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なぜ安倍内閣の閣僚たちは次々と辞任するのか

プレジデントオンライン / 2019年11月1日 18時15分

安倍晋三首相に辞表提出後、記者団の質問に答える河井克行法相(中央)=2019年10月31日、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

■内閣改造からわずか1カ月半で主要閣僚2人が辞任

河井克行法相(56)が10月31日、安倍晋三首相に辞表を提出し、受理された。河井氏をめぐっては、週刊文春の電子版が妻の選挙での公職選挙法違反疑惑を報じていた。

10月30日、「文春オンライン」は、今年7月の参院選で初当選した河井案里・参院議員(46)の陣営が、法定額を超える日当を事務所の運動員に支払ったとする疑惑を報じた。河井氏は辞任理由について、「法に対する国民の信頼を損ないかねない疑義が生じた」と述べる一方で、疑惑については関与を否定した。

安倍内閣では、10月25日に菅原一秀・衆院議員(57)が辞任したばかりだ。これも「週刊文春」が、菅原氏の公設秘書が選挙区内の有権者の通夜に参列し、香典を渡した疑惑を報じたことがきっかけだった。

第2次安倍内閣が発足した2012年12月以降、内閣改造を除いた閣僚の辞任は今回の河井氏で10人目だ。内閣改造からわずか1カ月半で主要閣僚2人が辞任するのは異例の事態である。

■菅原氏と河井氏の2人の共通点は何か

ここにきて安倍内閣の閣僚が次々と辞任するのは、なぜなのか。しかも経産大臣と法務大臣である。どちらも内閣の要となるポジションだ。

菅原氏と河井氏の2人の共通点は、自民党無派閥であることだ。そして2人とも菅義偉官房長官と親しい間柄にあり、菅氏の後押しで初入閣したとみられている。そうした点を踏まえると、こんな構図が浮かび上がってくる。

■周辺を「側近閣僚」で固めておきたい菅氏

菅氏は“令和おじさん”と人気が出て以来、「ポスト安倍」の1人としてその存在感を増している。

本人も次第にその気になっているようで、周辺を自分の言うことを聞く「側近閣僚」で固めようと懸命だ。9月の内閣改造での菅原氏と河井氏の初入閣もそんな事情から生まれた。

自民党としては、国民の人気がズバ抜けて高い小泉進次郎・環境相を自民党総裁の有力候補に持ってきたいのだろう。だが、38歳と政治家としてはまだ若い。小泉氏をいきなり総裁候補に挙げるわけにはいかないので、次点としてとりあえずは菅氏を総裁に据えようという魂胆があるようだ。

ただ、自民党総裁候補としては、岸田文雄元外相や河野太郎防衛相という線も消えたわけではない。

■疑惑が長引けば長引くほど、憲法改正論議に影響する

菅原氏と河井氏が狙われたのは、“菅氏潰し”だろう。勢いが強まっている菅氏をここで押さえつけておきたい勢力が、週刊文春にタレ込んだのである。情報源は菅原氏や河井氏の元秘書ではないだろうか。

政治家の秘書の世界ほど生臭いものはない。裏切りや背信などは日常茶飯事だ。おそらく週刊文春はそんな元秘書から情報を得て、裏取り取材を行ったのだろう。

それにしても菅原氏も河井氏もおどろくべきスピードで更迭されている。なぜ安倍首相は決着に向けて即断したのか。疑惑が長引けば長引くほど、国会の審議がストップする。新たな日米貿易協定の審議だけではなく、憲法改正論議にも影響する。安倍首相はそうした点を心配したのではないか。

■地元有権者にメロンやカニを配ったという疑惑も

朝日新聞の社説(10月26日付)は「経産相辞任 政権のおごりの帰結だ」(見出し)と指摘し、こう手厳しく批判する。

「かねて疑惑を指摘されていた菅原氏を起用した、首相の任命責任が厳しく問われねばならない」
「菅原氏は当初、きのうの国会で事情を説明するとしていたが、一転、その前に安倍首相に辞表を提出した。『国会が停滞することは本意ではない』と記者団に語ったが、公選法違反の疑いという、議員としての進退も問われる重い事実に正面から向き合う姿勢はうかがえない」

