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「アマゾンとは真逆」アリババが急成長したワケ

プレジデントオンライン / 2019年11月8日 15時15分

2019年9月10日、中国・浙江省杭州市の本社で行われたアリババ創業20周年の記念日に登場した、会長の馬雲(ジャック・マー)氏 - 写真=Imaginechina/時事通信フォト

アリババは、しばしばアマゾンの中国版と評されてきた。しかしアリババ前最高戦略責任者のミン・ゾン氏は「両社の成長戦略はまったく異なる。アリババは、アマゾンと違って新興市場でも競争力があるビジネスモデルを持つ」という——。

※本稿は、ミン・ゾン『アリババ 世界最強のスマートビジネス』(文藝春秋)の日本語版スペシャル・エディション「著者ミン・ゾン氏との一問一答」の一部を再編集したものです。

■中国の進化速度はアメリカの3倍以上

——本書はアリババを中心とする中国のインターネット企業群の知られざる実力を明らかにしている。

ミン・ゾン『アリババ 世界最強のスマートビジネス』(文藝春秋)

【ミン・ゾン】中国経済はあらゆる面において、先進国の後塵を拝していた。ただその分、足かせとなるようなレガシー(負の遺産)がなく、最先端のテクノロジーを採用して一気に世界最先端の小売業のモデルを構築することができた。アメリカの小売業が現代の形態になるまでにはおよそ100年かかったが、同じ進化が中国では30年で起きた。

これほど速く進化できたのは、見本があったからだという見方もある。たしかに製造業の世界では、中国企業は先進国のそれをロールモデルとし、既存のパラダイムに従ってきた。しかしインターネット企業は違う。アリババやテンセントのカウンターパートはアメリカには存在しない。

なぜアリババやテンセントがこれほど短期間でこれほどの競争力を持ちえたのかが本書のテーマだ。そこには世界中の企業の参考になるユニークな教訓がある。かつては誰もがアメリカのインターネット企業をモデルとしていたが、いまでは中国にも独自のモデルがある。アリババは間違いなくその一つだ。

■アリババにあって、アマゾンにないもの

——日本では、まだアリババの真価が十分理解されていない。eコマース、クラウドコンピューティングなど事業分野が重複することもあり、「アマゾンの中国版」という見方も根強い。アリババとアマゾンの関係を、どうとらえるべきか。

【ミン・ゾン】アリババとアマゾンはともにeコマース分野の偉大なプレーヤーだ。アマゾンはアメリカの近代的で成熟した小売市場でイノベーションを起こした。一方、アリババは中国の脆弱な経済インフラ、未熟な小売市場のもとで最先端のテクノロジーを活用し、革新的モデルを構築した。そして顧客価値を生み出したことが、ここ20年の飛躍的成長につながった。アマゾンとはまったく異なるストーリーだ。

——アマゾンとアリババがそれぞれ独自の進化を遂げたプラットフォーム企業としてライバル関係にある場合、アリババの強みはどこにあるのか。

【ミン・ゾン】どちらも消費者に最高の価値を提供し、それぞれグローバルに事業を拡大することを目指している。最終目標は同じであり、そういう意味ではまちがいなくライバルだ。ただビジネスモデルはまったく異なる。

一つ明確になってきたのは、小売市場が未熟で、消費者の選択肢が限られた新興市場では、アリババのモデルのほうが競争力があるということだ。アリババ・モデルは多くの売り手や作り手の成長を可能にする。この「エコシステム・アプローチ」は、その国の経済成長の燃料となる。

■アリババがNo.1企業になる日

一方、アマゾンのモデルが機能するには、優れたインフラが必要だ。アメリカや日本のような成熟市場では、すでにセブン-イレブンのような強力なプレーヤーが、全国規模ですばらしい品ぞろえを提供している。そうした市場でアリババが近い将来大きな存在感を発揮するのは難しいだろう。

ただ長期的には、そうした市場でもアリババが活躍する余地はあるかもしれない。アリババの拠点である中国には、世界最大の消費市場であると同時に世界最大の製造拠点である、というユニークな特徴がある。そのなかでアリババの構築したスマート・エコシステムは進化を続けている。いずれそこから新たな競争優位性が生まれ、アリババがアメリカや日本市場で活躍する機会も広がるかもしれない。

