今ある世界は過去の誰かの「投資」の結果である
プレジデントオンライン / 2019年11月29日 9時15分
※本稿は藤野英人『投資家みたいに生きろ 将来の不安を打ち破る人生戦略』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
■投資は「お金だけ」の話ではない
「投資」という言葉を聞いて、何を想像するでしょう。
「お金でお金を稼ぐなんて汚い」
「そんな余裕はないし、危ないからやりたくない」
「投資なんてマネーゲームやギャンブルだ」
そんなふうに思っていたのではないでしょうか。ここで私がお伝えしたいのは、そもそも「株式投資やFX取引をはじめよう」というお金の話ではありません。多くの人は、投資とは「お金でお金を稼ぐこと」だと考えています。しかし、それだけの意味ではないのです。
未来からお返しを
いただく行為
私の考えでは、投資とは、「エネルギーを投入して未来からお返しをいただくこと」です。大事なことなので、上に大きく書いておきましょう。本稿では、「投資」という言葉を、完全にアップデートしてもらいます。
まずはザッと簡単に説明していきましょう。
世の中には、たくさんのモノやサービスがあります。「新しく商品を作りたい。でも、まとまったお金がない。アイデアや技術や人は揃(そろ)っている。だから、うちの会社の権利を株式として買ってくれませんか。ちゃんとお返しはします」。そんな思いによって、新しい商品は世に誕生します。
今、あなたが働いている会社があるのも、今使っているモノやサービスがあるのも、誰かが損をするリスクをとってくれたおかげで存在しています。そして目に見える商品に限らず、すべての世の中の活動は、誰かが過去にお金だけではなく時間、情熱、愛情などの「エネルギー」を投入したことで成り立っています。
たとえば、みなさん自身が今あるのも、家族や学校、地域社会、会社の先輩などが愛情や時間というエネルギーを注ぎ、熱心に指導をして教育をしてくれたからです。当然、損をするリスクもとってくれていたでしょう。
ゼロからイチを生み出すには、この「リスクをとる人」と「エネルギー」が必要なのです。
エネルギーを後輩や子どもに投入するのが、「教育投資」です。工場や店に投入するのが「設備投資」。会社を応援する資金に使うのが「株式投資」です。私がファンドマネジャーという仕事でやっているのはこれになります。そのほか、寄付やボランティアに使ったら「社会投資」ですし、自分自身に使えば「自己投資」となります。
投資家のように世の中を見渡すと、すべての物事には「エネルギー」のやりとりが存在していることがわかります。
■投資がなければ「未来」は生まれない
投資にもいろいろ種類があり、お金だけの世界ではないということがイメージできたでしょうか。
誰かが過去にエネルギーを投入した結果、今の社会があるということは、逆に見ると、未来の社会は、私たちが今、エネルギーを投入していかないと切り開いていくことができない、ということなのです。私たちが投資する姿勢を失うと、世の中の成長が止まってしまいます。
ですから、「私が投資をしよう」と伝えているのは、必ずしも「お金をふやそう」ということではないのです。「投資」という行為は、金銭的な損得のためではなく、「未来を切り開く」ことにおいて必要なのであって、「お金を得る」ことは投資のリターンの1つにすぎません。
投資の本質とは、「今、この瞬間にエネルギーを投入して、未来からお返しをいただくこと」だと先ほど定義しました。そのことに気づけるかどうかは、人生の分かれ目だといっても過言ではありません。なぜなら、世の中で成功している人や圧倒的な成果を出している人は、この「投資の本質」を完全に理解しているからです。
■日本の偉大な投資家、本多静六
投資の本質を理解した人として、もっとも偉大な方を1人、紹介したいと思います。私はよく「尊敬する投資家は誰ですか」と聞かれます。アメリカの偉大なる投資家、ウォーレン・バフェット氏や、その師匠のベンジャミン・グレアム氏を尊敬しています。しかし、日本人の投資家にも、すごい人はいます。
それが、本多静六(ほんだ・せいろく)さんです。
本多さんは1866年生まれで、東大教授なども務めた明治・大正時代の造園技師です。超一流の造園技師であり、投資家でもあるというスーパーマンです。日比谷公園など、彼の造った公園は今でも名庭園として多くの人に愛されています。
彼は仕事のかたわら、収入の4分の1を天引きで貯蓄し、それを株式に長期投資しました。退官するまでに現在の価値で100億円を超す資産をつくったそうです。ちょっと信じられないような話かもしれませんが、事実なのです。なぜ、彼はそんな偉業を成し遂げられたのでしょう。
投資の本質を語るとき、私は次の本多さんの言葉を引用します。「人生は生ある限り、これすべて、向上への過程でなくてはならない。社会奉仕への努力でなくてはならない。もし老人のゆえをもって、安穏怠惰な生活を送ろうとするならば、それは取りも直さず人生の退歩を意味する」
本多さんの主張は一貫していて、努力と成長を尊んでいます。それも、自分のための努力だけでなく、利他的な努力です。まさに、真の投資家的な思考です。
社会的な成功の多くは、利己的な動機に基づくことがほとんどで、それはごく自然なことでしょう。ところが、利他的な目標にすると、より大きな成功をもたらします。私は、多くの成功した経営者や投資家を見てそう感じます。利他的な動機による努力のほうが、社会的な影響度が大きく、より大きなパワーを生み出すのです。
■投資家的思考で「今の行動」が変わる
本多さんは、短期間で資産を築き上げたわけではありません。投資家的な思考のもとで、日々、コツコツと習慣的にできることを積み上げていったのです。
本多さんから学べることとして、投資家みたいに考えることができると具体的にどう変わっていくかをイメージしてみましょう。たとえば、今、あなたはこの本を読んでいます。これだって立派な投資です。同じ時間を与えられても、本を読んで新しいことを学ぶ人もいれば、なんとなくテレビをつけてぼーっと過ごす人もいます。スマホゲームに夢中であっというまに数時間を潰してしまう人だっています
「時間」という見えない資産を、未来からリターンを得られるように使う。そういう発想ができるかどうか。投資家みたいに考えることができれば、「今の行動」そのものが変わるのです。
たとえ、テレビを見るのであっても、「ニュースを見て、自分なりの意見を持ってみよう」「経営者のドキュメント番組を見て、経営哲学を学ぼう」と、主体的に時間を使うことができます。これらの行動はいずれも、エネルギーを投入しています。そのお返しとして、「知らなかった知識」や「新しい視野」などのリターンを受けることができます。お金と一緒で、時間もなんとなく使うと、なんとなくなくなっていくものなのです。
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レオス・キャピタルワークス社長
1966年、富山県生まれ。90年早稲田大学法学部を卒業後、野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントを経て、03年レオス・キャピタルワークスを創業。以来、CIO(最高投資責任者)を務めている。中小型株の運用に長け、東証アカデミーフェロー、明治大学非常勤講師なども兼務する。
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(レオス・キャピタルワークス社長 藤野 英人)
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