実は「不快にさせ、お詫び」は有効な謝罪だった

プレジデントオンライン / 2019年10月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Richard Villalonundefined undefined

交渉中に険悪になり、相手を怒らせたらどうすればいいか。ミュンヘン・ビジネススクールのジャック・ナシャー教授は「相手の意見に同調し、時には利用する。例えばデザイナーのポール・スミス氏は議論が紛糾すると、おもちゃを見せて場を和ませている」という――。

※本稿は、ジャック・ナシャー『望み通りの返事を引き出すドイツ式交渉術』(早川書房)の一部を再編集したものです。

■怒った相手に反撃しても勝ち目はうすい

業務上のミスで、取引先を怒らせてしまった。相手は、あなたの非を責めつづけている。どのように対処するのがよいだろう?

相手があなたを攻撃するとしたら、その対象となるのはあなたの論理かあなた個人かのどちらかだろう。攻撃されれば私たちはつい反論したくなる。

だが反撃が功を奏することは滅多にない。反論された相手は、態度を一層硬化させてしまう場合がほとんどだからだ。それにもしその小競り合いに勝てたとしても、結局はあなたの負けだ。そのころには相手との関係は、もう修復不可能なほどのダメージを受けてしまっているからだ。自分に屈辱を味わわせた相手の顔を、誰がまた見たいと思うだろう? ほかの人の前で屈辱を味わわされたのならなおさらだ。

相手から攻撃されたときには、あなた個人への攻撃を、あなたが非難を受ける原因となった問題自体への攻撃にすりかえられるような、新しい解釈を付け加えるといい。

たとえばこんな感じだ。「あなたは私が家族を全然かえりみないと言いますが、私だって自分の一番身近な人たちと十分な時間を過ごせていないことを申し訳なく思ってるんです。これからはしょっちゅう出張に出なくてもすむプロジェクトだけにかかわれるよう、最大限努力するつもりですよ」

■10数えても怒りがおさまらないなら100まで数える

ニュートンの法則では、作用には必ず反作用が伴うと結論づけられているが、この法則が当てはまるのは物理の世界だけだ。人とのコミュニケーションにおいては、私たちは相手にどう反応するかを自分で選びとることができる。

ひどく腹をたてているときは、相手の言葉に反応しないほうがいい。そんなときに口を開いても、ろくなことにならないからだ。怒りを感じているときは血液が脳から足やこぶしに一気に送られ、あなたの判断力は正常に機能していない。怒りの感情というのは、ヘラクレスのヒドラ退治のようなものだ。頭をひとつ切り落とすたびにふたつ新しい頭が生えてくる。少し時間をおかなければ怪物の姿はもとには戻らない。

交渉の場で怒りを感じたときは、深呼吸をして10まで数を数えよう。それでも怒りがおさまらなければ、アメリカの大統領だったトーマス・ジェファーソンが勧めているように、100まで数えるといい。そうすればあなたの脳は、また冷静な判断ができる状態に戻るだろう。そうしているうちに、交渉相手にも冷静さが戻ってくる。相手の怒りもまた、そのころにはおさまっているはずだ。

■苦情が来たら、柔道のように相手の“力”を利用する

交渉術のテクニックのなかでも私がもっとも難しく感じるのは、この怒りをおさめるという行為だ。

たとえば、午前中の大半をカスタマーサービスのホットラインに電話がつながるのを待ちながら過ごし、ようやく誰かと話ができたと思ったら、「残念ながらここでは請求書の金額を修正することはできません」という答えしか返ってこないときなど、私は自分の到達目標を強烈に意識しなおさなければ落ち着きを保てない。

そういうときは、私の目標は苦情を言うことでも電話の相手に八つ当たりをすることでもなく、相手を自分の味方につけて問題を解決することなのだと強く自分に言い聞かせ、なんとか冷静さを保つようにしている。

反対にあなたが苦情を受ける立場だった場合には、攻撃した相手は当然、あなたが自己弁護をしたり反論をしたりしてくるだろうと予測しているだろうから、あなたは相手の意表をついて、相手に同意を示せばいい。「おっしゃるとおりですね。私があなたの立場だったら同じように腹をたてると思いますよ」。そう言えば、相手は返す言葉を失うはずだ。日本の柔道家のように、相手の力を利用して技を仕掛けるのである。

できる限り相手の意見に同意しよう。通常は、無愛想にすれば無愛想な反応が、攻撃すれば反撃が返ってくるものだが、このパターンを崩さなければあなたの目標には到達できない。

