立花孝志に共感する人々が抱く社会への復讐心
プレジデントオンライン / 2019年9月20日 11時15分
■政治の「外側」だからもてはやされていた
(共同通信「N国党首、任意聴取受ける」2019年9月9日より引用)
「NHKより先にぶっ壊れたのか!」——という、おそらく日本で100万回くらいはすでに言われたであろう感想はさておき。
NHKから国民を守る党(以下N国党)立花氏の破天荒なふるまいは、いわば「社会的・政治的な常道に属さないアウトサイダー」だからもてはやされていたようなスタンスである。国会議員という「常道の枠内」の人となってからその方法を継続するのでは評価は一変するし、むしろこれまでとは逆の結果として作用しうるものだった。
参院選の前後から多くの注目を集めてきたN国党・立花氏には、ブームというべき現象が生じていた。コミカルでキャッチーなフレーズと、「NHKの受信料」という全国民に関係するワンイシューの政策、また立花氏の独特なキャラクターによって、一部で熱狂的な支持者を獲得した。
一方で、多くの人は立花氏に対して「違和感・異様さ」を抱いたはずだ。その正体について、先日の氏の釈明会見を見ながら「ああ、やはりそうか」と察するところがあったので、その話をしたいと思って今日はテキストを書いている。
■「ぶっ壊し」たかったのはこの社会
結論からいうと、多くの人が肌感覚で覚えたのであろう「違和感や異様さ」の正体は、立花氏の社会に対するまなざしにもとづいている。氏をつき動かしていたのはNHKに対する義憤ではなく、氏個人の社会全体に対する憤怒である。
立花氏が「無鉄砲」と評される行動をためらいなく行えるのは、氏がNHKに強い問題意識を持っていたからではなくて、氏が社会全体に憎しみをたぎらせていたからだ。氏が「ぶっ壊し」たかったのはこの社会そのものであり、その象徴として仮託していたのがNHKだったにすぎない。
立花氏は社会の手続きを遵守することに対して価値を感じない。氏にとって社会は、尊重するに値しないものだった。自分を尊重しない社会に持ちあわせる敬意など、なくても当然だからだ。
会見場で記者たちになかば説教のように言われたような「社会通念」「社会常識」は、立花氏になんら響くものではなく、氏にとってみれば唾棄すべきものの典型例で、そのことばを聞いては自分の決意をあらたにしたことだろう。やはりぶっ壊さなければならない――と。
■環境が作り出した「誰も信用しない人」
——なぜ私がそのように立花氏の「違和感・異様さ」を分析するのかといえば、自分自身に覚えがあるからだ。氏のようなまなざしを持つ人は、私の育った環境ではありふれた存在だった。社会の「まともな」「ちゃんとしている」人びとから排除され、あるいは存在しなかったことにされるような人びとが、私が生まれてから人生の多くを過ごした街には大勢いた。
立花氏が自身の動画で語るように、氏は幼少期から青年期にかけてまで、ひじょうに過酷な環境で過ごしていた。物心ついた時点で家族は機能不全状態、自身も小学生の頃に栄養失調で倒れるほど困窮した。15歳から家を離れて一人暮らしをはじめ、食いつなぐためにバイトに明け暮れた。
立花氏にとって人間社会はけっしてあたたかいものではなかった。氏は社会から包摂されるどころか「排除され、疎外されてきた人間」のひとりだったのだろう。氏が人間社会に対して感謝するどころか憎悪を抱くことになるのは無理もないことのように思える。
人間社会に対して憎悪が根底にある人は、他人を信用しない。いや、信用したくてもできないのだ。もちろん、一時的には他者と接近したりもするが、最終的には相手へ積み上がった不信感が限界を超えてしまい、かつて仲間・味方だったはずの人間を、徹底的に攻撃しはじめる。――今回の立花氏のように。
憎悪や不信感のなかで生きてきた人間は、組織を束ねることができないし、上に立つことができない。自分に従ってくれるような人間を「こいつは俺のことを本当に慕っているのだろうか?」とつねに心の奥底で考えてしまうからだ。
他人をまともに信じることができないばかりか、自分のもとを去る人間のことを「裏切り者」「敵」と見なしてしまい、絶対に許せなくなる。だがそれは、立花氏個人の資質や責任の問題というよりも、過酷な環境で疎外されることによって、人がそのような性質に変わってしまうのだ。
