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"1時間勉強でお小遣い10円"桜蔭中合格の軌跡

プレジデントオンライン / 2019年11月22日 9時15分

撮影=末木 佐知

中学受験塾が小学6年生の夏休みに塾と家庭学習を含めて課す学習ノルマは400時間。夏休みは40日間だから、塾に通いながら、ひたすら一日中勉強をし続けなければならない。娘を女子最難関の桜蔭中に合格させた母親は、「娘は夏休みに600時間の勉強をこなしました。それを実現できた理由のひとつが『勉強1時間10円』のお小遣い還元制度です」と話す――。

■子供も親もWIN-WINの「ご褒美制度」とは

中学受験の天王山と言われる小学6年生の夏休み直前、塾から言われたのは「夏休みの学習は400時間を目標にしてください」だった。

首都圏女子最難関の桜蔭中に通うTさん(現中学1年、13歳)の母親(39歳)は、当時「そんなの絶対無理だと思った」と言う。40日間で400時間、つまり1日あたり10時間。塾で1日(8時間)勉強して帰宅後も勉強するはずがない、また次の日も塾なわけだから、と。

しかし、結果的にTさんはトータルで600時間勉強した。なぜ、そんなに勉強できたのか? 母親はこう語った。

「実は、勉強した場合、1時間あたり10円のお小遣いをあげたことも効果があったかもしれません。1日10時間勉強すれば100円、10日で1000円ですよね。子どもからすれば大金です。結局、1カ月で6000円が手に入るので、本人も満足していましたし、親としても6年生の夏休みを有意義に使えて万々歳でした」

普段は、ご褒美制度は設けていない。だが6年生の夏休みをとにかく無駄にしたくなかった、と話す。ここを無為に過ごせば、これまでのハードな受験勉強が水泡に帰してしまう。親子でどれだけの時間や労力を中学受験にささげてきたかを考えれば、1時間10円というお小遣いを特別にあげることに何の迷いもなかったのだ。

両親としては、「1時間10円」は、「今日も一日よく頑張りました」というハンコを押すようなもので、それをお小遣いという“ポイント還元”にして形にしてあげて認めてあげたのだ。

■目標は桜蔭合格にあらず

Tさんが通っていた小学校では、中学受験をするのは全体の3%。両親も中学受験の経験はない。そんななか受験を決めたのは、父親(34歳)の15歳離れた弟が私立中学に楽しそうに通う姿がきっかけだった。その姿を見て、両親は学力や精神年齢が近い友達と切磋琢磨(せっさたくま)できる環境を、高校からではなく中学から用意してあげたいと考えたのだ。

しかし、中学受験が珍しい地域のため、塾も少なく、具体的にどう準備すればいいのか最初はわからなかった。転機となったのは小2の6月に受けた全国統一小学生テスト。無料で受けられる全国レベルの学力テストでTさんは偏差値60という結果を出した。

塾でテストの成績表を受け取りながら、父親は女子の学校別偏差値表の一番上位に記された桜蔭を指さして「娘はここに合格できますか?」と尋ねたと言う。回答は「(学力を)維持できれば合格できますよ」。

両親が「桜蔭」という学校名を知ったのはその日が初めて。そして、その日からTさんの第一志望校は桜蔭となった。「目指すならばトップ校。トップを目指すからこそ学力が伸びる」という父親の強い信念があったからだ。

■「医師になるなら、日本でトップの東大理科Ⅲ類を目指そう」

Tさんがテレビドラマの影響で「将来は医師になりたい」と言い出した時にも、父親は「医師になるなら、日本でトップの東大理科Ⅲ類を目指そう」と説得。そこからTさんの目標は「桜蔭から東大理Ⅲに進学して医師になる」になった。

写真=iStock.com/ranmaru_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ranmaru_

結果としてその目標が親子の道しるべになったと母親は言う。

「理Ⅲに受かる高校生の多くは、圧倒的な合格者数を出している『鉄緑会』という塾に入っています。鉄緑会には誰でも入れるわけではありません。入塾試験があります。でも、桜蔭中なら無試験で入塾できます。そうやって逆算して、桜蔭中に合格するためには、たとえば『次の模試で何番以内に入る』とか、『桜蔭コースに選抜される成績をとる』とか、目標を明確にしながら進められたので、娘も納得して勉強ができたようです」

■父も「ミッションノートのために毎日2時間を費やす

桜蔭合格のために立てた作戦は「全部やる」。試験本番では何が出題されるかはわからない。だからこそ、塾から出された課題はすべてやりきった。ひとつも抜けや漏れを作らないように、とにかく復習には徹底的に力を入れた。

