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なぜNetflixは解約しても再開したくなるのか

プレジデントオンライン / 2019年9月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chinnapong

ネット経由のコンテンツ配信から生鮮食料品の配送まで、あらゆる業界でサブスクリプションといわれる定額制のサービスが導入されている。成否を握るのは「購入後」の顧客との関係構築だ。そこで注目されているのが「ネット・プロモーター・スコア®(NPS)」という顧客ロイヤルティ指標である。NPSを開発したベイン・アンド・カンパニーが、サブスクビジネスを対象に行った新たなサーベイから「客が客を呼ぶ」仕組みの築き方が見えてきた。サブスク導入済の会社にも、検討中の会社にも参考にしてほしい。

※本稿は、2019年7月2日に行われた「サブスクリプション時代のNPS本格活用セミナー」の講演を基にしています。

■「いかに解約されないか」が勝負

いま、日本の消費者の購買行動や嗜好は大きく変化しつつあり、購入・所有する以外の選択肢が受け入れられる土壌が醸成されてきています。ミレニアル世代以降の若い層はシェアリングに対する抵抗感も少なく、長生きリスクを抱えるシニア層は価格や利便性にシビアになり、そもそも消費を控える傾向もあります。そんななか、売り切りモデルからいわゆるサブスクリプションといわれる定額制モデルが注目されています。

企業にとって、サブスクリプションとは、「継続的な関係性への投資」と言い換えることができます。売り切りモデルの場合は、広告を打って商品について知ってもらい、そこから購入してもらえばよかったわけですが、サブスクリプションモデルにおいては、「利用開始後」がより重要になってきます。いかに継続的にサービスを利用してもらえるか、言い換えれば、いかに解約をしないでもらえるかがビジネスの成否を握るといってもいいでしょう。

今回、ベイン・アンド・カンパニーでは、当社が開発したネット・プロモーター・スコア(NPS)という指標を使って、サブスクリプションビジネスを利用している消費者の関心や行動が従来ビジネスの消費者とどのように違うのか、明らかにしました。

ご存じの方もおられると思いますが、NPSとは顧客ロイヤルティの最も信頼できる指標としてグローバルに使われているものです。「当社のことをご家族やご友人に薦める可能性はどのくらいありますか?」という質問に対して、「10点:(推奨する)可能性が非常に高い」から「0点:非常に低い」までのスケールで答えていただきます。10点、9点を「推奨者」、0点~6点以下を「批判者」とし、全回答者における推奨者の割合から、批判者の割合を引いたものがNPSのスコアです。ちなみに、7点、8点は「中立者」と呼ばれます。

従来の顧客満足度調査では「あなたは満足しましたか」というかたちで、消費者自身の経験を聞きますが、NPSでは「家族や知人に薦めますか」と聞きます。つまり、自分の経験はどうだったか、ということからもう一歩踏み込んで「親しいあの人に薦めても大丈夫だろうか」と考えていただくことになります。これはまた、「自分が満足したか」という過去の経験ではなく「薦める可能性」という未来のことを考えてもらうことでもあります。こうしたことから、NPSは単純な顧客満足度調査よりも、消費者の将来の行動をより高い精度で予測することが可能なのです。

実際、批判者と推奨者の生涯価値は1.5倍から3倍もの開きが出ることがわかっています。いかに批判者を減らして推奨者を増やせるかということは、サブスクリプションビジネスにおいても重要な課題になってくるでしょう。

批判者と推奨者の生涯価値

■離反率や口コミにどれだけ差があるか

今回の調査で対象としたのは、Netflixやhuluのようなコンテンツ配信、マネーフォワードやZaimのようなウェブ経由で機能を提供するサービス、そして、オイシックスやパルシステムなどの生鮮配送サービスです。これらのユーザーをNPSのサーベイで推奨者と批判者に分け、離反率や口コミにどれだけ差があるかというのを見たものが次の図です。

離反率や口コミにどれだけ差があるか

従来型売り切りビジネスよりも、より鮮明に批判者が離反していることがわかります(継続購入していない)。また、0点~4点をつけた「強い批判者」は、口コミをしないだけでなく、むしろ積極的に不買を薦める傾向があるのも特徴的です。推奨者の方を見てみると、従来型のビジネスでは、推奨者の継続購入指数は、中立者を1とした場合に1.2くらいでしたが、サブスクリプションビジネスの場合は2倍近くになりました。つまり、サブスクリプションビジネスにおいては推奨者をいかに作るか、また逆にこういった強い批判者を作らないかということが、非常に重要になるということが明らかになりました。

