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なぜ「中の中の子」の人生はパッとしないのか

プレジデントオンライン / 2019年9月20日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbancow

成績優秀者ではないが、劣等生でもない。そんな「中くらいの子」は学校で放っておかれやすい。教育アドバイザーの鳥居りんこさんは「『中の中の子』は存在感が希薄で、意見も求められない。そのため、決められず動けない大人になる恐れがある」という――。

■放置される“中の中”の子「僕らは透明な存在なんです」

筆者は長年、首都圏を中心に私立中高一貫校の現場取材を続けている。教員だけでなく生徒たちの生の声を聞く機会を豊富に持っているが、最近、あることに気づいた。

取材先は中高一貫校であるゆえ、中学受験で入学してきた生徒が大半である。その中には合格難易度にかかわらず「学校生活に満足がいかない」と悩む生徒が多数存在している。こうした悩みを抱える生徒の多くが、成績的には「中の中」の生徒たちなのだ。

成績が学年の「中の中」というある中学3年生はこう言った。

「結局、僕は、先生たちから見たら、透明な存在なんですよ。いても気付かれない、透明なね……」

どういうことかといえば、学業も友人関係もとりたてて問題がないので、教師は彼らを放置する。可もなく不可もなくという存在は、結果的に期待も憂慮もされない、学費を払うだけの存在とみなされてしまうケースが少なくないのだ。

■中レベルの高校の中レベルの成績の子は自分に自信がない

「中の中」層の不遇……。これを裏付ける証言もある。大学偏差値で中堅よりやや下の位置を示す都内の私立大学の教授が「現在の教育の問題点」として語ってくれた話だ。

「私のゼミでは、とにかく学生に意見を言わせることを大切にしています。ところが、最初はなかなか意見を言わない。ウチに入ってくる子たちは、中くらいの高校の中くらいの成績を収めてきた子たちがほとんどですが、彼らは、まず、自分の意見を第三者の前で発言してきた経験がないから、突然、考えていることを発表しなさいということに対処できないのです」

さらに、その教授はこう教えてくれた。

「彼らは決して、意見を持っていないわけではなく、むしろ、その逆です。その証拠に、ゼミ生たちはこう言うのです。『先生、自分も意見を言っていいんですね? 今まで、こんなにも自分の話に真剣に耳を傾けてくれる大人はいませんでしたから……』。つまり、彼らは今までの人生の中で主張してこなかったのではなく、その主張を黙って聞いてくれる“大人”に巡り会ってこなかったのです。彼らの主張・意見にはキラリと光るものがしばしば含まれます。これまで彼らを黙殺してきた大人たちの“罪”は今、いろいろなところに露呈していると思います」

これは「大学から見た現在の中高教育の問題点」という取材テーマの中での発言だ。

写真=iStock.com/urbancow
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbancow

■“承認欲求”が満たされないと「人生の満足度」はがた落ち

筆者もこの「中の中の子が危ない」という指摘に賛同する。人は大人も子供も“承認欲求”を持つ生き物だが、その欲求が満たされないと、人生の満足度は極端に下がるものではないだろうか。

特に思春期は精神的に不安定になりがちな年頃だが、彼らは「君は存在するにふさわしい」という第三者の肯定を待っている。つまり、「ほっといてほしい」のではなく、まずは「話を聞いてほしい」のだ。

ところが、この多感な時期に大人に真剣に意見を聞いてもらえなかった子たちは大勢いる。そして、やがて、待ちくたびれた子たちは自己肯定感不足のまま大人になっていくのだ。

その結果、前回の「LINEと若者事情」を綴った本欄の記事でも指摘したが、彼らの多くが空気を読みすぎてしまい、その場を支配している誰かの意見に無条件に迎合するような行動を取ってしまうようになる。これが“習性”となってしまうちに、結果として彼らはこうなりがちだ。

「自分の意見を持つ自由を失う」

旧来の社会では、それでも十分、生きて行けた。いや、“滅私奉公”をわが使命とし、何も考えず、上の命令に忠実である働きアリのほうがむしろ歓迎されただろう。しかし、社会はすごいスピードで変わっており、従来の常識では対応できないことばかりだ。正解のない時代に求められるのは、自分の頭で考え、自分で決断を下し、行動できる強さだ。

■在学中は目立たなかった子が超難関大学に合格できたワケ

では、どうすれば、そのような力を得ることができるようになるのだろうか。

筆者はさまざまな学校で「ミラクル君」と呼ばれた卒業生に話を聞いている。ミラクル君とは、在学中は目立たなかったにもかかわらず、結果的に超難関大学に入学、あるいは自身の夢をかなえたという元生徒のことである。各学校の教員から聞くそうしたエピソードを整理すると、ミラクル君には共通点があることがわかった。

