消費税アップは大企業が税金を払わないからだ

プレジデントオンライン / 2019年10月8日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

10月1日、消費税率が8%から10%へと引き上げられた。中央大学名誉教授の富岡幸雄氏は、「安倍政権は税制を政治的に利用している。たとえば、配当金の受け取りや設備投資の税額を低くして、実質的に大企業が有利になっている。そのしわ寄せが消費税の引き上げだ」という――。

※本稿は、富岡幸雄『消費税が国を滅ぼす』(文春新書)の一部を再編集したものです。

■国民所得に対する租税収入は低くなってきている

世界をグローバリズムの潮流がおおい、その深化が進んだ平成の時代、日本の税制の構造も大きく変化しました。強く指摘しておかなければいけないのは、30年の間に「国の財源調達」「所得と富の再配分」「国民経済の安定」の3つを使命とする税制が翻弄され、大きくゆがめられてしまったという点です。

なによりも深刻なのは、税の財源調達機能が低下してしまったということです。それを示すのが、「租税負担率」の低下です。この数字は、個人の所得や企業利益を含めた国民全体の所得の総額である「国民所得」に対する、租税収入の占める割合です。この数字が高ければ国民の税負担は高く、低ければ収入の割に税負担が低いという意味です。

財務省の資料をみると1989(平成元)年度には27.7%だったものが、2003(平成15)年度には平成では最低の20.6%を記録しています。税収総額がバブル期を超えて過去最高の60兆3564億円となった平成30年度の租税負担率は、24.9%と、平成元年の水準には及ばない数字です。

平成の30年間で消費税は3%から5%、5%から8%と2度も税率がアップしていますが、それでも租税負担率は下がっています。税収が伸びても、社会保障費の膨張による歳出増に追いつけず、国と地方の財政赤字は拡大する一方です。そして、その赤字は将来の世代に回されているのです。

かように財源調達機能が低下したのは、平成の30年間で行われた税制の変更が、税収の構造を変質させてしまったからです。個人所得税の税率も1989(平成元)年は50%でしたが、2015(平成27)年には45%へ下がっています。しかし、それよりも法人税の地盤沈下は著しいものがあります。

■「企業国家」日本の法人税収が伸び悩んでいる

戦後、日本が焼け跡から復活して、世界に冠たる経済大国の地位を獲得できたのは、製造業を中心に、各企業が輸出で収益をあげて貢献したからに他なりません。日本は企業の活躍によって支えられてきた「企業国家」といえるでしょう。

日本の税収構造でも、法人税は所得税とならぶメイン・タックスです。

バブル期の1990年度、税収の総額は60兆1059億円で、2018年度の税収に抜かれるまでは最高の額でした。このときの法人税収は18.4兆円で、全体の31%を占めています。このとき税収のトップは所得税収の26.0兆円で、その構成割合は43%。その前年に導入された消費税収は4.6兆円で、その割合は8%未満にとどまっていました。

ところが、現在は法人税収と消費税収の立場が逆転しているのです。

財務省が2019年7月に発表した2018(平成30)年度の決算概要をみてみると、前述のように税収総額はバブル期を超えて、過去最高の60兆3564億円でした。2017年度から1兆5689億円の増加です。

内訳をみると、トップは所得税の約19.9兆円。これは賃金の伸びや株の売却益が増加したことをうけて前年比で1兆円ふえており、構成比は33%です。

2位は消費税の17兆6809億円で、前年より約0.2兆円増えています。構成割合は29.3%と、導入時と比べると急上昇していることがわかります。

そして基幹税でありながら、消費税の後塵を拝しているのが法人税です。企業の業績が堅調で、税収は前年比0.3兆円増の12兆3180億円です。しかし、その構成割合は20.4%にまで低下しているのです。前年比で増加しているわけですから、企業の業績が悪化しているため、税収が伸びなかったというわけではありません。

■法人税収の伸び悩みに反して大企業には優遇税制が

法人税の伸び悩みは、バブル期やリーマン・ショック前と比べると、より鮮明です。

法人税収が最高額を記録したのは1989(平成元)年度の19.0兆円です。1985年度は12.0兆円でしたから、5年で7兆円も増加しています。リーマン・ショックの前後をみても、2003年度の10.1兆円から、2007年度の14.7兆円と、5年で4.6兆円増えています。

ところが2014年度から2018年度の5年をみると、11.0兆円から12.3兆円と、1.3兆円しか増加していません。

2008年度、法人税収は10.0兆円で消費税収に並ばれると、それ以降は一度も消費税収を上回っていないのです。

このように法人税が地盤沈下した理由は、近年の相次ぐ法人税率の引き下げ、政策減税、そして企業活動のグローバル化、企業のアグレッシブなタックス・プランニングの展開です。これらが組み合わさってメイン・タックスの地位が揺らいでいるのです。

このように税制構造が変化しているにもかかわらず、安倍政権は、ありもしないトリクルダウン効果を狙って、大企業の優遇税制を推し進めています。そのための財源として庶民の財布を直撃し、消費意欲を抑制する消費税の税率をアップするのです。このような税制の恣意的な利用を許すことはできません。

■安倍政権は税制を独裁的に改正している

安倍政権の特徴は、本来、「公平・中立・簡素」という大原則を順守しなければならない税制を、自身の政治的な目的のために利用しているところです。「安倍一強」という強固な基盤を背景に、税制改正も官邸主導で独裁的に決めているようです。

