友達を人質にして逃亡した「人間失格」な太宰治
プレジデントオンライン / 2019年10月28日 11時15分
※本稿は、進士素丸『文豪どうかしてる逸話集』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■メロスとはほど遠い太宰治の「友情」
処刑を受ける自分の人質となって待っている友人のためにひたすら走り、暴君の王を感動させ改心させてしまうほどの友情の美しさを描いた太宰治の名作『走れメロス』。実はこのお話は太宰の実際の経験に基づいて書かれていると言われていますが、その結末は小説とはかなり異なった、なかなかに酷いものでした。
太宰が執筆のために、熱海の旅館に籠っていた時のこと。
遊びすぎて宿泊費が払えなくなった太宰は、奥さんに「金を用意してくれ」と連絡し、頼まれた奥さんは、太宰の親友でもある作家の檀一雄にお金を託します。
しかし、檀が熱海に到着すると奥さんに持たされたお金をすべて飲み明かして使ってしまうふたり。
「今度は菊池寛に金を借りてくる」と出かけようとすると、「そのまま逃げる気じゃ?」と旅館の番頭に言われ、人質として檀を旅館に置き去りにしたまま太宰は東京に戻ってしまいます。
しかし、待てど暮らせど戻ってくる気配のない太宰。なんとか番頭を説き伏せて東京に戻った檀一雄は怒り心頭で太宰を探し回り、井伏鱒二の家へ乗り込みます。そこで見たのは、のんびり将棋を指していた太宰の姿。
「あんまりじゃないか!」と荒ぶる檀に、太宰は一言こう言い放ったのでした。「待つ身が辛いかね、待たせる身が辛いかね」。
■借金を「錬金術」と呼んだ内田百閒
また、同じく明治の文豪・谷崎潤一郎のエピソードもなかなかです。貞淑で従順な奥さんにもの足りなさを感じてしまい、奥さんを友人の佐藤春夫に譲ってしまいます。
他人のことを何とも思っていないようなこれらのエピソードはなかなか理解が難しいですが、なんだかんだで和解してしまう太宰と檀、谷崎と佐藤。ちなみに佐藤と再婚した谷崎の元妻・千代は、死ぬまで佐藤と添い遂げました。
決して貧しかった訳ではない文豪の方々ですが、我々の想像がつかないくらいお金に対する意識が低い人もいました。
例えば大学で教鞭をとっていた内田百閒。給料をもらったそばから使ってしまい、毎月のように友人知人から借金をし、闇金にも手を出します。何度も差し押さえに遭ったり、債権者に追われて逃げたり、家を追い出されてバラックに住んだりとおよそ大学の先生とは思えない生活ぶりでしたが、「旅行に行きたい! 酒を飲みたい! うまいもんが食いたい!」と思うと、懲りずにまた借金をして自分のやりたいことは決して譲りませんでした。
そのうち、「給料日は借金取りが来るから嫌いだ。でも借金をすればうまいもんが食えるから好きだ」などというよくわからない境地に辿り着き、「そもそも借金っていうのは、金のある所からない所に移動させているだけのこと」と言い出します。「借りた金を生活のために使う奴は借金の素人。徹底して放蕩に費やすべし」と宣言し、最終的には借金することを「錬金術」と呼びました。
■川端康成は文藝春秋の社長から2000万円借金
また日本人で初めてノーベル文学賞を受賞した川端康成も、借金の天才でした。
ある日突然、文藝春秋の編集部に現れた川端は、当時の社長に「金庫にいくらありますか?」と聞き、「え? 300万くらいは……」と社長が答えると「欲しい壺がある」と言って全額持って行ってしまい、壺を買うのに使ってしまいました。
当時の300万円は、現在の価値に換算すると約2000万円に相当します。
また、『伊豆の踊子』を執筆する際に伊豆の旅館にしばらくの間滞在した時も、宿代数カ月分も1円も払いませんでした。
もちろん借りたお金は返した方が良いですが、このくらい図太く生きてみたいものですよね。
■甘党の夏目漱石はジャムを1日1瓶空けていた
自由奔放な文豪の皆さんは自らの欲求にもとても素直に見えます。
千円札の肖像にもなっていた夏目漱石は、実は大の甘いもの好き。「体に悪いから」と医者にとめられてもやめられず、大好きなジャムは1日で1瓶空けてしまいます。胃潰瘍になっても甘いものをやめないので、奥さんが甘いものをどこかに隠すと、娘を使って捜させていました。
また、法華経を信仰していた宮沢賢治は、「動物食べるのつらい。動物食べるのかわいそう」と思うようになりベジタリアンになることを宣言しますが、ついつい肉食の誘惑に負けてしまい「今日私はマグロを数切れ食べてしまいました」とか「今日は豚肉と茶碗蒸しを食べました」とか、「今日は塩鱈しおだらの干物を(以下略)」など、特に送る必要もない「今日も誘惑に負けてしまいました」報告を友人に続けました。
■文豪のようにゆるく生きてもいい
「文豪」と聞くとなんだか偉い人のようなイメージもありますが、実際はかなり人間味あふれる部分や、「人間失格」な部分もたくさんありました。
もちろんあまり真似しない方が良い/参考にならないところもありますが、後世に残る素晴らしい作品を残した文豪たちの自由な生き様には、何かと窮屈なこの時代を生きるヒントが隠されているのかもしれません。
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クリエイター
1976年生まれ。マルチクリエイターとして、舞台演出照明、映像制作、グラフィックデザイン、ライティングなどを手がける。「カッコいいニッポン」をテーマに活動するパフォーマンスチーム「en Design」で照明演出を担当し、同団体のブログに寄稿した記事がきっかけとなり初の著書『文豪どうかしてる逸話集』を出版。
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(クリエイター 進士 素丸)
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