沖縄のキャバ嬢が「米軍基地賛成」とさけぶワケ

プレジデントオンライン / 2019年10月7日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MoustacheGirl

沖縄県最大の歓楽街・松山に並ぶ夜の店では、政治の話が飛び交う場面も少なくない。元キャバクラ嬢でフリーライターの上原由佳子氏が、勤務時代に出会った客とのエピソードを紹介する——。

■「カラオケしたい」と言う男性客、選んだ曲は……

「若者が右傾化している」「若者のほとんどが自民党支持者」だとメディアなどでたびたび言われるようになって久しい。特に沖縄県のキャバクラ店などは、建築業のお客や中小企業のお客が少なくないため、自民党支持者も目立つ。

こうした世界は、働く人間がフォーカスされることはあっても、お客のエピソードに焦点が当たることはない。そこで、今回は、お客がどのように右寄りの話や左寄りの話をするのか、潜入ルポ形式で書いてみたいと思う。

ちょうど、5年ほど前のこと。筆者が沖縄県内の店で働いていたときのことだ。料金形態は高級クラブよりも安く、キャバクラよりは高いといったところ。いつもと同じように接客していると30代くらいの男性客から「カラオケしたいからデンモク(リモコン)ちょうだい」と言われた。

デンモクとマイクを渡すと、男性はマイクを持ち立ち上がった。ずいぶんと気合が入っているなと思っていたら、なんと「君が代」を歌い出したのだ。拍手がしにくいテンポな上に、飲みの場で国家を歌う人は初めて見た。あまりにも驚いてポカーンとしてしまう。

もちろん「君が代」を歌うのは個人の自由だ。しかし、夜の店でその選曲はいかがなものだろうか。キャストからは羽振りのいい客としか見られず、“ちょっとお近づきになりたくない人”だと思われていそうである。ちなみに、そのお客は中学校もまともに通っていないと公言する一方で、お金は持っているグループの1人だった。それゆえ沖縄の歴史的背景も知らずに、国家は素晴らしいと思っているのだろう。

■キャバ嬢「米軍基地がないと中国が攻めてくる」

それから2年間、夜の世界からは身を引いていたのだけれど、男性の先輩の誘いがありキャバクラで働くことにした。そこでも、軍歌を歌うお客がいた。「月月火水木金金」と「同期の桜」が人気だ。よほど休みなく働きたいのか、それとも同期に散ってもらいたいのかは分からないが、この2曲はポピュラーな軍歌として知られている。

ちなみに、筆者も「月月火水木金金」くらいは歌えるし、カラオケでも歌ったことがある。特筆するほどのイデオロギーがあったわけではなく、お客が好きそうなら選ぶ程度だ。

その他には、本土からのお客が喜ぶパターンがある。お店で一番若い20歳のAちゃんと同じ席に着いたときのこと。VIPルームを使っていたから、そこそこお金はあるのだろうと思った。案の定、キャストにもドリンクが振る舞われていた。

すると、お客の1人が「ぶっちゃけ、沖縄の人は米軍基地のことをどう思っているの?」と言い出す。どうもこうも、県民投票や県知事選で“反対多数”が示されているのに、ぶっちゃけも何もないだろう。

しかし、Aちゃんが大きな声で「米軍基地がないと中国が攻めてくる! 沖縄が中国になってしまう!」と言ったら、お客は「若いのに自分の意見を言えて素晴らしい!」と絶賛する。水商売でイデオロギーを出すのは、本来よくないとされている。たまたま基地賛成派の県外客だったからよかっただけだ。

■高額シャンパンを4本開けた客の正体

筆者も同様に聞かれたけれど、「沖縄と本土の関係も複雑だから何とも言えないですね」と答えたら、不満そうな顔をされてしまった。イデオロギーの話やAちゃんを絶賛する前に沖縄の歴史について学んでもらいたいし、目の前に座る中卒20歳の意見は政治に関心のない、インターネットの楽しい情報だけで生きている子の発言だと認識した方がいい。それすら分からないなら、キャバクラで政治的な話は避けるべきだと筆者は考えている。

さて、お次は2018年に行われた沖縄県知事選の時期に来店したお客について。筆者は出勤していなかったのだけれど、キャバクラの同僚から「金払いがいい変わった客がいた」との報告があった。よくよく話を聞いてみると4人の客は、自民・公明両党などが推薦する候補者・佐喜真淳氏の支持者たちのようだった。同僚の話をそのまま忠実に再現すると、こうなる。

「佐喜真さんに投票するなら“ヴーヴ”入れるよ!」
「いいの!? 投票する!」

ヴーヴとは、シャンパンのヴーヴ・クリコのことだ。このキャバクラでは、1本3万9000円のボトルを4本開け、女の子は4人指名したという。

沖縄のキャバクラを簡単に説明すると、ほとんどのお客は「キャスト保証システム」で入店する。例えば、4人のお客に対しては2人か3人ほどのキャストがつき、1人当たり4000~5000円(1時間)という料金だ。

しかし、シャンパンを開けたお客たちは、客数とキャストが同数のマンツーマンで入っていた。そのシステムだと1人当たり1時間で1万円となり、シャンパンも入れたとなるとかなり羽振りがいい。

同僚いわく「ヴーヴの中で一番高いお酒を入れてもらったけど、どっちの主張も分からないから選挙には行かなかったよ」と話していた。沖縄では、票集めのためにキャバクラで散財したり、ドリンクを出したりする自民党支持者は少なくない。

