ラグビー代表を再生させた"すごいストレッチ"
プレジデントオンライン / 2019年10月21日 11時15分
■ラグビーと筋肉には共通点があった
ラグビーワールドカップ2019のサモア戦。日本にとってあと1トライが欲しかったノーサイド直前、松島幸太朗選手が最後にトライを決めたとき、4年前の壮絶な戦いの記憶が鮮明によみがえりました。
史上最大の番狂わせといわれた「ブライトンの奇跡」。南アフリカに勝ったその瞬間、日本代表に帯同していた私は同じグラウンドのベンチサイドで感激の涙を流していたのです。
日本代表チームで私に与えられた役目は、ケガをした選手を試合ができる状態にまで回復させること。今も代表の中核として活躍している堀江翔太選手、リーチ・マイケル選手、南アフリカ戦で決勝トライを挙げたカーン・ヘスケス選手など、故障を抱えていた選手たちを万全に近い状態で復帰させるまでの手順を考えることで、毎日頭がいっぱいでした。その分、勝利の喜びはかつてない感激となり、涙を抑えることができませんでした。
ラグビーではDiscipline(規律)を守ることがとても重要です。反則をしないでチーム一丸となり相手の得点を防ぐことの重要さを学びました。今回のラグビー日本代表の戦いぶりを見ても、ペナルティーを減らし、イエローカードやレッドカードを出さないことに注力することを選手全員で共有していることがわかります。
このDisciplineには「しつける」という意味もあります。これは人間の体にとっても必要なことだということを、ラグビーの試合に帯同し、選手の体をケアする中で痛感しました。「筋肉をしつける」「姿勢をしつける」ことにより、ケガや痛みを予防できることがわかってきたのです。
■スクラムで首の骨が変形した堀江翔太選手を再生させた
今回のワールドカップ初戦のアイルランド戦でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたフッカーの堀江選手ですが、2015年の時点では、長年にわたって組んできたスクラムの衝撃から首の骨が変形してしまい、それが首の神経を圧迫するまでになっていました。そのため、左手の指を思うように動かせないまひ状態になるまで悪化していたのです。
堀江選手は、2015年のワールドカップが始まる7カ月前に手術をし、代表に合流したのは4カ月前でした。私は彼と話し合い、ワールドカップに懸ける彼の思いを聞く中で、「私にできる精いっぱいのことをして、何とか間に合わせてあげなければいけない!」という気持ちになりました。
もちろん、施術してみないと間に合うかどうかはわからなかったのですが、体の構造のことや、私の経験してきたことを踏まえていくと十分可能性があるということを伝えました。
そして、ケガを治すためであれば何でもする覚悟を決めた堀江選手と、二人三脚のトレーニングが始まったのです。手術のリハビリをしながらトレーニングもこなし、何とかラグビーができる体にまで再生した彼は、見事、不屈の精神で先発出場し「ブライトンの奇跡」に貢献したのです。
■手術をせずにケガをケアする方針を採っている
私は独自に研究を重ねたバイオメカニクス(スポーツ力学、身体運動学)の観点からケガの状態を分析し、自ら開業した治療院「SATO.SPORTS」にて手技中心の施術を行っています。
一般的には手術が必要と思われるようなケガでも手術をせずに施術を行う方針を採り、それによって数多くのスポーツ選手を早期に現場復帰させるお手伝いをしてきました。
その技術を応用し、アスリートだけではなく一般の方々にも簡単にできるストレッチをいくつか考案しました。動かなくなった筋肉を目覚めさせ、一生痛まない体を自分で作るエクササイズを、拙著『取れない疲れが一瞬で消える 神ストレッチ』(KADOKAWA)からご紹介します。
■多裂筋を鍛えれば不調は改善する
正しい姿勢をつくるために最初にしつけなければいけないのが、背中にあるインナーマッスルの「多裂筋」という筋肉です。
実は、姿勢の悪い人の多裂筋は正常に動いていません。その悪い姿勢が原因で、肩こり、腰痛、ひざの痛みなどあらゆる不調につながります。
正しい姿勢の基本をつくるのは背中。背筋がピンとした姿勢は、背骨を正しいポジションで維持することで成り立ちます。それを可能とするのが、背骨に沿って縦にはり付いている多裂筋なのです。
背骨を正しいポジションで維持するために特に重要なのが、腰椎のすぐ上にある「第12胸椎」周辺の多裂筋です。この辺りの筋肉が動かなくなると、背中を反らせたり、その姿勢をキープしたりすることができなくなります。
