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ダイソンを超えた掃除機、ヒットの意外な秘密

プレジデントオンライン / 2019年12月11日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/pinstock)

ダイソンキラーと呼ばれ、日本でも大ブレイク中の掃除機メーカーShark Ninja。CMをほとんど流さず、発売3カ月という短期間でなぜ大ヒットしたのか。同社を率いるゴードン社長に開発秘話を聞いた――。

■「ダイソンキラー」と呼ばれる掃除機メーカー

12月といえば、大掃除の季節。この時期、思い切って「掃除機」を買い換えようと考える人も多いのでは?

ここ数年、日本では掃除機全体の市場が、伸び悩んでいます。18年現在で、前年比3%減の810万台市場。ただし細かく見ていくと、キャニスタータイプやハンディタイプがそれぞれ10%以上落ち込む一方で、伸びているのがスティックタイプ(同8%増)とロボットタイプ(同4%増)の市場です(19年 GfKジャパン「18年 家電・IT市場動向」)。

スティッククリーナーとロボットクリーナーといえば、近年、ヒット商品番付を賑わせてきたのが「ダイソン」(同)や「ルンバ」(アイロボットジャパン)ですよね。いずれも、働く女性が増える中で、“いつでも(夜中でも不在時でも)気軽に”、そして“ラクに”掃除できる点が、人気を呼んだと言われています。

そんな中、アメリカにおいて「ダイソンキラー」と呼ばれるようになった掃除機メーカーが今年(2019年)、日本でも大ブレイクしたのをご存じでしょうか?

■CMなしで、なぜ人気なのか

その名も、「Shark Ninja(以下、シャークニンジャ)」。「ニンジャ(忍者)」の名から「日本の会社では?」と発想する方も多いと思いますが、実はアメリカ生まれの日本法人です。「シャーク」は、初代掃除機が「サメ」の形に似ていたから、「ニンジャ」は、その手さばきの素早さに着想を得てネーミングされたそうです。

皆さんもご存じの通り、ダイソンやアイロボットの製品は、テレビ等への圧倒的なCM出稿戦略で人気を得ました。

発売後わずか3カ月で大ヒットしたエヴォパワー

ところが「シャークニンジャ」の掃除機は、日本でほとんどテレビCMを流していません(現在はゼロ)。にも関わらず、2018年9月中旬に発売されたハンディクリーナー(「EVOPOWER(以下、エヴォパワー)」は、日本での発売からわずか3カ月で、コードレスハンディークリーナー市場の売上台数ナンバーワンを記録しました。

一体なぜ、ここまで人気を得られたのでしょうか。そこには、日本独自の「掃除シーン&ニーズ」に対する徹底的な研究や、今多くの日本企業が課題とする「グローバル・マーケティング戦略」の秘策が隠されていたのです。

■社長自ら家電量販店めぐり

今回、シャークニンジャ(日本法人)のゴードン・トム社長に直接インタビューさせて頂きました。彼は、1998年にダイソンが立ち上げた初代ダイソン日本法人の社長や、エレクトロラックス日本法人の社長などを歴任してきた人物。38年前に初来日し、英国外務省の外交官などを務める中で、日本人の文化や国民性をとてもよく理解してきた人です。

「多くの家電メーカーが“テクノロジー発想”だが、私はやはり“ユーザー発想”こそ大切だと考えています」と語気を強めるゴードン社長は、みずからも必ず毎週末、車で日本中の家電量販店に出向くそう。

そこで掃除機を買いに来た消費者や、店内をうろうろしている消費者を自分の目で見て、日本ユーザーの行動様式や購入決定プロセスを見ていると言います。いわば、私たちマーケターが仕事として行なう「定性調査」を、習慣的に実行しているわけですよね。

なぜ「店頭」を重視するのか。それは「日本の場合、高価な掃除機を買おうと考える人の多くが、いまだに店頭で使い心地を試すから」だと言います。

■アメリカ人は1~2週間に1回しか掃除機をかけない

彼いわく、日本人の多くは、まずだいたいの予算を決めて事前に情報収集、すなわちメーカー情報やオンラインの口コミ・レビューなどを徹底的に集め、それを基に、実際に比較検討するために売場にやって来る。

日本の消費者心理を研究し尽くしているゴードン・トム社長

「その際、店頭で『いい』と納得すれば、たとえ第1候補以外の第2、第3候補であっても、しかも多少予算オーバーであっても、買ってくれる可能性があるのが、日本の消費者です」

買い方だけではありません。当然ながら「商品そのもの」も、アメリカと日本では売れる観点が違う。掃除機の場合、大きく違うポイントの1つが「収納」とのこと。

「平均的なアメリカ人は、1~2週間に1回程度しか、掃除機をかけません。でも日本人は綺麗好きで、週5~6回掃除機をかける人も多い。一般には、住宅もアメリカより狭いので、使い勝手もさることながら、『収納(しまいやすさ・省スペース)』や『出し入れ』のしやすさがポイントになるのです」

