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「挨拶状700通に返事ゼロ」退職者が味わう絶望

プレジデントオンライン / 2019年11月8日 11時0分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JackF

「このまま定年まで我慢するより、いっそ早期退職して」。そんな考えが頭をかすめた人もいるだろう。だが、41歳でリクルートを辞めた前川孝雄氏は、人材育成コンサルタントとして独立。早期退職後に700通のあいさつ状を出したが、返事はゼロだったという。その後、なぜ前川氏は立ち直れたのか——。

※本稿は、前川孝雄『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■希薄になりがちな古い友だちとの付き合い

大企業で働くミドルは日々の忙しさにかまけて、古い友だちとの付き合いが希薄になりがちです。また、地域社会や趣味など会社以外の場所で新しく友だちを作ることにも積極的ではありません。

これは人生後半戦のことを考えると危険信号。だから、「自分には名刺がなくても付き合える社外の知人が何人いるだろうか?」ということを常に自分に問い続けていただきたいですし、少ないと感じたのなら、今すぐ友だちと呼べる関係を増やしていくよう意識的に行動していただきたいのです。

■700通の退職あいさつ状を送るも反響ゼロ

かくいう私は、会社を辞めた後で、名刺や肩書がなくても付き合える友だちの大切さを痛感することになりました。

キャリア支援、人材育成を仕事にしたいと考えて起業した私は、当初、リクルート在籍時に得た人脈がビジネスのきっかけになるのではないかと考えていました。そのため、これまで名刺交換した人たちの中からこの人はという人をピックアップし、700通ほどのあいさつ状を送りました。そのうち1割くらいからは、すぐに仕事の依頼とまではいかなくても、何かしらの反響はあるだろうと見込んでいたのです。

サラリーマン時代には縁のなかった税理士さんや司法書士さんを探して依頼し、会社を設立。自分なりに事業計画を立てて、その計画が絵にかいた餅にならないためには、まずは顧客や仕事の獲得です。この700通はその大きな一歩につながるはずでした。

——ゼロ。しかし、私の甘い見通しは見事に裏切られました。反響は「ゼロ」だったのです。

■「いま死んでも仕事で困る人は誰もいない」

私は大変なショックを受けると同時に、名刺や肩書を介したつながりがいかにアテにできないものであるかを痛感しました。倍々ゲームで売り上げや社員数も増えていくと楽観していた事業計画書はすぐにゴミ箱に捨てました。

しょせん大企業の看板がなければ自分は通用しないのか……。仕事もなく、そのように思い悩むどん底の日々が続きました。

大手企業で管理職をしていた頃は、1日に100通以上も届くメールや分刻みの会議・打ち合わせで忙殺されていたのに、今はメールどころか携帯電話もまったく鳴らない。出掛けるあてもない。庭に現れた野良猫に名前をつけエサを与え話しかけたり、平日の日中に近所の公園で遊ぶ若いママと子どもたちをボーッと眺める毎日。

いま自分が死んでも仕事で困る人は誰もいない。自分は誰からも必要とされていない……。社会から締め出され孤立し、生きていく平衡感覚すら失ったような絶望感を覚えました。

■どん底にいる自分を助けてくれたのは友だちだった

ただ、幸いなことに私には数多くの友だちがいました。もともと妻にも「あなたは会社員には向いていない」と言われるくらい、組織の枠からははみ出して生きてきた私は、社内外で友だちと呼べる人間関係を広げてきました。

ただし、何か魂胆があって人脈を形成してきたというわけではなく、自然に気の合う仲間が増えていったというだけです。会社を辞めたときも、社外の友人が30~40人集まって壮行会を開いてくれたものです。そのときに集まってくれた友だち、先輩、後輩がどん底にいる私にいろいろな手助けをしてくれたのです。

ITに疎い私のために手弁当で会社のホームページを作ってくれたり、営業経験のなかった私のために見積書の書き方を一から教えてくれたりと、いろいろなことで彼らのお世話になりました。なにしろ、大企業を飛び出して、仕事もない状況で、平衡感覚すら失いかけていたときでしたから、何の見返りも求めずに力を貸してくれる友だちの存在は大きな励みになったのです。

■名刺でつながった人脈はもろい

このように、大企業の看板が外れた私が本当に困っていたときに助けてくれたのは、すべてプライベートでも親しくしている友だち、先輩・後輩たちでした。サラリーマン時代に仕事関係の人脈は広いつもりでしたが、結局は、損得勘定抜きで付き合っていた仲間だけが、自分には何の得もないのに手を差し伸べてくれたのです。

つまり、名刺交換してきた人脈ではなく、名刺でつながってこなかったご縁こそがあなたの支えになってくれるのです。

起業をしたら人脈が大切になると考え、異業種交流会に参加して名刺を何枚も集めたところで、まったく意味はありません。

また、ギブ&テイクの発想で築いた仕事関係の人脈は、あなたにギブできる力があるときには役立つでしょうが、本当に苦しいときには頼りにはなりません。調子の良いときも悪いときも長く続く人間関係というのは、お互いに見返りを求めないギブ&ギブの精神でつながっているものです。それはつまり友だちです。

■50代転職は「縁故」を活用すべき

50歳を超えて転職を考えると表に出る求人の数は目に見えて減りますし、求人の内容も限られてきます。

では、50歳以上のミドル・シニアはどのように満足できる転職や再就職をしているかというと、親しい友人が経営・勤務する会社に縁故で採用されているケースが多いのです。最近は会員制交流サイト(SNS)の浸透でリファラル採用という縁故採用が20~30代で盛んになっていますが、ミドルこそ縁故採用を活用すべきです。

人生の後半戦は、仕事、プライベートを変に区分けすることなく、今までにつながってきた人たちとの間に友だちとしての人間関係を丁寧に築いていきましょう。そんな友だちが何人もいることが、あなたの第2、第3の職業人生を豊かなものにするのです。

■肩書を外した自分は何者なのか?

前川孝雄『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHPビジネス新書)

会社を辞めた後に、名刺や肩書が介在しない、信頼でつながった人間関係の大切さを改めて思い知った私は、今も日々「自分には名刺や肩書がなくても付き合える友だちが何人いるだろうか?」と自分に問い続けています。

また、講演に呼ばれたり、キャリア相談に乗ったりする際には、「今の職場の上司や同僚との関係を大切にしなさい」「周囲の期待に応え続けなさい」と伝えています。

その問いは、「名刺や肩書を外した自分は何者なのか?」「その自分を認めてくれる人がどれだけいるのか?」というより深い問いにもつながっていきます。

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前川 孝雄(まえかわ・たかお)
FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師。400社以上で人が育つ現場づくりを支援。著書に『「働きがいあふれる」チームのつくり方』など。

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(FeelWorks代表取締役 前川 孝雄)

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