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妻の機嫌を損ねずに要求をのんでもらう交渉術

プレジデントオンライン / 2019年10月17日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RapidEye

相手と意見が割れたとき、落としどころを見つけるにはどうすればいいか。ミュンヘン・ビジネススクールのジャック・ナシャー教授は「お互いの要求について重要度を3段階に分ける。低いものは譲り、高い要求を満たすための交換材料にすればよい」と指摘する――。

※本稿は、ジャック・ナシャー『望み通りの返事を引き出すドイツ式交渉術』(早川書房)の一部を再編集したものです。

■絶対に窓を開けたい人vs.絶対に窓を閉めたい人

図書館に2人の男がすわっている。1人が窓を開けると、もう1人がその窓を閉める。窓を開けたほうがもう一度窓を開けると、もう1人がまた窓を閉め、それを繰り返しているうちに、2人の男はとうとう部屋中に響きわたるほどの激しい口論をはじめ、司書の女性が駆けつけて来る。

女性が窓を開けたほうの男に「どうして窓を開けたいのですか?」と尋ねると、男は「空気の入れ替えをしたいからですよ」と答える。もう1人の男に窓を閉める理由を尋ねると、こちらの男は「すきま風が入って寒いんです」と答える。そこで司書の女性は隣の部屋に行き、そちらの部屋の窓を開ける――それで問題は一気に解決した。

このエピソードは、交渉の際に陥りがちな思考の落とし穴をよくあらわしている。私たちは相手の動機を究明しようとせずに、窓の開け閉めをすることだけに意識を集中させてしまうのだ。

その結果として生じるのは、勝つか負けるかの「ウィンルーズ」の状況である。窓が開いたままになれば、窓を開けようとしていたほうが勝者になり、窓が閉まったままになれば、もう1人のほうが勝者になる。その場合、双方のあいだにネガティブな感情が生まれるのは避けられず、ことによってはそれをきっかけに関係が破綻してしまうかもしれない。

■正反対の要求を一度にかなえる方法はある

ウィンルーズの状況を目指して攻撃的な交渉をしても、結局交渉は成功しない。相手に嫌悪感や拒絶感をもたれてしまうからだ。攻撃的な交渉をする人が相手の合意を取りつけられる確率は、平均すると、相手に協力姿勢を見せながら交渉をする人の半分程度だ。そのうえ合意の内容は、想定できる最高の合意内容とくらべると、半分ほどの利益しかもたらさない。

つまり攻撃的な交渉をすると、得られる成果は、最高の成果を得られた場合よりも75パーセントも減少することになる。

ではどうするのが一番いいのだろう? 先のエピソードでは、男たちの窓の開け閉めに関する立場は違ったが、司書の女性は両者の目的を突き止めるために、それぞれに窓の開け閉めをしたい理由は何かを尋ねた。その結果どうなったかは、ご覧のとおりだ。

正反対の立場をとる両者の関心事を、一度に満たす解決法はある。双方が利益を得られる「ウィンウィン」の結果を導き出すには、まず、交渉相手の関心事を突き止めなくてはならないのである。

■もし行きたい旅行先がバラバラだったら?

ウィンウィンという言葉を耳にする機会は非常に多いが、言葉の意味をきちんと理解できている人は非常に少ない。ほとんどの人は、ウィンウィンというのは異なるふたつの立場の中間点を探ること、つまり、妥協することだと考えている。

けれども、ためしに次のような状況を想像してみてほしい。あなたは夫とインドへ旅行に行きたいと思っているが、夫はドバイのほうがいいと言う。どうしても意見が一致しないため、あなたはコンパスと三角定規をもってきて、ふたつのちょうど中間に位置する国を突き止めることにする。中間地点は、アフガニスタンだ。

だが実際にカブールの空港に着き、ブルカ(イスラム教徒の女性がかぶるベール)をかぶったとたん、おそらくあなたの頭のなかは、妥協するのが本当に最良の解決法だったのだろうかという疑問でいっぱいになるだろう。

妥協は結局、双方とも結果に満足できない「ルーズルーズ」の状況しか生み出さないのだ。どちらも本当に望んでいたことの一部をあきらめなくてはならないからだ。とくに、交渉相手が自分にとって大事な人である場合、その人のためを思ってすぐに妥協をしてしまいがちだ。

■恋人が相手だと「本当の関心事」が見えにくい

心理学者たちが、カップル間の交渉を他人同士の交渉と比較する実験を行ったことがある。参加者は全員、同一の交渉シミュレーションを行うよう求められたが、カップル間の交渉では、他人同士の交渉よりも互いに対する気づかいが見られ、双方が控えめな最初のオファーを出したあと、比較的早い段階でどちらも互いに歩み寄る様子を見せはじめたという。

つまりカップルのあいだでは、他人同士の場合よりも、相手の本当の関心事を突き止めるのは難しいということになる。

調和を乱したくないという思いから、私たちは妥協して争いを未然にふせごうとする。「喧嘩するくらいなら、去年行った旅行先にまた行こうか。あそこならみんな気に入ってたしね」。子供のころから家族のそういう会話を聞いているうちに、私たちは自然に、ことを荒だてないよう人に歩み寄ることをおぼえていく。