また、体を反るという動きだけではなく、体をねじったり、腕を上げたりする上半身の動きにも制限がかかってしまいます。
■腰痛を改善したければ「壁ペタ背中反らし」を
良かれと思って運動しても、実は逆効果になっていることもよくあります。第12胸椎周辺の多裂筋を鍛えないまま、腰痛対策で一生懸命腹筋を鍛えたり、ランニングをしたりすれば、逆に腰椎や骨盤を悪化させてしてしまいます。
背中側の多裂筋を動かさないことが腰痛の原因なのに、筋肉を前側に縮める腹筋運動ばかり行うのは逆効果なのです。
まずは「壁ペタ背中反らし」の姿勢が取れるかどうかです。両腕を上に伸ばして壁に向かって立ち、胸が壁から離れないようにしながら、背中を縮めるイメージを持ってゆっくり腰を落としていきます。
背中が硬くなっている人は、わずかしか腰が下がらないことでしょう。中には全然背中を反らすことができず、腰の位置が下がらない方もいるかもしれません。
「壁ペタ背中反らし」によって第12胸椎周辺の多裂筋をしつけることができると、骨盤を動かさなくても上半身をスムーズにひねることができるようになります。
下半身がブレることがなくなるので、ゴルフやテニス、野球のバッティングといったスイングを伴うスポーツでは安定性が増すことでしょう。また、脂肪の代謝に関わる肩甲骨回りの細胞に刺激を与えることになるので、基礎代謝を上げられます。
「壁ペタ背中反らし」はオフィスタイムでも、トイレの中でも休憩中にできます。最初はきついかもしれませんが、毎日やると少しずつ腰の位置が下がっていくことが実感できるはずです。
この運動をやった後に体を回旋させると、回旋の可動域が明らかに広がったり、上体を反らしやすくなったりするので、すぐに変化を感じられると思います。
■肩こりがつらい人は「上腕ねじり」を
立った状態で腕を水平に上げていき、自分の耳の横までスーッと来ないようであれば、上腕骨のポジションに問題があります。途中までしか上がらなかったり、痛みを感じたりする場合は正常のポジションにないのです。それが当てはまる場合は、「上腕ねじり」が効果的です。
姿勢が悪い人に肩こりや首こりが多いのは、筋肉の使い方が悪いから。デスクワークなどで腕の骨が内向きになり、そのせいで大胸筋が収縮して硬くなってしまうことから肩こり、首こりが起きます。それが思い当たる人には、この「上腕ねじり」がオススメです。
壁を利用して、胸の筋肉(大胸筋)を伸ばし、肩甲骨回りの筋肉(棘下筋(きょくかきん))を縮ませ、肩が正しい位置で動くようにしつけるトレーニングです。
はじめのうちは体の軸が曲がってしまうかもしれないので、両肩が水平状態を保てる限界まで回転させて、徐々に90度を目指しましょう。はじめは決して無理をしないでください。
■あらゆる不調は正しい姿勢で改善へ向かう
いまや腰痛や肩痛、ひざ痛などの痛みに悩まされているのはシニアの方だけではありません。若年層の多くも、パソコンやスマートフォンなどの普及によって体の姿勢が悪くなり、それがさらに体を痛めつけるという悪循環に陥っているのです。すべては「正しい姿勢」から始まります。
ご紹介した「筋肉をしつける」ためのストレッチは、動かなくなってしまった筋肉に、本来の動き方を思い出させるのが目的です。学習効果を上げるには反復が基本。トレーニングする時間の間隔が短ければ短いほど、その効果は高くなります。
とにかく、今日から2週間頑張ってみましょう。皆さんの仕事のパフォーマンスもグンと上がると信じています。
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鍼灸師、アスレチックトレーナー
1977年、大阪府生まれ。日本体育協会公認のアスレチックトレーナー。2015年、ラグビーワールドカップ日本代表チームのメディカルスタッフとしてチームに帯同し、選手からは「神の手(ゴッドハンド)」と呼ばれた。現在、トレーニングジムおよび治療院「SATO.SPORTS」にて、スポーツや格闘技に励む子どもたちや各部位の痛みを訴えるシニアなどのトレーニング、施術、リハビリを行っている。
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(鍼灸師、アスレチックトレーナー 佐藤 義人)
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