さらに、しまう際の「壁の穴」や、使用前後の「掃除機の掃除」にも注目した、とゴードン社長。

■日本では手入れのしやすさもポイントに

まずは、「壁の穴」。ダイソンも含めた欧米メーカーのコードレス掃除機は、壁に穴を空けて収納スタンドや充電スタンドを取り付けるタイプが圧倒的。でも日本では賃貸住宅に住む人も多いため、穴を空けること自体が大きな購買障壁となります。

そこで、スティッククリーナーの「EVOFLEX(以下、エヴォフレックス)」の本体は、収納場所を取らず、壁にスタンドを取り付ける必要もない「折り畳み」タイプとし、充電池も着脱式にして穴を空けずに済むよう、工夫したそうです。

また、掃除機の「ダストカップ(透明のゴミが溜まる部分)」の掃除は、「アメリカではめったにしない」とゴードン社長。ところが日本人は綺麗好きで、本体の手入れのしやすさも購入ポイントになる。そこで、日本製品では部品が簡単にはずれるボタンを付け、簡単にダストカップの拭き掃除ができるようにしたと言います。

■日本人の4つの不満を解消

他にも、日本の消費者の掃除習慣を徹底的にリサーチする中で、日本人が従来のコードレススティッククリーナーに抱いていた4つの不安・不満が浮かび上がったと言います。皆さんも、思い当たるのではないでしょうか。

・ゴミを取り除く能力への不満
・家具の下の掃除のしづらさへの不満
・収納への不満
・稼働時間や充電への不安
ソファの下もラクに掃除ができるよう改良されたエヴォフレックス。

シャークニンジャは、これら4つの不安・不満を解決すべく、日本の家庭50世帯で、6週間にわたる試作機の試用テストを3回も繰り返したとのこと。

その過程で解消した不満、たとえば「収納」問題については、先ほどふれた通り。

その他、たとえば「家具の下の掃除のしづらさ」への対応では、ボタン一つでパイプが曲がる、独自の設計(MultiFLEX™機能)を採用。ソファやベッドの下など、従来の掃除機ではヘッドが届きにくかった場所も、立ったままの姿勢でラクに掃除できるよう、改良しました。

■社長が目にした日本の母の姿

こうしたきめ細かな「日本人目線」のマーケティングや、スタイリッシュなデザイン、そしてリーズブルな印象を抱かせる「価格設定(主力商品の「エヴォフレックスS30」のシャークEC価格が、通常約5万円)」が魅力となり、2018年8月発売のエヴォフレックスはたちまち口コミで評判を得ました。

また、約1カ月後に発売されたハンディクリーナー(エヴォパワー)も、開発段階で「日本人目線」の消費者テストを繰り返し、アッという間に人気に火がついたのは先の通り。ゴードン社長はそのマーケティング段階で、あるお母さんが赤ちゃんを抱っこしたまま、部屋の隅を掃除しているシーンを見たと言います。

「重い子どもを抱っこしながら、しゃがんで手を伸ばすのは大変。コンパクトなハンディクリーナーでも、ノズルが長ければもっと便利になると考え、今年6月から、着脱式の延長フローリング用ノズルをセットにしたタイプ(「エヴォパワープラス」)を販売しました」(ゴードン社長)

■売り場づくりにもこだわり

そしてもう一つ、商品そのものと並んで重視したのが、「売場」です。

シャークニンジャでは「売場が第一」の考えの元、家電量販店の売場に立つスタッフのトレーニングやコミュニケーションを重視しているとのこと。それは先の通り、日本の消費者が、店頭の商品を自分の目で見て“納得いくまで”商品説明を受けたいと感じる傾向にあるからだと言います。

広報活動についても同じ。仮にテレビCMを流したところで、わずか15秒では商品の素晴らしさを伝えにくい。そこで「マスコミ媒体に対しても、“納得いくまで”商品の魅力を伝えることに努めたい」とゴードン社長は話します。

■発売後の観察も肝心

一般に「グローバル・マーケティング」においては、今回のシャークニンジャのように、その国の消費者ニーズを徹底的に調査・研究することが重要だと言われます。

とくに自動車や家電、食品など「生活」において利用する商品を初めて、ある国で売り出そうとすれば、おそらく多くの企業が、発売の数年前から現地に社員を送り込み、その国の人々の暮らしをマーケティングするでしょう。

ただし重要なのは、「発売前」だけでなく「発売後」も、常に消費者の声を“体感的に”掴んでおくこと。そのためには、発売して終わりではなく、発売後の顧客の反応、とくに「売場」での反応を、営業や店頭スタッフ、あるいは“自分の目や耳で”キチンと掴み、課題や問題点、あるいはこの先のニーズを把握できるかどうかが大切です。

もちろん、国内の商品やサービスでも、同じことが言えるのですが……、実際に「思わぬ使われ方」をする可能性もある海外での展開だからこそ、「発売後」も消費者の声を聞き続け、改善を繰り返し、よりニーズに近い(あるいはニーズを超える)商品を生み出していくことが重要になる。

シャークニンジャのヒットの理由は、そのポイントをまさに“身を持って”実践する、ゴードン社長自身の姿勢にもあるのではないでしょうか。

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牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター
1968年東京生まれ。マーケティング会社インフィニティ代表取締役。立教大学大学院にて、修士(経営管理学/MBA)取得。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)などがある。

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(マーケティングライター 牛窪 恵 写真=iStock.com)

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