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働きがいのあるホテル「リッチモンド」の満足度

プレジデントオンライン / 2019年9月26日 17時15分

2019年度JCSI(日本版顧客満足度指数)第1回調査結果発表より抜粋

■「人材活用」を工夫する高評価ホテルの裏側

仕事で出張する場合、どんなホテルを選べばいいのか。各種調査で安定して高評価を得ているホテルのひとつが「リッチモンドホテル」だ。

例えば、日本生産性本部の「JCSI(日本版顧客満足度指数)調査」によると、ビジネスホテル部門での総合評価「顧客満足」では、2018年度まで4年連続1位だった。最新の2019年度調査では、ドーミーインに首位の座を譲り、僅差の2位だったが人気は底堅い。

人気の秘密はどこにあるのか。筆者が取材したところ、その背景には「人材活用」の工夫がある。今回は高評価ホテルの裏側を紹介しよう。

■トイレとバスの同室を好まない人が増えた

九州有数の繁華街・福岡県福岡市の天神地区――。老舗百貨店・岩田屋の近くにあるのが「リッチモンドホテル天神西通」だ。開業したのは今年3月22日。全国に40以上の施設を展開する同社において、福岡県内で3棟目、天神エリアでは2棟目のホテルだという。

部屋数は220室。室内はモデレートシングル(ダブル)タイプ以外の客室は「3点分離」となっている。3点分離とは、トイレ・バス・洗面台を別々に設置するもの。利用者の室内で過ごす快適性への要求が高まるにつれて、従来の3点一体型(3点ユニットバス)は好まれなくなった。特にトイレとバスの同室を好まない人が増えたのだ。

画像提供=アールエヌティーホテルズ
「スーペリアツイン」の客室。バス・トイレ・洗面台がそれぞれ独立。奥にみえるのが洗面台だ。 - 画像提供=アールエヌティーホテルズ

ちなみにリッチモンドホテル全体の客層は「男性客が7割強、女性客が3割弱。コア利用年代は男性が40代と50代、女性が20代と30代」(広報担当)だという。

宿泊客への「アメニティ」で、女性客の評価が分かれやすいのが、シャンプーやコンディショナーだ。これは髪質や好みによるが、同ホテルではノンシリコンタイプの製品を用意している。過去には顧客の要望に応え、部屋の消臭剤を花王と共同開発したこともある。

■直営41施設の朝食内容はすべて違う

「当ホテルは、ホテル会員の利用が非常に多いのが特徴です。現在約99万人の会員がおられ、その4割が毎年ご利用されます」

こう話すのは運営会社・アールエヌティーホテルズ西日本営業部部長の三宅一平氏だ。出身は埼玉県久喜市だが、入社後に国内各地の施設勤務などを経て、現職に就いた。

ここでいう会員とは、年会費無料の「リッチモンドクラブ会員」で、部屋の予約や宿泊料金などが優遇される。会員カードを発行するホテルは珍しくないが、利用率が非常に高い。特に人気メニューなのが朝食だ。

「現在は、直営で41施設ありますが、朝食の食事内容はすべて違い、地域色を打ち出しています。『天神西通』では施設1階のロイヤルホストで提供しますが、九州名物のさつま揚げ、筑前煮、辛子明太子、辛子高菜もそろえています」(三宅氏)

撮影=プレジデントオンライン編集部
リッチモンドホテル天神西通の朝食ビュッフェ。1階にあるロイヤルホストで提供される。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■3人の社員が朝食からアメニティまですべてを決める

リッチモンドの親会社は、ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を傘下に持つロイヤルホールディングス。グループ会社の食材調達力がハイレベルな朝食を支えている。その内容について、天神西通の支配人・俵谷雅人氏の説明が興味深い。

「当ホテルの場合は、開業9カ月前にできた『準備室』でサービス内容を決めていきました。もちろん本部との交渉はありますが、原則としてその内容は私たち現場のスタッフに任されています。だから各ホテルの朝食が地域色豊かになるのだと思います」

撮影=プレジデントオンライン編集部
リッチモンドホテル天神西通の支配人・俵谷雅人氏 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

現在、「リッチモンドホテル天神西通」のスタッフは19人。そのうち社員は3人で、残りの16人はパート・アルバイトだ。3人の社員がスタッフの採用から、朝食メニュー、アメニティまでホテルのすべてを決めるという。

■手間が多く、コストが上がっても、現場が選ぶワケ

現場が主導するのは朝食メニューだけではない。例えば宿泊客が着る「パジャマ」もそうだ。以前はワンピースタイプが多かったが、「セパレート(上下別)がいい」という利用客の声を反映させ、天神西通ではセパレートタイプとした。スタッフが着用する「制服」も同様だ。女性の場合、ジャケットではなくワンピースを選ぶこともできる。