「推奨者」であるほど企業へのロイヤルティが高い

■サブスクリプションビジネスの口コミ

もう一つ興味深い傾向として、売り切りビジネスでは、ほとんどの口コミは購入して半年以内の人によるものですが、サブスクリプションビジネスの場合は、利用期間が1年~3年、つまり長く使っている人の方がより口コミをする傾向があります。口コミの受け手側で見てみると、サブスクリプションビジネスは、生命保険、モバイルキャリアといった長期契約のビジネス以上に口コミを参考にする人の割合が大きいという結果が出ました。スーパーやコンビニなどの小売りにおいては、口コミは影響が小さいこともわかっています。まとめると、サブスクリプションビジネスでは、発信側と受容側、両方合わせての口コミ効果が非常に大きくなる、ということが言えます。

ここで実際に、各会社の評価を見て見ましょう。図表4の黄色の部分が推奨者、赤い部分が批判者です。動画配信ですとNetflix、家計簿アプリではマネーフォワードの推奨者比率が突出しています。NPSのスコアはそれぞれ28%と24%です。プラスに大きく振れる数字は日本の他業界と比べても、非常に高い水準です。

サブスクリプションサービス別のNPS

■「エピソード」から見えてくる顧客の真実

図表5を見てください。左側がある白物家電のNPSです。住宅も含めた耐久消費財はほとんど例外なく買ったあとNPSが徐々に下がっていきます。企業にとっては、一度買ってもらったら故障でもしない限り、買い替え時まで顧客との接点はありません。一方でサブスクリプションサービスの場合は時間が経ってもほぼ横ばい、もしくは逆に上がっていくようなかたちになります。特に、NPSが突出して高い「ロイヤルティリーダー」企業と呼んでいる高いNPSスコアを維持している企業は、ユーザーが利用体験を積み重ねるにしたがってNPSが上がっていっています。サブスクリプションの場合は、いつでも解約できるので、批判者の方は自然と抜けていきますが、NPSを非常に高く維持するためにはそのぶん推奨者を増やさなくてはなりません。

サブスクリプションにおけるNPS
サブスクリプションにおけるNPS

では、どうやったら推奨者を増やすことができるのか。ここでキーワードになるのが、「顧客エピソード」です。NPSを取るとき、ほとんどの場合は、ブランドやサービスを総合的に評価してもらうか、コールセンターなどの顧客との最終的な接点での評価になります。それに対して「エピソード」は、顧客ニーズが生じてから充足されるまでの一連の顧客体験のことです。具体的に見ていきましょう。

■タッチポイント単位のNPSからは見えてこない評価

図表7は、あるインターネットのサービスに契約し、接続機器を受け取り、設置し、実際に利用開始するまでの顧客エピソードです。それぞれの段階でコールセンターやメール、実際の営業スタッフやウェブサイトなど、さまざまなタッチポイントがあります。そのタッチポイントごとにNPSを取るということは、実際に多くの企業がやっていることです。しかし、個別の接点だけを見てしまうと重要なことを見落とす可能性あります。

たとえば、問い合わせ時はよい対応で評価もよかったというところだけを見てしまうと、顧客の総合体験としてはサービス開始までに時間・手間が結構かかったので全体としては不満が残ったという評価が、タッチポイント単位のNPSからは見えてこないのです。エピソードというものをもう一段深掘りすると契約前の情報収集や、契約後の料金プランの変更、故障・紛失時のサポートといったレベル感のものまであり、適切なレベル感で顧客体験を調査・把握することが重要です。

より正確に顧客体験を把握する
改善すべき意味のあるエピソードを明確に定義する

そうしたところまで掘り下げてみていくと、個別のタッチポイントからは見えてこない顧客の真実が見えてきます。図表9は、サブスクリプションサービスにおいて、批判者を生み出しやすい確率を縦軸で、推奨者を生み出しやすい確率を横軸であらわしたものです。この座標軸にエピソードNPSをマッピングしてみると、「利用再開」「トラブル対応」は、推奨にも批判にも大きく振れるポイントであることがわかります。

エピソードごとにNPSを取って、それぞれどういう水準にいるかという分析をすると、何に優先的に取り組むべきかが浮かび上がってきます。例えばNetflixは、どのエピソードでも非常に高いNPSの水準を保っていますが、サービスのダウングレード(アップグレードに対して)への対応については改善の余地あり、というようなことが今回のサーベイからはわかります。

