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なぜ日本女性はそこまで出世したくないのか

プレジデントオンライン / 2019年9月25日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/oatawa)

家事・育児の分担や家族のあり方を研究してきた立命館大学教授の筒井淳也先生は、日本女性のキャリア志向は世界的に見て低いと指摘します。私たちのキャリアアップを阻む2つの壁とは――?

■世界的に見て低い女性のキャリア志向

日本女性のキャリア志向は、世界的に見て低いと思います。長く働き続けたいという女性の数も大きくは増えておらず、現状では「女性のキャリア意識が顕著に高まっている」という証拠となるデータはないと思います。

とはいえ、これから徐々に高まっていくと考えられます。終身雇用が崩れつつあり、雇用形態も不安定化しており、共働きでないとリスクが高いと感じる人が多くなるだろうからです。

性別分業を脱して、平等な均衡状態に持っていくためには、政策支援も必要ですし、個人の意識も変わらないといけません。非常にゆっくりではありますが、共働きが増え、それに伴って管理職に就く女性も増えていくでしょう。

■そもそも、男女平等を目指すべきなのか

私の考えとしては、特段のデメリットがなければ男女平等に近づけていくべきと思っています。ケア役割やハラスメント問題に対する配慮に関しては、男女で大きく違っているのが現状です。ただ、より多くの女性が責任のあるポジションに就くことで、こうした問題が改善されていく可能性があります。

もちろん例えば独身でバリバリ働いている女性が管理職になった時に、子育て中の人への配慮が進むかどうかは、ケース・バイ・ケースでしょう。「男性的」な考えの女性が管理職になり、ケア責任を負わされる人を冷遇してしまう可能性もあるからです。しかし、もちろんそういう人が出世してはいけない、というわけではありません。いろんな生き方をする人がいますので、すべての人が公平に思える制度設計をすることは不可能ですが、特定の生き方を露骨に優遇することを避け、ストレスを減らしていくことを目指すべきです。

■転勤が問題になり始めてまだ2~3年

なぜこんなに共働きや女性管理職の増加が遅いのかについて、私が考える理由は2つあります。

1つ目は、日本的雇用。日本の大企業で出世しようと思うなら、転勤・配置転換・長時間労働を受け入れる前提になります。特に、今年19年6月に炎上したカネカの件のように、転勤を受け入れるのは大変です。夫も妻も転勤ありの会社で子育てをするのは難しいでしょう。しかし、会社は容赦なく転勤を命じることが割とよくあります。

専門家は以前から指摘していましたが、世間的に「転勤は共働きにとって非常にきつい」という議論になったのは、ここ2~3年のことだと思います。共働きが徐々に目立つようになり、不満の声が大きくなってきたからでしょう。これまでは転勤を受け入れることはなかば当たり前でしたが、徐々に意識が変わってきています。

■転勤は減らせるのか

子どもにとっても元々よくない制度ですし、専業主婦の方であっても、男性が単身赴任になって、もし一人で子育てをすることになったら大変です。ですから、昔ならば転勤がすんなり受け入れられていた、というわけではないと思います。共働きが増えたことによって、転勤の問題が先鋭化したのではないでしょうか。

会社が転勤をさせる理由としては、人材育成と人員調整の2つの意味があります。人材育成を目的として転勤をさせている企業ならば、工夫次第で減らせると思います。しかし、人員調整でやっている場合は、転勤を封じられると解雇が生じるので、難しい問題となるでしょう。ある部署で人がだぶつき、ある部署で不足していた場合、日本では配置転換と転勤でなるべく解雇をしないようにします。ですから、転勤がどこまで減らせるかは、現時点では未知数です。

■配置転換もキャリア形成の妨げに

配置転換も、人員調整の有力な手段になっていますが、女性のキャリアにとってネガティブな要素だと私は思います。ジェネラルスキルばかりが身に付いて、その会社では有利になるかもしれませんが、専門性は身に付きません。ですから、転職や再入職した時に給料がリセットされてしまいます。子育てで一度キャリアを中断して、次に新しい職に就いた時に、「今までいろいろやっていましたが、特定のスキルは身に付いていません」ということになってしまう。それに「どうせ異動する」と思うと、部署で取り組んでいる仕事に対する思い入れが無くなり、モチベーションも下がるかもしれません。

