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「過去最悪222万部減」新聞はもう要らないのか

プレジデントオンライン / 2019年11月15日 9時15分

吉野彰旭化成名誉フェローのノーベル化学賞受賞決定を知らせる号外を手に取る人たち=2019年10月9日夜、東京・JR新橋駅前 - 写真=時事通信フォト

■宅配の「紙」の新聞だけが特別扱い

「報道・言論により民主主義を支え、国民に知識・教養を広く伝える公共財としての新聞の役割が認められたと受け止めています」

日本新聞協会は10月1日からの消費増税に際して、新聞が軽減税率の対象になったことについて、こんな声明を発表した。大上段に振りかぶったモノ言いだが、なぜ食料品と並んで新聞だけが軽減税率の対象になったのだろうか。「知識・教養を広く伝える公共財」と言うのならば、書籍や雑誌などはなぜ対象にならないのか。

しかも、今回対象になるのは「週2回以上発行される新聞の定期購読」。駅やコンビニでの1部売りや、電子版は軽減税率が適用されず、増税対象になった。つまり、宅配の「紙」の新聞だけが特別扱いされたのである。

新聞協会の声明はこう続く。

「民主主義の主役である国民が正しい判断を下すには、信頼できる情報を手軽に入手できる環境が必要です。私たちはそう考え、新聞の購読料への課税を最小限にするよう求めてきました」

■欧州各国では、書籍や雑誌も対象にしている

信頼できる情報を手軽に入手できる環境というのは、今も「紙の新聞」なのだろうか。ほとんどの国民がインターネットを通じた情報をスマホで見るように変わっているのではないか。ところが、声明ではインターネットを以下のように切り捨てる。

「最近では、不確かでゆがめられたフェイクニュースがインターネットを通じて拡散し、世論に影響するようになっています。そうした中で、しっかりとした取材に基づく新聞の正確な記事と責任ある論評の意義は一段と大きくなっています」

つまり、インターネット上にはフェイクニュースが氾濫しているので、紙の新聞こそが信頼できる情報なのだ、と宣言しているのである。

もちろん「知識に課税しない」という欧州各国の姿勢には見習うべき点も多い。消費税率が軒並み20%前後の欧州各国では、フランスやドイツ、イタリアなどで軽減税率が適用され、イギリスは非課税だ。ただし、それは新聞に限ったことではなく、書籍や雑誌も対象になっている。インターネット上の情報サービスも対象にすべきだという議論が広がっている。

日本の場合、標準税率が10%で、軽減税率は8%と、ほとんど差がないが、欧州の場合、標準税率と軽減税率の差が大きい。ドイツの場合、標準課税が19%なのに対して、軽減税率は7%で、食料品や新聞、雑誌、書籍だけでなく、水道や旅客輸送も軽減税率が適用されている。生活必需品の税率は低く抑えるという考え方で統一されているわけだ。

■この21年間で「読売新聞丸ごと分」が消えた

しかし、なぜ、日本は紙の新聞だけなのか。しかもわずか2%分で勝ち誇ったかのように「軽減税率」獲得に歓喜するのか。

月ぎめの購読料は、朝日新聞と毎日新聞が4037円、読売新聞が4400円、日本経済新聞が4900円(消費税込)である。最も高い日経新聞で仮に標準の10%の税率が適用された場合、消費者の負担増は91円だ。4900円が4991円になって読者が激減するほど、自らの「紙の新聞」の質に自信がないのだろうか。本当に必要なモノであれば、税率が2%上がったからといって慌てる必要はないのではないか。

背景には、紙の新聞の凋落がある。

毎年1月に日本新聞協会が発表する前年10月時点での日本の新聞発行部数は、2018年は3990万1576部と、2017年に比べて222万6613部も減少した。14年連続で減少しており、2019年も下げ止まる気配はない。新聞発行部数のピークは1997年の5376万5000部だったが、ついに4000万部の大台を割り込んだのである。

21年で1386万部、率にして25.8%減というのはすさまじい。日本最大の発行部数を誇る読売新聞1紙がまるまる消えたのと同じである。

しかも、2017年から2018年にかけての222万部減という実数も、5.3%減という率も、過去20年で最大の減少だった。まさにつるべ落としで、2019年に減少ピッチが鈍化するのか、さらに加速するのか目が離せない。

■ネットで儲かる仕組みができていない

明らかなのは、世の中から「紙の新聞」が姿を消そうとしているということだ。大学生や20代の社会人は紙の新聞をまず読まない。定期購読しているのは比較的年齢が高い層の家庭で、しかも、団塊の世代が70歳代半ばに差し掛かるとともに、新聞の購読を止める人が増えている。

現役世代や若者は、圧倒的にインターネットを通じた情報を活用している。ネット上の情報はまだまだ無料のものが多い。新聞社もデジタル化を拡大しているが、問題は紙の新聞ほど儲からないことだ。ネットでマネタイズできるモデルがなかなか構築できていないのだ。

紙の新聞の部数が減れば、印刷工場の稼働率が落ち、収益性はさらに下がる。紙の広告料は大手紙で1ページ1000万円以上という価格が付いているが、部数が減れば値崩れを起こす。新聞を支えてきたビジネスモデルが崩れているのである。

■さらなる増税に向けて「恩を売った」のではないか

新聞社からすれば、その崩壊に拍車をかける可能性のある読者の負担増は何としても避けたかったというのが本音だろう。そんな新聞社の懐事情を察してか国は定期購読の新聞に軽減税率を認めた。もしかすると、いずれ紙の新聞は消えていくという読みがあるからかもしれない。だが、軽減税率によって、新聞社に大きな恩を売ることができる。新聞社側からみれば、わずか2%分の税免除によって魂を売ったことになるのではないか。

というのも、財務省はこの先、消費税率のさらなる引き上げを進めたいと思っているのは間違いない。欧州の20%前後まで一気に引き上げることはできないにせよ、徐々に消費税率を引き上げることはある意味、悲願だ。人口減少で働く人の数が減っていけば、所得税に頼ることはできず、消費税率の引き上げは不可避になってくるからだ。安倍晋三首相は「今後10年間、増税は必要ない」と言っているが、首相が変わればどうなるか分からない。

そんな時、新聞がどんな論調を張るか。増税反対に回るか、増税やむなしに傾くかは、財務省にとっては大きな関心事である。軽減税率適用で恩を売っておけば、消費税率の引き上げ論議に好意的なスタンスを新聞各紙が取ってくれる、そんな思いが透けて見える。

■新聞界が力を注ぐべきことは他にもある

紙の新聞を必死で守ろうとする新聞社の姿勢も分からないわけではない。広告料単価の高い紙の新聞は圧倒的に高い収益性を誇ってきた。だが、それを守ることだけにとらわれて、デジタル化の波に乗り遅れてしまっては、将来のビジネスモデルが築けない。また、電子新聞だけで紙の新聞と同じ収益を稼ぐのはいまのところ難しく、独立性の高いジャーナリストを雇い、育てていくことはできない。より利便性が高く、紙の宅配がなくても毎月4000円以上の契約料を稼げるデジタルメディアを作り上げることなど、本来、新聞社が力を注ぐべき事は山ほどある。

どうせ軽減税率を主張するのならば、紙の新聞だけを守るような要望をするのではなく、インターネットメディアなど、本当に国民が必要としている「知識・教養を広く伝える公共財」すべてを対象にするよう求めるべきだったろう。「紙の新聞だけ」という特別扱いに安易に飛びついた新聞界は、その焦りばかりが目立つ。

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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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