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借金漬けブータン人から搾り取る専門学校の闇

プレジデントオンライン / 2019年10月10日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fcscafeine

多額の借金を抱えて日本に留学し、返済のため過酷な肉体労働を強いられる外国人留学生が増えている。あるブータン人学生はそうした労働を「違法就労」とされ、帰国させられることになったが、学校側は前払いさせた学費の返還に応じなかった。留学生を騙(だま)し、日本のマイナスイメージを振りまく専門学校の体質をリポートする——。(後編、全2回)

■生き残るために留学生を大量受け入れ

日本人の学生が集まらず、留学生の受け入れで生き残りを図る専門学校や大学は全国に数多い。読売新聞(2018年10月8日朝刊)によれば、在校生の9割以上が留学生という専門学校は全国で少なくとも72校、学生全員が留学生という学校も35校に上っている。こうした学校の大半は、出稼ぎ目的で進学する“偽装留学生”の受け入れ先となっているとみて間違いない。

ブータン人留学生のダワ君(仮名・20代)が今年4月に進学した上野法科ビジネス専門学校(千葉市)も、留学生の受け入れで経営維持を図っている可能性が高い。彼が在籍する「情報ビジネス学科」のクラスは全員が留学生だ。しかもダワ君によれば、授業を理解する目安となる日本語能力試験「N2」に合格しているクラスメートは1人もいないという。実質、語学力を問われずに留学生たちが入学しているようなのだ。

ダワ君は7月19日に出頭した入管当局で、留学ビザの更新不許可を言い渡された。留学生のアルバイトとして認められる「週28時間以内」という制限を大幅に超えて働いていたからだ。

■前払いした学費の一部を返してもらおうとしたら……

入管には上野法科ビジネス専門学校の担当者も同行していた。以降、担当者はダワ君に対し、ブータンへの帰国航空券の購入を急かすようになった。
 例えば、7月29日には、ダワ君のスマートフォンに担当者からこんなメッセージが届いている。

ダワ君と学校担当者とのメッセージのやりとり

<今日までにチケットを買わないと、じょせき(除籍=筆者注)になる可能性がありますよ。>
<一周間前(原文ママ)に二人で約束しましたよね。帰国チケットを今日までに提出する。>

入管当局は出国までの準備期間として約1カ月の滞在を認めていた。その間にダワ君が失踪し、不法残留となれば学校側の責任が問われる。所在不明の留学生を大量に出して問題となった東京福祉大学のケースと同じだ。だから学校側は、彼をできるだけ早くブータンへと送り返したい。

ダワ君は学校に4カ月ほどしか在籍していない。そこで航空券を購入する前に、学校に支払った1年分の学費65万円の一部を返還してもらおうとした。来日前にブータンで背負った借金の返済に充てるためだ。しかし、学校側は一切の返還を応じなかった。入学前に彼が署名していた「誓約書」を盾にとってのことである。確かに、誓約書にはこんな一文がある。

<法律違反等により在留期間更新不許可になった場合、学費の返金は一切求めません。>

ダワ君によれば、誓約書の内容に関し、上野法科ビジネス専門学校からの説明はなかったという。同校は入学前、彼が在籍していた千葉県内の日本語学校にいくつかの書類を送っていた。その1つが「誓約書」で、日本語学校から十分な説明も受けず、言われるまま署名しているのだ。

■専門学校に質問状を送付

もちろん、説明があったところで、ダワ君は署名に応じていただろう。留学費用の借金を返済するためには、日本で進学し、働き続けるしかないのである。

とはいえ、こんな「誓約書」の存在からして、上野法科ビジネス専門学校は留学生のビザが更新不許可となる事態をあらかじめ想定し、学費の返還を求められないよう予防線を張っていたとも受け取れる。ダワ君のクラスメートのベトナム人女子留学生も、すでに更新不許可となって日本から去った。他にもネパール人留学生の1人が学校から姿をくらまし、所在不明となっているという。