そのために父親が3年間作り続けたのが「ミッションノート」だ。日ごとにやるべき課題を算国理社に分けて記入したノートで、Tさんが塾から帰ってきたら、父親がその日の学習内容を聞き、その復習を確認テストの日までに終わるように日割りして記入する。先々の模試の予定や塾の宿題なども含めた調整が必要になるので、ミッションノート作りは毎回2時間近くかかったと言う。

Tさんは父親がミッションノートに書いた課題をやりきるために、平日でも塾のない日は5時間、塾のある日も2時間は勉強した。時には課題が終わらず深夜まで勉強する日も。もちろん親も勉強に付き合うため、親子ともに寝不足だ。

とくに大変だったのは、もっとも多くの学習範囲を学ぶ5年生だった。母親は「勉強が終わって子供を寝せたあとに丸つけをし、いざ親が寝るのは深夜2~3時です。朝は6時に起きるので、睡眠時間3~4時間という日々が続いたこともありました」と振り返る。

そんなハードな日々を乗り切れたのは、定期的な模試などで手応えを感じられたからだ。しっかりと勉強をすれば成績は伸びた。だから「私たちのやっていることに間違いはない」と親子で確信できたと言う。

■塾の対応が変わる圧倒的な努力とは?

Tさんの通っていた塾では、小5のうちにおおよその受験範囲を学び終わり、6年生になってからは演習に重点を置く。それに合わせて新しいことを学ぶ5年生までは、家庭学習でもじっくりと問題に取り組み、理解を深めることを重視してきたが、6年生からは多くの問題をこなすやり方にシフトした。

その上で、模試などで間違えた箇所をおさらいする「テスト直し」の時間を強化した。基本はテストを受けたその日のうちに見直し、「なぜ間違ったのか?」という分析に力を入れた。計算間違いや漢字間違いといったケアレスミスなのか、そもそも知識や解法が身についていないのか——。それを明らかにしなければテスト直しの意味はないと、両親は繰り返しTさんに伝えた。

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テスト直しも子供に任せきりにするのではなく、親がそばで見守りながら本当に知識や解法が定着できたのかをチェックした。まだ理解があやふやだと感じたら、算数の場合は1週間後、理科や社会の知識問題ならば1カ月後に再チャレンジさせた。

そうやって徹底的に努力を続けていると、塾の対応も変わってきたと両親は言う。

「塾から与えられた課題でやらなかったものはひとつもありません。そこまでやりきって、その上でわからない部分を質問に行かせると、先生方も感心して、それよりレベルアップした部分まで教えてくれたりするんです」

■本番当日は2時間前に現地入り。直前まで勉強漬け

たゆみない努力の結果、模試の合格可能性は70%以上で安定。しかし、気が緩むのを防ぐために小5の終わり頃から「桜蔭合格ではなく、上位合格を目指そう」が親子の合言葉になっていた。Tさんは「目指すのは上位校合格であり、合格は当たり前と思えていたから、本番もあまり緊張しませんでした」と話す。

Tさん宅から桜蔭までは電車で1時間以上かかる。本番当日は、万全を期して父親と二人で始発電車に乗って現地に向かった。最寄り駅に朝6時半に到着後、集合時間までの約2時間はファミレスで勉強して過ごした、と言う。最後の最後まで努力を貫いたのだ。

翌日の合格発表は妹や弟も含め、家族全員で見に行った。試験後の自己採点で合格は確信できていたが、実際に番号を確認した際は家族全員で涙を流した。

■合格会場から鉄緑会に電話し、入塾の予約した

しかし、歓喜に浸っていたのはごくわずかな時間だ。なんと父親は合格会場から鉄緑会に電話し、入塾の予約をしたという。次の目標は東大理科Ⅲ類合格だ。

母親は小2の時に「(学力を)維持できれば合格できますよ」と言われたことは、今振り返れば、塾のリップサービスだったと考えている。あのままの成績を維持するだけではきっと桜蔭に合格できなかっただろう、と。

最終的にTさんが桜蔭合格をつかむことができたのは、やはり両親が子供と苦労を共にしたことが大きいだろう。Tさんが「1時間勉強でお小遣い10円」というご褒美はそうした自宅での学習環境を整えるのに大いに役立ったわけだ。

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松本 史(まつもと・ふみ)
フリーランス編集・ライター
熊本県出身。子育て情報誌や教育情報誌の編集に長く携わり、2017年に独立。現在は、ビジネス誌や教育誌、書籍・ムック、企業社内報などで幅広く編集やライティングを担当。屋号は松本明生堂(まつもとめいせいどう)。

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(フリーランス編集・ライター 松本 史)

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