エピソードの優先順位
サブスクリプションサービスにおけるエピソードNPS

■無料体験とその後の継続率

また、少し細かくなりますが、配信型のサブスクリプションサービスに関して、利用開始時のエピソードのNPSからもうひとつ興味深いことがわかりました。無料のプランから有料のプランへ移行する人の約40%が利用開始後から1カ月目くらいに決めており、約80%が1年以内に決めています。当然ですが、利用頻度が高い人ほど効率が高い。一方で、無料体験のときに満足度が高すぎると有料プランに移行しないのではということも考えられます。しかし、実際は無料体験のときのNPSが高いほど有料に移行する比率も高いとういことがわかりました。また、利用開始時のNPSが低いとその後の継続率も低いという結果も出ています。

解約について、意外だったのは、解約したユーザーが利用を再開するケースが多いということです。今回のサーベイでは半分以上の人が1回解約したあとに再契約していることがわかりました。どういったタイミングで再開するのかというと、たとえばNetflixだと、見たい動画がまた案内されてきた、Zaimの場合はライフステージが変わった、といったことがきっかけになっています。その場合に重要なのが「前の設定が簡単に引き継げるかどうか」です。一から登録し直さなければならないとなると、NPSが下がる原因になります。一方で、自分の以前のデータが残っていて簡単に引き継げた場合は、一度解約した方でも推奨者になる場合さえあることが今回の調査から見えてきました。

利用再開につなげるために

■トラブル対応の影響

もう一点、推奨者にも批判者にも振れやすいポイントである「トラブル対応」については、動画配信のような受動的なサービスの場合、「トラブル解決までこれくらいかかります」「原因はこれです」といった説明がNPSに大きく影響することがわかりました。

一方で「こうすればいいですよ」という参考情報の提供は、動画配信のユーザーにとってはまったくありがたなくない、むしろ迷惑と感じるといった結果がでています。一方で家計簿アプリや、生鮮配送サービスなどの能動的に使うサービスでは、「このようにすればご自身でも対処できたりしますよ」といった情報がトラブル対応時にあると、NPSが上がります。サービスのタイプによって、同じ顧客体験の中でも注力すべき改善点が異なってくるのです。

■コモディティ競争を抜け出し、推奨者・ファン顧客を獲得する手法

このように、顧客エピソードごとに見ていくと、どういったところに対処すればNPSが上がるのかが具体的に見えてきます。企業によって差が出るのは、そこからどのようなアクションを起こし、結果の実現まで至るかという点においてです。ベインが5年ほど前に行った調査によると、売上・利益成長につながる仕組みを構築し、継続しているという企業は9社に1社しかありませんでした。

NPSを活用できていない企業の悩みとして第一に挙がるのが、「批判者への対策はイメージしやすいが、推奨者・ファン顧客の増やし方が分からない」というものです。

それを考えるために弊社で提案しているのが「顧客がほしいと思う価値要素」の分析です。図表12はマズローの欲求段階説を拡張したもので、いちばん下が機能的価値です。モノやサービスが期待された機能や効果を発揮するかどうか、という部分です。その次にくるのが感情的価値です。モノやサービスを使って癒されたり満足感を得たりする段階です。さらにその次が人生を変える価値です。モチベーションや希望がわくといったことにつながるモノやサービスということです。そして一番上にくるのが社会的なインパクトです。

顧客がほしいと思う30の価値要素

ここに特定された価値要素を数多く満たすことにより、NPSが大きく伸びることが過去の実証でわかっています。ただ、サブスクリプションビジネスと従来型ビジネスでは、顕著な違いがあります。生鮮配送サービスと従来型小売を比べた場合、スーパーは「安い(コスト削減)」「品揃えがいい(バラエティ)」「いいものである(品質)」といったところ、つまり機能的要素が最も需要ですが、生鮮配送の場合は、もう一段上の感情的要素、たとえば「健康」「自分へのご褒美」「本物感」といったものが大事になってきます。言い換えると、こうした要素がそろっていれば推奨者が生まれやすい。動画配信や家計簿アプリの場合は、さらに上位の「自己実現」や「モチベーション」といった価値も重視されているということがわかりました。

推奨につながる要素

図表14の左は動画配信サービス3社の価値要素を分析したものです。NPSが突出して高いNetflixはどの要素も高いレベルで満たしているのですが、より上位のたとえば「自己実現」といった価値要素については飛び抜けて高いレベルになっています。一方で、「簡素化」のような機能的要素についても他を引き離しています。これは、イントロを飛ばしたいときにすぐ飛ばせるなど、細かいところまで行き届いているということです。右側は家計簿アプリの場合ですが、一番手であるマネーフォワードは「簡素化」「時間の節約」などの使いやすさ、つまり機能的要素が高く評価されていることがわかります。

