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絶滅危惧種「ウナギ」は食べないほうがいいのか

プレジデントオンライン / 2019年10月1日 6時15分

稚魚の密猟や密売のない、適法かつ持続可能な養殖ウナギへの取り組みが始まっている(写真はイメージです) - 写真=PIXTA/Flatpit

絶滅が危惧されているニホンウナギ。国内で販売されている半分程度には、密猟や密売などの違法行為が関わっている。もうウナギは食べないほうがいいのか。中央大学法学部准教授の海部健三氏は、「ウナギをめぐる異常な状況を変えるには、持続可能なウナギを選ぶという消費者の行動が必要だ」と訴える——。

※本稿は、海部健三『結局、ウナギは食べていいのか問題』(岩波科学ライブラリー)の一部を再編集したものです。

■見せかけの「環境アピール」にだまされるな

国内で養殖されているニホンウナギの半分程度に、密漁や密売などの違法行為が関わっています。環境保護団体のグリーンピースが行ったアンケート(*1)でも報告されていますが、国内の小売業者や生活協同組合は、この問題を認識しながらも、ニホンウナギを販売しています。違法行為が関わっていることを知りながら商品を販売する行為は、消費者に対する背信とも言えます。いま販売されているほぼ全てのニホンウナギには、こうした背景があります。

このことを知ったうえで、なお積極的に避けるべきウナギがあります。「グリーンウォッシュ」を行っている会社や組織が扱うものです。

「グリーンウォッシュ」とは、企業や組織が、総合的には環境に負荷をかけているにもかかわらず、一部の環境保全活動をアピールすることによって、あたかも「その組織や会社の商品やサービスを利用することが、環境保全につながる」かのように見せかけるという、詐欺的な行為です。ウナギに関しては、資源回復への効果が明確ではない取り組みや調査研究を行ったり、資金を提供したりすることによって、「ウナギ資源回復への貢献」を広報することが、「グリーンウォッシュ」に該当します。

これらの組織や企業も、自分たちが、違法である可能性が非常に高い商品を扱っていることを知っています。知っていながら、限られた取り組みで資源回復への貢献をアピールしているとすれば、それは詐欺に近い行為ではないでしょうか。

具体的には、以下のような項目に相当していながら、「ウナギの保護」「ウナギを守る」とアピールしている企業や生活協同組合のウナギは避けるべきです。

1.科学的知見に基づかない取り組み、例えば石倉カゴの設置や放流を行っている、またはこれらの取り組みに対して資金提供を行っている
2.シラスウナギのトレーサビリティに関して言及していない
3.1または2に該当しており、かつ「ウナギを守る」ために寄付金を集めている

特に昨今、「ウナギを守る」と標榜しながら寄付を募る組織が多く見られます。寄付などの資金集めは、明確な目的、「ミッション」があって、初めて行うべきものです。

これに対して、「ウナギを守るため」として資金を集めている組織の中には、お金を集めた後になってからどのように使うべきか悩んでいるところが見られます。明確な目的が設定されていないにもかかわらず寄付を集める行為は、「ドナー・オリエンテッド」な行為です。

「ドナー・オリエンテッドな行為」とは、問題の解決ではなく、ドナー(寄付者)の満足感を高めることに重きを置いた行為を指します。その用途について明確なビジョンが存在しないにもかかわらず寄付を集めることは、ウナギを食べたいけれど、食べることに罪悪感を感じている消費者の気持ちを欺く行為であり、悪質なグリーンウォッシュとして、強く批判されるべきです。

■「食べて応援したいウナギ」を提供する企業

では逆に、消費者として積極的に選ぶべきウナギとはどのようなものでしょうか。現在では、適法なウナギを入手することすら困難です。このため、より適切なウナギを選ぶための基準となりうるのは、商品を扱う企業や組織の取り組みに「明確なゴールと客観性があるかどうか」です。現時点では持続性も適法性も担保されていないとしても、明確なゴールをもって、客観的な根拠に基づいた取り組みを行っている組織や企業があれば、消費を通じてそれらの取り組みを応援できます。

