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関西電力幹部が「悪代官」のレベルに落ちた原因

プレジデントオンライン / 2019年10月8日 11時15分

記者会見する関西電力の岩根茂樹社長(右)と八木誠会長=2019年10月2日、大阪市福島区 - 写真=時事通信フォト

関西電力幹部らが福井県高浜町の元助役から多額の金品を受け取っていた問題。岩根茂樹社長は記者会見で「不適切だが、違法ではない」などと繰り返した。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「コンプライアンスを守りさえすれば『それでよし』なのか。まるで時代劇に出てくる悪代官のようだ」という――。

■関電と元助役は、まるで時代劇の悪代官と越後屋の関係

「関電よ、おまえもか」

こう心の中でつぶやいた人はどれほどいるだろう。日産自動車のカルロス・ゴーン前会長による特別背任事件に続いて、関西経済界を代表する関西電力の不祥事が発覚した。

関西電力の幹部20人が福井県高浜町の元助役から多額の金品を受け取っていた問題。関電側の当事者は岩根茂樹社長、八木誠会長ら20人に及ぶという。岩根社長、八木会長は会見をひらき、釈明に追われたが、自身の辞任については否定した。

報道によると、受領したのは約3億2000万円分の金品。例えば、50万円もするスーツ仕立券計75着分が送られてきて、うち61着が消費されたという。菓子折りの底には金貨が忍ばせてあったらしい。まるで時代劇の中の悪代官と越後屋との関係性を見ているようである。

「ワシを軽く見るなよ」
「お前の家にダンプを突っ込ませてやる」

元助役がこうすごむと金品を受け取らざるを得なかったと関電側は釈明する。しかし、助役はすでに亡くなっている。「死人に口無し」状態の釈明のどこに、説得力があるというのだろう。岩根社長はあたかも関電側が被害者であることを強調し、

「不適切だが、違法ではなかった」

と言い放った。

■コンプライアンスを守りさえすれば「それでよし」なのか

岩根社長が言うように、コンプライアンスを守りさえすれば「それでよし」なのか。法は人間社会における「最低限の」ルールである。ほんらいは法令遵守すべきラインの、“もっと前の段階”で「倫理・道徳観に基づいた自己抑制」を効かせなければならないはずだ。

わかりやすくいえば「お天道様が見ている」「悪いことをすればバチが当たる」「ご先祖様に申し訳が立たない」といったような「見えざる価値」を日本人は大切にしてきた。

■過去3年の大企業の不正・不祥事で見えてくること

欧米人は、「なぜ悪いことをしてはいけないのか」と問うた場合、「法律で罰せられるから」との合理的な答えが多いが、日本人の場合は法令遵守の意識とは別に「誰かに見られているから」との感覚的な作用も働く。それが、規律正しい行動につながってきた。

たとえば、ゴミのポイ捨てをする人の少なさが挙げられる。私は京都の嵯峨野の観光地のど真ん中に住んでいるが、ゴミをポイ捨てするのは日本人ではなく、多くが外国人旅行者だ。

また、2011年3月の東日本大震災の直後、略奪などが比較的少なく、混乱期の秩序のありようは海外からも評価が高かった。

写真=iStock.com/RoBeDeRo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RoBeDeRo

これらは、日本人ひとりひとりに染み付いた宗教性の好影響だと、私は分析している。

改めて仏教と企業倫理との関係性を論じてみたい。日本人は近年まで仏教・神道・儒教的思想に基づく、行動規範を持っていた。

この見えざる力による行動抑制が近年、弱まってきているのかもしれない。大和総研の報告「企業の不祥事予防には何が必要か」(2019年)では、「企業の不正や不祥事にかかわる報道件数は増加傾向にあり、企業のコンプライアンスの重要性が増している。過去3年間で不正が発生している企業は、従業員や関係会社の多い大企業が多い。発生が多い不正事例のタイプは『横領』や『会計不正』である」としている。

