「何でもスイカで支払う人」が大赤字に悩むワケ
プレジデントオンライン / 2019年10月31日 6時15分
■「マンション売って老後資金を」独身50男の大誤算
「2年前の人事異動で役職からはなれて収入が大きく減ってしまい……しかも所有している不動産物件の価格も落ち始め、急に老後のことが心配になったのです」
吉原健太郎さん(仮名・51歳・独身)は不動産会社の支店長を務めていましたが、会社が業績不振により他社に吸収合併され、一般社員へ降格になってしまったのです。
そのため、手取り収入は10万円ほど減ってしまい、毎月赤字が続いています。ボーナスも約3割減ってしまったため、赤字補塡(ほてん)に使うとそのほかの支払いができなくなり、預貯金を崩して暮らすという悪循環になっています。
ボーナスの使い道は、住宅ローンのボーナス返済や固定資産税などです。これらでボーナスのほとんどがなくなる金額になります。
大学卒業してからずっと不動産業界に勤めている吉原さんは、将来的に資産価値が上がると読んだ物件を、将来的に売れば何かの資金になると考えて購入し、住んでいます。40歳を過ぎた頃から、「このまま一生独身かもしれない」と考え始め、この物件を売って老後資金にすればいいだろうと思っていました。そのため、毎月の収支やボーナスからの預貯金ができなくても、あまり問題だと感じていませんでした。
ところが、最近この物件の評価額が落ち始めて、予定通りの額で売れない可能性が見えてきました。
そのような中、貯蓄残高を確認してみると約200万円。毎月、生活費の補塡をするため少しずつ減っています。現在、51歳。あと10年で定年というところで、大きな不安を抱えこんでしまいました。
■貯金200万、退職金1000万「老後資金2000万」に程遠い
マンションは今後、ローンを完済させて一生住むとしても、老後の生活費が気になります。退職金は出るものの、おそらく1000万円ほど。会社に企業年金制度はありますが、社員による選択式のため吉原さんは加入せずにいました。
今までの無計画さを悔やむとともに、これからの10年間、どのように暮らすと老後資金を増やし老後破綻とならずにすむのか。頭を悩ませています。
吉原さんはまず家計簿をつけてみようと思い、家計簿アプリでの記録を1年ほど前から始めました。全てを記録できたわけではありませんが、ある程度の収支の状況が見えてきます。
■外食、競馬、酒・たばこ……月の支出は約43万円、毎月約6万も赤字
住宅ローン(10万2000円)、通信費(2万1000円)、生命保険料(2万2000円)などの「固定費」の支出も多かったのですが、「変動費」となる外食代(6万5000円)、交通費(2万8000円)、趣味費(競馬と美術館巡り、計5万1000円)、嗜好品代(酒とタバコ、計3万9500円)も支出が多く、全体的にメタボ家計です。
このことは吉原さんも自覚しており、「支出を引き締めなくてはいけない」と言いますが、どれも習慣になってしまっており、どこから削減してよいかわからないようです。
そこで費目ひとつずつの支出内容を振り返り、それぞれが必要なものであるかどうかを検討していくことにしました。こうすることで、「自分が何にいくら使っているか」が見えてくるはずです。その上で、削減するためのポイントを考えていくことにしました。
最初に「固定費」の見直しに着手しました。住宅ローン返済はしかたないとして、問題は通信費と生命保険料です。契約当初のままで一度も見直しをしなかったのですが、今回、通信費(2万1000円→9000円)、生命保険料(2万2000円→1万7000円)と現状にあった内容に変えました。
■外食も買い物も「スイカ」で支払う習慣が浪費の元凶
次は、「変動費」です。これまでは養う家族がいないことをいいことに、自分の好きなように使っていました。食事は、外食やデリバリーが中心で、自炊の比率が少ないようです。気分転換に料理をすることは好きだということでしたので、その比率を多くし、外食などの回数を減らすようにしていきました(外食費6万5000円→4万3000円)。
日用品は、見た目は月に6000円しか使っていないことになっていましたが、交通費の名目で使われている(Suicaなどで支払い)日用品費を含めると、毎月1万3000円ほど使っていたことがわかりました。
吉原さんの支出の内容を細かくチェックすると、クレジットカード、電子マネーでの支払いが費目分けされていませんでした。つまり、外食をしても、日用品を買っても、スーパーで食品を買っても、Suica(スイカ)など交通系電子マネーで支払えば「交通費」となったままだったのです。
キャッシュレス決済は現金より支払いがスムーズですし、今なら国の消費増税対策で「ポイント還元」されているのでお得感があります。しかし、そうした便利さや目先の利益に惑わされると、不要な出費が増え、たちまち家計がおかしくなってしまいます。
吉原さんも「何でもスイカ支払い」を改める必要がありました。その他の支出を切り離してみると、純粋な交通費は月に1万円もかかってないことがわかりました。
競馬や美術館巡りといった趣味費の掛け方も見直しました(計5万1000円→2万4000円)。競馬は観戦中心、美術館ではグッズ購入をせず、観賞を中心にすることにしました。
さらに、タバコはこれを機にやめよう、などとできる範囲での削減案も出てきて、積極的に取り組むことにしました。実践できれば、かなりの支出削減が可能になります。