2018年になってようやく、こうした取り組みが順次公表され始めました。商品の選択によって、消費者がウナギの持続的利用の促進に貢献できる時代が近づきつつあります。以下では、そうした企業による先進的な取り組みを2つ紹介します(*2)

1つ目は、岡山県北部の西粟倉村にあるエーゼロ株式会社による、持続可能なウナギ養殖を目指した取り組みです。エーゼロ株式会社は、「人や自然の本来の価値を引き出し、地域の経済循環を育てていく」ことを掲げるベンチャー企業です。代表の牧大介さんは、森林管理協議会(FSC)の認証を受けた、持続可能な林業に基づく地域おこしを西粟倉村で推進した方々の1人です。ウナギを通じて持続可能な資源利用、地域の循環経済がどのように進められるのか、注目されます。

■国際的な認証基準で自社の養殖を評価

2018年4月2日、エーゼロ株式会社は、客観的な指標に基づいて、持続的なニホンウナギの養殖に取り組むことを発表しました。そしてこの発表に基づき、ASC(編集部注:水産養殖管理協議会。自然環境や地域社会に配慮した持続可能な養殖業の認証制度を提供する、国際的非営利団体。本部オランダ)の基準に従い、認証機関による審査を受けています(正確には「予備審査」であり、実際に認証を受けるために行う「本審査」ではありません)。

ASCの審査によってギャップ(解決すべき課題)を明らかにし、「持続的なウナギの養殖」という、遠い遠いゴールへの到達度合いを確認しながら対策を進めるためです。「持続可能なニホンウナギ養殖」というゴールを、国際的に認められているASCの基準に基づいて設定し、審査を通じて現状を確認しながら状況を改善することで、確実にゴールに近づくことができます。ASCのような客観的な指標に基づく取り組みは、ニホンウナギでは初、世界的に見ても稀有な例です。

認証機関による審査の結果、102件の審査項目のうち、68件が「適合」、14件が「軽微な不適合」、5件が「重大な不適合」、その他15件は「該当しない」とされました(*3)

「重大な不適合」とされた件は、「飼料の原料に関するもの」と「稚魚の調達に関するもの」に大別されます。前者は、餌の持続性に関する問題です。ウナギの養殖では主に天然の魚を原料とした魚粉を用います。養殖が持続的であるためには、餌も持続的でなければなりませんが、その原料が持続的とはいえない、と判断されました。この問題は、大豆など植物性のタンパク質を用いて餌に占める魚粉の割合を下げたり、資源が豊富で持続的な魚を原料とした魚粉を餌に用いたりすることで解決可能と考えられます。

一方、後者の「稚魚の調達に関するもの」を解決することは非常に困難です。というのも、ニホンウナギの数は減少していると見られます。にもかかわらず、科学的な知見に基づいた、持続可能なシラスウナギの漁獲量の上限は設定されていません。また、捕獲と流通において違法行為が蔓延(まんえん)しているため、出所が明確なシラスウナギを入手するのは大変難しいことです。これらの問題は、1つのベンチャー企業が単独で解決できるものではありません。

こうした資源状態や、シラスウナギをめぐる違法行為を考えると、ニホンウナギの養殖でASC認証を取得することは困難でしょう。しかし、ASCの基準に基づいて審査がなされたことによって、解決すべき課題が明確になりました。餌の課題が技術的に解決可能であるとすると、残される課題は「シラスウナギの管理」に絞られたことになります。この企業のウナギ養殖における最も重要な問題点が、シラスウナギの漁獲管理と適切な流通であることが確認されたのです。

これら明確にされた課題に取り組むことによって、「持続可能なニホンウナギ養殖のモデル」、つまり、多くの養殖業者が同じようにニホンウナギの養殖を行えば、ニホンウナギの持続的利用が可能になるような雛形を作ることができるはずです。ASCの考え方に基礎をおいたエーゼロの取り組みは、こうした雛形の開発を通じて、誰もが不可能と考えてきた、ニホンウナギの持続的利用を実現させる可能性があります。

