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樹木希林さん"祝儀不祝儀は3000円"は非常識か

プレジデントオンライン / 2019年9月28日 6時15分

2018年9月30日、都内で樹木希林さんの告別式が営まれた - 写真=アフロ

法事の香典はいくら包めばいいのか。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「昨年亡くなった女優の樹木希林さんは祝儀も不祝儀も一律3000円と決めていたそうです。香典の場合、地方では3000~5000円、首都圏では1万円が一般的。都市部では世間体を気にした上乗せが生じやすいようです」という——。

■樹木希林さん「祝儀・不祝儀は3000円と決めています」

彼岸入り前の9月15日は、女優の樹木希林さん(享年75歳)の一周忌だった。公に一周忌法要は実施されていないようだが、テレビや雑誌が特集を組むなど、樹木さんの存在感はいまだ健在だ。

樹木希林『一切なりゆき 樹木希林のことば』(文春新書)

彼女の語録を収めた本も売れ続けている。『一切なりゆき』(文春新書)は今年6月に120万部そこそこだったが、一周忌のタイミングで150万部を突破した。本書の読者の多くはシニアの女性だという。編集部に話を聞くと、「病気や夫との関係など、さまざまな逆境を自然体で受け止め、肯定的に明るく生きた点が支持されているようです」。

その樹木さんの生前の言葉で、興味深いフレーズがあったので紹介しよう。

「祝儀・不祝儀は3000円と決めています」

生前、樹木さんは結婚式や葬式に呼ばれた際、「袋の中身」は誰であっても、3000円に決めていたという。樹木さんからすれば、「世間体を気にして、いちいちご祝儀や香典の中身に苦心するのはバカバカしい、だったら一律3000円にすればいいじゃないか」という意図らしい。実に樹木さんらしい立ち振る舞いだ。

■香典「一律3000円」は妥当な金額なのか

野暮(やぼ)ではあるが、葬式の香典が一律3000円というのは妥当な金額と言えるかどうかを見ていきたい。結論からいえば葬式の香典の金額として3000円は常識の範囲内と言えるだろう。

「香典(奠)」という言葉は、本来は霊前にお香を手向ける代わりとして、金銭をお供えすることに由来する。したがって、お香の代金を基準にするならば、香典の金額はたかが知れているのだ。

そもそも香典の金額は地域性でほぼ決まる。地縁が残っている地方都市では「3000円」か「5000円」がおおかたではないだろうか。

いっぽうで首都圏の場合は「1万円」がスタンダードな金額のようだ。これは都市部では地縁の結束がもろく、個人単位で葬式に参列するケースが多いからである。

ムラ社会では江戸時代からの檀家制度や、慣習に基づく暗黙知によって香典の額がそれとなく決まっている。

しかし、「個の社会」になっている都市部では、金額を決めるよりどころがない。そのため、世間体を気にした「心理的な上乗せ」が生じるのである。

撮影=鵜飼 秀徳
お彼岸の季節に合わせて咲くヒガンバナ - 撮影=鵜飼 秀徳

■東京は「1万円が相場」だが3000円でも差し障りない

これは、前回のコラムで触れた通り、葬式の布施相場と同じ構造である。だから、樹木さんのように世間体さえ気にしなければ、東京でも3000円でも差し障りない。とはいえ、喪家から頂く香典返し以上の金額は包んでおくのが好ましいと、私個人的には思う。

香典は数千円で済むが、葬式の布施は万単位になる。このところ、葬式の布施の金額を巡って住職とトラブルになるケースをしばしば耳にする。

「あなたの家は前回のお葬式で500万円のお布施だった。今回も同様の金額で」

とか、

「院号居士が欲しければ100万円以上」

などと、法外な金額を提示する寺もあるそうだが、とんでもないことである。布施は喜捨(払う側が布施することに喜びを感じて金額を決め、差し出すもの)であり、僧侶側が金額を決めることではない。だから、布施は非課税とされているのである。

■高級外車を乗り回すが「葬式の布施1万円」

とはいえ、あえて言えば、布施をする側も常識的な感覚は必要だと思う。

最近では、ブランド品を身に着け、高級外車を乗り回しているのに「葬式の布施1万円」などというようなケースもあると聞く。「故人を供養したい」と願う心がけはそっちのけで、「なるべく安く済ませたい」とのコスト意識ばかりが優先するのであれば、布施の意味そのものが失われてしまう。

