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1千万円をせしめた「担保提供の魔術師」の末路

プレジデントオンライン / 2019年9月24日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/K2_keyleter

消費者金融(通称:街金)の利用者には、他人の不動産を利用してお金を借りる人たちがいる。東京・池袋で街金を営むテツクル氏が「担保提供の魔術師」と呼ぶ男の正体とは——。

※本稿は、テツクル『ぼく、街金やってます』(ベストセラーズ)の一部を再編集したものです。

■無償で「自分の不動産」を提供する人がいる

ぼくはお金を貸すとき、原則として不動産を担保に入れてもらいます。

担保があれば、お金を返せなくなっても不動産を売らせれば回収できます。不動産を担保にするときの抵当権には順位がありますが、あまり気にしません。大丈夫です、回収します。そこが街金の力の見せどころですから。

自分がお金を借りるんだから、普通は担保に差し出すのは自分名義の不動産です。でも、中には他人の不動産を担保にする人もいます。自分では不動産を持っていなかったり、あるいは持っていても担保にするのがイヤな場合に、他人の不動産を自分の借金の担保にするんです。

他人の土地です。他人の家です。

ぼくらは貸したお金に利息をつけて返してくれればそれでいいので、喜んで貸します。でも、ほとんどの場合、ちゃんとお金を返してもらえないので、担保の不動産を売らせたり、取り上げることになります。

無償で自分の不動産を提供してくれる、そんないい人が世の中にはたくさんいます。
そして、そういういい人を利用して、お金を借りまくる人も世の中にはたくさんいます。

Aさんを連れてお金を借りに来たBさんも、そういう人でした。

■「担保提供の魔術師」が魅せる話術

Aさんはアパートを3棟持っている大家さんです。70歳くらいだと思います。一方のBさんは不動産屋です。高級住宅街の駅前で昔からやっている、いわゆる地場の不動産屋。地主の人たちからアパートやマンションの管理を任されています。

Bさんは、Aさんの持っているアパート1棟を担保として、ぼくにお金を借りに来ました。繰り返しますが、担保不動産の所有者はAさん、お金を借りるのはBさんです。

いったいなんで、自分の不動産を他人の借金のカタにするのか。ちっとも理解できません。

Aさんが何か弱みを握られているのか。

「今度、私が手がける事業がうまくいけば、すごく儲かるんだけど、ちょっとだけ資金が足りないんだ。協力してくれない? お礼はたんまり」

Bさんの素晴らしい話術に、実は欲深いAさんが乗ってしまって担保を提供してしまうのか。いずれにしても、Bさんは特殊能力を備えているんだと思います。ぼくはBさんのこと、「担保提供の魔術師」と呼んでいます。

さすがAさんのような優良資産家が持っている不動産だけあって、権利関係はとてもきれい。ぼくが1番抵当を取れるんです。

■「借りる金額はAさんに内緒にして」

トントン拍子に進む契約。それは突然のことでした。

「Aさん、ではあなたのアパートに1000万円の抵当権を設定しますので……」
「ああああああ、テツクルさん! そうそう! あれ!」
「は? Bさん、何なの?」
「あれ、えっとですね、あれ! ちょっといいですか!」

Bさんに部屋の外に連れ出されるぼく。部屋に取り残されるAさん。

「……ええとですね、すいません、わたしが借りる額のこと、Aさんに内緒にしてもらえます? ほら、1000万借りるとか言っちゃうと断られちゃうんで」
「は? 無理だよ、そんなの。ちゃんとAさんにもサインしてもらう書類あるんだから」
「そこをなんとか、なにとぞなにとぞ……」
「はー? 無理無理無理」

押し問答をしながら部屋に戻ると、不審げにこちらを見るAさん。

「あ! 大丈夫! 全然大丈夫!」

Bさんが汗だくでAさんに言い訳をします。

「えーっと、じゃあもう一度説明しますね。Aさんが担保提供するアパートに1000万の……」
「おおおおっと、テツクルさん! なんか冷房弱くないですか! 汗止まらなくて!」
「いいですけど……というか声大きいすよ。聞こえるから」
「ああっと! ごめんごめん! 電話かかってきた! ちょっと待ってて!」

■「話が違うじゃないか」と押し問答の末……

ボタボタ汗をかきながら部屋を出るBさん。部屋に残されたぼくとAさん。Bさんの不審な行動もあり、気まずい沈黙が流れます。

「Aさん、暑いですか?」
「……いえ、大丈夫です……ちょっとBさんと話してきてもいいですか?」

AさんもBさんを追って部屋を出てしまいました。ぜんぜん帰ってきません。話がもめて、帰っちゃったかな。でも荷物は置いたままだしな。会社の前でもめごと起こされたら恥ずかしいな……。

しばらくして、AさんとBさんが戻ってきました。まだ話はまとまってないようでした。

「だから話が違うじゃないか、さっきの人、1000万って言ってた」
「いや、違うんだって。実際はそんなに借りないから! 安心して!」
「じゃ1000万って何なの?」
「あれはね、1000万まで貸してもらえるってだけで、そんなに借りないから!」
「本当に?」
「当たり前でしょ! ぼくがAさんのこと騙(だま)したことある? ないでしょ?」

部屋の入り口で話してるから全部聞こえます。

Aさんは半ば諦めた様子で、「はいはい、わかりました。ハンコ押せばいいんでしょ」。そう言って、担保提供の契約書にハンコを押してくれたので、無事Bさんに1000万円貸しました。

■親族まるごと不動産を失う羽目に

Bさんは担保提供の常習犯なんです。定期的にぼくのところへ話を持ってきます。

「ちょっとテツクルさん、聞いてよ!」
「どうしたの?」
「こないだ借りた、よその街金ひどいんだよ! 結局、名義取られちゃってさ!」
「Bさんのものじゃないのにどうするの?」
「まあ、担保提供してくれた人は大丈夫。俺が絶対買い戻すからと宣言してるから」
「買い戻せるの?」
「まあ今度、高尾の2万坪を仕入れて分譲するから、それで返せるよ、大丈夫」
「高尾の山奥分譲して誰が買うんだよ……」
「仕入れるお金、貸してもらえない?」

Bさんは担保提供で借りたお金を、ほかの債務の利払いや生活費にあてて、本業の不動産業の売上げは散々です。

「テツクルさん、ごめん!」
「何?」
「こないだ話した担保提供者、口説けなかったわ! また次探すから!」

テツクル『ぼく、街金やってます』(ベストセラーズ)

そんなBさんですが、ついに担保提供者のネタ切れ。虎の子だったBさんの自宅もいまではぼくの会社の名義になりました。Bさんは家賃を払って元自宅に住んでいます。

そんなBさん、自宅だけでなく息子や義理の息子の自宅まで、一族郎党の所有不動産を最終的に売ることになったり、ぼくの会社の名義になったりで、すべてを失いました。

Bさん包囲網も最終段階だと思ってました。でも、あいかわらず電話がきます。

「テツクルさん! いい物件見つけた! 仕入れ資金貸して!」

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テツクル(てつくる)
消費者金融業者
20代より金融業に携わる。福岡と東京で修行し、現在、池袋で金融業(街金)を経営。この道20年を超えるベテランで、自分が金融業に入るきっかけを書いた自叙伝「ぼくと街金」(note)が好評を博す。新著に『ぼく、街金やってます:悲しくもおかしい多重債務者の現実』があるTwitterアカウント:@tetukuruixi

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(消費者金融業者 テツクル)

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