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なぜデキる女性上司ほど女性部下を攻撃するか

プレジデントオンライン / 2019年11月11日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/itakayuki)

「女性管理職は女性部下に厳しい評価を下しがち」「女性は女性から仕事の協力を得にくい」……。心理学の研究が、職場には男女のバイアスが存在することを明らかにしています。「女の敵は女」という状況がつくりだされるメカニズムに迫ります。

■女の敵は女なのか

「女性は女性に厳しい」とはよく言われることですが、それを裏付ける研究報告があります。それは上司から部下の方向だけに見られるものではなく、部下から上司に対しても同様のことが生じることがわかっています。

今回は評価や攻撃、仕事の協力体制における男女のバイアスについて取り上げます。

中でもとくに女性の上から下への厳しい評価や攻撃は「クイーンビー症候群(Queen Bee Syndrome)」と呼ばれます。日本ではまだまだ聞きなれない言葉です。ところが、もう40年以上前の1970年代ミシガン大学の心理学研究者によって始めて提唱されて以来、欧米では多くの反響を呼んでいます。“クイーンビー”とは、管理職についている女性で、部下の中でもとくに女性を陰湿にいじめる人のことを指す言葉です。

米メリーランド大学の研究に、20年にわたる1500社のデータを用いて、クイーンビー症候群の存在を検証する統計的分析を行なったものがあります。分析の結果、1人の女性が上級管理職に就いたときに、2人目の女性がそのポジションに就く可能性は、女性が初めて上級管理職につくことができる可能性に比べて、51パーセントも低くなったのです。やはり「女性の敵は女性」なのでしょうか。

■女性上司が女性部下に厳しくなる本当の理由

実際、この結果だけを見ると、「クイーンビーが女性登用を阻んでいる」と解釈しがちですが、男性が最高経営責任者(CEO)の場合と、女性がCEOの場合に分けて分析を行なうと、女性がCEOの会社のほうが、女性が上級管理職に就く割合が高いということがわかっています。その背景には、女性がCEOに就いている職場ではダイバーシティーが進んでいて、男とか女とか白人とか有色人種といった差別がなく、すべての人に平等に昇進の機会があたえられていたことがあります。

一方、偏見や差別が根強く残り、ダイバーシティーを宣伝するために女性登用をしているような企業では、クイーンビーが増殖するという考え方も示されています。つまり、男性社会が、クイーンビーを生むということです。

クイーンビーが象徴するのは、“男社会で成功した女性が、自分の地位を守るために他の女性の活躍を快く思わない心情”です。“クイーンビー”になるのは、男社会の中で必死で頑張ってきたエリート女性なのです。リソースをうまく使い育児も仕事も完璧にこなすスーパーウーマンで、仕事もできるし、身体もタフ。職場の会社人間時間に適応し、家庭と仕事の両立のためにも、夫とも対等な関係を築いている……。そのため、「“男性社会”でこの地位を手に入れられたのは、自分が頑張ってきたからだ」という自負が強いのです。

当然その裏には、その他の人(女性)より何倍も頑張ってきた希少な人材である、という意識が強くあるため、自分よりぬるく見える女性、或いは自分の地位を脅かすかもしれないような女性への見方が厳しくなり、女性の地位向上には至極冷淡になるのです。

無理なく女性が活躍できる環境をつくらなければ、一時的に女性管理職数を増やしても「後が続かない」ということが起きてしまうでしょう。

■女性は男性からも女性からも攻撃される

一方で、特に男性が多い職場でキャリア形成をしている女性は、“いやいや、嫌な女性に輪をかけたようにネチネチした嫌な男・(能力が足りないくせに、いや能力が足りないのにプライドだけ高いからこそ)権力振りかざして物言ってくる嫌な男性っていっぱいいるじゃないか!”と思っている女性も多いことでしょう。

職場等、集団における女性の攻撃の仕方と男性の攻撃の仕方は大きく異なります。男性に比べ力の弱い女性は、攻撃の仕方として、人間関係を利用した間接的な攻撃をすると多くの研究が示しています。悪い評判を流したり、無視をするなど、攻撃対象を孤立させるような手法をとるのが女性の攻撃の特徴です。そして女性は、その攻撃対象として集団の中で女性のみをターゲットにする、というデータもあります。一方男性は自分より弱いものを攻撃する傾向が強く、そこには男性も女性も含まれます。つまり女性は、女性からも男性からも攻撃を受けることになります。

■女性は男性からも女性からも協力が得られにくい?

