67歳程度まで働いて年金保険料を支払い、そこから年金を受け取る、というのは、それほど非現実的ではない、ともいえるのではないだろうか。

ちなみに、受給開始年齢は遅くなっても、長生きすることを前提にすると、受け取る期間(累計)は短くならない。平均余命から考えると、現在65歳の人の平均受給期間は約22年だが、現在20歳の人は25年と、約3年長くなる。20歳の人の受給開始を66歳9月にしても、受給期間は24年以上と、今の高齢者より長いのである。

■自分の老後は自分で変えられる

少子高齢化や長寿化、経済成長の鈍化などは個人の力では抗いようがないし、年金財政を呪っても、批判しても始まらない(注視することは大切)。

ではどうすればいいだろうか。

しっかり認識しておきたいのは、「年金の受取額は自分で変えることができる」、ということだ。

具体的には、長く働くこと、そして無理のない範囲で受給を繰下げることである。

所得代替率はあくまで標準的なケースの場合であり、個々の年金額は、年金保険料をいくら、何年納めたかによって異なる。長く働く、たくさん稼ぐ(保険料を多く納める)ことで、将来の年金を増やすことができる。長く働く(しかも楽しく)には、それなりの準備をした方がいい。公的年金を補完するために、iDeCo(個人型確定拠出年金)で税メリットを受けながら年金づくりをすることも考えたい。

加入期間(保険料を納める期間)の延長や繰下げ受給できる期間の延長(現行では最長5年間)、またiDeCoの拠出額引き上げ、拠出期間の延長(現行では60歳まで)なども、今後、検討される。いずれも、自助努力の必要性が増すからであり、そうした時流をしっかりキャッチし、そこに乗るのが賢明といえる。

若い人ほど不利、という想いにとらわれがちだが、見方を変えれば、50代の人より、20代の人の方が、「個人の力で」、「自身の年金を増やす」余地は大きいのだ。

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井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャルプランナー
経済エッセイスト。関西大学卒。厚労省社会保障審議会企業年金・個人年金部会委員。『大図解 届け出だけでもらえるお金』など著書多数。

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(ファイナンシャルプランナー 井戸 美枝 写真=iStock.com)

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