予防接種よりも「ワクチン拒否」のほうが危ない

プレジデントオンライン / 2019年10月18日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milatas

「ワクチンは怖い」と子供の予防接種をためらう親がいる。小児科専門医として『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(内外出版社)を書いた森戸やすみ氏と宮原篤氏は、「ワクチンのある感染症のほとんどには治療法がない。接種するリスクより、接種しないリスクのほうが高いことに気づいてほしい」と警鐘を鳴らす――。

■「ワクチンは怖い」と話す親たち

――今、予防接種の本を書かれたのは、なぜでしょうか?

【森戸】以前から診察室で「ワクチンは怖いので接種していないのですが……」とか「家族がワクチンの接種に反対しているので中止しようかと……」というような相談を受けていて、危機感を持っていました。どこからそういう情報がくるかというと、不正確な書籍やSNSですね。予防接種に関しての一般書には、医学的に不正確な「反ワクチン本」が多くて、普通の小児科医が正確でわかりやすい本を出したらいいのではないかと思いました。

【宮原】書籍やSNSからワクチン不信をあおる不正確な情報が広まっているのは日本だけでなく、世界中で同じです。今年1月にWHOが発表した「世界の健康に関する10の脅威」のひとつは、「ワクチンを躊躇すること」(※1)。2017~2018年にかけて、麻疹の患者数はウクライナで10倍以上、マダガスカルで27倍、フランスで4.6倍に増えました。今年は、すでに昨年を上回るペースです。日本もひとごとではありません。

来年は東京オリンピックが開催されます。さまざまな国から多くの人が日本にやってくることもあり、さらに感染症が広がるリスクがあるため、今こそみなさんにワクチンの接種歴を確認してほしいと思っています。

※1 https://www.who.int/emergencies/ten-threats-to-global-health-in-2019

■人は「損をする話」や「危険をあおる話」に敏感

――どうして不正確な情報がまことしやかに流れてしまうのでしょう?

【森戸】ひとつには、ワクチンの効果は目に見えないものからです。これまで、天然痘やポリオ、麻疹など、さまざまな感染症が流行して本当にたくさんの人が亡くなってきました。だからこそワクチンが開発され、多くの人が感染症から身を守ることができるようになったのです。ところが、ワクチンの効果によって悲惨な感染症が昔より減った結果、ワクチンの効果が忘れられ、副反応だけに目が向きやすくなったのでしょう。そして、反ワクチン運動などが起こって、再び感染症が流行しています。

【宮原】多くの人が<損をする話>や<危険をあおる話>に敏感に反応しやすいことも、理由のひとつだと思います。だからこそ、「ワクチンは効かない」「ワクチンは危険である」などと危険性をあおる不正確な本が売れます。売れるからこそ、一部の出版社が不正確な反ワクチン本を出し、さらにそういった本が売れることで、一般の子供を大切に思う保護者の方が根拠のない情報にあおられるという悪循環です。

■職業選択の幅を狭めるリスクがある

――ワクチンを接種していないと、どんなリスクがありますか?

【森戸】最大のリスクは、子供自身が感染症に苦しむことです。多くの感染症は高熱が出ますし、本当に苦しいもの。しかも、ワクチンが開発されている感染症のほとんどには治療法がありません。治療法がないから、ワクチンが開発されたのです。いったん発症してしまったら、対症療法しかありません。さらには、後遺症をもたらしたり、亡くなったりしてしまうこともあります。そのリスクの高さは、本書を読んでいただくとわかりますが、予防接種の副反応のリスクとは比べものにならないほど高いのです。

【宮原】しかも、ワクチンを接種していない人が増えると犠牲になるのは、接種しなかった子供本人だけではありません。ワクチン接種前の赤ちゃん、ワクチンを接種しても免疫がつきにくい人や接種できない人、病気の方や高齢者も犠牲になります。

ですから、予防接種をしていないと、何らかの病気にかかったときやケガをしたときに、入院先の病院が限られることもあるんですよ。

――速やかに入院できないと困りますね。他にも困ることはあるでしょうか?