上野法科ビジネス専門学校では一体何が起きているのか。筆者は取材してみることにした。以下が同校に送った主な質問だ。

1)同校が設置する「情報ビジネス科」「日本語教師科」「日本語学科」に在籍する学生数と留学生数。
2)留学生の出願資格として、a)日本語能力試験「N2」以上、b)日本留学試験・日本語科目200点以上、c)法務省告示校(日本語学校)で6カ月以上の日本語教育を受け、出席率が良好、のいずれかを満たすことを求めているが、a)もしくはb)を満たして入学した留学生数。
3)留学生にのみ奨学金制度を設け、年30万円の学費を減免している理由。
4)留学生の経費支弁能力の確認方法。どれほどの仕送り、経費支弁者の銀行預金残高があれば入学を認めているのか。
5)近年急増している“偽装留学生”に関する認識。
6)「週28時間以内」を超える違法就労へのチェック体制。
7)2018年度と19年度に「除籍」もしくは「退学」とした留学生数。
8)「誓約書」の内容説明は、留学生が在籍する日本語学校に一任しているのか。
9)ダワ君が求める学費の一部返還に応じるのか。

■学内で内部進学させ、学費をさらに徴収

2)の質問は、上野法科ビジネス専門学校が、留学生の日本語能力を見極めて入学させているのか確かめるための項目だ。ダワ君の話では、「クラスにN3の合格者ですら1、2人しかいない」という。つまり、大半のクラスメートは単に日本語学校に6カ月以上在籍し、出席率も良好だったというだけで入学している。そうだとすれば、日本語能力など問わず、留学生を受け入れているに等しい。

4)の経費支弁能力(日本での学費や生活費を支払える能力)の問題は、学校側が事前に精査していれば、在籍する留学生が「週28時間以内」を超える違法就労に手を染めることもない。そして、ダワ君のようにビザが更新できず、学費の返還を求めるトラブルも起きなかった。

上野法科ビジネス専門学校は、学内に日本語学校と同じ「日本語学科」を設置している。この学科を修了した留学生を専門学校過程に内部進学させ、さらに学費を取り続けるというビジネスモデルは、前述の東京福祉大も導入していた。さらに6)で尋ねた「除籍」や「退学」となる留学生が多いとなれば、まさに同大と同様の責任が問われる。

上野法科ビジネス専門学校には、私が連載「『人手不足』と外国人」を寄稿している新潮社「フォーサイト」編集部から質問を送付し、回答までに1週間近く猶予を与えたが、一切の回答を拒否した。同校が「第2の東京福祉大」である疑いは、フォーサイト連載の発表時ではもちろん、本稿執筆時点でも拭えていない。

■受け入れ方法・実態はまるで不透明

ただし、上野法科ビジネス専門学校を擁護するならば、日本語学校や入管関係者からは、同校が特別に“悪質な”学校だという声は聞かれない。逆に言えば、「第2の東京福祉大」は全国各地に数多く、当たり前のように存在しているということだ。そして留学生の学費返還問題も、多くの学校で起きている。

では、行政の対応はどうなのか。専門学校の所轄庁は都道府県だ。上野法科ビジネス専門学校の場合は、千葉県が所轄ということになる。そこで千葉県総務部学事課に同校の実態をいかに把握しているのか尋ねると、書面で以下のような回答があった。

まず、上野法科ビジネス専門学校の学生数や留学生数、除籍や退学になった留学生の数については、<千葉県情報公開条例第8条第3号の不開示情報に当たるため回答できない>のだという。また、日本語能力のない留学生の受け入れの問題に関しては、<出願資格については各法人(学校=筆者注)の判断>に任せているとの回答だった。

専門学校における留学生の受け入れ実態が、全くのブラックボックスであることが分かってもらえるだろう。東京福祉大の場合は、大学なので文部科学省が所轄している。文科省は、同大を「除籍」「退学」となった留学生の数は把握していたらしい。しかし、問題はTBS系列の「JNN」ニュースがスクープするまで公にはならなかった。

しかも所在不明者に関し、文科省は同大から「ゼロ」との報告を受けていたという。これでは内部関係者からメディアへのタレ込みでもない限り、専門学校や大学における問題は世に出ない。