長い間、税制を改正する際は、財務省と自民党税調の間で議論をしながら着地させてきました。かつて党税調の権威は絶大で、ときの首相といえども介入することはできませんでした。

しかし安倍首相は、法人税減税など主要な議論を政府税調にゆだね、徐々に党税調の弱体化を図ってきました。その挙げ句、税制の論理から消費税の軽減税率導入に抵抗し、財務省と組んで還付案を主張した税制のプロ、当時の野田毅自民党税調会長を更迭したのです。これは軽減税率を公約に掲げてきた公明党への政治的配慮だったと見られています。

いまや、この国の政権与党は、人気とりのための場当たり的な政策のために、税制を安易に、しかも恣意的に駆使しています。

■「多く稼いだ者が多く納税する」という原則が壊れる

税制の恣意的な利用の代表格が、「成長志向の法人税改正」です。政権の意向に沿って法人税を引き下げるため、政府の税制調査会は法人税減税の代替財源探しに狂奔しており、課税ベースの無定見かつ、変則的な拡大を推し進めています。

政府税調は、代替財源の大半を「外形標準課税」の拡大で賄うことにしているようです。これは資本金1億円超の企業に対して、業績は赤字でも、従業員や役員へ払う報酬給与額、支払利子、支払賃借料といった企業の付加価値額とともに、資本金等の額へ課税する仕組みです。

この外形標準課税の最大の問題は、「多く稼いで負担能力のある者が、多くの税金を負担する」という応能負担の原則に反している点です。黒字企業だけが負担している法人税とは異なり、赤字企業にも納税義務が課されるため、外形標準課税を拡大すると、赤字や利益の少ない企業の税負担が重くなってしまうのです。

これまでのような所得金額とは別に、「付加価値額」や「資本金等の額」といった企業規模を課税の対象に加えて、税金を払う稼ぎのない企業からも取り立てるのですから、厳しい表現をすれば「課税ベースの捏造」といえます。中小企業よりも、従業員数などの多い大企業のほうが納税額は増えるかもしれませんが、「取れるものなら何でも取る」と言わんばかりの理不尽な税制は許されません。

■雇用や給与が抑制され、経済の活性化が妨げられる

そのうえ問題なのは、現在の外形標準課税が、企業が従業員へ支払う給与が増えれば増えるほど、税負担も増える仕組みになっているということです。これでは企業は課税を抑えるために、雇用や給与を抑制しようとするでしょう。人件費を抑制するために、正規雇用ではなく非正規雇用を増やすでしょうから、このような外形標準課税は経済活性化に逆行するとともに、安倍政権の賃上げ政策とも矛盾することになってしまいます。

また、「欠損金の繰越控除制度」も見直すとしています。これは、ある事業年度において益金よりも損金のほうが多かった場合、益金を超える部分の「欠損金」を翌年度以降に繰り越し、将来の所得から控除する制度です。過去の損失を補填しない限り、原理的に所得は生じないのですから、繰越控除の縮小は、負担能力への配慮を破壊するような措置だといえるでしょう。

■政府税調は安倍内閣の下請け機関に成り下がっている

いまの政府税調をみていると、大原則である「税の応能負担」を軽視して、公的サービスから受ける利益に応じて課税するという、あいまいな「応益課税」なる議論を振り回すなど、何でも取れるものから取り立てようという徴税者本位の発想が露骨に表れています。外形標準課税の拡大がその象徴です。

富岡幸雄『消費税が国を滅ぼす』(文春新書)

そもそも政府税制調査会は、私も特別委員として審議に参加したこともありますが、特定の政権や政党はもとより、あらゆる関係団体の利害とは無関係に、租税の原理・原則に即して、「理念としてのあるべき税制」を議論し、税制の本質的な課題について答申するのが任務でした。

ところが現在の政府税調は、安倍内閣の政策の理屈づけ、もっともらしい論理構築を請け負う下請け機関に成り下がっているのです。その証拠は2014年に発表された「法人税の改革について」という文書にあります。

〈本年1月、安倍総理大臣はダボス会議において、「法人にかかる税金の体系も、国際相場に照らして競争的なものにしなければなりません」と述べられた。今般、政府税制調査会においては、この総理の発言を端緒として国・地方の法人税の改革に着手した〉

つまり、首相の意向ありきで、それを実現するために税制を変更しようというのです。こうした姿勢のどこに、あるべき税制、公正な税制を構築しようという気概があるのでしょうか。猛省を促したい。

課税ベースの再検討は、本来、あるべき税制の姿に戻すことであり、それはタックス・イロージョンやタックス・シェルターをなくすことから始めるべきです。政権の意向を実現するために、場当たり的に課税ベースを拡大させてしまえば、法人税制は崩壊してしまいます。

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富岡 幸雄(とみおか・ゆきお)
中央大学名誉教授
1925年生まれ。商学博士。1945年横浜商業高等学校(現横浜国立大学経済学部)卒業、中央大学大学院商学研究科修士課程修了。国税実査官などを経て1965年中央大学商学部教授に就任。欧米留学後、政府税制調査会特別委員等を歴任。著書に『検証企業課税論』(中央経済社)、『税金を払わない巨大企業』(文春新書)ほか。

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(中央大学名誉教授 富岡 幸雄)

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