しかし、妥協の前提となっている、互いの関心事はまったく相いれないものだという考え方自体がそもそも間違っているのだ。人間一人ひとり、求めるものが違うのは紛れもない事実だが、その要求がどんな関心事にもとづいたものかが把握できれば、両者が満足できるウィンウィンの結果を導き出すことはできるのである。

■まったく違う希望を交換するのもいい

ビジネスだけでなくプライベートな場面でも、両者の違いが交渉のポイントであることに変わりはない。

大学を卒業したばかりの若いカップルがいたとする。男性にはハンブルク〔ドイツ北部〕での仕事のオファーがあり、女性はミュンヘン〔ドイツ南部〕での仕事のオファーを受けている。こういう場合ポイントになるのは、二人が働きたいと思っている理由や、二人とも同じくらい働くことを重視しているかどうかである。

実際にこの喩(たと)えと同じような状況に置かれたあるカップルは、男性がオファーをあきらめて、女性が仕事のオファーを受けた場所に2人で引っ越した。そのかわり結婚式と新婚旅行は男性の希望どおりにし、その後10年間、2人で旅行するときの行き先は男性が決めることになったという。

意図的にまったく違うものを交換するこうした方法は、「包括的な補償」と呼ばれている。この方法は、日常生活においてもこんなふうに活用できる。「この夏フランスに旅行するのはかまわないけど、そのかわり新しい車は僕の好きなものを選んでいいよね?」

■信頼関係があると使える「ログローリング」

あなたと交渉相手のあいだに一定の信頼関係がある場合は、「ログローリング」と呼ばれる手法を使ってもいい。

双方が、自分にとって特に重要度の高い点とあまり重要度の高くない点を挙げて、互いの利害をひとつの解決策に収束させていく方法である。双方が自分にとって重要度の高い点ではほんの少しだけ譲歩し、重要度の低い点では大きく譲歩するのだ。

たとえば、あなたはビジネスパートナーと一緒に会社の新しいオフィスを探しているとしよう。あなたは何をするにも便利な街の中心部に会社をかまえたいと思っているが、自分が仕事をする部屋自体にはそれほどこだわりがない。それに対してあなたのビジネスパートナーは、自然に囲まれた場所にある、明るくて気持ちのいい仕事部屋のあるオフィスに引っ越したいと考えている。

■ポイント「重要度のレベルを3つに設定する」

街の中心部に静かなオフィスが見つけられれば理想的だが、もし適当な物件が見つからなければ、次善の策は双方がもっとも重視する点を満たすオフィスを見つけることだ。街の中心部にあるわけでもなければ自然に囲まれているわけでもない郊外のオフィスに引っ越して、どちらも満足できない結果になるよりも、十分なスペースのある中心部のオフィスを選ぶようにするといい。

そうすれば立地はあなたの希望どおりだし、あなたのビジネスパートナーは明るくて大きな仕事部屋を手に入れられる。

ログローリングを成功させるこつは、あなたの交渉の目標を、「重要」「ほどほどに重要」「あまり重要ではない」の3つのカテゴリーに分類しておくことだ。「重要」のカテゴリーに当てはまるのは、その交渉の主な目的となっているもの、あなたが一番獲得したいと思っているものだ。「あまり重要ではない」は、交渉の対象ではあるが、あなたにとってそれほど大きな価値はないものである。

その点を交渉相手が重視していれば理想的だ。その場合、「あまり重要ではない」点は交渉における交換材料として大いに役に立つのだ。

■お互いが喜ぶ結果になるために“協調”しよう

ジャック・ナシャー『望み通りの返事を引き出すドイツ式交渉術』(早川書房)

旅行先をめぐって意見が対立した夫婦の例でいえば、あなたは旅行を通じて異文化を体験したいと思っているのに対して、夫が旅行に求めているのはおそらくビーチでのんびりすることなのだろう。そういう場合は、インドかドバイかという二者択一で口論をするのでなく、たとえばオマーンのように、どちらの要求も満たせる旅行先を探せばいい。

妥協ではなく、協調するのである。すでに信頼関係を築いている相手との交渉は、協力してよいアイディアを探すためのプロセスという色合いが強くなる。そうすると、ただ単に妥協をするよりもはるかによい結果を導き出せるようになるのだ。

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ジャック・ナシャー ミュンヘン・ビジネススクール教授
1979年生まれ。ミュンヘン・ビジネススクール教授(リーダーシップ・組織論)、ナシャー・ネゴシエーション・インスティチュート創業者。フランクフルト・ロースクールを首席で修了。オックスフォード大学サイード・ビジネススクールMBA修了。ウィーン大学Ph.D.修了。欧州議会、欧州司法裁判所、国連ニューヨーク本部などに勤務した。ドイツ語圏における交渉のトップエキスパートであり、世界各国の企業にアドバイスし、コミュニケーションと交渉術に関する講演やセミナー活動も行っている。

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(ミュンヘン・ビジネススクール教授 ジャック・ナシャー)

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