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「認知症の親が車で事故」の責任を子が負う事例

プレジデントオンライン / 2019年11月2日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AND-ONE

■直ちに子が責任を負うわけではない

「危険だから運転免許を返納して」「いや、頭ははっきりしている」。この夏、親とこんな会話を交わした人は多いだろう。言葉と裏腹に、親の認知機能や身体機能は低下していることがしばしば。親の安全が気になることはもちろんだが、場合によっては子が監督責任を問われかねない。

民法第713条は、他人に損害を加えた者が精神上の障害により責任能力を欠いていた場合、その賠償の責任を負わないことを定めている。精神上の障害には認知症も含まれる。たとえば重度の認知症患者が責任弁識能力を欠く状態で事故を起こすと、損害賠償責任を負わないことになる。

ただ、その場合、賠償責任は責任無能力者の監督義務者が負う(民法第714条)。わかりやすいのは成年後見人だが、親族も監督義務者になりうる。つまり認知症の親が人に怪我をさせたら、子が監督義務者としてその責任を負う可能性もある。

子の監督義務は総合考慮で判断される。萩生田彩弁護士は次のように解説する。

「親が責任無能力者かどうかは、認知症の程度しだい。親が責任無能力者でも、実際に監督できる能力の有無や、親との同居の有無も含めて、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情があったかどうか判断されます」

自動車事故ではないが、認知症の高齢者が線路に立ち入ってはねられて電車が止まり、鉄道会社が妻と長男に賠償請求を行ったケースがあった。事件は最高裁まで争われ、同居妻も高齢で要介護1だったこと、長男は別居していたことから、監督義務者ではないとされた。逆に言えば、若くて普段から介護をしていれば、監督義務者と認められる可能性がある。監督義務者=賠償責任者というわけではないが、その責任の有無の線引きは画一的でなく、各事案ごとに判断されるという。

「法律には『法は不可能を強いるものではない』という考え方があります。たとえば検査を受けさせて公的機関に相談し必要な措置を講ずるなどの手を尽くしたうえで起きた事故なら、監督の義務を果たしていたと考えられるのでは」

■刑事と民事で逆の主張をした理由

ちなみに、幼い子どもが起こした事故も基本は同じ。総合考慮で親が責任を問われることもある。ケースによるが、「子が10歳くらいまでは親の責任になりやすい」と言う。

被害者側としては、お金も持っていない認知症高齢者や子どもに賠償請求をするより、保護者の責任を追及したほうがお金を取りやすい。

「事故を起こした未成年の子の親が、子の罪を軽くするために『まともな教育を受けさせてやれなかった』と親の責任を前面に出して情状酌量を主張した同じ事件の民事裁判で、親が自分の監督義務を免れるため、『息子は一人前』と主張した事例もあります」

泣くに泣けない事態になる前に、親としっかり話し合いたいところだ。

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村上 敬(むらかみ・けい)
ジャーナリスト
ビジネス誌を中心に、経営論、自己啓発、法律問題など、幅広い分野で取材・執筆活動を展開。スタートアップから日本を代表する大企業まで、経営者インタビューは年間50本を超える。

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(ジャーナリスト 村上 敬 コメンテーター=NEXTi法律会計事務所 代表弁護士 萩生田 彩 図版作成=大橋昭一)

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