■大手として初めてトレーサビリティに取り組む

もう1つは、大手小売業者であるイオン株式会社の取り組みです。2018年6月18日、イオンは「ウナギ取り扱い方針」を発表しました(*4)。この方針には、2つの画期的な要素があります。1つは、ニホンウナギのトレーサビリティの重要性について、大手小売業者が初めて公に言及したこと、もう1つは、世界に先駆けて、ウナギの持続的利用のモデルを開発しようとしていることです。

「ウナギの資源回復」をうたい自ら取り組みを行うか、または取り組みに対して資金を提供している小売業者や生活協同組合は数多く存在します。それらの業者が関与する取り組みは通常、石倉カゴなどの成育場回復、放流、完全養殖への資金提供であり、業者が利益を上げている流通や消費そのものを対象としているものは非常に限られています。

ウナギの消費に関わる小売業者や生活協同組合であれば、環境問題や放流よりもまず、ウナギの消費そのものに関わる問題と向き合うべきです。「ウナギの消費そのものに関わる問題」のうち、最重要の課題は、シラスウナギのトレーサビリティと資源管理です。

トレーサビリティの担保は、明らかにウナギに関わる産業界の責任です。イオンの「ウナギ取り扱い方針」では、「2023年までに100%トレースできるウナギの販売を目指します」としています。この方針に基づき、イオンは2019年6月3日、シラスウナギの採捕地までトレースできるニホンウナギを販売することを発表しました。

「静岡県浜名湖産うなぎ蒲焼」の名で発売されたこの商品は、特別採捕許可を受けた団体が浜名湖で採捕したシラスウナギを正規ルートで購入し、指定養殖業者が他のルートから仕入れたシラスウナギと混ざらないように育てたウナギです。シラスウナギの採捕と流通に関し、違法行為が関わっている可能性が非常に低い「クリーンなニホンウナギ」と言えるでしょう。持続可能とは言えないまでも、シラスウナギの採捕水域までトレース可能なニホンウナギの販売は、筆者の知る限り日本で初めての快挙です。

とはいえ、課題も残されています。イオンが販売しているニホンウナギのうち、そうした「クリーンなニホンウナギ」はごく一部にとどまっています。取り扱い商品の大部分は、依然として違法行為が関わっている可能性の高い、クリーンでないニホンウナギです。2018年の「ウナギ取り扱い方針」にある通り、2023年までに販売するウナギの100%を、シラスウナギの採捕地までトレースできる、クリーンな商品にできるのか、注目されます。

もう1つの課題は、「トレースできる」とする根拠があくまで自社の仕組みに基づいており、第三者機関の検証がなされていないことです。今後、トレースできるクリーンなウナギであることの証明が必要とされるでしょう。さらに、「違法ではない」というだけでなく、ニホンウナギの持続可能な利用の実現に向かって取り組んでいくことも当然、求められます。

■インドネシアウナギの資源管理にも挑戦

まだまだ高いハードルが残されているとしても、期限を切ってトレーサビリティを確立するとのコミットメントを発表し、実行に移した小売業者または生活協同組合は、筆者の知る限りこれまで存在しませんでした。大手小売業者がこのように宣言し、実際に結果に結びつけている努力は、賞賛されるべきでしょう。イオンのような努力が小売業界に広がることで、違法行為の横行しているニホンウナギの業界が、変革されていくことが期待されます。

また資源管理についても、イオンは同取り扱い方針で「『インドネシアウナギ』の持続可能性を担保するため『インドネシアウナギ保全プロジェクト』を推進します」としています。

「インドネシアウナギ」とは、ビカーラ種のことです。このビカーラ種を対象として、ウナギでは世界初となるFIP(持続可能な漁業を目指して取り組む漁業改善プロジェクト)をインドネシアで本格的に開始し、シラスウナギ採捕の「MSC(編集部注:海洋管理協議会。天然海産物の持続可能な漁業に関する国際的認証制度を提供)認証」取得を目指すというのです。

