香港民主派の圧勝を認めない中国の異常と恐怖

プレジデントオンライン / 2019年11月29日 18時15分

区議会選挙の投票所となった新界地区・沙田の公民館(奥)周辺で、長蛇の列をつくる香港の有権者=2019年11月24日、香港 - 写真=時事通信フォト

■選挙で香港政府を支持した親中派は惨敗した

香港で11月24日、地方議会に相当する区議会の選挙が行われた。開票作業は25日午後に終了し、香港と中国両政府への抗議運動を支持する民主派が議席数の8割超を獲得して圧倒的勝利を収めた。香港政府を支持した親中派は惨敗した。

民主派の各政党は記者会見し、「香港政府は選挙で示された民意を直視してほしい」と訴えた。

これに対し、香港の林鄭月娥(りんていげつが)(英語名=キャリー・ラム)行政長官は「謙虚に市民の意見に耳を傾ける」と表明はしたものの、香港政府は中国政府の傀儡にすぎない。香港を領土の一部とする中国は、選挙結果を香港市民の民意が反映されたものとは認めず、今後も民主派の要求をはねつけ、学生や市民に対する弾圧は、間違いなく続く。

■共産党機関紙の人民日報は論点をすり替えて報道した

その証拠に共産党機関紙、人民日報(電子版)は25日夜、民主派の圧勝と親中派の大敗には言及せずに選挙の終了を伝え、「一部選挙区で選挙民への脅迫や投票妨害があった」と選挙の公平性に問題があるかのように論点をすり替えて報道した。

民主派は6月16日の200万人が参加したデモから次の5大要求を掲げ、香港、中国の両政府に対抗している。

(1)逃亡犯条例改正案の完全な撤回
(2)デモの暴動認定の取り消し
(3)警察の暴行を調査する独立調査委員会の設置
(4)抗議活動で身柄を拘束された仲間の釈放
(5)民主的な行政長官選挙の実施

中国政府は民主主義の原点である選挙結果を無視する。共産党による一党独裁国家の悪行そのものだ。民主主義の確立した国では、選挙の惨敗がそのまま政権の交代に直結する。民意を無視する中国の態度は、日本や欧米の国々から見たら「異常」としか思えない。

■天安門事件の「大量殺人」を繰り返してはならない

しかも中国政府は、30年前の1989年6月に北京の天安門広場に軍隊を出動し、実弾の発砲や戦車の走行などによって民主化を求めて抗議活動を続ける多くの若者たちを惨殺した。天安門事件だ。この事件を調べてまとめたイギリス外務省の公文書には「1000人から3000人の死者を出した」と記されているが、中国政府は「死者319人」としか発表していない。

香港で抗議活動を続ける学生や市民に中国政府がいつまた牙をむくか分からない。中国は「恐怖」そのものである。

天安門事件の悲劇を繰り返してはならない。学生たちが過激な活動を続ければ、中国側に軍隊出動の大義名分を与えることになりかねない。暴力的行動は慎むべきである。

中国政府の意を受けた人間が民主派の若者に成りすまし、公共の建物などを破壊しているとの情報もある。国際社会の批判をかわして武力で民主派を押さえ付けることの正当性をアピールする魂胆なのだろうが、中国ならやりかねない。

中国の大量殺人を防ぐためにも、国際社会が香港の民主派の活動を後押しして中国政府に強い抗議の意思を伝えるべきである。

■民主派が区議選で過半数を制するのは初めて

香港メディア「香港01」の集計によると、投票率は71.23%で香港返還以来、最高となった。

獲得数は全18区計452議席のうち、民主派は385議席、親中派が59議席をそれぞれ獲得した。民主派は改選前の3倍超にまで増やし、親中派は5分の1まで議席を減らした。民主派が区議選で過半数を制するのは、1997年の中国返還以来、初めてのことだ。

香港政府トップの行政長官を選ぶ1200人の選挙委員は、香港の政財界の有力者からなる。大半が親中派だ。

この1200人のうち117人は区議の互選で決まる。民主派はこの区議枠をすべて手に入れることになる。2022年に予定されている行政長官の選挙で強い影響力を持つはずだ。

■中国にとっては一党独裁政権の維持が最重要

香港基本法は、行政長官選出について「選挙または協議」と定めている。危機感を持った中国政府は2022年に行政長官の選挙を行わずに、形だけの「協議」、つまり中国の国家権力で行政長官を任命してしまう可能性が出ている。

このため香港のメディアによると、林鄭氏の退任論が再浮上しているという。

中国には民主主義など存在しない。高度な自治を香港に認めた一国二制度の継続も怪しい。中国には、香港から民主派勢力を一掃して一党独裁政権を維持することが何よりも重要なのである。習近平(シー・チンピン)政権にとって林鄭氏など、どうにでもなる。

■朝日社説は「自由と自治を尊び、力の介入は慎め」と中国に要求

新聞各紙の社説は、11月26日付で一斉に香港区議会選挙での民主派の圧勝を取り上げた。革新の朝日や毎日はもちろん、保守の読売と産経も民主派の勢いを歓迎し、中国政府を批判している。

朝日社説からのぞいてみよう。

「逃亡犯条例改正案に端を発したデモが本格化してから5カ月あまり。市民生活や経済への影響は長引いている。しかし、それでも有権者の多くは民主派の要求を支持したのである」

「生活ができない」と香港を去る市民も出ているというが、香港の未来のために中国の弾圧と戦おうと残った市民たちが民主派の立候補者を支持したのである。

朝日社説は書く。

「香港では5年前にも、『雨傘運動』と呼ばれる若者らの街頭行動がおきた。当時も市民の支持がわき上がったが、これほどの広がりはなかった」
「あのときよりもいっそう深刻な対中警戒感を市民に植え付けたのは、香港政府の背後にいる中国政府自身である。北京からの露骨な威圧こそが香港人の不安をかき立てている」

