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「本質を見抜くリーダー」になるための勉強法

プレジデントオンライン / 2019年10月22日 11時15分

オリックスの不動産事業は、シティホテル・リゾートホテルから温泉旅館まで多様なニーズに対応したホテル事業(左上)、内陸型大規模水族館の運営(右上)、オフィス・商業施設・物流施設などの企画開発(左下)、宿泊型研修施設(右下)など、多岐にわたる。

日本で新しい金融手法であったリース業を祖業として、融資、投資、生命保険、銀行、資産運用、自動車関連、不動産、環境エネルギー、コンセッション(公共施設などの運営権)事業などへと、多角的に事業領域を拡大してきたオリックス。同社の創業メンバーの一人で、2014年まで30年を超えてグループCEO(最高経営責任者)を務めたのが、ミスター・オリックスともいうべき宮内義彦氏だ。その語り口は静かだが、時に厳しく、企業社会と経営に対する洞察に満ちている。これからの企業経営を担う人材に向けて、経営に関する持論や自らの経験を縦横に語ってもらった。(第2回/全3回)

■やりようはいくらでもある

——少子高齢化という未曽有の問題に直面し、日本の成長はもう望めないという悲観的意見がメディアを賑(にぎ)わせています。宮内さんはこうした論調についてどうお考えですか。

【宮内】そういう環境であってもやりようはいくらでもあると思います。むしろ、日本はチャンスの山だと思っています。

なぜなら、日本は世界一の貯蓄大国であり、資金は山のようにあるわけですから、世界を相手に、それを投じるだけの事業を起こしていけばいいのです。

といっても、日本中の企業がどれもこれも日本から世界に出て行くべきだというわけではありません。

たとえば、鄙(ひな)びた田舎の温泉宿があるとしましょう。人気観光地に押され、お客さんが減ってきて困っているというなら、海外の旅行会社と提携し、インバウンドの外国人客を開拓してみたらどうでしょう。農業も、たとえば、アジアの富裕層をターゲットにした高質な野菜や果物を栽培できれば、これまでとはまったく異なる展開が期待できます。

——そう考えると、いくらでもチャンスはあるわけですね。

【宮内】もちろんです。日本には製造業神話があり、製品輸出が不利になるから円高が少しでも進むと、頭を抱えてしまう人が多い。しかし実際には、日本のGDPにおける製造業が占める割合は23%ほどでしかありません。残りの大部分、70%は第3次産業、主にサービス業なんです。また、同じGDPにおける輸出の比率はたった13%です。日本は輸出大国であり、加工貿易で食べていると言われますが、現実はそうではないのです。

面白いことに、GDPに占める輸入の割合も13%程度でほぼ均衡しているんです。つまりは、円高になったら輸出には不利になるけれども輸入には有利になる、逆に円安になったら輸出に有利になるけれども輸入には不利になる。その輸出入の割合がほぼ同じだから、円高も円安も、日本全体にとっての影響はイーブンということになります。

日本のお金の価値が高いほうがよい、ということでいえば、私は円安よりも円高のほうが望ましいことだと思います。それなのに、円高になると、メディアが決まって騒ぎ出すのには首を傾げたくなります。先入観にとらわれず事実を客観的に把握し、正しいマクロ観を身に付ける必要があるのです。

オリックスの業績「当期純利益とROE 2010年3月期~2019年3月期」

■同業他社を仮想敵にしないほうがいい

——企業の経営環境がますます複雑化する中で、経営者の役割の大切さがより一層強まっています。経営者はどんな意識で仕事に向かうべきでしょうか。

【宮内】私自身は「会社を大きくしたい」というよりも「会社をよくしたい」という思いで、日々の経営に携わってきました。今日のオリックスより明日のオリックスをよい会社にしたい、そうならなければいけないと。

その場合のよい会社とは何か。会社である限り、財務内容が優れていなければならないのは当たり前ですが、それだけでは会社の善し悪しはわかりません。やはり、社会から必要とされるサービスや製品を提供できているか、給料や待遇面だけではなく、社員一人ひとりにとって働きがいのある組織になっているか、という点も非常に重要です。