それは必ず、「友人と先生に恵まれていた」ということだ。

学校に対する満足度が高いと答える中高生はほぼ100%、「良い友だちがいた」と言う。この「良い」という言葉を深堀りしていくと、こうなる。

「何でも話せる子がいる」
「気が置けない」
「悩んでいる時に、ただそばにいてくれる」

そして、「先生が良い」と証言するのだ。この「良い友だちと先生に恵まれた」生徒の例を挙げよう。

写真=iStock.com/ferrantraite
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ferrantraite

■やる気がない「中の子」が「難関医学部合格」できた背景

それは神奈川県内のある進学校に通っていた「ごく普通の男子生徒」。聞けば、部活は帰宅部、勉強は進級には問題ないという典型的な「中の中」だった、と自分自身のことを振り返る。しかし、周りの子たちが高3になって、大学受験体制に入った時に、こういうことが起きたという。

「自分は高2くらいまで定期テストに対して意欲があまりわきませんでした。勉強に対して前向きは気持ちになれなかったんです。でも、ゲーム仲間として仲が良かった友人たちが高3になった瞬間に、目の色を変えて勉強するようになったんです。彼らは特進クラスの人間でしたが、彼らとつるんでいるうちに、理解できていない部分を教えてもらうようになって、自分もその波に飲まれたというか……。それで勉強するようになりました」

結局、浪人後、第一志望大学の超難関の国立大医学部に合格した。

「『受験は団体戦』って言葉が身に染みてわかりました。自分はそれまで努力の意味すらも知らない人間でしたが、仲間と『なぜ勉強するべきか?』というような話もたくさんしたんです。それで出た結論が『自分の人生を生きるため』ってことだったんです。それで、受験には必要性があるって思えたので、勉強しはじめたんです」

その彼が、もうひとつ「きっかけ」となった理由を教えてくれた。

「高校での担任はずっと同じ先生でした。先生は、放課後の教室で私や友人の話をただただ聞いてくれました。勉強にやる気がなく、ゲームざんまいの僕に対しても、その先生は『お前はやればできるんだから』ってずっと言ってくれたんです。僕らのことを見捨てないでいてくれた。そのことが(勉強した)きっかけといえばきっかけですね」

■全生徒1500人の顔と名前を記憶する校長の目配せ力

こうした「良い先生」は目を学校の隅々まで行き届かせている。

取材を通して「生徒の満足度が高い」と感じられたある共学校の校長先生は、全生徒約1500人の顔と名前を記憶し、なるべく生徒に話しかけるようにしていた。

同じように生徒の満足度が高かった女子校では多くの先生方が生徒ごとに異なる登校時間を完璧に把握していた。今までとは違う時間に登校した子には間髪入れず「何かあった?」と聞いてくれるということをその学校の保護者から聞いた。

つまり、「学校満足度が高い学校」でダントツに多い理由は「先生が自分をちゃんと見てくれている」なのだ。要するに、生徒の顔を見て、話を聞き、その良さを認めてくれる先生がいる学校には幸せな生徒がたくさんいるということだ。

写真=iStock.com/ferrantraite
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ferrantraite

■「中の子」が輝くには親が聞くことが大切

一方、中高生の子を持つ親は、大学進学を控えて学習面などに関して子どもへの要求レベルが高くなりがちである。子どもの成長と共に、無条件に子どもそのままを認めてあげることがなかなかできなくなってしまう。生徒からすると、そうした「生きづらい」環境の中、たったひとりの先生が「ちゃんと見てくれている」=「話を聞いてくれる」というだけで救われるのだ。

親は「言う」ではなく、「聞く」ことが大切なのだ。それが、子ども自身が自分の考えをまとめ、自分という存在を意識し、発信していく基礎となる。仮に、学校内で「中の中の子」であったとしても、親がそうした姿勢であれば、子どもは自ら輝きだすはずだ。

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鳥居 りんこ(とりい・りんこ)
エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー
執筆、講演活動を軸に悩める母たちを応援している。著作としては「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)、「ノープロブレム 答えのない子育て」(学研)、「主婦が仕事を探すということ」(東洋経済新報社 共著)などがある。最新刊は「鳥居りんこの親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ」(ダイヤモンド社)。ブログは「湘南オバちゃんクラブ」「Facebook 鳥居りんこ」。

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(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ)

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