「北京からの露骨な威圧」が「香港人の不安」を膨張させているのだと、沙鴎一歩も思う。さらに朝日社説は訴える。

「民心を圧力で従わせることはできない。香港に対し中国政府がやるべきことは、民意を謙虚に読み、『一国二制度』の原則に立ち戻ることだ。香港の自由と自治を尊び、力の介入は厳として慎むべきである」

かつて中国寄りだった朝日社説が「自由と自治を尊び、力の介入は慎め」と中国に要求している。それほど香港市民に対する中国の振る舞いは「異常」で「恐怖」なのである。

■「中国は思考停止に陥ってはいないか」と毎日社説

次に毎日社説。「香港の民主派圧勝 民意に応え混乱の収拾を」との見出しを掲げ、後半でこう主張している。

「警察と学生らの激しい衝突で一時は実施が危ぶまれたが、学生らも選挙実施を優先し、過激な抗議行動を控えた」
「林鄭氏にとって今が混乱を鎮める最大の機会だ。市民の声に耳を傾け、要求に応じるべきだ。市民を失望させれば、再び、大規模な抗議活動が起きるだろう」

林鄭行政長官に「市民の要求に応じろ」と訴えるが、傀儡の彼女には無理だ。そこは毎日社説も理解しているようで、矛先を中国政府に向ける。

「長い混乱で明らかになったのは事実上、中国の意思を反映して任命されたとみられている行政長官やその指示を受ける警察などの行政機関に対する市民の根強い不信だ」
「中国は『外国の干渉』『カラー革命』などの『陰謀論』を主張するが、自らの香港政策の失敗に目を向けず、思考停止に陥ってはいないか」
「民主派の大半は『1国2制度』を否定してはいない。市民の選択を尊重してこそ、中国や香港政府への信頼を取り戻せる。それが香港安定の唯一の道ではないか」

中国は「思考停止」というよりも「異常」なのである。異常な国家に対し、「信頼を取り戻せ」と求めても無理である。難しいと思うが、香港の未来は台湾のように中国から独立するしかないのかもしれない。

■「活動が過激になっても民意は揺らがなかった」

産経新聞の社説(主張)は「香港の区議会選 圧勝の『民意』に歩み寄れ」と産経社説にしてはわりと控えめな見出しを立ててこう指摘する。

「区議会の改選は4年に1度だ。学生らが幹線道路を占拠した2014年の『雨傘運動』の翌年の前回選挙は、社会の安定を訴えた親中派が勝利した」
「6月の大規模デモ以来、香港の幅広い市民は林鄭氏率いる香港特別行政区政府に強い不信感を示していた。今回の民主派の圧勝は、抗議活動の一部が先鋭化した後も民意が全く揺らがない現状をはっきり示した結果である」

なるほど、「活動が過激になっても民意は揺らがなかった」とは産経社説は説得力のある書き方をする。そのうえで産経社説は中国にこう求める。

「投票結果を受け、香港の中国系紙は『暴力が選挙を操った』などと論評した。訪日中の王毅国務委員兼外相は『香港は中国の一部。安定と繁栄を破壊する者は許されない』と語った」

■産経社説の主張は「中国憎し」のなせる業か

香港の中国系紙の論評も、沙鴎一歩が前述した、共産党機関紙の人民日報が論点をすり替えて報道した問題と同じである。「香港は中国の一部」と主張する王氏は一国二制度をどう考えているのだろうか。

「民主派勝利の現実を直視できなければ、民意との距離が開くばかりだ。中国、そして香港の政府とも、一国二制度の下での高度自治を破壊する圧政を改め、民意に歩み寄るべきである」

見出しにも取っていたが、「民意に歩み寄れ」という主張は、産経社説が書くとどこか滑稽でもある。なぜなら、国民の利益よりも国益を重視するのが産経社説の信条だと思うからだ。これも「中国憎し」のなせる業(わざ)だろう。

■「香港への強硬姿勢を改める機会とすべきである」

読売社説は「香港区議選『中国化』を拒む民意の表れだ」と見出しで指摘し、まず香港政府に要求する。

「香港政府は、民主的なプロセスを経て示された民意を重く受け止めねばならない」

読売社説はデモ隊にも要求する。

「デモ隊にも自制が求められる。民主派候補に投票した人も、過激なデモや暴力を肯定したわけではないだろう。選挙前には、デモ隊による交通妨害などで都市機能が麻痺した。同様の事態が繰り返されれば支持を失いかねない」

民主派にとって自制は必須である。このまま抗議活動が暴徒化していくと、中国の軍隊が出動する危険性が増す。最悪の事態だ。大量殺人だけは避けなければならない。

中国政府にはこう求め、訴える。

「中国政府は、香港への強硬姿勢を改める機会とすべきである」
「香港政府がデモ抑圧のために施行した覆面禁止規則について、香港の裁判所は『違憲』と判断したが、中国は判断を容認しない考えを示す。独立した司法制度は『一国二制度』の柱だ。中国の対応は住民の一層の離反を招こう」

中国に民主主義の基本を求めてものれんに腕押しだろう。だが、公器である日本の新聞は主張の手を緩めてはならない。訴え続けることが重要なのだ。ましてや日本は国際社会の一翼を担っている。それに毛沢東に次ぐ権威を手にしたといわれる習近平国家主席もひとりの人間である。多少の道理が分からないはずはない。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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