【宮原】学業に差し支えることがあります。例えば、2010年に秋田県大館市で麻疹が流行したとき、市の教育委員会はワクチン未接種の児童生徒を出席停止措置にして感染拡大を防ぎ、ワクチン接種を促しました(※2)。このほか、教育や医療にかかわる学校に入学できない、実習ができない可能性もあります。例えば、医学部に入学して医師になろうとしても、ワクチン未接種だと実習に入れないでしょう。つまり、将来的には職業の選択の幅を狭めるリスクもあります。

※2 http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/360/dj3604.html

■海外の学校に入学できないことがある

――海外では、ワクチン未接種だと学校に入学さえできないことがあると聞きました

【森戸】特に欧米では多いですね。日本の定期接種・任意接種のワクチンは外国に比べて少なく本当に最低限なので、すべて接種済みでないといけません。それに加えて、例えばアフリカ方面であれば黄熱ワクチンといったように、国や地域によってワクチンを追加接種する必要があります。さらに、集団生活をするなら髄膜炎菌ワクチンなども必要でしょう。急に保護者の海外赴任が決まった場合、短期/長期の留学をすることになった場合、海外でホームステイをする場合、急いで接種するとしても間に合わないかもしれませんね。

【宮原】つい先月、マレーシアでのサマースクールに参加した静岡県藤枝市の9歳と5歳の姉妹が、帰国後に麻疹を発症したことが発表されました(※3)。麻疹と風疹を予防するMRワクチンを接種していなかったとのことです。予防接種をしていない状態で、海外へ行くのはとてもリスクが高いので、やめていただきたいこと。このお子さんたちも心配ですが、帰国して自宅へ着くまでに多くの人に接触しているわけで、それも心配です。特に麻疹は感染力が強く、免疫のない集団では1人の感染者が12~14人を感染させるとされています。

※3 http://www2.pref.shizuoka.jp/all/kisha19.nsf/c3db48f94231df2e4925714700049a4e/18301aa316985a484925846c00406d35?OpenDocument

■1000人中1.5人は亡くなる麻疹

――恐ろしいですね。麻疹のリスクは大人でも高いでしょうか?

【宮原】もちろんです。東南アジアへの出張前に、会社が推奨しているA型肝炎ウイルスワクチン、B型肝炎ウイルスワクチン、日本脳炎ワクチンの接種は確認したのに、麻疹ワクチンの接種を確認していなかったため、麻疹脳炎にかかった30代男性がいました(※4)。これは海外での事例ですが、国内で感染するリスクも当然あります。接種歴は記憶だけだとあてにならないことが多いのです。だからこそ、わからない場合は抗体検査をするか、調べなくても問題はないので念のために追加接種をしていただきたいと思っています。

なお、子供のときに風疹の予防接種を受けていない世代で、MR(麻疹風疹混合ワクチン)5期者の対象として無料クーポンが届いている方は、必ず抗体検査へ行ってください。

※4 https://www.niid.go.jp/niid/ja/measles-m/measles-iasrd/7279-447d02.html

【森戸】麻疹を発症すると、高熱、咳、赤い発疹、肺炎、心筋炎、脳炎などが起きて苦しむだけでなく、最善の治療をしても1000人中1.5人は亡くなります。さらに後遺症なく治ったとしても、数年間に渡って免疫力が低下したり、数年たってから死に至ることのある恐ろしい亜急性硬化全脳炎(SSPE)が起こったりすることも……。

風疹も、血小板減少性紫斑病や脳炎を起こすことがあり、妊娠中の女性が感染すると胎児が高確率で「先天性風疹症候群」になるリスクがあります(※5)

※5 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/429-crs-intro.html

■「自然に感染して免疫をつける」の盲点

【宮原】書籍の中に詳しく書いたので、ぜひ読んでみてほしいのですが、麻疹や風疹に限らず、どの感染症も恐ろしいのは発症したときに苦しむだけでなく、それぞれに難聴や知的障害、麻痺などの重大な後遺症がもたらされたり、死亡したりするリスクがあるから。