海外はプロフェッショナルスキルが身に付きやすく、例えば経理ならずっと経理の仕事に就くことができます。転勤もほぼありません。人員調整を企業内部の転勤や配置転換によって行うことを「内部労働市場」といいますが、それと対象的なのが「外部労働市場」です。職場や事業所で人が足りなくなったら、その近くに住んでいる人員を、必要な期間だけ雇います。企業間で人材が共有されているようなイメージです。

日本の企業では、突然全く経験のない部署に配属させることが多々あります。配置転換をする理由は、人材育成や人員調整という目的以外に、癒着などの防止のためという会社もありますが……。女性のキャリアを考えたとき、これらを配置転換以外の方法で対応するという方法をきちんと考えるべきでしょう。

■海外では「わたし、定時で帰ります」は成り立たない

また、残業が常態になっているのも、日本の働き方の一つの特徴です。今年「わたし、定時で帰ります」というドラマがありましたが、定時に帰って当たり前の海外では、これがドラマのタイトルになることが理解されないでしょう。「わたし、残業します」なら、ありえるかもしれませんが……。

一方で、欧米の企業でも、管理職や役員、幹部候補の人はしばしば残業をします。休日も働き、自宅でも働いているようです。ただ、そういう人たちは、40代半ばごろまでにひと財産築いて、50歳手前で引退し、その後はのんびりと過ごすという目標を立てて働いている人が多いと思います。そういうビジョンが見えていれば、多少無理をしてバリバリ働くのも1つの選択肢になりえるでしょう。

こういう、残業をしてまでバリバリ働いて早めに引退するほんの一握りの人以外は、早々に出世のレースから降りています。それなりの稼ぎで、家庭を大事にするという人が多いのです。

日本は末端の人まで長時間労働なのが問題なのです。そして、昇進の到達点が見えてくるまでが長い。「もしかしたら自分も上に行けるかもしれない」と多くの人が思うので、なかなかレースから降りられません。幸せは人それぞれですが、早めにレースから降りて、そこそこの稼ぎでやっていくという選択肢が少ないのも問題です。

いずれにせよ、何のビジョンも見えないまま長時間労働を強いられるのでは、積極的に管理職になりたいという女性が増えにくいのは当然と言えるでしょう。

■女性公務員の数が少ない

日本社会の特徴の2つ目は、公的雇用が少ないこと。諸外国では、公務員は女性職で、女性のほうが圧倒的に多いのです。例えば北欧諸国は、公的雇用を通じて、女性の社会進出を支えてきました。しかし日本は、政府による雇用創出の利益を得られているのは、男性が多い。せっかくの公的雇用なのに、女性を活用できていません。

そもそも、日本は他国に比べて公務員の数が少ないのです。日本では公務員を増やさない代わりにいわゆる外郭団体を増やしてきたという経緯はありますが、そういった組織による雇用を考慮しても、まだ少ないのです。

欧米諸国は福祉国家が成熟した後に行政改革を開始しましたが、日本は経済発展の早い段階で公的雇用の膨張を防ぎ、公務員数の増加を止めてしまいました。さらには、財政が厳しくなってくると、公務員は減らすべきだという声も出てきます。最近になって少しずつ変わってきているかもしれませんが、これまでは「公務員を増やすなんてとんでもない」という声のほうが多かったように思います。

日本的雇用の構造も、公的雇用が少ないことも、女性を排除しようと思ってやったことではありません。しかし、結果的に不利な条件がそろってしまっているのです。

参考文献
前田健太郎(2014)『市民を雇わない国家』(東京大学出版会)

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筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。

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(立命館大学教授 筒井 淳也 構成=梶塚 美帆 写真=iStock.com)

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