■「誰かに見られている意識」「感謝する心」が全然ない

この3年ほどでどれほどの企業不祥事があったのか。思いつく限り列挙してみた。

▼2016年
スズキ「燃費データ偽装・所得隠し」
▼2017年
タカタ「リコール隠し」(のち経営破綻)、てるみくらぶ「粉飾・詐欺」、神戸製鋼「品質検査データ改竄」、はれのひ「粉飾・詐欺」、ゼネコン4社「リニア談合」
▼2018年
スバル「データ書き換え」、スルガ銀行「不正融資」、日本大学「アメフト悪質タックル問題」、ヤマトHD「過大請求」、レオパレス21「施工不備」、日産「ゴーン・西川ショック」(~2019)
▼2019年
吉本興業「闇営業」、日本郵政グループ「不適切販売」、東レ「契約書偽造」……。

これらは多くが「過失」ではなく、「故意」に引き起こされた不祥事である。そこには、神仏をも畏れぬ「悪意」が潜んでいる。

「誰かに見られている意識」「感謝する心」「つながりの意識」など長年、仏教が育んできた「見えない価値」の再認識が、とくに経営者に強く求められているように思う。

■なぜ今どきの大企業には「利他の心」が消えたのか

「見えない価値」を大切にしてきた経営者のひとりが稲盛和夫氏だ。稲盛氏は京セラやKDDIを創業し、近年は経営難に陥っていた日本航空を立て直すなど、「経営の神様」とも呼ばれている。稲盛氏は独自の経営法「アメーバ経営」で知られる。アメーバ経営は個々の社員の採算意識を高める手法で、売り上げの最大化と経費の最小化によって、利益を効果的に上げていく経営手法として注目されてきた。

しかし、稲盛氏は一方で、「利益に対する執着を捨てよ」と一見、矛盾したようなことも示唆している。いったい、どういうことか。

稲盛氏は1997年に、禅寺で得度を受け、修行道場に入門したことはよく知られている。そこで「利他の心」の大切さを身にしみて感じたという。

写真=iStock.com/tekinturkdogan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tekinturkdogan

仏教のいう「利他」とはどういう考えなのか。「利他の精神」「利他主義」「利他的行動」などという言葉で使われる。利他とは、自己の利益よりも他者の利益を優先することだ。反対語は「利己」である。

稲盛氏は、2015年6月25日に行われた講演会「なぜ経営に『利他の心』が必要なのか」でこのように語っていた。

「利己的な欲望を原動力として、事業を成功させればさせるほど、経営者は謙虚さを失い、おごった態度で人に接するようになります。そして、それまで会社の発展に献身的に働いてくれた社員たちをないがしろにするようになっていきます。そのような謙虚さをなくした経営者の姿が、やがて社内に不協和音を生じさせ、ひいては企業の没落を招く原因となっていきます」
「さらに深刻なのは、経営者があまりに利益の追求に終始して、『人間として何が正しいのか』という基本的な倫理をなおざりにした結果、法律や倫理を逸脱したり、会社にとって不都合な事実を隠蔽したりして、社会から糾弾を受け、退場していくことがよくあります。このように、利己的な欲望をベースとして、会社をおこし、苦労を重ね、せっかくすばらしい企業を築きあげた経営者が、やがて自身の利己的な心によって企業を衰退させ、晩節を汚すという例は、世界中で枚挙にいとまがありません」

■本当の「企業の役割」は社会や人々のために尽くすこと

関西電力の幹部にとっては、耳の痛い話だろう。電力事業は極めて高い公益性が求められる。電気が社会のすみずみにいたるまで安定供給されなければ、生命の危険にさらされることもある。したがって、電力会社の経営者は高い公益意識が求められる。いかなる権力にも寄らず、清廉であり、公平でなければならない。まさに関西電力は利他行を率先して実践すべき企業なのだ。

しかし、幹部らは会社権力の座につくや、慢心し、利益の追求に終始し、犯してはならない一線を越えてしまったのかもしれない。

前述した不祥事企業以外においても、「グローバリズム」「成果主義」の名の下に古き良き「日本的経営哲学」の喪失が進んでいるように思う。そもそも「経済」とは、中国の故事成語の「経世済民(世をおさめ、民をすくう)」が語源であり、利他の精神そのもののことである。

翻って「企業の役割」とは、社会や人々のために尽くすことであり、その結果として「利益(語源は仏教用語で「りやく」と言う)」がもたらされるのである。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学文芸学部卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)など。近著に『仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか』(文春新書、12月20日発売)。一般社団法人良いお寺研究会代表理事。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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