次に、仕事の協力体制についての研究を見ていきましょう。同じ職業についている“男性から男性に”仕事に関する妥当な協力要請があった場合、相手の職位にかかわらず、要請された男性は協力的な対応をとる確率が高いと報告されています。ところが、“女性から男性”に協力を要請した場合だと、協力的な対応がみられる率が低くなり、さらに女性の立場によって男性の協力度合が違うことが示されています。

また、“女性から女性”に協力を要請した場合も、協力率が下がることがわかっています。一方で、“男性から女性”に要請があった場合には、協力的な対応がみられるというのです。男性は同性に対して協力的で、女性は異性に対しての方が協力的。つまり、女性は男性からも女性からも協力が得られにくいということが言えます。

■なぜ、女性は女性から協力を得にくいのか

女性―女性協力率が低くなったのは、女性のほうがポジションが少なくキャリア競争が激しいため、ほかの女性に出し抜かれてしまう恐怖を抱いたせいではないかと解釈されています。一方、男性同士の組み合わせで協力率が高くなったのは、進化の歴史が関係している可能性があり、集団闘争で他のグループに対抗するため、男性同士は結束する必要があったためではないかとされています。そのため、女性が男性に協力を求めた場合には、仲間として認められるような、男性と同じかあるいはそれ以上の職位の女性に対してのみ協力的になったと考えられます。

これは、男性は協力的な特性を持ち、女性は非協力な特性を持つという話ではなく、“「男社会」という環境が、男性の集団意識を強化して協力的にし、女性の自分だけが特別にならなくてはという意識を生み、非協力的にしている”ということなのです。

このように、「評価」にも「攻撃」にも「協力」にも、性差によるバイアスが存在します。しかも働く女性にとって不利になる面が多く見られるのです。まずはその事実を知ることが大切。そしてそれを克服するためには、男社会を崩していくこと。男性だけの同質性の中で組織を回すよりも、多数の女性も組織に参画しながら、より密なコミュニケーションをとることが必要です。本当は女性同士でいがみ合っている場合ではないのです。

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<参考文献>
・Ellemers, N.; van den Heuvel, H. (2004). "The underrepresentation of women in science: differential commitment or the queen bee syndrome?". British Journal of Social Psychology. 43 (September): 313‐338.
・Derks, Belle; Van Laar, Colette; Ellemers, Naomi; De Groot, Kim (2011). "Gender‐Bias Primes Elicit Queen‐Bee Responses Among Senior Policewomen". Psychological Science. 22 (10): 1243‐1249.
・Arvate, Paulo Roberto; Galilea, Gisele Walczak; Todescat, Isabela (2018‐10‐01). "The queen bee: A myth? The effect of top‐level female leadership on subordinate females". The Leadership Quarterly. 29 (5): 533‐548
・Cristian L Dezsö, David Gaddis Ross; "Does female representation in top management improve firm performance? A panel data investigation" Strategic Management Journal. 33(9) 1072‐1089
・Jorg J. M. Massen et al. "Sharing of science is most likely among male scientists" Scientific Reports | 7: 12927

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細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
博士(医学)
東京大学大学院総合文化研究科研究員/科学技術振興機構さきがけ研究員/帝京大学医学部生理学講座助教。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科認知行動医学卒業後、英語学習による脳の可塑性研究を実施し、研究成果が多数のメディアに紹介。その研究をきっかけに、「目標達成できる人か?」を脳構造から判別するAIを作成し特許取得。現在は、プログラミング能力獲得と脳の関連性、 Virtual Realityを利用した学習法、恋愛と脳についても研究をしている。

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(博士(医学) 細田 千尋 写真=iStock.com)

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