地方色を打ち出したい朝食メニューならともかく、パジャマや制服の場合は、本部が決めて一括支給するほうが効率的で、コストも抑えられるはず。なぜ、そうしないのか。

撮影=プレジデントオンライン編集部
リッチモンドホテル天神西通のフロント。落ち着きのある内装も、現場のスタッフが選んだ。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

「2004年に現在の会社設立当初(※)から『CS向上委員会』を発足させ、スタッフが中心となり、お客さまの満足を高められるよう取り組んできました。パジャマの選択もその一環で、制服は施設の立地イメージやスタッフの働きやすさを優先します。本部は口を出さず、従業員の大半を占めるパート・アルバイトさんが主役となってお客さまに接するという方針で、これらはアールエヌティ独自の企業文化なのです」(広報担当)

本部が決めて一括支給すれば、確かに手間は少なく、コストも下がる。しかし現場には「やらされ感」が出てしまう。一方、自分たちで選ぶことができれば、その職場は「自分たちのホテル」と思える。従業員満足度には大きな影響がありそうだ。

※株式会社アールエヌティーホテルズは、ダイワロイヤルから「ロイネットホテル」の名称で展開していたホテル事業の一部を継承する目的で2004年に設立。2007年からロイネットホテルを「リッチモンドホテル」の名称に変更した。その後に開業した施設も同名で運営している。

■「営業部長」や「支配人」もアルバイトからのたたき上げ

ホテル業は厳しい仕事だ。離職率は高く、人材採用も簡単ではない。いまや国内に40以上の施設を展開するホテルの「営業部長」や「支配人」だが、三宅氏も俵谷氏も振り出しはアルバイトだった。

20代後半で同社の採用試験を受けたという営業部長の三宅氏だが、若い頃は自分探しを続け、大学も中退。遊びに没頭した時代もあったという。

「自分の経歴を隠さず伝えたのですが、当時の社長は面白がって採用してくれました。私は『拾ってもらった』感もあり、この会社や仲間のために頑張ろうと思ったのです」(三宅氏)

撮影=プレジデントオンライン編集部
アールエヌティーホテルズ西日本営業部部長の三宅一平氏 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

支配人の俵谷氏も、2009年に27歳でアルバイトとして入り、「リッチモンドホテル宇都宮駅前」勤務時代に社員となった。2011年3月11日の東日本大震災では宇都宮市も震度6強を記録。幸い人的被害はなかったが、被災者の対応に追われたという。その後、2011年に「同札幌駅前」、2015年に「同札幌大通」、2016年に「同博多駅前」に異動した後、開業準備室に赴任した。

■「朝食」に注力する一方で、館内に「大浴場」はない

筆者は長年、企業取材を続け、人材活用の「ダイバーシティ」(多様性)とも向き合ってきた。以前に比べて進んだが、まだまだ採用においては新卒重視で、中途採用もピカピカの人材を欲しがる会社は多い。一方、同社は“寄り道人材”が入社後に接客技術などを磨き、自己研鑽(けんさん)する。スタッフは自社の「ホテルブランド」を愛し、パート・アルバイト出身の支配人が生まれやすい土壌がある。

撮影=プレジデントオンライン編集部
フロント横にあるソファスペース。ビジネスホテルらしくない色彩豊かなデザインだった。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

顧客重視のリッチモンドホテルの訴求にも課題は残る。例えば「朝食」に注力する一方で、館内に「大浴場」はない。

楽天トラベルの「出張に関するアンケート」(2014年10月29日~31日調査)によれば、ホテル選びのトップ10は、上から順に「価格」「立地」「朝食の質、量」「ベッドの大きさ、寝心地」「部屋の広さ」「接客サービスの質」「楽天スーパーポイントが貯まる」「大浴場の有無」「ホテル独自の会員特典」「アメニティの種類、質」だった。

リッチモンドホテルが注力する「朝食」は3位で、8位の「大浴場」は設置していない。

■設備の充実だけがウリのホテルは足をすくわれる

また2018年に、Aカードホテルシステム(独立系ホテルのキャッシュバックポイントカードを運営する企業)のアンケート調査「出張ビジネスマンのホテル利用実態」によると、「今後望むもの・今までにあった便利なもの」では、「朝食の提供」(35%)、「朝食の質・味・充実」(16%)とともに、「大浴場に関する要望」(11.5%)が挙がる。

競合では今回、顧客満足度1位となった「ドーミーイン」が大浴場をウリにする。一方、大浴場は設置に多額の費用がかかり、メンテナンス費用もかさむ。リッチモンドホテルが「3点分離」を進めるのも、そうした点が影響しているのだろう。

どの業界でも「人手不足」が課題になるなかで、リッチモンドの人づくりは際立っている。好待遇でピカピカの人材を集めても、定着するかどうかはわからない。自社に愛着をもつ人材をどれだけ育てられるかは、飲食など他業界でも重要度が増している。

今後、設備の充実だけがウリのホテルは、そのうち足をすくわれるだろう。リッチモンドの健闘からは、そうした予兆が感じられた。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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