そのためには、売上高や利益という数字に限らず、技術力やネットワークの広がり、経営者の人柄や社員のモチベーション、社内風土など、さまざまな視点から会社を見てみることが重要です。株主、顧客、取引先、地域社会、何よりそこで働く社員にとっていい会社にしなければ意味がないということです。

戒めなければいけないのは、会社を成長させようと思うあまり、同業他社を仮想敵とすることです。切磋琢磨することはいいのですが、「A社に負けるな」と強く意識したり、業界シェアを高めることが自社にとっての最大の目標だと思うのはやめたほうがいい。他社をベンチマークにしすぎると、視野が狭くなり面白い会社が作れなくなるからです。

オリックスを設立してしばらくたつと、同業のリース会社がたくさんできました。最初は「負けてたまるか」という気持ちがあったことは確かですが、成長のために、新規事業を次々と手掛けていくうちに、同業者をライバル視しない気持ちが芽生えてきました。仮にリース業で後塵を拝することがあっても、うちは社会が必要とする事業で成長しているんだという自負を持てるようになってきたのです。そうやって「オリックスはオリックスの動きをする」ようになりました。

企業活動とは、「新しいことを世の中に問う」という働きを担っているものです。いい会社に進化するには、他社を気にするより、このアイデアが面白い、このサービスが役に立つ、といった顧客の利益に目を向けたベンチマークを設定することです。社会に価値あるものを提供するためにはどうしたらいいか、真の目的を常に意識しておくことが大切です。

群馬県の吾妻木質バイオマス発電所。太陽光、地熱、バイオマス、風力といった再生可能なエネルギーサービスにも力を入れている。

■自分の頭で考え続けるしかない

——物事の本質を見抜ける経営者になるにはどうしたらいいでしょうか。

【宮内】日々勉強し、考え続けるしかないでしょう。勉強といえば本を読むことがすぐに思い浮かぶでしょうが、それだけではありません。新聞や雑誌、信頼できるネット記事を読み込むこともいいでしょうが、人に会い、話を聞くのも立派な勉強です。同じ業界やビジネスに直結する人に会うだけでなく、さまざまな人に会って話をし、意識して人脈を広げることが大切です。そしてより重要なのは、インプットした情報を基に粘り強く、自分の頭で考えることです。

——考えるということでは、社外のコンサルタントや学者をブレーン化し、ことあるごとに相談する経営者もいます。

【宮内】知恵を借りたいという気持ちと、判断を間違ってはいけないという思いがあり、オリックスがまだ小さい時から、私も随分多くのコンサルタントにお世話になってきました。学者によるセミナーなどにも積極的に参加してきました。でも、彼らの存在はそれ以上でもそれ以下でもありません。

話は参考になりますし、得るところも多い。こちらの判断に対して「それは違う」と言われたら考え直すこともあります。ただ、主体はこちらにあり、決めるのは経営者自身です。「教えてください」という受け身の姿勢ばかりを取るのはやめたほうがいいでしょう。経営は経営であって、彼らはそれを横や斜めから見て、独自の理論やフレームワークをつくっている。その理論やフレームを聞いて、役に立つこともあれば自社には役に立たないこともあるということです。

——これまで目標にしてきた経営者がいたら教えてください。

【宮内】よく聞かれますが、特にはいないのです。誰かをお手本にするというよりも、いろいろなことを学びながら自身で考え、オリックスの経営に携わってきましたから。もちろん、パナソニック(松下電器産業)を作った松下幸之助さんなどは偉大な人物だと思っています。

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宮内 義彦(みやうち・よしひこ)
オリックス シニア・チェアマン
1935年神戸市生まれ。58年関西学院大学商学部卒業。60年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現双日)入社。64年オリエント・リース(現オリックス)入社。 70年取締役、 80年代表取締役社長・グループCEO、 2000年代表取締役会長・グループCEO、14年オリックスの経営から退きシニア・チェアマンに。総合規制改革会議議長など数々の要職を歴任。現在は一般社団法人日本取締役協会会長などのほか、カルビー株式会社、三菱UFJ証券ホールディングス株式会社などの社外取締役も務める。著書に『“明日”を追う【私の履歴書】』『グッドリスクをとりなさい!』『私の経営論』『私の中小企業論』『私のリーダー論』など。

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(オリックス シニア・チェアマン 宮内 義彦 文=荻野 進介)

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