週刊文春は菅原氏について、地元有権者にメロンやカニを配ったという疑惑も報じている。こうした疑惑のあった人間を起用した安倍首相の責任は重い。菅原氏自身も、公職選挙法違反に問われれば、議員辞職に追い込まれるだろう。

■菅原氏自身が香典を渡せば問題はなかったのに

朝日社説は指摘する。

「政治家が選挙区内で金品を贈るのは、公選法で原則禁じられている。香典は本人が渡す場合のみ認められるが、秘書が代わりに持参するのは違法だ」
「菅原氏はきのう、秘書が香典を渡した事実は認めたが、自分はそのことを知らずに翌日の葬儀に参列し、遺族の指摘で秘書の分の香典を返してもらったと説明した。本当に秘書が断りもなく、そうしたのか、にわかには信じがたい。その通りだとしても、公選法のイロハのイを事務所内に徹底していなかった菅原氏の監督責任は重大だ。他に同様のケースが繰り返されていたとしてもおかしくはない」

香典は本人が渡す場合のみ認められるのだから、菅原氏自身が通夜に出向いて香典を渡すべきだった。しかも翌日の葬儀には参列したのだから、直接渡す機会はあった。香典を返してもらったというのも常識からは考えにくい。

菅原氏の説明には首をかしげたくなる。しかも週刊文春によれば、同様の疑いは一度や二度ではないというから、驚かされる。

■「批判されても乗り切れる」は国民を愚弄している

さらに朝日社説は批判する。

「もともと指摘されていた高級メロンなどを有権者に贈っていたとの疑惑は、10年前に朝日新聞や週刊朝日が報じていた。閣僚の人選にあたり、首相ら政権中枢に報告がなかったとは思えない。公選法違反の寄付行為の公訴時効(3年)を過ぎていることから、問題を甘く見たのではないか。批判されても乗り切れると判断したのなら、1強政治の慢心というほかない。自らに近い菅原氏を推したとされる菅官房長官の責任も重い」

菅原氏の疑惑はもともと朝日新聞が書いた特ダネだった。それを承知の上で閣僚に起用されたわけだから、朝日は悔しかったのだろう。安倍首相は「乗り切れる」と考えていたのだろうが、国民を愚弄している。

■「規範意識の欠如が目に余る」と読売社説

10月26日付の読売新聞の社説も冒頭から「政治に携わる者として規範意識を欠いていた。辞任はやむを得ない」と厳しく批判する。見出しも「規範意識の欠如が目に余る」である。

読売社説は書く。

「菅原氏は、秘書が香典を渡した事実を認めた。翌日の葬儀には自ら出席し、再び香典を渡したという。その後、一つは遺族から返還された、と釈明した」
「国会では、菅原氏が十数年前、カニやメロンなどを有権者に送った疑いがあるとして、野党の追及を受けている最中だった」
「事実であれば、順法精神の欠如は明らかである。秘書に対する管理能力も問われる」

順法精神に欠ける菅原氏の問題は、公職選挙法違反という刑事事件に発展する事件と言っても過言ではない。

■次の法務大臣は「政治とカネ」の問題を考えられるのか

最後に読売社説は指摘する。

「安倍内閣では、松島みどり元法相が自らの似顔絵の入ったうちわを地元で配り、辞任した。国民民主党の玉木代表は昨年、香典の支出のあり方が問題視された」
「議員は国民の疑惑を招かないよう、公選法の趣旨を踏まえ、公正な政治活動に努めねばならない。政治資金の透明性を高め、適切に運用することも大切だ」

政治資金の透明性を高めることは当然のことである。だが、「政治とカネ」の問題は絶えることがない。なぜこうした問題がたびたび起こるのか。次の法務大臣は森雅子氏(55)だ。森氏は、その点について考えられる人材だろうか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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