努力家で高学歴な両親が陥る「教育虐待」のワナ

プレジデントオンライン / 2019年11月19日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

教育熱心な親のもとで、元気をなくす子供たちがいる。プロ家庭教師集団「名門指導会」代表の西村則康さんは「大量の課題や細かい管理で子供を精神的に追い詰めていたら、それは“教育虐待”といえる。親も子も自覚しにくいのが怖いところだ」と指摘する――。

■30分でも「ぼーっとしている」のが許せない

近頃、「教育虐待」という言葉が世に浸透しはじめている。

虐待というと、子どもに暴力を振るったり、暴言を吐いたり、育児放棄をしたりといったいわゆる“ダメ親”を思い起こす人が多いだろう。その対極のように見える教育熱心な親は、一見子供思いの“いい親”に思われがちだが、子どもを精神的に追い詰めるという点では、前者と変わりない。むしろ、やっている方もやられている方も自覚しにくいという怖さがある。

カズマくんの家を訪れた時のことだ。カズマくんは中学受験を目指す5年生。両親は共に高学歴で教育熱心。受験塾には1年生から通わせている。

カズマくんのお母さんは、とにかく勉強をやらせたがる。カズマくんが勉強していない時間が一瞬たりとも許せないようで、次々と課題を渡す。例えば2時間勉強をしたら、30分の休憩が必要だ。この30分が子供にとってはリラックスできる時間で、そのメリハリが効果を上げる。そう、アドバイスをしても、お母さんは聞く耳を持たない。その30分すら休ませたくないのだ。

「ぼーっとしたり、遊んでいる暇があったら、勉強をしなさい! 成績が上がらないのは、努力が足りないからよ!」

休むくらいなら、この30分に勉強をして、クラスを2つ上げてほしい……。たくさん勉強をすれば成績が上がると信じているのだ。

■頑張っているのに、成績が上がらない原因

お母さん思いのやさしい性格のカズマくんは、言われたままに勉強をする。だが、その表情には生気がない。あと1年持つのだろうかと心配になる。

受験指導をしていると、多くの母親から相談を受ける。その多くが「頑張っているのに、成績が上がらないんです……。あと何をやらせればいいのでしょうか?」といったものだ。

長年、受験指導をしてきた私から見ると、成績不振の原因の多くは、「間違った勉強のやり方をしている」ことが挙げられる。中でも勉強のやらせすぎが多い。そういう親の多くが、「自分は努力をして成功をつかんだ」という経験者だ。高学歴のカズマくんのお母さんが、量にこだわるのも、自分はたくさん勉強をしてきたから結果を出すことができたと思い込んでいるからだ。

だが、成長途中の小学生の子供は無理が利かない。夜遅くまで勉強をさせれば、そのダメージは翌日に必ず響く。教育熱心な親は「間引きをする」という発想がない。

■習い事のやらせすぎは「遊び」の機会を奪う

やらせすぎは勉強に限らない。近頃は幼い時からたくさんの習い事をさせる親が増えている。インターネットの普及で情報があふれている今、子育てに関する情報に振り回されてしまう親が多いのだ。

「東大生のほとんどは幼い時に公文とピアノを習っていた」と知れば、目の前にいるわが子の興味などお構いなしに教室に入れる。「4年生から始まる人気受験塾に入れたいのなら、低学年のうちから席を確保しておかないと入れなくなってしまう」という噂が流れれば、われ先にと入塾させる。なんでも早く始めるのが有利という風潮が、以前にも増しているように感じてならない。

習い事をさせるのが悪いと言いたいのではない。子供が関心を示せばどんどんやらせていいと思う。だが、やらせすぎには注意が必要だ。なぜなら、幼い時からの習い事の詰め込みは、子供の自由を奪うからだ。

子供は遊びや生活を通して、いろいろなことを学ぶ。鬼ごっこ一つをとっても、鬼に捕まらないようにするのはどうしたらいいのか、遊びをもっと盛り上げるには、どのあたりにいるとおもしろくなるのかなど、考えて行動する。また、子供同士の遊びには喧嘩がつきものだ。そういう時にどうしたらいいのか考える機会も得られる。判断力、問題解決力、予想力、想像力、表現力など、遊びを通じて身につくものは多い。その機会を奪うこと自体が、私は教育虐待だと思っている。

■遊ばなかった子は、5年生で伸び止まる

遊ばない子供は発想力が乏しい。親に言われたことしかできないし、塾から習ったことしか解けない。そういう応用力のない子は、いつかどこかで壁にぶつかる。幼い時から習い事をたくさんやってきた子は、中学受験では4年生の基礎学習まではなんとかなる。だが、5年生以降に応用力が求められるようになると、そこで伸びが止まる。

幼い時からたくさんのお金を教育に投資してきたのに、成績がまったく上がらない。むしろ、下がっていく一方となった時、教育熱心な親はさらに量を増やす。そして、自分の思い通りにいかない子育てにイライラする。

