パパ活での「やり逃げ被害」は詐欺罪に問えるか

プレジデントオンライン / 2019年10月2日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Juanmonino

若い女性が「パパ」と呼ばれる男性とデートをして、その見返りとしてお金をもらう「パパ活」。もしパパ活で自分の体を提供したのに、「パパ」が対価を払わず逃げてしまった場合、罪に問うことはできるのか。弁護士の理崎智英氏は「民事は難しいが、刑事での判断はわかれる」という――。

■安易な「パパ活」もれっきとした売春行為

最近、男性と食事をしたり、デートしたりする代わりに、男性から、その謝礼として、現金やブランド物の財布やバッグ等の対価をもらう、という活動をしている女性が増えているようです。そのような活動あるいはそのような男性を探すための活動は、「パパ活」などと呼ばれています(なお、若い男性を年上の女性が援助する「ママ活」という活動もあるようです)。

スマートフォンの普及により、マッチングアプリやマッチングサイトなどで簡単に相手を探すことができ、手軽にお金が手に入るということで、特に若い層を中心に「パパ活」をする女性が増えています。

さらに、女性の中には、自分の体を提供する代わりに、男性からその対価として数万円をもらう、という内容のパパ活までしている人もいます。少し前までは「援助交際」(援交)と呼ばれていました。

気軽にお金を払ってもらえるから、という安易な考えでパパ活をしている人もいるかもしれません。しかし、自分の体を提供する代わりに相手からその対価をもらうという行為は、「売春行為」であり、売春防止法に違反する違法な行為です。

そして、売春防止法は、売春をする目的で、「公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること」を禁止しており、違反者には6カ月以下の懲役または一万円以下の罰金に処せられます(同法5条1項1号)。

そのため、インターネットやSNS等の「公衆の目にふれるような方法」で、女性が体の提供をする代わりに対価を得ようとして、相手(パパ)を募集することは、上記要件に該当することになりますので、刑罰に処せられる可能性があるということになります。

■「パパ」に民事上の責任を追及することはできない

男性の中には女性と性的関係をもった後で、女性にお金を支払わずに逃げてしまう人もいるようです。

それでは、男性と性的関係をもった後、男性がお金を支払わないような場合、女性は男性に対して、対価の支払いを求めることはできるのでしょうか。それとも、女性としては泣き寝入りするしかないのでしょうか。

この点、男性は女性に対して、一度は対価の支払いを約束したわけですから、女性は男性に対して、約束通りに対価の支払いを求めることが可能なようにも思われます。

しかしながら、女性が自分の体を提供することの対価として、男性から金銭を受領する、という内容の契約(パパ活契約)は、善良な風俗に反するものであるため、公序良俗に反して無効です(民法90条)。男性は、女性にお金を支払うと約束したとしても、そのような約束を守る法律上の義務がないということになります。

そのため、性的関係を結んだあとに、男性がお金を支払わなかったとしても、女性は、男性に対して、お金を支払うよう求める法律上の権利はありません。

また、女性としては、約束したお金を支払わなかったことを理由に、男性の債務不履行責任(民法415条)を追及することもできません。

すなわち、性的関係を結んだあとに男性がお金を支払わない場合、女性としては男性に対してお金を支払うよう求めることはできず、泣き寝入りするしかないということになります。

■刑事上「詐欺罪」にあたる可能性はある

上記のとおり、女性は、男性に対して、民事上の責任を問うことは難しいですが、男性の刑事責任を追及できる可能性はあります。

すなわち、男性は、女性に対して対価を支払うつもりがないのに、女性にその旨誤信させて女性と性的行為をもったということで、男性を詐欺罪(刑法246条2項)に問うことができる可能性があるということです。

過去の裁判例では、詐欺罪を否定したものと肯定したものがあり、裁判所によって判断が分かれています。以下、詐欺罪を否定した裁判例と肯定した裁判例をそれぞれご紹介します。

まず詐欺罪を否定した裁判例です。詐欺手段を用いて性的関係をもったあとで、女性に対してその対価の支払いを免れたケースにおいて、売淫行為(売春行為)は、善良の風俗に反する行為であって、その契約は無効となるから、これによって売淫料債務を負担することはないため、売淫料を欺罔してその支払いを免れても、財産上不法の利益を得たとはいえないとして、詐欺罪の成立を否定した裁判例があります(札幌高裁昭和27年11月20日判決)。

この裁判例では、民事上の保護される利益と刑事上の保護される利益とを同じように考え、民法上、売春をするという内容の契約は公序良俗に反して無効であり、女性は男性に対して売春の対価の支払いを求める権利がないため、刑事上も女性には保護に値する法益がないという理由で、詐欺罪の成立を否定しました。

■裁判官の価値観によって判決は分かれる

一方、同様のケースで詐欺罪の成立を肯定した裁判例もあります。

すなわち、売春をするという内容の契約が公序良俗に反し民法90条により無効であったとしても、民事上契約が無効であるかどうかということと、刑事上の責任の有無とはその本質が異なること、詐欺罪のように他人の財産権の侵害を本質とする犯罪が処罰されるのは単に被害者の財産権の保護にあるのではなく、違法な手段による行為は社会秩序を乱す危険があるからであること、社会秩序を乱す点においては売淫行為の際に行われた欺罔手段でも通常の取引におけるものと何ら異なることはないことを理由に、売淫料も詐欺罪の客体になるとして、詐欺利得罪(刑法246条2項)の成立を認めました(名古屋高裁昭和30年12月13日判決)。

この裁判例では、民法上の責任と刑事上の責任とを別個に考え、人をだましてサービスの対価の支払いを免れることで社会秩序を乱すという点においては、一般の合法的な取引と違いがないということを重視して、民法上保護されない権利であっても、刑事上は保護に値する客体であるという理由で詐欺罪の成立を認めました。

詐欺罪が認められるかどうかは、ケースごとの状況によるというよりも、裁判官が詐欺罪の保護法益をどう考えているかによります。

上記のとおり、詐欺罪の成立を否定する裁判例と肯定する裁判例がありますが、いずれも高裁段階のものであり、最高裁の判例はまだ出ておりません。

民事上の責任と同様に考え、民事上保護されない以上、刑事上も保護に値しないとして詐欺罪の成立を否定するのか、あるいは、社会秩序の維持に重きを置いて、詐欺罪の成立を肯定するのかについては、今後、最高裁の判断が出るまでは、裁判所によって判断が分かれることになるでしょう。

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理崎 智英(りざき・ともひで)
弁護士
1982年生まれ。一橋大学法学部卒業。2010年、弁護士登録。福島市内の法律事務所を経て、現在は東京都港区の高島総合法律事務所に所属。離婚・男女問題に特に力を入れている。

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(弁護士 理崎 智英)

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