■「スイカは交通費専用に」決済方法をルール化する
吉原さんは、収入が減るとか、物件価値が下がったことばかりを気にしていました。しかし、実は一番単純で効果が出やすい家計のコスト最小化にあまり目を向けなかったのです。
そもそも収入の全てを毎月使い果たし、マンションを売って老後の資金を手にするといったうまい話はなかなか実現できないものなのです。
少しお金の使い方を変えると、支出の削減につながることがわかった吉原さんは、今、わかりやすい支出を目指しています。地味に手書きで家計簿をつけるということは自分に向いていないし、家計簿アプリを細かく設定することも向いていないことがわかったので、家計簿アプリの利用の仕方を変えたのです。アプリの使い方というより、「決済方法の使い方」を変えたというほうが正しいでしょう。
・交通系電子マネーは、交通費専用に。
・ドラッグストアで使いやすい決済アプリをスマートフォンに入れ、それを日用品の決済専用に。
・クレジットカードは食品に。
・もう一つのカードはその他の決済に。
以上のように決めて、そのすべてを家計簿アプリにひもづけるのです。すると、費目別に管理をしなくても、決済方法を見ると何に対する支出かがわかります。
■月11万円分もコストカットでき、5万円貯金できるメド
現在の収入の中で暮らせるようになった吉原さんは、物件の価格をあまり気にしなくなりました。それよりも早く完済をして、貯蓄を増やすことを目標にするまでになりました。
家計見直しにより毎月の貯蓄可能額は5万円強となりました。あと3年ほどで住宅ローンが終わる予定なので、それ以後は月に15万円、ボーナスから年間60万円、1年間に300万円弱を貯蓄して、老後に備えることを目標にしています。そうすれば、2000万円近くの貯蓄ができる計算となります。
「独り身だから気ままに暮らしていた」「資産のつもりで不動産を購入した」「収入が減った」など、自分にお金(貯蓄)がないという理由はいくらでも作ることができます。でも、目の前のことをきちんとしないで言い訳ばかりしていても、何の改善にもなりません。
やはり、自分が今できることをしっかりする、ということが大切です。それが将来につながっていきます。そのためには、吉原さんのように決済方法の工夫というやり方もいいアイデアとなるはずです。
老後資金に不安がある人で、生活防衛資金がある場合または貯蓄と同時進行でできる場合は、たとえ50代でも「つみたてNISA」などの投資をお勧めします。人生100年時代と言われるほど長寿になっていますから、50代から始めても意味がないことにはなりません。
しばらく使わないお金を長期投資することで、ある程度お金を増やすことを期待していくことも、老後資金準備としては良いと思います。
■メタボ家計【コストカット額ランキング】
基本的に馬券を買って当てることを狙うのはなく、競馬場の雰囲気を楽しみながらレースを予想して楽しむことをメインに。競馬場での飲食も「月8000円」までにした。
1位 -2.2万円 外食費
朝・昼・晩ほとんど外食していたが、朝と日曜日の夜は自炊に。
3位 -2万円 交通費(Suicaチャージ)
Suicaは、交通費のみに使用することに。
4位 ―1.4万円 嗜好品(タバコ)
禁煙を目指し、「禁煙ガム」の購入代のみとした。
5位 -1.2万円 通信費
タブレットを解約し自宅Wifiで使う。スマホは契約の見直しをした。
6位 -0.8万円 教育費
民間のスポーツジムを自治体運営のジムに変更。
7位 -0.7万円 交際費
月4回以内、1回5000円以下を目標にする。
8位 -0.5万円 生命保険料
更新時期だった死亡保険を解約し、掛け捨てタイプに変更。
8位 -0.5万円 趣味費(美術館巡り)
美術館でのグッズ買い、飲食は当面封印。入場料のみで。
9位 -0.45万円 嗜好品(酒)
「ビールは1日1本」を目標に。
10位 -0.2万円 生活日用品費
Suica払いをやめ、プリペイド式のカードで支払う。
▼コストアップした費目
+0.5万円 食費
自炊回数を増やすため。
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家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表
お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の問題の抜本的解決、確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万3000件を突破。各種メディアへの執筆・講演も多数。著書は60万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』や『年収200万円からの貯金生活宣言』を代表作とし、著作は110冊、累計330万部となる。個人のお金の悩みを解決したいと奔走するファイナンシャルプランナー。
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(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭)
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