脱サラ起業よりも「会社を買う」方がいい理由
プレジデントオンライン / 2019年11月9日 11時15分
■金のタマゴを生むニワトリを手に入れる
「人生100年時代」。60歳の定年退職後に再雇用で65歳まで働いたとしても、残りの人生はまだ30年以上もある。退職金とわずかな貯金、それと年金だけで暮らしていけるのか。多くの人が不安を抱えている。ヘタをすると“下流老人”に、最悪の場合“老後破産”への転落もありうる。
では老後に趣味や旅行などを楽しむなど、豊かな生活を送るためにはどうすればいいのだろうか。その1つの選択肢として「会社を買う」ことを提案しているのが、日本創生投資代表取締役CEOの三戸政和さんだ。著書『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』がベストセラーとなり、続編も合わせると累計17万部を突破している。
一般的に個人で会社を買うなど想像がつかないかもしれないが、同書によれば、約380万社ある日本の中小企業のうち、少なくとも約100万社が新たな後継者を求めているという。その多くはオーナー社長が高齢化し、事業承継問題に悩んでいる。業績悪化で先行きも暗く廃業に追い込まれる会社もあるが、後継者が見つからず黒字のまま廃業する会社も多い。
三戸さんは同書で、60歳から10年間会社を経営し、1000万円の役員報酬をもらえば、税引き前収入の総額は1億円、手取りで7000万円程度になり、「月々20万円×30年間くらい」のお金は得られると試算している。
起業であれば、脱サラして飲食店を開く人が少なくないが、飲食業界は競争が激しい。開業のハードルは低いものの廃業率が高い厳しい世界だ。また、ゼロからの起業に比べても、その業界で長年経営を続けてきた中小企業を買い取るほうがリスクは小さいと三戸さんはいう。
「私は『金のタマゴを生むニワトリ』と言っていますが、ニワトリ(株)を買って育て、金のタマゴ(利益)を生んでもらうのです。最初は自分で経営をする必要があるかもしれませんが、会社がうまく回る仕組みをつくり、社長は誰かに任せ、さらに次のニワトリを買う。そうして単なる企業経営者ではなく、『資本家』になることを私は提案しています」
会社を買うのは、できれば40代後半から50代前半が理想だという。
「会社を買うのに年齢は関係なく、20代でも30代でもヤル気があり優秀な人ならば誰でも構いません。ただ、老後を考え始める40~50代は人的資本に恵まれています。ビジネスパーソンとしての実務経験が豊富で、特に中堅・大企業で中間管理職を務めているような方は、その業界の知識はもちろん、人脈などのネットワークもあるでしょう。中小企業ではそうしたリソースを生かすことができます。会社を買うのは老後でも、その前の数年、買収候補先企業で役員として勤めるというのも買収後の経営をスムーズに行うためにおすすめの方法です」
■自分のやりたいことで会社を選ぶ
会社を買うには具体的にどうすればいいのか。会社の「売り案件」情報は、かつては極秘情報だったが、いまは中小企業を専門とするM&A(買収・合併)仲介会社が多数存在し、売り手と買い手をマッチングして価格交渉などの仲介を行っている。売り案件の情報はインターネットでも簡単に手に入る。
業界最大手の日本M&Aセンターのグループ会社バトンズが手がけるM&Aマッチングサービス「Batonz(バトンズ)」や、トランビが運営する事業承継・M&Aプラットフォーム「TRANBI(トランビ)」などには、小売り、製造業、サービス業など多数の売り案件の情報が掲載されている。売却希望の企業名はわからないものの、業種や業績、希望売却価格などは誰でも見ることが可能だ。
その中から買いたい会社を選び、サイトを通じてマッチングし、相手企業との具体的な交渉に入る。最終的にデューデリジェンス(買収監査)を経て成約へ、というのが基本的な流れだ。着手金がゼロの仲介も増えてきており、買収が成功した際に成功報酬を支払う仕組みだ。
実際の買収額は数百万円から数千万円、億を超えるものまでさまざまだ。企業の売買は基本的に相対取引なのでゼロ円ということもありうるという。ちなみに、中規模以下の個人M&Aで重要な価格設定(値付け)については、1つの目安とされる数字は、その会社の「純資産+営業利益3年から5年分」だという(絶対ではない)。
会社選びのポイントとして、三戸さんは「自分のやりたいビジネス」だとアドバイスする。
「自分の好きなことをやるというのが基本です。今いる業界ならば詳しいでしょうから、同じ業界内の企業を選ぶのもいいでしょう。あまり難しく考えすぎないことです。会社を買って上場させなければいけないというわけではありません。もちろん上場を目指してもいいのですが、まずはできる範囲で経営すればいいのです」
■20年前は転職に対して多くの人が不安を感じていた
とはいえ、会社を買うというのはリスクを伴う。事業内容や経営状態など会社側の申告通りなのか入念な調査が必要だ。そのときに大事なのが基本的な会計知識だ。前掲書の続編『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 会計編』には、だまされない数字の見方や危ない会社の見抜き方、儲かる会社の見つけ方などが詳しく解説されているので一読していただきたい。
「もちろん会社を買うというのは投資だから失敗のリスクもあります。しかし、仮に会社員時代よりも収入が減ったとしても、事業というのはお金だけではないと思っています。私が提唱しているのは、生き方です。会社を買うというのは目的ではなく、資本家になるための1つのオプションです。個人M&Aはツールにすぎません。単に儲かるか儲からないかではありません。
たとえば、20年前は転職に対して多くの人が不安を感じていましたが、いまでは普通になっています。ベンチャー企業に転職して年収が下がったとしても、ものすごく面白くてやりがいがあればそれは意味があります。個人で中小企業を買うことも今後は転職と同じになると思っています」
なお、買った会社が倒産したとしても、今は会社の借入金について個人保証なしで会社を買えることもあり、株主が責任を負うのは会社を買った株式の金額だけだという。300万円で買ったならば、300万円を失うだけですむ。一家離散のような心配は無用だという。
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1978年、兵庫県生まれ。同志社大学卒業後、2005年ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。11年兵庫県議会議員に当選。16年より現職。主な著書に『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』『資本家マインドセット』。
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(ジャーナリスト 田之上 信)
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