■留学生の違法就労問題は「各学校に任せている」

留学生の受け入れ数に関し、かつて専門学校には定員の5割以下とするよう規定があった。だが、この規定は2010年の文科省通知によって廃止された。08年から始まった「留学生30万人計画」によって、留学生を大幅に増やす政策が打ち出された影響だ。その結果、“偽装留学生”が日本語学校を経由して、専門学校や大学へ続々と“進学”できる道が広がった。

千葉県は「週28時間以内」を超える留学生の違法就労について、<学校法人が在籍管理の中で把握するもの>だとし、留学生の経費支弁能力の問題は<入国管理局が精査していると承知している>と回答した。そして、学費の返還問題については以下の答えが返ってきた。

<同校の学則では、入学金及び授業料は「所定の期日までに納入する」とされ、「既に納入した入学検査料、入学金及び授業料は、原則として返還しない」と規定されており、この授業料に関する取り扱いは、生徒へ説明していると聞いている。>

専門学校に関する基本的なデータすら<不開示情報>だとして公にせず、留学生の日本語能力や違法就労問題については、各学校の<判断>や<管理>に任せているという。これでは「所轄庁」など名ばかりで、何もやっていないに等しい。学校側は留学生の受け入れに関し、やりたい放題できてしまうわけだ。

■「審査」をパスしたのに、借金を抱えたまま送り返される

事実、千葉県が<生徒に説明していると聞いている>という学費の返還問題にしても、上野法科ビジネス専門学校は留学生の在籍する日本語学校に書類を送りつけるだけで、留学生たちに直接説明した形跡はない。

入学前にダワ君が署名した「誓約書」

千葉県の説明で唯一納得できるのは、経費支弁能力の審査は入管当局が担っているという指摘だ。確かに、入管が、留学生を送り出す海外の業者によって年収などがでっち上げられた書類をきちんと<審査>し、ビザの発給を拒んでいれば、専門学校のやりたい放題、そして留学生たちの不幸も防げただろう。しかし入管は、留学生たちが違法就労しなければ日本で暮らせないと分かって受け入れている。「留学生30万人計画」という国策に沿ってのことだ。

その揚げ句、違法就労が発覚したからといってビザの更新を拒み、今になって留学生たちを続々と母国へと送り返している。まさに「マッチポンプ」だが、借金を背負ったまま帰国を強要される留学生たちはたまらない。

出国準備まで1カ月の在留を認められたダワ君は、さらにもう1カ月間、日本に居られることになった。8月の航空券は割高で、彼には購入できるカネがなかった。その点に入管の担当者が温情をかけてくれたのだ。

■「失業対策」として人間を“売買”した責任は

ブータンに戻っても仕事が見つかる当てはない。技能実習生として再来日し、借金返済のため出稼ぎに励む道もある。しかし再来日には、上野法科ビジネス専門学校から受けた「除籍」処分がネックとなるかもしれない。実習生のビザを申請する際に同校の在籍証明書が求められた場合、出してもらえない可能性があるからだ。

だが、そもそもダワ君は日本に戻ってくることなど望んでいない。帰国前日の9月11日夜に会った彼は、吹っ切れたような表情でこう話していた。

「僕は日本のアニメが好きで、アニメーターになる勉強がしたくて留学したんです。今さら実習生になっても、留学生のときと同じように肉体労働でこき使われるだけのこと。もう日本で働くのはこりごりです。出稼ぎに行くなら、ブータン人が多い中東にでも行きますよ」

ダワ君らブータン人留学生は、自国政府が「失業対策」として進めた留学プログラムによって日本へと“売られた”。そして彼らを“買った”日本側は、「留学生」としてのみならず底辺労働者として都合よく利用し続けた。その揚げ句、違法就労を咎(とが)め、日本から追い出しにかかっている。留学生たちを食い物にした連中の責任が問われる日は来るのだろうか。

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出井 康博(いでい・やすひろ)
ジャーナリスト
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『The Nikkei Weekly』の記者を経て独立。著書に、『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)近著に『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(角川新書)がある。

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(ジャーナリスト 出井 康博)

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