立花氏はいま党首として大勢の仲間に囲まれているが、おそらく氏はいまいる仲間のことをだれひとり心から信用できないのではないだろうか。自分のもとから去ろうとする人には、先日離党した区議会議員にしたこととまったく同じことをやってしまうだろう。
■「疎外されてきた人びと」の支持は高まる
憎悪を抱く人は、しばしば社会への憎しみが「実利」あるいは「理」を超えてしまうため、よくもわるくも自分に嘘(うそ)をつけないようになる。
たとえ得することであったとしても、心から思ってもいないようなことをけっして言えなくなる。まともな思考をすれば脅迫に当たるかもしれないような言動だとわかり、それを言わなければ実利が取れることがわかっていても、しかし我慢することができない。「お前の息子や家族の人生を潰してやる」と口走ってしまう。
立花孝志という男もまた、自分の憎しみ苦しみや復讐心を偽ってまで生きていきたいとは思えない人間だったのだろう。だから氏は「常道の枠内」の人になっても「社会的・政治的な常道に属さないアウトサイダー」だった頃のふるまいをやめなかった。いや、やめられなかった。
良識ある「まともな」「ちゃんとしている」人びとはN国のことを今回のことで見限るだろう。それがN国党という政党の限界ともなりえる。しかしながら、決して数は多くはないが、少なくとも今回の件で見限らないどころか、むしろ熱量高く応援する人びとが現れるだろう——立花氏と同じように、社会に対して復讐心を抱え、なおかつ社会の「良識」とか「常識的手続き」のようなものによって疎外されてきた人びとだ。彼らの支持は離れない。
■「独善的な復讐心」を抱いたポピュリスト
留意しておきたいのは、これこそが「ポピュリズム」と呼ばれる政治スタンスなのだ。
ポピュリズムは既存の左派からも右派からも否定され批判される。これまで「あたりまえ」とされてきた常識的な手続きや通念に対して糞を投げつけるような行為を通して、社会に異議申し立てをするのだから当然ともいえるが。ポピュリズムはまさしく「社会的・政治的な常道に属さないアウトサイダー」のふるまいであるが、それを「常道の枠内」に入っても、なおやめないからこそポピュリズムとなる。
たとえ社会常識的な逸脱があろうが、政治的常道に反していようが関係ない。疎外されてきた人びとは、立花氏の行動を自分の代わりに「快進撃」を成してくれているかのように歓迎する。
SNSやインターネットではN国党や立花氏は「意に沿わない個人や社会に対して異常な攻撃性を持つ過激集団」ということになってしまっただろうし、政見放送を見て「面白おかしい政党」としてN国党に票を投じたような人も今回の件によって離れるかもしれない。しかし、だからといって彼らが活動をやめるとはかぎらない。区議会議員に対する脅迫容疑(とその釈明会見)に端を発する一連の流れは、立花孝志という人間が社会に「独善的な復讐心」を抱いたポピュリストであると評価されるきっかけとなったことだろう。それは氏やN国党に対する大きな逆風となると同時に、支持者をより先鋭化・過激化させていく呼び水ともなる。
9月9日の会見場で「○○(議員名)をぶっ壊す!」と締めくくった時、立花孝志という男が「ぶっ壊す!」と言ったのは○○ではなく、それを画面越しに眺めていた私たちのことなのかもしれない。
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文筆家・ラジオパーソナリティー
会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「SYNODOS(シノドス)」などに寄稿。「note」での連載をまとめた初の著作『矛盾社会序説』を2018年11月に刊行。Twitter:@terrakei07。「白饅頭note」はこちら。
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(文筆家・ラジオパーソナリティー 御田寺 圭)
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