■交渉の席でポール・スミスが出したものは……

数十年来、日本でビジネスを展開しているイギリス人デザイナーのポール・スミスは、議論が紛糾しすぎたときの彼独自の対処法について私に話してくれたことがある。

交渉の場の雰囲気が険悪になったのを感じると、ポール・スミスはブリーフケースのなかに常備しているゴム製のにわとりを、無言でテーブルの上に置くのだそうだ。そうすると、一瞬あっけにとられた後で全員が思わず笑い出してしまうため、ネガティブな感情は払拭されて、また冷静な交渉ができる状態に戻るのだという。

また、コールセンターやホテルの職員など、苦情受付のプロたちは、激昂している相手に対して「落ち着いてください」とは決して言わない。それよりも彼らは相手に話させ、それに耳を傾ける。すると苦情を言う側はたいてい驚く。トラブルのさなかにいて、自分はほとんど理解されていないと感じている人にとっては、予想外の対応だからだ。話をしているうちにネガティブな感情は消滅していき、徐々に苦情を言う側にも冷静さが戻ってくる。

交渉中にネガティブな感情がわき起こったときには、相手に反論せず、常に冷静さを保つこと。そのうえで自分の感情に見合った反応をしながら相手の感情に注意を払い、全体を俯瞰できるようにしていれれば、あなたは交渉にかかわる感情に、適切に対処できるようになる。

■言い訳を述べてから謝ると信頼を失う

では、どう謝罪をするか?

子供は謝罪の効用を知っている。謝罪するにはある程度自制心を働かせなくてはならないとはいえ、「謝れば問題を解決できる」と親から教えられるからだ。ところが大人になると、私たちはいつの間にかそれを忘れてしまう。

謝罪は、相手のなかにあるわだかまりを解消できる唯一の手段だ。ことの大小を問わず、謝罪を受けなければ、相手はあなたへの報復感情をもたずに冷静な会話ができるようにはならない。私はフランクフルトの地方裁判所で医療訴訟の傍聴をしていたことがあるが、訴訟のうちの大半は、医者が患者に謝罪していれば起こさずにすんだようなものばかりだった。

心からの謝罪をすれば信頼関係をまた構築できるが、言い訳ばかりでなかなか謝罪の言葉を口にしなければ、相手からの信頼を失ってしまうだろう。「たしかに30分遅刻してきたけど、本当は時間通りについていたはずだったんだよ。乗ろうとしていた地下鉄はどういうわけか早めに発車してて、乗るはめになった次の地下鉄は遅れてたんだ」

■「気分を害して申し訳ありません」だけでも有効

謝罪をするときは、責任を自分以外の何かに押しつけるのでなく、あなた自身に非があることを認めたほうが信頼性は高くなる。

ジャック・ナシャー『望み通りの返事を引き出すドイツ式交渉術』(早川書房)

つぐないのために苦行をする必要はないが、正直に相手に謝罪の意を表明しよう。本当にあなたに非がなかった場合でも、せめて相手に不快な思いをさせたことを申し訳なく思う気持ちは伝えたほうがいい。「あなたは大事なお客様の一人です。私たちのアドバイスが行き届いていなかったようで、本当に申し訳なく思っています」

だがあなたに非がある場合は、それを明確にしたうえで相手の感情に理解を示すのが理想的な謝罪の仕方だ。「私の言葉が過ぎたせいで、あなたの気分を害してしまって申し訳ありません」

謝罪のタイミングは早ければ早いほどいい。そのことは、複数の学術研究によってすでに証明されている。

また謝罪をするときには、今後も同じことが繰り返されるのではないかと相手が不安にならないように、あなたのミスは日常的なものではないと強調するのも忘れてはならない。

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ジャック・ナシャー ミュンヘン・ビジネススクール教授
1979年生まれ。ミュンヘン・ビジネススクール教授(リーダーシップ・組織論)、ナシャー・ネゴシエーション・インスティチュート創業者。フランクフルト・ロースクールを首席で修了。オックスフォード大学サイード・ビジネススクールMBA修了。ウィーン大学Ph.D.修了。欧州議会、欧州司法裁判所、国連ニューヨーク本部などに勤務した。ドイツ語圏における交渉のトップエキスパートであり、世界各国の企業にアドバイスし、コミュニケーションと交渉術に関する講演やセミナー活動も行っている。

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(ミュンヘン・ビジネススクール教授 ジャック・ナシャー)

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