推奨につながる要素

このように価値要素について、何がいちばんお客様に響いているのかということを聞いていくと、推奨者を増やすための具体的なアクションにつなげやすくなります。

■そもそも顧客調査の回答率が低すぎるという問題

NPSをうまく活用できない企業の悩みとして次に多いのが「顧客の声が十分な数集まらずに、有意な分析に繋がらない。解約の予兆を掴みたくても、批判の回答後だと後手に回ってしまう」というものです

サブスクリプションビジネスにおいては特に解約の予兆というものが大事ですが、ユーザーが批判者になってしまうと、すぐ解約されてしまうので打つ手がありません。そもそも、顧客調査に回答される方は、全体のごく一部です。回答率が低い業界だと1%あるかないか、高い業界でも10%いくかいかないかです。回答しなかった顧客の声を吸い上げるために弊社で最近新たに導入し始めているものが「推定NPS」です。これは、顧客体験に関する定量データ(コールセンターの入電数や、支払い履歴など)と、定性データ(ツイッターやFBへの投稿内容、アプリに対するレビューなど)のビッグデータを統計的に処理し、どういったものがNPSのプラスにつながっているか、もしくは逆にマイナスにつながっているかを予測するモデルです。

直近の事例では、回答率が10%に満たず有効なアクションに結び付けられずにいた銀行が推定NPSを導入したところ、「このお客様はこういった回答をなさる可能性が非常に高い」といったことが浮かび上がってきたため、有効なアクション案につながり、実際にアクションを行うことが可能になりました。その結果、顧客の解約率が半減し、推奨者に対するキャンペーンの成功率が大きくアップしました。

Predictive NPS(推定NPS)

■スコアからシステムへ

最後になりますが、NPSはスコアを取るだけでなく、それを基にして顧客ロイヤルティを継続的に改善・向上させるマネジメントシステムを構築しなくてはなりません。そこで陥りがちなリスクがいくつかあります。

●経営陣が一枚岩になっておらず、またコミットメントが足りない
●行動変化を起こす理由について十分に納得させられていない
●スコアに拘り過ぎ、肝心の行動を変えるところが疎か
●学習や行動を促進するためのフィードバック・ループがきちんと作りこまれていない
●拙速に報奨や評価に結び付けてしまう
●質、コスト、スピードが両立していない非現実的な導入プラン
●機能横断的な協働を妨げるサイロ化された活動推進

上記のリスクを避けるためにも、どういったことが必要になるのかまず経営トップからのぶれないコミットメントを得ることです。経営トップから全社にどのようなコミュニケーションが取れているべきかが基本になります。ここができるとNPSという指標の信頼性が組織全体で共有されます。そのうえで、現場対応における学習と改善のサイクルと、組織内でそれを支える学習と改善のサイクルを同時に回していくことが求められます。

成功の鍵
エピソードを基準にサービスを評価
フレッド・ライクヘルド 、ロブ・マーキー (著)、 森光 威文、大越 一樹、渡部 典子(翻訳)『ネット・プロモーター経営 〈顧客ロイヤルティ指標 NPS〉 で「利益ある成長」を実現する』(プレジデント社)

今回とりあげたサブスクリプションビジネスにおいては、顧客体験をエピソードとして見ることがきわめて重要になります。たとえばこれまでコールセンターや店舗などのタッチポイントでそれぞれにNPSを取り、それぞれが学習と改善のサイクルを回したとしても、ユーザーは個別のタッチポイントではなく、エピソードを基準にサービスを評価しています。ですから、図表17で縦軸にあたる組織・機能軸ではなく、機能横断的なエピソード軸でアクションを取れるような体制を作っていくことが不可欠です。

従来型ビジネスと比べてもサブスクリプションサービスにおけるNPSは、経済性とより強く相関することがわかりました。顧客の乗り換えコストが低いため、顧客満足度が低いとすぐに解約されてしまうため、批判者には早期に対処する必要があります。一方で、長く続けてくれる推奨者の口コミ等による経済効果は非常に大きいため、推奨者をどうやって継続的に生み、活性化するかの設計も重要になってきます。顧客エピソードを軸に、機能横断的改善、また変革を図る体制というのをいかに作り上げるかということがサブスクリプションビジネス成功の鍵を握るでしょう。

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高木 啓晃(たかぎ・ひろあき)
ベイン・アンド・カンパニー プリンシパル
早稲田大学政治経済学部卒業。10年以上にわたり、商社、不動産・住宅、メーカー、小売、消費材等の幅広い業界において、全社戦略、顧客ロイヤルティ(NPS®)向上を中心とした顧客戦略・マーケティング、新規事業立案、PMI(買収後の企業統合)等、多岐にわたるテーマのプロジェクトに携わっている。

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(ベイン・アンド・カンパニー プリンシパル 高木 啓晃)

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