■“基地反対”デモ参加者が来店した時は

一方で、左派や“リベラル左翼”を自認する人たちは、あまり見かけない。たまに来る程度なので、エピソードは2つしかないけれど、自民党支持者と比較するには十分だろう。

ある日、10数名の団体客がいた。お客同士でばかり喋っている。聞き耳を立てていると、基地反対運動を終えた後の二次会として来店していた。筆者が「運動終わってから来たんですか?」と尋ねてみると、「そうだよ」とだけ答えて、またお客同士の話に戻ってしまった。

あくまで筆者の私見だが、キャバクラは女性キャストと会話を楽しみながらお酒を飲む場所だ。にもかかわらず、お酒だけを作らせて自分たちの話だけで盛り上がってしまうのはよくない。その上キャストに対しドリンクも出さないのだから、店側からしてみれば売り上げにつながらず、最悪と言っても過言ではないだろう。私とは違うお客についていた女性キャストも困惑気味だった。

ケチで会話もしないお客が左派だと気付いたら、キャストとしてはお金を落としてくれるという事実だけでも右派に傾く十分な理由になる。前述のケチな左派は、約束と引き換えにヴーヴを開けたのに、結局佐喜真氏に投票しなかった筆者の同僚に感謝した方がいいと思う。

■売り上げのためオジサンに共感してみたが……

左派のエピソードをもう一つ紹介しよう。ネイビーのかりゆしウェアを着たお客のテーブルについたときのこと。途中から入ったので、何の話をしているのかしばらく聞いていた。すると、連れの人に「沖縄は本土に侵略されたんだ。言葉も奪われ、沖縄の文化も希薄になっている」と、熱弁をふるっていたのだ。

熱弁オジサンに共感できる女性キャストは珍しいだろうから、熱意を共有すれば自分の分もドリンクを出してもらえるかなと思った。そして何とか共感してみたものの、結局ドリンクは出してもらえなかった。彼ら左派には、「女性キャストに好かれる≒選挙の時に票が動くかもしれない」という発想がない。かりゆしウェアのオジサンにもらったのは、「今日はとても楽しかったよ!」という感謝の言葉と熱い握手だけだった。

そもそも、右派の客は男尊女卑的なところがあって、左派は男女平等的なところがある。こうして考えてみると、右派の行動は筋が通っている。

しかし、左派は夜の店を利用すること自体が少ないためか、キャバクラでのお行儀がなっていない。そもそも“リベサヨ”を名乗るなら「女性キャストにお酒を作らせる」という飲み方は相性が悪いはずだし、かりゆしウェアのオジサンが握手を求めてくるのもちゃんちゃらおかしな話である。

右派は、普段からキャバクラにお金を落としているから、選挙の時にお願いができる。一方で左派とそういった店は相性が悪いため、若者票を取りこぼしているという側面がある。

■お金に目が眩んで投票する嬢たち

余談だが、キャバクラの待機のときに、キャストの間で「(玉城)デニーに入れたら経済ヤバイんでしょ?」「選挙行く?」「誰に入れたらいいんだろう」「分からないよね」などの会話があった。

その話だけ聞くと政治に関心があるみたいでよかったのだが、「沖縄のことだけ知ってればいいよね!」と言っている女性キャストが「佐喜真に入れたら給料上がるし、携帯代下がるってよ!」と話していて、筆者は軽くショックを受けてしまった。

このいくつかのエピソードをまとめると、沖縄のキャバクラ嬢は、お金に目が眩(くら)んで投票に行く可能性があるということだ。県内の高級店で働いている女性キャストのインスタグラムを見ると、県知事選の時期は佐喜真氏を推す内容の投稿ばかりが目立っていた。

その女性に支持する理由を聞くと「経済が良くなりそうだから」と、答えていた。もちろん、無党派の人の方が多いとは思うけれども。右派は、県民の思いに応える「パッション」よりも、経済重視の「ミッション」を大切にしている。しかしながら、ミッションよりパッションを重視する左派のやり方を続けていると、キャバクラ嬢の浮動票は右派に動いてしまうのも理解できる。

もちろん、お客からの影響だけではなく家庭や個人的な付き合いもあるだろう。しかし、キャバクラにおいて右派が強いのはこれまでのエピソードを見ても分かる。沖縄県によると、高校中退率は1.6%で、全国平均の1.3%を上回る。県内のキャバクラに勤めている女性キャストやスタッフも、この層にいる割合は少なくない。

米軍基地をはじめ政治的な問題はたくさんあるのに、政治そのものについて学ぶ機会は他都道府県に比べて少ないのが沖縄の若者の実情だ。もっと女性キャストや若者が自分で考えられるように政治の話を理解できる土壌が作られればいいと、筆者は願うばかりだ。

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上原 由佳子(うえはら・ゆかこ)
フリーライター
1988年沖縄県生まれ。高校中退後、キャッチのアルバイトをきっかけに、沖縄県内のキャバクラやクラブで働く。2015年高校卒業後、現在は佛教大学社会学部現代社会学科(通信制課程)に在籍。社会学を勉強するかたわら、キャバクラ時代に知り合った人脈を生かし、取材・執筆活動を行っている。

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(フリーライター 上原 由佳子)

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