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ラグビー日本代表が「憧れの存在」になれたワケ

プレジデントオンライン / 2019年10月5日 11時15分

撮影=尾藤能暢

ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会が盛り上がっている。9月28日には日本代表が優勝候補アイルランドから大金星をあげた。だが、ここまでには苦難の道のりがあった。前回W杯で日本代表のキャプテン(主将)を務めた廣瀬俊朗氏に「日本代表がやったこと」を聞いた――。(前編、全2回)/聞き手・構成=山川 徹

■「結婚するならフロントロー」というポジション解説

——ラグビーには「ルールが複雑」というイメージがあります。しかし、廣瀬さんの著書『ラグビー知的観戦のすすめ』(角川新書)ではわかりやすくラグビーの本質を解説されています。たとえば第1章では「ラグビーをやっているのは、こんな人たちだ」として、「結婚するならフロントロー」「学級委員にするならハーフ団」など各ポジションをキャラクターにたとえていて驚きました。

ラグビーのルールやプレーがなんのために生まれたのか。そもそもラグビーとはどんなスポーツなのか。とにかくわかりやすい形で、ラグビーの持つ魅力をつたえることができれば、と思ったのです。

——歴史の解説も豊富です。スクラムやラインアウトなどの「セットプレー」の原点が中世イングランドの村祭りにあったことなどは、経験者でも知らない話でしょうね。

ラグビー選手たちは、一つひとつのルールやプレーを深く掘り下げる機会はほとんどありません。ぼく自身も現役時代、ルールや戦術の根本については漠然とした理解にとどまっていました。この本を書くことで、改めて勉強することができました。

たとえば、ラグビーチームの監督は試合中、観客席にいます。だから試合で状況判断を下るのはグラウンドに立つキャプテンの役割です。このためほかのスポーツに比べて、ラグビーのキャプテンはとても重要なのです。

では、なぜ、そうなったのか。

■キャプテンが重視され、レフェリーが尊重される理由

その源流は、ラグビーのルーツであるフットボールにあります。かつてのフットボールは、現在のサッカーとは異なり、数百人、数千人単位の村全体でボールを奪い合うゲームでした。19世紀になるとイギリスのパブリックスクールにも広まり、学校ごとにルールがつくられました。しかし共通のルールがないため、試合中、キャプテン同士が「さっきのプレーは反則ではないか」などと話し合ってルールを決めていました。

でも、それではゲームが進まない。そこで両チームのキャプテンが信頼する人にレフェリーを依頼するようになりました。それが、ラグビーで、キャプテンが重視され、レフェリーが尊重される理由なんです。

——ラグビーのルーツに関心をもったのは、どんなきっかけがあったんですか?

撮影=尾藤能暢

2016年3月に現役を引退してから会社員として働いたり、他競技のアスリートたちと会ったりするなかで、ラグビーの魅力に気付かされる機会が多かったのです。

■なぜラガーマン同士はこんなに仲がいいのか

——引退後、ラグビー観に変化があったのですか。そもそも廣瀬さんはどんな魅力を感じてラグビーをはじめたのでしょうか。

廣瀬俊朗『ラグビー知的観戦のすすめ』(角川新書)

ぼくは5歳のときにラグビーをはじめました。ボールを持って走ったり、トライしたりすることが純粋に楽しかった。ほかの球技は、手を使ってはあかん、あるいは蹴ってはあかん、と制限がありますが、ラグビーはボールを投げても蹴っても、相手にぶつかって奪いとってもいい。球技と格闘技の要素を併せ持ち、なおかつ自由なところが面白いと感じました。

引退してからぼく自身がラグビーのどんなところに惹かれたのか、改めて掘り下げてみて1つの答えが見つかりました。それが、自己肯定感やな、と。

——どういうことですか?

テレビドラマ『ノーサイドゲーム』で、お笑いコンビ「ブリリアン」のコージと共演しました。彼はアメフトで大学日本一を経験した元アスリートなのですが、たびたび「ラグビーをしていた人はなんでこんなに仲がいいんだろう」と口にしていたんです。

確かに、ぼくの周囲を見渡しても、ラガーマン同士は仲がいいし、明るい。そこで、その理由を踏み込んで考えてみました。

■どんな人でもありのままの姿で活躍できる多様性のスポーツ

ラグビーには10個のポジションがあり、15人で1つのチームをつくります。小柄な人も太った人も背が高い人も、自分の特技や特徴を活かし、プレーできる。自分をムリに変えなくても、チームに認められて居場所を見つけ、自己肯定感を持てる。どんな人でもありのままの姿で活躍できる多様性のスポーツだと気づきました。

人に認めてもらえて自己肯定感を持てれば、他者に対しても優しく寛容になれるんじゃないか。だからコージには、ぼくらが仲良く見えたんだろうし、ぼく自身も仲間たちが明るく楽しそうに感じるんだと思います。

——ラグビーが持つ「多様性」については『ラグビー知的観戦のすすめ』でもたびたび言及されていますね。廣瀬さんはラグビースクールから日本代表まで、所属したチームすべてでキャプテンをつとめてきましたが、多様な特徴を持つ選手を1つのチームにまとめるうえで意識してきたことはありますか?

撮影=尾藤能暢

何より重要なのは「目的」だと思います。前回W杯の日本代表は「なんのために勝つのか」という問いに対して、「憧れの存在になるために、勝とう」という目的をみんなで共有することができました。その結果、すばらしいチームになりました。

ぼくがキャプテンを任された2012年当時、プレーヤーだけでなく、ファンの人たちも含めて、日本代表に対する愛着が低かったような気がしていました。ラグビーファンに印象に残る試合を聞けば「×年前の早明戦」とか「7連覇した新日鉄釜石や神戸製鋼のゲーム」という答えが多かったと思います。そこでキャプテンとして、まずは日本代表を憧れの存在にしなければ、と思ったんです。

■試合後にロッカールームの掃除をする理由

——前回W杯では南アフリカからの逆転勝利で、日本ラグビーを取りまく空気が変わったように思います。あの試合に勝ったことは、日本代表が「憧れの存在」になるうえで大きかったのでしょうか。

撮影=尾藤能暢

はい。でも、それだけではありません。勝ち負けは、自分たちの力でコントロールできません。しかし、ぼくたちは自分たちの努力次第で「憧れの存在」にはなれると考えました。たとえば、子どもたちからサインを求められたら、声をかけて丁寧に応じる。海外の試合で使わせてもらったロッカールームは、最後に掃除をする。そうした積み重ねによって、たくさんの人に応援してもらえるチームになるはずだと全員で取り組んできたんです。

——チームメイトやスタッフみんなが同じ目的を共有する。スポーツ以外でも重視されはじめている考え方ですね。

はい。大切なことは物事を深く掘り下げ、本質を理解しようとする姿勢です。ぼくはキャプテンとしてプレーした期間が長かったせいか、ラグビーとはどんなスポーツなのかを考える機会が多かった。それがよかったのかもしれませんね。(続く)

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廣瀬 俊朗(ひろせ・としあき)
元ラグビー日本代表キャプテン
1981年、大阪府生まれ。ラグビーワールドカップ2019公式アンバサダー。2007年に日本代表選手に選出され、2012年から2013年までキャプテンを務める。ポジションはスタンドオフ、ウイング。

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(元ラグビー日本代表キャプテン 廣瀬 俊朗)

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