実は、母親が不機嫌な家の子供は、成績が伸びにくい。小学生の子供にとって、母親は誰よりも大切な存在だ。その母親が自分のことでイライラしていると、子供はどうしていいのかわからなくなってオロオロしてしまう。幼い子供にそうさせてしまうことも、教育虐待だと思う。

■言葉で責める「努力で成功した」父親

教育虐待に走るのは、母親だけではない。中学受験といえば、ひと昔前までは母親と子供の二人三脚と言われてきた。ところが今は、共働き家庭が増え、教育熱心な父親も増えている。

教育虐待に走る父親には2つのタイプがある。一つは言葉で責める父親、もう一つは過剰な管理をする父親だ。

言葉で責めるタイプは、自分に成功体験がある父親が多い。俺は学生の時に必死に努力をして勉強をした。だから、一流の大学にも入れたし、一流の企業にも就職できた。自分ができたのだから、わが子にもできるだろうと自己投影してしまうのだ。特に息子に対してその傾向は強い。

「何で分からないんだ!」
「俺が子供の時はこんな問題は簡単に解けたぞ」
「成績が上がらないのは努力が足りないからだ」
「俺の子ならできるはずだ」
「俺の子とは思えない」

その口調が強くても、冷静でも、冗談っぽくっても、何度もそれを聞かされる子供にしてみれば、うれしいものではない。相手が嫌だな、つらいなと思った時点で、それはもう立派な教育虐待になる。

■エクセルで学習スケジュールを細かく管理

算数ドリル15分、理科の復習45分、国語の語句30分……。エクセルに1日の予定をぎっしり詰め込み、それを強制する父親がいる。中学受験の勉強に学習スケジュールを立てることは望ましいが、ここまで詳細なスケジュールは子供を憂鬱にさせる。やることを管理したがる父親の共通点は、やらせる量が多いこと、短い時間設定でいろいろなことをやらせたがること。前述のやらせすぎる母親と違うのは、それをこと細かく管理したがることだ。

だが、当然その通りにはできないし、無理に終わらせようとすれば、気持ちが焦り雑な勉強になる。雑になると、計算ミスが出る。そこで、丁寧な勉強を見直せればいいのだが、詰め込み型の父親は逆を走る。もっと速く解く練習をさせて、見直しの時間を作ろうとするのだ。

これは明らかにビジネスの発想で、小学生の子供に求めるものではない。不可能なスケジュールを立てておきながら、できない子供を叱る。これも教育虐待だ。

■子供は「遠い未来」のためには頑張れない

中学受験の勉強は3年を有する。大人からすると、たった3年なのだから、頑張れると思う。だが、入試が迫る6年生でも、幼い男の子なら来週のことくらいしか頑張ることができない。4年生なら今日のことで精一杯だ。

それは努力や気合が足りないのではない。小学生の子供は、大人のように、先を見通す力がまだ十分に備わっていないからだ。子供は遠い未来のために頑張ることができない。でも、少し頑張ればできそうと予測できることに対しては、頑張ることができる。これが中学受験で成績を伸ばしていく秘訣だ。

だから、スケジュールもあまり先まで立てないほうがいい。先々までやることが決められていると、子供はその時点でやる気をなくす。もしスケジュールを立てるのであれば、1週間でいい。その際、子供に自由裁量権を持たせることが大事だ。勉強時間を決めたら、必ず自由時間も決めさせる。スケジュールに無理を感じたら、その都度、子供と話し合い修正する。決めたことはできて当たり前と思わず、頑張っている努力を認めてあげてほしい。

■子供を使って不安を解消しようとしていないか

中学受験をさせたがる親は、教育熱心な人が多い。また、自分自身、努力をして成果を上げてきた人も多い。そのため、「頑張れば夢は叶う」と思いがちだ。だが、冷静に過去を振り返ってみた時、果たしてそれは小学生の自分だったのだろうか。中学生や高校生の自分ではなかっただろうか。もしそれが小学生の時の話でなければ、参考にしないほうがいい。子供を見る時は、常に自分の小学生時代と、照らし合わせてほしい。

成長途中の小学生の子供には、できることが限られている。また、子供によって成熟度の差もある。そのため、努力だけでは叶わないことがある。頑張っても目標に届かないことを強要されること、子供の意志を背いて、親の考えやイメージを押しつけることは、親の不安感や自己満足をわが子に押しつけているだけにすぎない。

■親である自分の未熟さを認めよう

子供がなんか元気ないな、親を見る目が険しくなっているな、と思ったら、教育虐待を疑ってみるべきだ。中学受験は子供がまだ幼いため、どうしても親のサポートが必要になる。そこで親はつい頑張ってしまうが、その頑張りの方向が間違っていないか、常に意識してほしい。

ちょっと私、やらせすぎているかもしれないな、さっききついことを言ってしまったな、と気づいたら、その都度子供に謝り、親である自分の未熟さも認めてほしい。そして、どんな小さなことでも頑張っている姿があれば、その努力を認め、労いの言葉や励ましの言葉を渡してあげてほしい。

中学受験はわが子を潰すためにあるのではなく、わが子の可能性を伸ばすためにあるのだから。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。

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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)

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