お寺に対しても失礼だ。人が亡くなった際には、住職は日時を問わずに枕経に駆けつけなければならない。仮に旅行の予定があったとしても、キャンセルして通夜・葬式をつとめるのが通例である。布施を出す際には一般通念上、金額が妥当かどうかを吟味する必要があるだろう。

生活に余裕のある人は、布施も多少は多めに包んでいただき、一方で、生活に困っている人は1000円でも1万円でも問題ない。僧侶は金額の多寡にかかわらず、きちんとおつとめをしなければならない。寺檀関係は相互にフェアでなければ、将来的に寺院や墓を維持していくことは難しくなるだろう。

もっとも、「お経も適当で、ろくに説法もしない。お寺も荒れ放題で、夜は銀座のクラブで遊びほうけている。こんな住職に布施を出したくない」というケースもあるかもしれない。そんな菩提寺ならさっさと、檀家をやめたほうがよい。

■日本の布施水準は世界基準でみると高いのか安いのか

ちなみに、国際的にみて日本の布施水準は高いのだろうか。

たとえば、ドイツの場合には国家が教会税を徴収するシステムがある。自分の信仰する宗教がキリスト教であれば、所得税の8〜9%が教会税として課される。居住地の州や収入によってその金額は変わるが、年収の1%未満であることが多い。

撮影=鵜飼 秀徳
教会税が制度化されているオーストリアの教会の修繕風景(2011年) - 撮影=鵜飼 秀徳

仮に年収の0.5%だったとしても、1000万円の収入の人は5万円だ。日本の寺院や神社に年間5万円を払っている人は少数派だろう。寺院の墓地管理費は年間1万〜2万円のところが多いだろうか。数年に1回の法事や20年に1回程度の葬式での布施は生じることはあっても、トータル金額では日本のほうがドイツよりも負担が少ないとみてよいだろう。

教会税のある国は他にもスイス、オーストリア、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、アイスランドなどである。ドイツでは近年、この教会税に対する反発が激しく、教会を離れる国民が増えているという。とはいえ、教会税を導入する国では、国家が教会を支える仕組みを整えているわけだから、ドイツの教会は、日本の宗教法人の経営基盤よりは盤石だと言える。

米国の教会の場合は、富裕層が教会を支えている。信心深い億万長者が億単位で寄付をし、教会はその運用益で維持ができている。さらに、信徒による決められたメンバーフィー(会費)もある。

■宗教法人が「マンション経営」せざるをえない理由

日本の寺社もかつては、企業の創業者や地域の有力者が金品を寄進し、それで維持されてきた。しかし、そんな企業も創業家が経営から退き、サラリーマン社長に代替わりして、状況は一変した。

たとえば建築物の建て替え事業などの際、寺院や神社が企業に寄付を募っても、「宗教法人に金を出すなんて、社内稟議が通らない」「株主に納得のいく説明ができない」「なぜ企業が神仏を敬わなければならないのか」などとして、断られるケースが相次いでいる。

そうして、宗教法人側が苦肉の策として講じるのが「マンション経営」や「移転」である。

世界遺産で知られる京都の下鴨神社では2015年の式年遷宮事業で、社殿の建て替えを計画。しかし、企業の寄付金が思うように集まらずに、50年の定期借地権を設定して分譲マンションを建築。その借地料収入でなんとか事業をやり終えた経緯がある。

撮影=鵜飼 秀徳
式年遷宮で資金難にあえいだ世界遺産の下鴨神社 - 撮影=鵜飼 秀徳

あるいは、多額の資金が必要になった際、その土地を売却し、郊外により安い土地を求め、差益を事業費に充てる手法も最近では増えてきた。近年では京都市の中心、上京区にあった出世稲荷神社が社殿の老朽化に伴い、境内地を売却。郊外の左京区大原に引っ越した。跡地にはマンションが建設された。

撮影=鵜飼 秀徳
出世稲荷神社が移転した跡にマンションが建った(京都市上京区) - 撮影=鵜飼 秀徳

京都では、ほかにも複数の名だたる寺院・神社が境内地にマンションを建てたり、移転したりするケースが相次ぐ。そうした状況に国や行政は「政教分離」を理由に、手出しをすることはできない。京都の場合、企業や個人の寺社を支える意識が薄れた結果、景観を損なってしまうというジレンマに陥っているのだ。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学文芸学部卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)など。近著に『仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか』(文春新書、12月20日発売)。一般社団法人良いお寺研究会代表理事。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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