シラスウナギの採捕に関してはMSC認証を満たし、養殖業については、将来的には先述のASCの取得を目指しています。MSCやASC認証を取得すれば、国際的な信用を得ている第三者機関によって、持続可能な資源管理が行われていると保証されることになります。

ウナギについて、本格的にASC認証の取得を目指して具体的な行動を開始した例は、おそらく世界で初めてです。現在のところ、持続可能であることが第三者機関によって証明されたウナギの養殖は、世界に1つも存在しません。

ニホンウナギだけでなく、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギも減少し、IUCN(国際自然保護連合)によって絶滅危惧種に指定されている今、イオンの取り組みは、持続可能なウナギ養殖のモデルを世界に先駆けて示すことにより、ウナギの持続的利用を世界に広げるきっかけとなることが期待されます。

■消費者の行動で状況は変えられる

海部健三『結局、ウナギは食べていいのか問題』(岩波科学ライブラリー)

企業や組織は、それぞれ工夫を凝らして宣伝を行います。これらの宣伝のうち、環境保全や資源の持続的利用を唱える宣伝の中には、実際には効果をもたない「グリーンウォッシュ」が相当数含まれています。消費者は、より適切な知識と批判的な視点をもって、宣伝の裏にある状況を可能な限り正確に読み取る必要があります。

『結局、ウナギは食べていいのか問題』では、第1章から第8章にわたって、ウナギをめぐる異常ともいえる状況を紹介しています。現状は異常かもしれませんが、消費者の行動によって、この異常な状態を正常に近づけ、ウナギの問題を解決へと導くことは可能であると、筆者は考えます。小さな一歩から、より適切な取り組みが広がっていくことを願っています。

(*1)Greenpeace(2018)「グリーンピース調査:絶滅が心配されるニホンウナギ、大手小売業の不透明な調達と大量廃棄の実態が明らかに」
(*2)筆者は、国際自然保護連合(IUCN)における、種の保存委員会(SSC)ウナギ属専門家グループ(AESG)のアジア圏で唯一のメンバーとして、ニホンウナギを含むウナギ属魚類の絶滅リスク評価に関わっている。当然、評価に関しては独立性の高い立場を堅持する必要があるが、その一方で、ニホンウナギを商品として扱う経営体にとっては、IUCNレッドリストにおける本種のカテゴリーが組織の利害に関係する可能性がある。
本書で紹介するエーゼロ株式会社、イオン株式会社の取り組みには、中央大学法学部海部研究室および中央大学ウナギ保全研究ユニットも科学的な知見の提供を通じて協力している。しかしながら、これらの取り組みを行っている企業と筆者の職務には利益相反が成立する場合が想定されるため、調査や打ち合わせについて、中央大学が必要とする費用は、中央大学法学部海部研究室および中央大学ウナギ保全研究ユニットが負担し、両企業からは報酬や研究費を含む、一切の金銭的な支援を受けていない。
(*3)エーゼロ株式会社(2018)「ASC養殖場認証の基準を参考にした独自基準案に基づく ニホンウナギの養殖場のパイロット審査の報告書を公表」
(*4)イオン株式会社(2018)「ウナギ取り扱い方針を策定『インドネシアウナギ保全プロジェクト』に取り組み、世界初となるウナギのFIP(漁業改善プロジェクト)を本格始動」

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海部 健三(かいふ・けんぞう)
中央大学法学部准教授、中央大学研究開発機構ウナギ保全研究ユニット長
1973年東京都生まれ。1998年に一橋大学社会学部を卒業後、社会人生活を経て2011年に東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程を修了し、博士(農学)の学位を取得。東京大学大学院農学生命科学研究科特任助教、中央大学法学部助教を経て、2016年より現職。専門は保全生態学。主な著書は『わたしのウナギ研究』(さ・え・ら書房、2013)、『ウナギの保全生態学』(共立出版、2016)。

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(中央大学法学部准教授、中央大学研究開発機構ウナギ保全研究ユニット長 海部 健三)

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