「自然に感染して強い免疫をつけたい」などという声も聞きますが、後遺症がもたらされたり、亡くなったりすれば、元も子もありません。

――感染症で苦しんだり亡くなったり、他人に感染させて苦しませたり亡くならせたりするだけでなく、こんなにも多くのデメリットがあるんですね。

【森戸】しかも、定期接種になっているワクチンは、定められた時期に接種すれば無料で受けられますが、あとで思い直して接種するとなると、たくさんのお金がかかります。例えば、水ぼうそうを予防する水痘ワクチンは2回で約1万5000円、4種混合ワクチンは1回あたり約9500円、MRワクチンは1回あたり約9000円がかかるわけです(自費の場合は医療機関によって値段が違います)。すべてを合計すると、かなりの金額になるでしょう。もちろん、手間と時間もかかります。

【宮原】子供自身が感染症によって苦しんだり後遺症が残ったり亡くなったりしたとき、周りの人を感染させて同様に苦しませたり後遺症を残したり亡くならせたりしたとき、子供の学業や職業選択に差し支えたとき、後に時間をかけて自費で予防接種をしなくてはならなくなったとき、「予防接種を受けないほうがいい」とあおった人たちは決して責任をとろうとはしてくれません。

■予防接種は「周囲の人の命」も守る

――ご著書では、ワクチンに対する不安を払拭しようとされていると感じました。

森戸やすみ、宮原篤『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK 疑問や不安がすっきり!(専門家ママ・パパの本)』(内外出版社)

【森戸】不正確な「ワクチンは危険」という情報によって不安になっている保護者の方は、けっこう多いと思います。ですから、どうしたら正確な知識を伝えることができるか、どうしたら安心してもらえるかを考えました。本書では、ワクチンはどういう仕組みで感染症を予防するか、ワクチンには何が入っているか、どうやって安全性を保っているか、予防効果というメリットと副反応というデメリットを比べるとどうかなど、できる限り正確に、そして「易しく」「優しく」説明しています。

【宮原】「副反応が怖い」などと不安に思っている方、そういう方が周りにいる方にも、ぜひ本書を読んでみていただきたいと思っています。よく耳にする「ワクチンで自閉症になる」「インフルエンザワクチンに効果はない」などといった、すでに完全に否定されている話についても、ただ却下するのではなく根拠を提示してご説明しています。お子さんの健康や将来にかかわることですから、一度正確な情報を確認して、しっかり考えてみていただきたいのです。そのうえで考え直された場合は、ぜひキャッチアップをしてください。日本小児科学会推奨のキャッチアップスケジュールが参考になります(※6)

※6 https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/catch_up_schedule.pdf

【森戸】予防接種は、自分自身や自分の子供を守るだめだけでなく、周囲の人たちの命を守るためにも大切なものです。だからこそ、みなさんにどういうものなのか知っていただけたら幸いです。保護者の方だけでなく、ぜひ医療や教育、子育て支援関係者の方にも読んでいただけたら……。そうして、多くの方にワクチンの重要性や安全性が伝わるよう、今後も一緒に呼びかけていけたらと思っています。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都千歳船橋の「さくらが丘小児科クリニック」勤務。医療者と非医療者の架け橋となる記事を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』など著書多数。

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宮原 篤(みやはら・あつし)
小児科専門医
1972年、東京生まれ。臨床遺伝専門医、Certificate in Travel Health(TM)(CTHR)。大学卒業後、成育医療研究センター成育遺伝部での研究や大学病院などの研修を経て、総合病院小児科に勤務後、東京都千歳船橋に「かるがもクリニック」を開設。地域の小児医療に貢献したいと考えている。

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(小児科専門医 森戸 やすみ、小児科専門医 宮原 篤 構成=内外出版社編集部)

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