具体的な例を一つ挙げよう。ここ3年、中国ではオンラインとオフラインの小売市場の統合が大きなトレンドとなっている。まだブレークスルーには至っていないが、両者の統合は消費者にとって非常に大きな魅力があり、顧客価値は増大する。

このまま両者の統合が進めば、5年後には革新的なビジネスモデルが生まれているはずだ。それはスマート・エコシステムの産物であり、これまでなかったような競争優位性があるはずだ。この分野において、アリババは間違いなくナンバーワン企業になる。

■日本が参考にすべき中国のAI活用

——中国は2017年に「次世代人工知能技術発展計画」を発表するなど、国をあげてAIの開発に取り組んでいる。自動運転、音声認識、医療、スマートシティの4つが重点分野とされ、アリババはスマートシティ分野のリード企業に選定された。日本の参考になる事例もありそうだ。

【ミン・ゾン】AIは経済・社会のあらゆる側面に応用できるテクノロジーだ。都市の運営にAIを応用すれば非常に大きな効果がある。都市にも頭脳が必要なのだ。たとえば世界中の大都市では交通渋滞が頭痛の種になっているが、信号機をオンライン化し、AIでサポートすれば、青信号や赤信号のタイミングが最適化されて渋滞は緩和される。すべての車に走るべきルートをAIが知らせることもできる。

アリババが先行してAIを活用した都市交通管理システム「シティブレイン」を導入した杭州市では、すでに目に見える成果があがっている。武漢など他の都市への展開も始まっている。杭州市ではスマート・ガバメントの実現も目標に掲げている。身分証明書や医療保険証の発行など、政府のサービスはすべてワンストップで完了するようになり、そのすべてをAIがサポートする。

■人類の文明は、さらにすばらしいステージに

——日本は経済停滞に加え、少子高齢化など構造的問題も抱えている。ITを活用し、こうした問題を解決するためのアドバイスは。

【ミン・ゾン】本書は未来に向けた新たな視点を提供しようとしている。今、世界では根本的なパラダイムシフトが起ころうとしている。そこでは経済や社会を「活性化」、「再生」するというより、「革新」によって新たな未来を構築するという発想が必要だ。

人工知能(AI)、IoT、そしてバイオテクノロジー分野の画期的業績など、数百年に一度の大きな変化が今起きており、経済構造やわれわれの暮らしは根本的に変わろうとしている。生産性が向上し、経済が繁栄し、多くの人がより良い生活を享受できるようになればいいが、短期的にはAIによる雇用喪失など深刻な問題も生じるだろう。

だが私は人類の文明が、これまでよりはるかにすばらしいステージに入ろうとしているのだと考えている。

■初の時価総額10兆ドル企業は「まだ誰も知らない会社」

——最後に、日本のインターネット企業に向けたアドバイスをお願いしたい。

【ミン・ゾン】まちがいなく言えるのは、日本のインターネット企業は世界で、それもオープンな環境で競争しなければならないということだ。アリババは創業間もない頃から中国市場でイーベイ、アマゾン、グーグルと競ってきた。世界のトッププレーヤーと戦うなかで強くなった。日本の企業もグローバルな舞台で、強力なプレーヤーと競い合うことが必要だ。

本書の結びに、GAFAやBATが誕生してから20年ほどに過ぎないが、どこが最初に時価総額1兆ドルの壁を突破するか楽しみだ、と書いた。それが2017年のことで、現時点(2019年9月)ですでにアップルを皮切りにアマゾン、マイクロソフトが次々と時価総額1兆ドルを超えた。

グーグル、フェイスブック、アリババも近い将来、それに続くだろう。そして次の壁が時価総額10兆ドルだとすれば、最初に突破するのは、まだ誰も知らない会社だろう。

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ミン・ゾン アリババ前最高戦略責任者
中国・杭州生まれ、アメリカ育ち。イリノイ大学在学中、米スーパーで目撃した豊富な品揃えに衝撃を受ける。ヨーロッパ最高の経営大学院INSEADの准教授だった2006 年、アリババCEOのジャック・マーから直々にスカウトされ、同社に参画。2017 年まで最高戦略責任者として10年にわたり、4000億ドル企業として世界へと飛躍するのに貢献する。現在は、マー前会長らが設立したアリババ教育機関、湖畔大学のトップを務める。2002 年に設立された長江商学院(CKGSB)初代7人の教授のひとり。

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(アリババ前最高戦略責任者 ミン・ゾン 翻訳・構成=土方 奈美)

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