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サイゼリヤが料理の味をあえて抑えているワケ

プレジデントオンライン / 2019年11月29日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fcafotodigital

サイゼリヤのパスタの味付けはシンプルだ。飲食チェーンに詳しい稲田俊輔氏は、「サイゼリヤのパスタメニューは、日常食としての控えめなおいしさを提供するという明確なスタンスがある」という――。

※本稿は、稲田俊輔『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

■人はチェーン店について語るとき、なぜか上から目線になる

先日プロントで仕事をしていたら、隣のテーブルに2人連れのまだ20歳そこそこと思われる女子が座りました。2人ともパスタを注文していて、それを食べながらいつしかパスタ談議が始まったのですが、話題はサイゼリヤのパスタに。一人がこう言いました。

「サイゼはさあ、安くていいけど味はもうちょっと頑張ってほしいよねえ」

人はチェーン店について語るとき、なぜか急に上から目線になります。彼女たちの場合も、さっきまで「学校近くのおしゃれなカフェ」や「駅前ビルのイタリアンレストラン」のパスタについて語っていたときと比べると、サイゼリヤについて語るスタンスはあからさまに変化していました。

ちなみに彼女たちはそのとき食べていたプロントのパスタも上から目線で酷評しています。「これ何? 変な味」と、おそらくドライトマトを抜き出して紙ナプキンの上に廃棄しながら「こんなの入れずにふつうのトマトとかにしとけばいいのに」と、そのパスタメニューのコンセプトを全否定したのです。

彼女たちにとってはサイゼリヤもプロントも「軽んじて差し支えない存在」だったのでしょう。確かにサイゼリヤのパスタは、のちほど詳細に解説しますが少し特殊な設計思想のもとにレシピが作られているのでそう感じてしまう可能性はありますが、少なくともプロントのパスタが「個人経営のおしゃれなカフェ」のそれと比較して大きく異なるとは考えにくく、これがチェーン店の受難という気がします。

■パスタの好事家は「五右衛門よりサイゼリヤ」

話が少しそれてしまったのでサイゼリヤのパスタの話に戻します。これに対する世間一般の評価も、彼女たちと同じじゃないかと正直なところ思います。値段は確かに安い。だけど味は値段なりであまりおいしくはない。それでも他の店と比べてここまで圧倒的に安いとついつい食べてしまうことになる……といったところでしょうか。

昔から根強い人気の洋麺屋五右衛門(以下、五右衛門)というスパゲッティチェーンがありますが、同じチェーン店でもこのレベルになると味に関してそこまで悪く言われることはないように思います。

そもそも価格帯もコンセプトも全く異なるこの両者を比べるのはそもそもナンセンスではあるのですが、あくまで世間一般の評価という意味ではそこには歴然とした差があるのは確かだと思います。

ところが面白いことに、これはあくまで私の観測範囲での話ですが、普段から本格的なイタリアンレストランでパスタを食べ慣れていたり、本場の材料を自宅で揃えて凝ったパスタ料理を趣味で自作しているような、いわゆる好事家、マニアと目されるような方々はサイゼリヤのパスタのことをあまり悪く言わないような気がします。そしてこういう方々が否定するのはむしろ五右衛門のほうだったりもします。

■「そこそこの非日常感」について分かれる見解

なぜそうなのか? 彼らは非日常に求めるおいしさと日常食に求めるおいしさを分けて考えているのではないでしょうか。彼らが少なからぬお金を捻出して食べる凝ったパスタは非日常のおいしさで、サイゼリヤのパスタはあくまで日常食としてのおいしさがあればそれで十分、ということです。

好事家とまではいかない普通の人々だって非日常のおいしさを求めていると思います。ただ、自由に使えるお金のほとんどを食べ物につぎ込んだり、余暇を潰してレシピを研究して自分で料理するほどそれに執着しているわけではありません。

でもお金を出して外食する以上、普段家では味わえないそこそこの非日常感は欲しい。そのちょうどいいゾーンが五右衛門なのかもしれません。逆に好事家にとってはどっちつかずの中途半端な位置づけということになるのでしょう。

■サイゼリヤのパスタが目指すのは「控えめなおいしさ」

そして実際のところ、サイゼリヤとしてもパスタメニューはあくまで日常食としての控えめなおいしさを提供しているという明確なスタンスがあると思います。普段ほとんどの方は見過ごしていると思いますが、サイゼリヤのグランドメニューのパスタのページ、その左上にはこんなことがはっきりと書かれています。

具やソースが主張しすぎないシンプルな味付け。

ちょうどいいボリューム感。他の料理と組み合わせたり、みんなで取り分けたり。気分でお選びいただけます。

1行目の文章がまさにキモですね。ひと口食べてハッとなり「おいしい!」となるにはやはりそこには具やソースなどの味付けでそれなりのインパクトがなければいけないわけですが、この文章ではサイゼリヤとしてはそもそもそこを目指しているわけではないということがはっきりと宣言されています。

度々引き合いに出して恐縮ですが、五右衛門のスパゲッティは基本、何を食べてもはっきりとインパクトのあるかなり濃いめの味付けが施されています。一見あっさりしていそうな和風パスタでも、実はダシのうまみがこれでもかというくらいに強調されています。

また好事家が通うようなイタリアンレストランだと、時には高級食材も駆使しつつ少量で驚きと感動のある味わいが演出されているものです。サイゼリヤのパスタが目指しているのはそのどちらでもないということですね。

■低コストのままインパクトを狙うとジャンクになる

うがった見方をすると、サイゼリヤにはそもそも徹底的に安価な料理を提供するという使命があります。しかし、そこでひと口目からインパクトのある味わいを狙えば必然的にどんどんコストは上がってしまう。

稲田俊輔『人気飲食チェーンの本当のスゴさがわかる本』(扶桑社新書)

だからといって低コストのまま強引にそれを目指すならそれはいかにも加工食品然としたジャンクな味わいにならざるを得ません。であれば、そこは開き直ってあくまで家庭的でシンプルな味わいを目指そう、ということだと思います。

またこのテキスト、2行目以降にもサイゼリヤのスタンスが明確に記されています。日本のスパゲッティ専門店では長らく、一人が1皿ずつのパスタをオーダーし、それにせいぜいスープかミニサラダがつく、というようなスタイルが一般的でした。

五右衛門はまさに典型的なそういうお店です。パスタをあくまでコースの流れの一品として楽しんだり、一人1皿ではなく大勢でシェアして楽しんだりというスタイルは、本格的なイタリアンレストランの浸透で最近では珍しいものではないですが、ファミレスというカテゴリーのなかでそれは異端。サイゼリヤはそこに果敢に挑戦しているのです。

「パスタだけでおなかをふくらませるのではなく、いろいろな料理を一緒に頼んで、時にはみんなでシェアしてください。パスタは控えめな味付けの引き立て役に徹します」

それがサイゼリヤのパスタに込められたメッセージなのです。

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稲田 俊輔(いなだ・しゅんすけ)
円相フードサービス専務
鹿児島県生まれ。関東・東海圏を中心に和食店、ビストロ、インド料理など幅広いジャンルの飲食店25店舗(海外はベトナムにも出店)を経営する円相フードサービス専務。メニュー監修やレシピ開発を中心に、業態開発や店舗プロデュースを手掛ける。イナダシュンスケ名義で記事をグルメニュースに執筆することも。ツイッター:@inadashunsuke

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(円相フードサービス専務 稲田 俊輔)

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